圧迫。
皮膚感覚につよい圧迫を感知した。
覚醒する。
視野は暗いまま。
私は睡眠から覚醒した。
場所は、私のマンションの一室。
抱きついているのは私の一番大切な人。嗅覚で判る。
その人が、激しく動揺しながら私に抱きついている。
「どうしたの」
尋ねる。
彼は普段は至って平静で、このような行為をすることはない。
「長門……な、長門……」
動揺と安堵の混じった声がする。
「落ち着いて」
「スマン。悪い夢を見てた」
「どのような夢」
夢には人間の精神構造が反映されるという。
ならば彼の夢を聞くことで彼の精神構造の一端を知る事が出来るだろう。
それは私にとってとても大切な事だ。
「俺が、殺されて、お前も何かに捕まってて、俺が食事にされちまってお前がそれを知らずに
食っちまう夢だ」
「その夢で私はどうしたの」
「わからん。まるでおかしくなったみたいに、発狂したみたいに叫んでた。イヤだった」
「そう」
「俺が死ぬより、お前が叫ぶ事のほうがイヤだった。
ゆ、夢で、悪夢でよかった。よかった……長門……」
彼は寝汗をびっしょりとかきながら、私を腕の中に固く抱きしめている。
いつもの事だが、彼の肉体は皮膚接触するだけで私の肉体に多幸感を発生させる。
このような歓喜を与えてくれる彼に対し、私は可能な限り幸福を与えたいという欲求に
駆られる。
「そ、その……スマン。なんか、怖い夢見たってだけでお前を起こしちまって……
ま、まるでガキみたいで……アホだな俺」
今度は彼は羞恥と自省に凝り固まっている。
経験上、こういう状況の彼を普段の彼に復帰させるには一つの最適解がある。
私は彼の顔を両頬に手を当てて固定する。
そしてゆっくりと顔を近づけていく。
瞼を閉じる。
彼がこうするときはそうするものだと言ったから。
唇に柔らかい感触。彼の唇。彼の匂い。彼の鼓動。彼の唾液。彼の昂ぶり。
胸の中に去来する限りない幸福感。
彼の唇から感じる、耐えられないほどの快美感。
上手く言語化できない私の想念を、可能な限り彼に伝える。
「……大好き」