「どうキョン、美味しい!?」  
 「ああ美味いぞハルヒ、コレはいけるぞ」  
 「そう!良かったわ、まだまだあるわよ」  
 
ここは北高の近くのとあるボロアパートの一室。  
俺とハルヒの二人はこの狭い部屋で夕食の真っ最中である。  
何故俺とハルヒが2人きりでこんな所にいるのか。  
 
 
・・・・・・そう、俺とハルヒは同棲しているのだ。つい数日前から。  
ではなぜこうなったのか順を追って説明しよう。  
 
 
━━━━━  
 
それは先週の木曜日の事である。  
 
 「キョン、同棲よ!!あたしと同棲するのよ!」  
 
朝ハルヒが教室に入ってくるや否や人の大勢いる前でいきなりそんな事を言い出した。  
当然の事だが教室の空気は凍った。  
どうでも良いが谷口は腰を抜かしたらしく国木田によって体を支えられている状態だ。  
 
 「おいハルヒ、今何て言ったんだ、もう一度言ってみてくれないか」  
 
俺は板○英二張りの作り笑いを浮かべてハルヒに問い直す。  
 
 「だーかーらー!キョン、同棲するのよ!!」  
 「ちょっとこっち来い」  
 
これ以上人の大勢いる前で会話を続けると後々ろくでもない事になるのは目に見えてるので  
俺はハルヒを人気の無いであろう階段の下へと連れて行く。  
 
 「・・・お前はどうして人が一杯いる教室の中でああいう事を言うんだ、少しは恥ずかしいとか思わんのか」  
 「別にぃ」  
 「まあ良い、とりあえず話を聞こう」  
 「・・・昨夜ね、なかなか眠れなくてテレビつけたら」  
 「ああ」  
 「獣のシッポ生やした女の子と首輪付けた男の子が一緒にアパートに住んでる話やってて」  
 
どうもこいつは『ほね』の事を言っているらしい。  
 
 「ほね?何ソレ、確かいぬ何とかっていうのだったと思うけど」  
 「まあどうでもいい事だ、で、どうした」  
 「・・・別に・・・ ただ、その男の子と女の子が楽しそうだっただけの話よ」  
 「なんじゃそりゃ」  
 「でも・・・ あたしとキョン二人っきりでいる事って少ないじゃない」  
 
まあそりゃそうだ。学校ではなかなかそういうのは無理である。部室には古泉や長門や朝比奈さんだっている。  
せいぜい学校の行き帰りか週末にデートするのが限度だ。  
 
 「でしょ、だからいっその事同棲しようって言ってるのよ」  
 「だがそれには問題があるぞ、  
  まず家族から了承を貰えるかどうかだ、まず無理だろう、  
  それに万が一了承貰えたとしてもお金はどうするんだ、  
  同棲しましょーとか簡単に言うがアパート借りるのだって高いんだぞ、俺達は親のスネかじってる学生だ」  
 「そんなの何とかなるわよ、キョンは嫌なの?あたしと一緒に暮らすの」  
   
嫌ではない。むしろ大歓迎だ。  
ハルヒと一緒に暮らせるのを嫌がる奴がいたらその時はそいつをジャイアンのび太の刑に処してやる。  
 
――だがやっぱり親と金の問題がつきまとう。  
 
 「大丈夫!あたしにまっかせなさーい!」  
 
 
しかしながらハルヒの力というものはやはり凄いものだった。  
親の方はハルヒが俺の家に乗り込み両親に説明してあっさり了承を貰う事が出来た。  
お金の方も北高の先輩の多大なるご協力ですんなり解決した。  
 
 「お金なんて別に返さなくて良いにょろっ!  
  ハルにゃんとキョンくんが幸せになれるならどんな協力だってするにょろよっ!」  
 
・・・ああ、貴方はなんて偉大な方なんだ、鶴屋さん。このご恩はいつか2人でお返しさせて頂きます。  
 
 
以上。これで何とかお解り頂けたであろうか。  
ちなみにその後部屋を決める際、俺はワンルームマンションにでもしようと言ったのだが  
ハルヒはテレビに影響されたのか古いアパートが良いと言って聞かなかったのだ。  
 
で、結局ここに落ち着いたというわけだ。  
ちなみにこの部屋には風呂やシャワー、洋式トイレなど一通りの設備は揃っている。  
だがどれも十数年から二十年前ほど前の形式らしくガタが目立っている。  
またベッドやテレビのある部屋も壁に所々穴が開くなど古さは隠し切れない。最悪幽霊でも出るかも知れん。  
―――そうか、ハルヒはもしやコレが目当てだったのか。まあ深く考えない事にしよう。  
 
・・・まあとにかく非常に狭いアパートではあるが学生2人が住むにはこれで十分といった所だろう。  
 
━━━━━  
 
 「・・・そういや今日七夕なのよね」  
 「そうだな」  
 「あーあつまんない、織り姫とひこ星は一年にたった一回しか逢えないのよ、  
  何で雨なのよー」  
 「まあ仕方ないなそれは」  
 
この所ずっと雨が続いている。お陰で洗濯物もなかなか乾かない。部屋干しはかなり洗剤の匂いが気になる。  
ちなみに俺は昨日スペースシャトルが肉眼で見えると聞いて楽しみにしていたのだが  
こちらもやはり雨で見えなかった。  
 
 「見たい、キョンと一緒に天の川が見たい」  
 「まあ来年まで待つしかないな」  
 「もし来年また雨が降ったらどうするのよ」  
 「だったらその次の年だ」  
 「バカキョン」  
   
