今日は、古泉は例のバイトで、朝比奈さんもなにやら用事があり、  
珍しくハルヒまでもが家の用事とかで、SOS団の活動は休みとなった。  
授業が終わるとSOS団の部室に行く、という実にワンパターンで変わり映えのしない、  
ケージの中のハムスターの如く同じ所をグルグル回る生活をしていた俺としては、  
この予想外に振って湧いた、ヒマな放課後ってやつをどう処理してやろうかと、  
ちょっとばかり頭を悩ませていた。  
谷口たちは、HRが終わると同時にさっさと帰っちまったし、一人でゲーセンってのも  
なんだか空しい。 かといって、このまま真っ直ぐ家に帰って、小学生の妹の相手を  
するいうのもシャクな話だ。  
とはいえ、することもないのに学校に残っていると、いつぞやの教室の死闘が思い出  
されるので、いやなトラウマが発生する前に、とっとと退散する事にした。  
大半の教科書はロッカーと机の中に隠蔽されているため、極端に軽いカバンを持って、  
下駄箱で外靴に履き替えていると、鶴屋さんに声を掛けられた。  
 
「いよっ!キョンくんも今帰りかいっ?!」  
「ええ。鶴屋さんもですか?」  
「そうっさ!みくるは先に帰っちゃったし、一人で帰るのも寂しいから、一緒に帰るにょろ!」  
「え?たしか帰る方向が違いますよ」  
「いいっさ!途中まで、一緒に帰るっさ!」  
「俺は、別にかまいませんけど」  
 
思いもかけず、鶴屋さんと一緒に帰ることになってしまった。  
もちろん、嫌である筈がない。 俺的ランキング上位の美人先輩のお誘いである。  
これで文句など言ったら、マホメットを侮辱した英国人以上の罰がアッラーから  
与えられるだろう。 別にイスラム教徒じゃないけどな。  
それと、今回、鶴屋さんと二人きりで帰るという、めったにない機会に、以前から  
チャンスがあればお願いしようと思っていたこと実行しようと思っていた。  
 
「どうだい最近は!元気に仲良くやってるかい?!」  
「ええ、おかげさまで。大事なくやってますよ」  
「それはよかったっさ! みくるはシッカリやってるかなっ?!」  
「朝比奈さんは頑張ってますよ。おかげでどれだけ安らいでいるか・・・」  
「あはは!みくるはカワイイからねっ! だからっておいたしちゃ駄目にょろよっ!」  
「ははは。解ってますよ」  
 
夕日に染まる坂を、そんな風に話しながら降りていく姿は、傍から見たら  
どう見えるんだろうね? 恋人同士・・・なんて妄想しちゃ、鶴屋さんに失礼だな。  
まぁ、せいぜい仲の良い先輩後輩ってとこだろう。 って、そのまんまだな。  
ふと目をやると、鶴屋さんの姿も茜色に染まり、長い豊かな髪が光に透けて  
輝いているようにも見えた。  
その姿を見て、俺は、地下数千メートルに投棄された使用済み核燃料のように  
心の奥にしまいこんでいた悲願を達成するべく、鶴屋さんにお願いしてみることにした。  
 
「あー。鶴屋さん、ものは相談ですが・・・」  
「なにかなっ?!」  
「ちょっとだけポニーテールにしてみませんか?」  
「ポニーにょろか?」  
「駄目でしょうか・・・?」  
「別にいいにょろよ! ちょびーっと待つっさ!」  
 
そういうと、鶴屋さんはポケットからゴムひもを取り出し、豊かな黒髪を器用にまとめ、  
有馬記念に出場するサラブレットも真っ青の、それはそれは見事なポニーテールに  
して見せてくれた。 入学早々に、俺の後ろの席の誰かさんが見せてくれたポニーに  
勝るとも劣らない見事な逸品だ。   
あ、ちなみに、こないだ見たアレはポニーとは言えない。ポニーテール評論家の俺が  
言うのだから間違いない。 そんな評論家がいるかどうかは別として。  
 
