文芸部部室のドアをノックすると「……」という返事なき返事が返ってくる。
おかしいな、と思いつつも部室に入ると、案の定――いや、今回に限っては何故か長門がいた。
「長門、お前だけか?」
無言で首肯。肯定の動作。
「というより……えーと……なんでいるんだ?」
数秒間。俺の言葉を理解しようと試みていたようだが、やがて首を傾げて疑問の動作。
さて、伝えていいものか迷う。その発言をした直後、このSSはメタネタとしてしか機能しなくなるからだ。
まあいいや。一行目の「返事が返ってくる」で日本語は破綻しているっぽいし、言ってみなければネタにもならない。
「いや、このSSのタイトルが『Nの消失』だから、てっきり長門(Nagato)消失モノかと」
その旨を伝えると、長門は全て合点がいったといわんばかりに「そう」と頷いた。
そして俺に何やら意味ありげな目線を送ったのち、読んでいた本を傍らに置きパソコンに向かった。
しばらく待機。
長門の「こっちに来い」という視線に誘われて、俺も長門の隣からパソコンのディスプレイを覗きこむ。
映っているのは検索ページで、検索キーワードのスペースには漢字三文字が打ち込まれていた。
「たに、かわ……りゅう? なんだこりゃ」
「違う」
何がだ。
「りゅう、ではなく、ながる」
「……で? そのタニカワナガルがどうしたって?」
俺の疑問には答えず、長門は検索を実行させる。数件ヒット。
しかしどれも「この谷の小川の渓流は……」など部分的に引っかかっただけで、一つの熟語としてのヒットは一件もなかった。
何がしたいんだ。
「消失したのは、わたしではなく、谷川流」
ちょっと待て。
「その谷川とかいう……人、か? いったい何者だ。ハルヒの関係者か?」
「彼は『涼宮ハルヒ』シリーズの原作者」
……そんなメタな。
「涼宮ハルヒは現状に満足している」
「これは彼女が現状を維持したいと望んだ結果」
「いずれシリーズに終止符を打つと思われる“作者”が消失した」
そうか、Nagaru Tanigawa だから『Nの消失』か。
……新人類だな。
っと、イニシャルネタはどうでもいい。
「どうするんだ? そりゃ作者がいなければ終わりも来ないだろうが、代わりにこの先何も起きんぞ?」
どうみても本末転倒です本当にありがとうございました。
「打開策はある」
長門が次に表示したページは、
「……“保管庫”?」
「ここには『涼宮ハルヒ』シリーズの二次創作が多数保管されている」
なるほど。それで?
「SSの書き手がいる限り、わたしたちの活躍は終わらない」
……。
俺たちの冒険は始まったばかりだ!【完】
みたいなこと言われても。
というか長門さん、テンションがおかしくありませんでしょうか?
「この中から最終回を選ぶことも可能」
まさか、登場キャラが最終回を選ぶ時代が来るとはな。民主化の煽りか。
「わたしはこれらの作品をトゥルーエンドとして推奨する」
トゥルーて、どこでそんな言葉を覚えてくるんだ。良い子だから人前で使うんじゃありません。
しかし、このサイトをブックマークに入れてたり、お気に入りの作品をピックアップしてたり……
長門、お前いつからそんな子になったんだ。
長門イチオシの作品群を流し見している最中、俺は日本全土のどの活火山よりも元気に何度も吹いた。
ちょwwwwおまwwwww
どれもこれも俺と長門が結婚してたりニャンニャンしてたりする話ばっかりじゃないか!
「住人はそれを望んでいる」
どこのだ。
「今、このSSを見ている住人も、そういう展開になだれ込むことを期待している」
するな。というか、どこから見ていやがる。
まさかあの本棚の隙間か? 日頃から朝比奈さんの着替えシーンを覗こうとして長門の頭部で邪魔されてたりするのか?
とにかく今の長門のテンションは危険だ。何やら視線が熱っぽいし。
部室から逃げ出そう――として、俺は壁に激突した。
???デジャヴ???
ドアが無い、窓も無い。加えてこの強烈な既視感。何度も経験したような記憶があるあ……ねーよ。史実的には一度だけだ。
「この空間はわたしの制御下にある」
ちょ、待て長門。二番煎じは良くないぞ長門。
何より、キャラが違ってきてるぞ長門。
「それは、仕方の無いこと」
「二次創作だから」
そこまで開き直ることはないだろう。キャラの微妙な違いも二次創作の醍醐味というものだ。
しかしこの展開は正直カンベンしてほしい。心の準備というものが……うわ、長門、服を脱ぐな抱きつくなくぁwせdrftgyふじぉ
――谷川さん、早く帰ってきてくれ。
おわりますん。