語り 古泉一樹
いつの時代の事でしょう、ある海沿いの街に3人の兄妹が住んでいました。
3人の名前は、上から順に長男のキョンくん、長女のみくるさん、次女の有希さんです。
3人はみんな仲良く助け合って楽しく暮らしていました。
しかしある時、集中豪雨によって発生した土砂崩れで家が全壊してしまいました。
3人はたまたま市街地に買い物に行っていたので無事でしたが、
帰ってきた時、家のあった所に土砂が流れ込んでるのを見た3人は大変悲しみました。
そこで3人は新しい家を建てることになりました。
しかし、どんな家を建てるかを決める際に3人は揉めに揉めたのです。
「まずどんな家を建てるかが重要だ」
「あのう、場所も重要だと思います・・・」
「・・・マンションに入居した方がセキュリティ的にも機能的にも安全」
「でもマンションは地震が来たときに揺れるからな」
「倒壊の危険性は少ない」
「とりあえず崖っぷちやその下、あと海沿いも避けた方が良いと思います」
「じゃあ3人がそれぞれ家を建ててみるのはどうだ」
「それ良いですね!」
「私もそれに賛成する」
こうして3人はそれぞれ家を建てる事になったのです。
とり合えず3人それぞれが自分の好きな場所に好きなように家を建てて暮らし、その後改めて議論するというものです。
◇
まずキョンくんは涼宮さんの所へ行くようです。
キョンくんは家が無くなったのを機に涼宮さんと同居するつもりのようです。涼宮さん、とても羨ましいですよ。
「キョン!大丈夫だったの?」
「ああ、家は無くなったが俺たちは大丈夫だ」
「そう、良かったわ、でこれからどうするのよ」
「ああ・・・ それなんだが・・・」
「キョン・・・ ・・・まさかあたしと」
「・・・その、 そうだ、ハルヒ、一緒に2人で暮らさないか」
涼宮さんは顔を赤らめていますね、余程嬉しいのでしょう。涼宮さんと入れ替わりたい気分です、僕は。
「キョン、それは告白と受け止めて良いのね」
「ああそうだ」
「・・・あたしも一緒に暮らしたかった、キョン」
「じゃあ決まりだな、宜しくなハルヒ」
「よろしくね、キョン」
キョンくんは涼宮さんと、・・・・・・めでたく・・・ めでたく一緒に暮らす事になりました。
キョンくんが幸せなら僕も幸せです。残念ですが。
2人は手を繋いで不動産屋さんに入っていきました。どこからどう見てもあれは新婚の夫婦ですね、あれは。
30分ほど経ちました。
キョンくんと涼宮さんが出てきました。ハレ晴レユカイな笑顔が溢れています。きっと良い家が見つかったのでしょう。
なるほど北口駅近くの一軒家ですか。築2〜30年といった所ですね。
だとしたらあの家は10年前の大震災にも持ちこたえたという事になります。余程頑丈に作られてるのでしょう。
なかなか良い家を探し出したと思います。間もなくあの家からはピンク色のラブラブオーラが流れ出すことでしょう。
・・・ごめんなさい、僕何だか我慢できなくなってきました。 ・・・いえいえ、心配には及びませんよ。まだ大丈夫です。
◇
続いてみくるさんです。みくるさんは鶴屋さんの所へ行くようです。
「みくるん!大丈夫だったかいっ?めがっさ心配だったよっ!」
「私達はみんな無事でした、でも家が無くなってしまいました」
「心配ないにょろっ!わたしが新しい家用意するっさ!」
「本当ですか・・・!有難うございます、有難うございます!」
「礼には及ばないにょろよっ!良かったっさ!みんな無事でさっ!」
みくるさんも鶴屋さんのお陰で無事家が見つかりそうですね。
さて一体どんな家を見つけるのでしょうか。
「ここなんか良いにょろっ!付近随一の高級住宅街っさ!」
「勿体無いです、鶴屋さん、そんなの勿体無いですよう」
「問題無いっさ!どーんと大船に乗ったつもりでいるにょろっ!」
