私は、物。
命じられるまま、対象物を観察しつづけるだけの監視装置。
印刷された文字情報を取り込み続けるだけの情報端末。
人の形をした、ただの道具。
その筈なのに、なぜ、ひとりで居ると意識してしまうのだろう。
なぜ、寂しいと感じるのだろう。
私は、ただのモノなのに。
楽しいという感情を知ってしまったからだろうか。
触れ合う事を知ってしまったからだろうか。
私を優しく気遣う人を知ってしまったから?
あの人の胸に抱かれる温もりを知ってしまったから?
わからない・・・。
私より上位に存在する巨大な情報の海に問い掛けても答は見つからない。
上手く言語化できない感情が心に湧きあがるとき、私はいつもこうする。
あの人がいる方向に眼を向けて、あの人のことを考える。
遠距離探査をすれば、実時間でのあの人の行動を把握する事が出来る。
でも、私はそうしない。
あの人のことを考え、あの人がどうしているのかを想像する。
それだけで、私の心は温かさに満たされる。
あの人は、いま何をしているのだろう?
いっときでも、私のことを考えてくれるだろうか?
まだ、夜明けは遠い、窓の外の暗闇を見つめる。
暗闇の中に灯る明かりは、あの人の家ではないけれど。
私の心の中では、あの人の姿を映している。
また、明日になれば、あの人に会えるだろう。
それまでは、心の中のあの人を見つめていよう。
心の中のあの人は、いつでも優しいまなざしを送ってくれるから。