「これでいいかなっ?!」  
「感動ものですよ、鶴屋さん。 眼福眼福・・・」  
「おっ? キョンくん、めがっさ気にいったにょろ?」  
「勿論です。 それだけでご飯三杯はいけます」  
「あははははっ! キョンくんは面白いねっ!」  
 
世にも見事なポニーを拝んで喜んでいる俺を見て、当の鶴屋さんも、ご満悦のご様子。  
途中で帰リ道の都合で分かれるまで、俺は鶴屋さんのポニーテールに賞賛と賛美の声  
をかけ続けた。それはもう、見事すぎるほどのポニーっぷりだったからな。  
やはりポニーは長く豊かな黒髪に限る。勿論、金髪や栗毛も捨て難いが、その髪の量と  
結ぶ位置が・・・って、本気で語り始めると、エンサイクロペディアギャラクティカ全300巻  
くらいの量になるので、以下略と言う事で割愛させていただく。  
 
至高のポニー美人との別れを惜しみつつ、帰途についた俺は、途中、ハルヒ好みの  
トンデモ事件や不可思議物体に遭遇する事もなく、無事に我が家に辿り着いた。  
家に帰った途端、妹がシャミセンを抱えて抱きついてきたが、いつもなら煩いっとばかりに  
放り出すところを、ゴキゲンタイフーンの勢いで、なんどかグルグル回してやった。  
きゃぁきゃぁ言って喜ぶ妹の頭に目をやると、サイドに結んだポニーのなりそこないが  
目に入り、急に空しくなり、そのまま放り出してしまった。  
「キョンくん、ひどーい」といいながら、居間へと退散していく妹の背中を、やさしく見送って  
俺は、自室のベッドの上で、鶴屋さんのポニー姿を脳内の第二胃袋で反芻していた。  
う〜ん、スバラシイ・・・ 今夜のオカズはご馳走だ。  
 
翌朝、俺はめずらしい事に、清々しい気分で早起きし、妹のダイビング目覚ましを華麗に  
スルーすると、ちゃっちゃと朝飯を食い、いつもより早めに登校する事となった。  
昨日のポニー鶴屋さんパワーのおかげかもしれん。 今度、鶴屋さんに会ったときに、  
御礼を言っておくことにしよう。  
 
教室に入ると、誰もいない教室に、ひとりポツンと、ハルヒの姿があった。  
どういうわけか、また例のチョンマゲ風ポニーモドキにしている。  
むぅ、そんな中途半端なポニーは、昨日の至高の逸品究極の鶴屋さんポニーを見た  
俺には、ポニーを侮辱しているとしか思えん。  
それで、ついイランことを言ってしまった。  
 
「ハルヒよ。そりゃポニーとは言わんだろ」  
 
 
放課後、憔悴しきった古泉からは、遠まわしの嫌味と愚痴を延々と言われ続け、  
朝比奈さんからはジト〜っとした目で睨まれたうえに、偶然(ですよね)お茶を引っ掛けられ、  
長門からは冥王星の液体ヘリウムよりも冷たい視線をいただいた。  
ハルヒはHR終了と同時に、「今日は休む!」と一方的に活動休止宣言を叩きつけられた  
俺は、いまは空席である団長様のお席に座らせていただき、所在無くネットサーフィンなど  
いたしておる次第なのだが・・・。 なんともはや居心地が悪い。  
さて、帰る言い訳をどうしようか、と悩んでいると、SOS団アジトもとい文芸部部室のドアが  
ノックされるとほぼ同時に勢いよく開け放たれ、ひとりの元気少女が飛び込んできた。  
 
「やあっ!キョンくん!今日も一緒に帰らないかいっ?!」  
 
ああ、今日もめがっさ素晴らしいポニーです!鶴屋さん!  
 

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