「さーここが今日からのみくるんのおうちだよっ!良かったにょろよっ!良い家が見つかったっさ!」
「有難うございます、本当に有難うございます鶴屋さん、このご恩は」
「別に構わないっさそんなのっ!本当に良かったっさ!」
みくるさんが住む事になったのは山の手の新興の高級住宅街にある一軒家のようです。
非常にメルヘンチックでみくるさんにはぴったりだと思いますよ。
駅からは遠いですが、駅までは昼間でも1時間に6本バスがありますし、
徒歩3分圏内にスーパーや診療所や郵便局など一通りの施設が揃っています。
花や緑も溢れています。流石は高級住宅街といった所です。
◇
最後は長t・・・ いえいえ有希さんです。
有希さんはまず真っ先に図書館に直行するようです。
家はどうするのでしょう。確か図書館にアパマンは置いてなかったはずです。
おや?有希さんは図書館の中には入らずに周りを見渡しています。
なるほど、図書館に近いところに住もうという考えのようです。
さすが有希さんです。それならいっそ図書館に住んでみてはいかが・・・ いえいえ何でもありません独り言です。
有希さんはアパートに入っていきました。ここに住むつもりなのでしょうか。
結局どうもその様です。有希さんは図書館に近ければどこでも良いようです。
しかし大丈夫なのでしょうか。相当古そうなアパートです。
3階建てで有希さんは2階に住むようですね。でも決して快適そうではありません。
でもこのアパートも震災を耐え抜いてるのでしょうから強度は問題無いようです。まあ良しとしましょう。
これで3人の住む家が決まりました。
キョンくんは涼宮さんと一軒家に同居、みくるさんは山の手の高級住宅街、
有希さんは図書館近くのアパートです。
原作では長男ぶたと次男ぶたの家が狼に壊されてしまい結局レンガ造りの3男ぶたの家に住む事になります。
さあ、一体これはどうなるのでしょう。やはりキョンくんとみくるさんが有希さんのアパートにお世話になるのでしょうか。
◇
あれからしばらく経ちました。
3人は至って普通に暮らしているようです。
「じゃあキョンおやすみ」
「ああ、おやすみ」
今日もこの二人は散々バカップル振りを見せ付けてくれました。
今まで我慢していましたが僕もそろそろ限界です。これで世界が消えることになっても構いませんよ。
「やあキョンくん、幸せそうですね」
「こ、古泉、なぜお前がここに居る!? どうやって中に入ってきた!?」
「鍵なんか簡単に壊せましたよ、古い家ですからね」
「古泉・・・ ハルヒは渡さんぞ」
「いえ、僕の目的は涼宮さんではなくて貴方です」
「何だと」
「・・・ちょっとキョンうるさい・・・ 誰と喋ってるの・・・ って古泉君!?」
「やあ涼宮さん、お二人はとても幸せそうで何よりだ」
「一体こんな夜中に何の用なのよ」
「貴方達のカップルぶりは凄いものですよ、もう家中からピンク色のオーラが
僕、嫉妬しちゃったんです涼宮さんに」
「は、はあ?!」
「涼宮さん、キョンくんは頂きまs」
「逃げるぞハルヒこいつは本気だ!!」
「ええ!ごめんね古泉君!!」
キョンくんは涼宮さんの手を引っ張って外へと飛び出していってしまいました。しかもパジャマ姿で。
あーあ、もう少しでキョンくんが僕の・・・ まあ仕方ないですね、諦めましょう。
それにしても少し叩いただけで落っこちてしまう錠前というのは如何なものでしょうか。防犯意識ゼロです。
◇
さてさて、みくるさんはどうなってるでしょうか。
・・・おや? 鶴屋さんに泣きついていますね。一体どうしたのでしょう。
「ごめんよみくるんっ!まさかこんな事になるとは思ってなかったにょろよっ!」
「鶴屋さん・・・ えう、えう・・・
住宅地の入居者が増えずにスーパーが潰れ・・・ 診療所も去り郵便局も集配停止・・・
バスも朝晩の数本しか無くなってしまいました、
