[2章]  
暑い。全身の汗腺がフル稼働を始める。  
何故なら今は初夏で俺は冬服を着ているから、当たり前だと言われれば何も言い返すことが出来ずに  
ただ黙ることしか出来ない。  
ブレザーは脱ぐことができるが、冬ズボンだけは当然のことながら脱ぐことが出来ず、汗で裏地が  
ぴったりと密着する。毎度の事ながらこればっかりは慣れないね。  
 
余談だが、この時間に来る際古泉は目隠しをしていた。本人いわく「そこまでしなくても決して目を  
開けませんよ」と抵抗したのだが、すったもんだの末朝比奈さんの「ごめんなさい。強制コード  
なんです」というお言葉に肩を落としつつも従った。やはり薄目で見るつもりだったのか。  
 
さて、俺たちが今どこに居るのかというと……東中学校、ハルヒと谷口の母校の屋上に居る。下を  
見下ろせばもちろんハルヒの地上絵(といっても描いたのは俺だが)が、あるわけで……しみじみ  
思うね。  
ああ、またこの時間に来ちまったんだなぁと。  
 
「これ」  
長門が銀色の小さな塊を差し出してきた。手の平に隠れるサイズの拳銃みたいなものだ。俺にこれを  
使えってことか?  
「情報統合思念体とのリンクを切断するプログラム」  
それだけを告げ、朝比奈さんの手を引いて屋上出口へと歩き出した。「ひゃぁっ!?」と可愛い疑問形の  
悲鳴を上げつつ引きずられていく。  
ああ、可愛らしいなぁと和みながらそのお姿を見送っていたわけだが、眼福に浸っている場合ではない。  
我に返り慌てて呼び止めた。  
「おい待てって長門。どこ行くんだ?」  
ぴたりと静止し、振り返った。  
「あななたちはここでジョン・スミスを阻止する。私たちはあなたの保全に向かう」  
「俺の保全?」  
「ジョン・スミスがあなたに取って代わる場合、あなたが北高に入られては不都合。過激派はあなたに  
対する情報操作を行うと思われる」  
なるほど。俺が北高に来られたら困るのはわかる。兄弟でもないのに同じ顔が二つあったら誰だって  
疑問に思うだろうしな。でもどんな情報操作を受けるんだ?整形か?  
「学力レベルを下方修正すると思われる。程度としては北高に入学出来ないレベル」  
すまん。現状ですら遠まわしに予備校を薦められるくらいのきわどい学力なんだ。それをさらに  
引き下げられると……そうなった時の母親の態度を想像するだけで血の気が引く。おまけにあの谷口よりも  
下のレベルになる現実を想像するだけで……すまん、首吊りたくなってきた。テルテル坊主になって何もかも忘れ去りたい。  
「えぇと、キョン君の頭を悪くするってことですね?」  
ごめんなさい朝比奈さん。長門とともに是非とも俺のなけなしの学力を守ってやってくださいませんか。  
 
その後、長門は思い出したかの様にこれから現れるジョン・スミスのことを俺と古泉に伝え、朝比奈さ  
んと連れ立って屋上を後にした。  
長門の説明によると、ジョン・スミスは過激派が神人を解析して作った、長門とは異なるタイプの端末  
だとか、その都合上閉鎖空間を発生させてその中から出現するとか、長門にしては珍しく饒舌だったが  
……まあ、俺が理解できるはずもない。  
なんたって俺は一発っきりの弾丸を必中させなければいけないという、背後に人を立たせてはいけない  
人もしくは赤いコートの平和主義者みたいな芸当をしなくてはならない訳だ。  
古泉が理解しているならそれでいい。今は狙撃のことだけを考えさせてくれ。  
 
忌々しい閉鎖空間が発生するまでの待機時間。俺は銀色の銃を睨みつつ狙撃のシミュレートをしてみた  
わけだが、当然のことながら俺に狙撃の経験などない。強いて言うなら縁日の射的を数回経験したこと  
くらいだが、それで何か景品を獲得した記憶など何処を探しても見つかりはしなかった。動かない標的  
にすら当てられないこの腕前で一体、動く敵をどう狙えばいいというのか。  
具体的なイメージが湧かないまま時間だけが過ぎて行き、まあ、なるようにしかならないさとポケット  
に銃を押し込んだ。  
手持ち無沙汰になりふと古泉の方に目を向ると、奴もそれに気付いたらしく微笑を投げかけてくる。  
……やめろ気持ち悪い。この状況の何が楽しいんだ?  
「あなたは慣れているでしょうけど、僕にとっては初めてのことでしたからね」  
「何がだ」  
「時間移動ですよ。まさか僕が当事者になれるとは思っていませんでした」  
「ああ、お前はタイムトラベラー志願者の気があったな」  
「半ば諦めていたんですけどね。しかしあれは衝撃的でした。不謹慎ながら、朝比奈さんとこの状況を  
作り出してくれた長門さんの敵には心から感謝したいですね」  
そう笑顔で話す古泉は興奮冷めやらぬようだった。まあこんな状況ながら夢が叶ったんだ。こいつの力  
が必要になるまではこの余韻に浸らせてやってもいいだろう。  
「後は、時間移動する瞬間を目撃できれば思い残すことはないんですけどね……」  
心配するな。帰りもきちんと目隠しをするよう、朝比奈さんには申し添えしておくさ。  
 
「さて、僕たちも出番のようです」  
今までの幸福そうなニヤケ面から真剣なニヤケ面へと表情をメタモルフォーゼさせ、古泉がこちらへと  
近づき手を差し出してきた。  
「つかまって、目を閉じてください。すぐに終わりますから」  
わかってるよ。お前とちがって他人の秘密を暴こうなんてしないさ。  
そう言いつつ古泉の手を握り目をつむる。しかし、朝比奈さんの時も緊張するが、お前の時も緊張する  
な。  
誓って言うが、朝比奈さんの時は俺の青少年の心がドキドキし、こいつの時は「他人が見たら誤解する  
んじゃないだろうか」とビクビクする訳だ。誤解なきようお願いしたい。  
「では、行きます」  
と、古泉が進むのに従い俺も足を動かす。数歩進んだところでストップ。手を離し目を開けてみると、  
何度か踏み入れたことのある灰色世界が迎えてくれた。ずいぶん久しぶりのことなのに、ちっとも懐か  
しくないのはどういったことだろうね。  
しかし、そんな非常識空間に思いを馳せるよりも先にやらなくてはならないことがある。  
「敵は?」  
閉鎖空間内に現れるはずのジョン・スミスは屋上には確認できなかった。ということは、ここではない  
何処かに奴は居るということだ。  
「どうやら、アレがそうらしいですね」  
古泉にが校庭へと視線を下ろしているのを見て俺もその方向を向いた。  
ハルヒ絵の中央付近に青い光が集まっているのを確認し、俺たちは階段を駆け下り校庭へと躍り出て、  
それを目撃した。  
「な……」  
「おやおや、やはりですか」  
わかっていたけど、それを見てやはり驚いた。だってそうだろ?そこには俺と瓜二つ、服装まで全く同  
じ奴がいたんだから。  
ただ、俺が銃をポケットに入れているように、奴も武器をしっかりと右手に携えていた。  
 
ジョン・スミスは、何処かで見たようなナイフを握り、めんどくさそうな目をして立っていた。またナ  
イフか。朝倉といいこいつといい本当にナイフが好きな奴らばっかなんだな、長門の親玉の親戚は。  
 

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