初夏と言うには少々暑すぎる太陽の光に炙られながら、  
俺は、えっちらおっちら坂道を登っている。  
といっても、ここは北高へ向かう坂道じゃない。  
もうとっくの昔に高校は卒業してるし、結婚もしている。  
高校在学中にハルヒの理不尽不思議パワーは徐々に力を弱め、  
卒業する頃には、ちょっと運のいい美少女って程度の存在になっていた。  
ハルヒが、その注目の的となる原因であった力を、ほぼ完全に失って、  
朝比奈さん、長門、古泉がどうなったかというと・・・。  
 
どうもにもならなかった。  
 
現代社会において、一人の人間が消えてしまって、ただで済むはずがない。  
ましてや、SOS団などという、みょうちきりんな団体に所属していて、  
全校生徒どころか近隣の商店街にまでその存在を知られた人間が消えれば、  
そりゃ大騒ぎにもなるだろう。  
朝比奈さんだけは、さすがに未来に戻って拠点はあちらに移ったものの、  
頻繁にこちらに来ては、鶴屋さんと会ったりしているらしい。  
いつだったか、高校を卒業するちょっと前に、古泉がいつものニヤケ面で  
俺に事の顛末を話したことがある。  
「私たちは、望むと望まざるとに関わらず、多くの人々と接触を持ち、  
SOS団という触媒によってこの地域社会にそれなりの変化をもたらしました。  
その構成要素である我々が、一度に三人も消えてしまったらどうなるでしょう?  
きっと誰かが不審に思うでしょうし、涼宮さんほどのアグレッシブでなくとも、  
騒ぎ出す人がいるに違いありません。  
組織とて、無用な混乱は避けたいですし、そのままでも支障のないものを  
無理につついてトラブルを引き起こしたがるほど、馬鹿ではありませんよ」  
とまぁ、いつものように長々と相変わらず回りくどい説明をしてくれたわけだが、  
見慣れたニヤケ面が、妙にホッとした雰囲気だったのは気のせいではあるまい。  
 
当のハルヒはといえば、高校卒業と同時にアメリカへ行きやがった。  
もともと頭のネジが2、3本多い奴だとは思っていたが、  
そこまで頭のいい奴だとは思っていなかったので、正直、驚いた。  
高校時代に書いた、なんとかという論文があっちの大学教授の目にとまり、  
是非に、と呼ばれていったのだ。  
今でもたまに日本に帰ってくることはあるが、めったに顔を合わせることも  
できなくなっちまった。なにせ、あちらでも人気の大学教授になったハルヒは  
日本に帰ってくれば、やれテレビ出演だ、やれ講演会だ、とあっちこっちに  
引っ張りだこだからだ。  
まぁ、軽自動車にF1のエンジン乗せたような無闇にパワフルなあいつの事だ、  
相手が大統領だろうが国連事務総長だろうが、そんなものは関係なく思う様に  
振り回している事だろう。  
 
おっと、益体もないことを考えているうちに、やっと我が家に到着だ。  
メインストリートからの上り坂が、ちょっと玉に瑕の高台に建った、  
こぢんまりとした一軒家が、いまの俺の城だ。  
我が家の前の坂道よりも険しい、気の遠くなるような長さのローンの茨道を、  
これからの人生で歩いていかなくてはならないことを思うと、うんざりだが、  
まぁ、仕方がない。これも俺の選んだ道だ。  
 
あ、そうそう、長門はどうなったかというと・・・  
 
「おかえりなさい。あなた」  
「おう。ただいま、有希」  
 
長門は、相変わらずのポーカーフェイスで、俺を迎えてくれた。  
長門研究家の俺にだけわかる、かすかな笑顔を浮かべて。  
 
おっと、長門は旧姓だったな。  
ウチの表札には、俺の名前と一緒に「有希」の名前が並んでいる。  
まぁ、そういうことだ。  
あと、これは蛇足だが、雪が振る頃には、もう一人名前が増える予定だ。  
 

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