ここはバスが無ければ非常に不便なんです・・・ 最近は毎日片道1時間以上歩いて隣町のスーパーに・・・」
「ごめんよっ!本当にごめんにょろっ!」
「しかもどうもこの土地、沼か池かなんかを埋め立てて造成したらしくて・・・」
「みくるん!?どうしたにょろっ!?」
「床下に泥水が湧き出してお陰で大量発生したシロアリに柱喰われ放題で、
おまけに土地自体も傾いて・・・ それにそもそもこの家自体が欠陥建築だったみたいで、ううう・・・ えう・・・
この間市のほうに見てもらったら震度4でも危ないって・・・」
「・・・みくるん!ごめんよっ!本当にごめんよっ・・・!」
これは大変な事になってますね。
折角メルヘンな感じがみくるさんにはピッタリだと思ったのですが。
やはり外見だけに騙されてはいけないという事でしょうか。
それにスーパーまで歩いて片道1時間・・・ これは困ったものです。
だったら自転車使えと言いたい所ですが、
何しろこの住宅地が高い丘の上にあるので行きは楽でも帰りはかなり大変になるようです。
これは地裁にでも訴えたら勝てるかもしれませんね。応援してますよ。
◇
さあ最後は有希さんです。有希さんは末っ子という事もあって原作どおりなら一番巧くいく筈ですが・・・
有希さんは本を持ったまま寝ています。まだお昼です。
「・・・日常的に安全が妨害されている」
一体どういう事なのでしょうか。・・・おや?
「おい有希いるか!?俺だ!俺だ!」
「有希!?あたしもいるの!」
「・・・入って」
どうやら有希さんの家にキョンくんと涼宮さんが来たようです。
「有希さん・・・ しばらく住まわせてください!」
「・・・入って」
更にみくるさんもやってきました。一気にアパートが賑やかになります。
◇
「なるほど、つまりみくるの家、もとい住宅地そのものが欠陥だったわけだ」
「そんなに大声で言わないでください・・・!えう、えう」
「あーすまんすまん俺が悪かった」
「それで・・・ キョンくんと涼宮さんは・・・」
「防犯がまるでなってなかったのよ!昨夜2人で寝てたら古泉君がキョン求めて夜這いに来たの」
「鍵は簡単に壊れたらしい」
「そうなんですか・・・」
「だから有希の所に泊めてもらおうと思ってな、頼む」
「有希お願い!あたしも!」
「有希さんお願いします!わたしも!」
「・・・この家も決して安全ではない」
「なぜだ?」
「直下の部屋において3週間前に火事が発生、上の部屋において2週間前に熱帯魚の水槽が物理的な衝撃を受け破壊、
漏れ出した水が天井から降り注ぎ夕食共にずぶ濡れ、左隣の部屋において昼夜を問わない恒常的な騒音、
右隣の部屋では自殺者の発生、私は可及的速やかに他所への転居を行いたい」
「それは凄い」
「・・・そんなあ」
「引越ーし!引越ーし!さっさと引越ーし!しばくぞー!!ハイ引越ーし!!」
「はじまった」
「・・・なるほどよく分かった、お前も苦労してるんだな」
「そう」
「うるさーい!!何とかしなさいよー隣!!」
「無駄、図書館へ」
「有希、図書館に来たのは良いがここだって夜には閉まるぞ」
「・・・そう」
「閉まってからどうするのよ有希」
「あの場所に帰るしかない」
「あんな所に帰るの有希!?体に毒よ!」
「既に精神面において異常をきたしている、でも私の帰る家はあの場所だけ」
結局一番苦労してるのは末っ子の有希さんだったようです。
「逢いたかった」
「有希・・・」
「貴方達に逢いたかった」
結局の所3人の家はどれも安全ではありませんでした。
この時代、必ずしも安全な家など本当は無いのかもしれません。
3人は結局一から新居を探すことになってしまいました。
「古泉お前だけには偉そうに結論付けられたくはない」
「いやいや、あの時は本当にすみませんでした」
「罰として古泉君あんたも家探しに協力しなさい」
「はい、喜んで協力させて頂きます」