やたら綺麗な月明かりが、あたしの部屋のレースのカーテン越しに部屋の中の暗闇を照  
らしてた。あたしは月夜の中、自分の部屋の寝台の上に居て。  
 
 あたしは今、とんでもない状況に居たりした。  
 
 もう心臓なんかとっくの昔に臨界を超えてパンキッシュに大暴走中。あまりの事に息が  
つまって目の前まっかっか。んでもって…確かに感じるのは、あたしを迎え入れるように  
両の腕を使って。  
 
 あたしを抱きとめた姿勢のまま、ただ静かに受け止め続けてくれてるキョンの姿。  
 
 いつも着てる寝巻き姿のままだから、パジャマの布地の向こう側には生まれたままの素  
肌しかなくて、キョンの奴も緋色のタンクトップだけで。  
 
 触れ合う肌から伝わる熱さだけで、どうにかなっちゃいそう。頭の中グルグルで考えな  
んか全く働かない。アレ?なんであたしキョンと二人きりなんだっけ?  
 
 でも…別にキョンに変なところを触られたりもしてないし、第一当の相手が真っ赤にな  
って硬直しっぱなしなんだからどうこうなるって訳じゃないんだけど…。  
 
 ダメ。ただ肌が触れ合ってるって事実だけで頭ん中真っ白になりそう。胸の先とか、普  
段と違って充血しきってるんだけど…恥ずかしい以前に、もっと触れたい。かも。  
 
 
 
 顔を上げたらダメ。目を見たらダメ。そしたらもう…絶対にこのまま流されちゃう。  
 
 
 でも…多分。今、これは夢の中だから…それにこんなに綺麗な月明かりの下なんだから。  
 
   
 流されても、流されたとしても。イイよね?きっと大丈夫、だよね?  
 
 
 もう衝動が堪えられない。もっと触れたい。触れてほしい。キスして。もっと。一杯。  
   
 
              あなたが、ほしい。  
 
 
 「キョン…キョン……っ!」  
 
 視線、ついに合わせちゃった。それだけなのに、ただそれだけなのに。全身をまるで  
稲妻みたいな「波」が貫いたみたいに身体が跳ねそうになって。それを懸命に堪えてみ  
る。もう少し、顔を近寄せたい。  
 
 月明かりの中で見たキョンの顔は、普段の仏頂面じゃなくって。とても柔らかくて暖か  
くて…ダメ。もう考えることなんか。無理。  
 
  「キョン…っ!」  
 
 
 あたしは、キョンの顔に近づく…あと、5センチ。あと、3センチ。あと…。  
 
 
 と、あたしが生涯最大級の衝動に耐えかねて。冷静になったあとで自己批判したらもう  
前代未聞な大醜態をさらしてパニックモードに突入する事に及ぶ直前に。  
 
   
 あたしは耳朶を容赦なく吹き飛ばす勢いで耳元で鳴り響く、目覚まし時計のベルの音に  
心臓を軽く止めるほどに狼狽して、思わず勢いあまってベッドから転げ落ちて腰をしたた  
かにフローリングに打ち据えた…っつー…かなり、モロにぶつけたかも?  
 
 
 あまりの激痛に耐えかねて暫くの間蹲ってじっとしてから約数分後、あたしはやっとの  
事で現状を把握することができたの。  
 
 早朝、まだ太陽なんか欠片一片も昇ってない朝4時過ぎ。ご年配のおじーさんですらま  
だ惰眠を貪っててもおかしくない時間。んでもって、ここはあたしの部屋。つい最近あた  
しが大醜態をさらす要因になった風邪なんかとっくの昔に治ってて。  
 
 当然、ここにはあたししか居ない。  
 
 
 つまり何?あの光景は…。  
 
 
 状況把握と同時に顔面の奥底からトンでもないエネルギー量の熱塊が瞬時に吹き上がり  
目の前がまっかっか。泡を食って立ち上がろうとして足元ふら付いて小指を寝台の角に  
引っ掛けて痛いの何の!もう軽く世界が終わったかもって位の大パニック!  
 
   
 んで、小指の痛みから復帰するまでの間足を押さえてベッドの上で丸くなってるうちに  
あたしはひとつ、ああ、やっぱりかなとおもうある一つの事実を思い知った。  
 
 
 
 あたしは昔から、特別な何かになりたかった。  
 
 親父も母さんも、「ハルヒはしっかりしてるから大丈夫」って言ってて。  
 
 自分がもっと特別になれば、二人とも「よくやったねハルヒ」って言ってこっちを見て  
くれるんじゃないかと思ってた。  
 
 それが無理だと思ったとき。今度は「あたしは他人と違うから大丈夫」だって思う事に  
した。そんな事を考えてる矢先に七夕の出会いがあって。  
 
 あたしはSOS団団長になって。  
 
 「あたしのままでいてもいい」空間を見つけて。あたしをあたしと、等身大の涼宮ハル  
ヒだって認めてくれる人ができた。  
 
 
 
 
 この場にはあたししか居ない。だからもう、普段絶対に口に出さないある言葉をここで  
心の中にて話しちゃうわね?  
 
 
 あたしは。いつの間にか。ホントのホントの本当に。  
 
 キョンの奴が居ないと、ダメだって思うようになったのかもしれない。  
 
 これは絶対に内緒話。あたしの中だけでの秘密のはなし。  
 
 
 さてさて、寝汗とか流して身体に活を入れてがんばろう!今日はみくるちゃんの都合と  
有希や古泉君の午後からの用事に合わせて臨時集会で締める日なんだから、びしっと気合  
いれてがんばらないとダメね!  
 
 シャワーで汗とかを流して、綺麗な身体になってから。そだ、ちょっとだけの思いつき。  
 
 もしアイツが汗まみれで集合場所に駆け寄ることがあったなら。いつのも香水をそっと  
含ませたハンカチを貸してやろう。  
 
 あたし自身があいつの傍に居ることは、今はまだまだ無理だけど。  
 
 せめて、あたしの痕跡一つくらい。あいつの身体に残しちゃおう。ほんの小さなイタズ  
ラ心。  
 さぁ、今日も見事なまでにユカイなまでのハレ晴レモード!臨時集会、がんばろう!  
 
 あたしは自分に活を入れなおして、シャワールームをあとにした。  
 
 
   
 今日の午後になったなら、久しぶりに。ほんと一年近くの久しぶりに。あいつと一緒に  
不思議を探そう。軽口応酬しあいながら、スキップ踏んで街を歩こう。  
 
 スキップ踏むのにちょうどいい、空色のパンプス履いて行こう。  
 
 あたしの大好きな香水を染み込ませた、乾いたハンカチも忘れずに。  
 
 
 今日一日が、とってもいい日になることをあたしは絶対疑わない。アンタはどうか、知  
らないけどね?  
 

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