仕方ないだろうが。一年も二年も先の天気など気象庁どころか超能力者古泉ですらわからんだろう。  
あ、そうか、未来人の朝比奈さんに訊けば解るだろうか。  
 
 「一体何ぶつぶつ言ってるのよ」  
 
いーえ、別に何でもないですよハルヒさん。  
 
 「ならば俺が天の川を出してやろう」  
 「あらアンタドラえもんだったの」  
 
いや違う、断じて俺はあんな青だぬきではない。  
 
 「ハルヒ、ゴミ袋数枚持って来てくれ」  
 「ん、わかった」  
 
ハルヒが押入れから黒いゴミ袋を持ってきた。  
 
 「ではまずこのペンでゴミ袋に色んな絵を描こう  
  そうそうゴミ袋はちゃんと広げるんだぞ」  
 「解ってるわよそのくらい」   
 
ペンでゴミ袋に色んな絵を描いていく。  
ハルヒの奴はあのわけわかんないSOS団のマークやねこマンを描いている。  
ハルヒらしいといえばハルヒらしい。しかし楽しそうに絵を描くハルヒに俺はつい気をとられてしまう。  
 
 「アンタもあたしに見とれてないで絵描きなさいよ」  
 「おっとすまん」  
 
 「そういや『わくわくさん』はまだやってるのかしら」  
 「最近教育テレビなんかにお世話にならないから解らん」  
 「そりゃ普通そうよね」  
 
その後も俺とハルヒは楽しく話をしながらゴミ袋に絵を描いていく。  
 
 「それでキョン、この絵を描いてどうするのよ」  
 「まあ後でわかるさ」  
   
 「・・・大体こんな所ね」  
 「俺も描けた」  
 
続いてこの絵を天井にガムテープなどで貼っていく。  
 
 「ハルヒ、ちゃんと脚立押さえててくれ」  
 「分かってるわよ」  
 「ガムテープくれ」  
 「はいガムテープ」  
 
脚立を移動させながら合計5枚のゴミ袋を天井を覆うように貼り付ける。  
 
 
 「よし完成だ」  
 「もう、天井真っ黒けじゃない」  
 「当たり前だ、  
  ハルヒ電気消してくれ、あ、あとカーテンも閉めてくれ」  
 「別にキョンがやったら良いじゃない、・・・もう、わかったわよ  
  ・・・今日のキョンはあたしに命令してばっかりなんだから」   
 
ハルヒがカーテンを閉めたあと部屋の電気を消す。  
 
 
その瞬間。  
 
部屋に綺麗な星空が広がった。  
 
 「・・・・・・!!!  
  キョン!凄い!!星空!!綺麗な星空!!あ、天の川!!」  
 「大成功だ、結構明るいもんなんだな」  
 「・・・なるほどあのペン蓄光ペンだったのね」  
 「そうだ、本物ほど綺麗じゃないが折角の七夕なんだ、全く何も見れないのは残念だからな、  
  あれはハルヒの描いた絵か」  
 「そうよ、あらキョン、あの変なの何?!」  
 
変とは失礼な。あれはSOS団の五人なんだぞ。左からハルヒ、俺、朝比奈さん、長門、古泉だ。  
 
 「・・・アンタ下手ね」  
 
悪かったな。万能なお前とは違うんだ俺は。  
 
 「まあ良いわよ、でも綺麗、キョンもなかなか粋じゃない」  
 「本当の事を言えば、俺もハルヒと天の川見たかったんだ、  
  でもこの雨だ、どうせ本物は無理だろうと考えてこのペン買っておいたんだ」  
 「そうなの・・・ とても綺麗な星空よ、ありがとう、キョン」  
 「い、いや別に感謝されるほどではないぞ」  
 「別に照れなくていいじゃないキョン」  
 
俺とハルヒはベッドに寝転がってゴミ袋の即席星空を堪能する。  
 
 「そういや今年は笹買うの忘れたがハルヒはなんか願い事あるのか」  
 「そうね、いつまでもキョンと一緒にいられますように、かしら」  
 「俺も同じ願いだ、俺もハルヒとずっと一緒に居られたら良い、とか思ってる」  
 
俺はハルヒに抱きつく。  
そしてハルヒも俺に答えるかのように抱きついてくる。  
   
 「好きだぞ、愛してるハルヒ」  
 「私もキョンの事愛してる」  
 
俺とハルヒは自然と舌を絡めていた。  
 
 「キョン、今夜はこのまま星空の下でヤルわよ」  
 「いきなりすぎるぞ」  
 「良いじゃないロマンチックで」  
 「まあそうだな、じゃあブラジャー脱がすぞ」  
 「・・・いいわよ」  
 
 
・・・・・・強気なわがまま織り姫とそれに振り回されるヘタレひこ星の熱い夜はこうして過ぎていった。  
 
 
 
 
 
 「本物の織り姫とひこ星は逢えたのかしら」  
 「出会えたんじゃないか、多分」  
 「っそ、  
  それにしても外雨強くなってきたわね」  
 「そうだな、ちょっとテレビつけても良いか」  
 「良いわよ」  
 
俺はリモコンのボタンを押す。  
 
  『この大雨で○○市の20代の男女2人が増水した一級河川・天の川に流され死亡しました』  
 
 
 「さっさとテレビ消しなさいこのバカ」       ■終  
 
 

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