その日、キョンは部室から帰る直前に長門に呼び止められた。
有無言わさず唐突に渡されたもの、それは小さな携帯ゲーム機。
「作ったの。貰って」
コンピ研であれこれしている最中に手慰みに作ったと言う。
断る理由も無く、キョンはそのゲーム機を受け取った。
その晩。
珍しく妹の襲来の無い寝室。
少し離れた場所から聞こえる猫の嘆くような泣き声をBGMにキョンはゲーム機を弄くっていた。
長門曰く「電池も電源も不要」との事。彼女の事だから永久機関ぐらい搭載したのかも。
そんな夢想をしながらキョンは電源ボタンをONにした。
【ながとっち】
背景もないにも無い、無味乾燥なゴシック文字とメニューだけが表示されているタイトル画面。
「START」のボタンを押して見ると、画面は1つの部屋を映しだした。
「あれ……長門の部屋だよな?」
そこは紛れもなく彼女の家であるマンションであった。
どうやら彼女の部屋を斜め上から見下ろしている感じである。
そして、そこで生活しているのはやはり長門。
緩い線と塗りの甘い配色、三頭身ではあるが長門である。
表情はやっぱり無表情だ。この辺は現実と全く変わらない。
彼女はリビングでじっとしていたり、本をひたすら読んだり。
窓の外をじっと見つめたり、何故か画面の方を伺うような仕草をした。
「……やけにリアルだよな、これ」
そんな事を呟いて観察を続けていると、長門がバスルームの方へと入っていく。
普通の育成ゲーム等ならそこで画面外で見えなくなるところだが……
突然、画面が切り替わる。ゲーム画面からビデオ画面へと。
「ぶふぅ!」
そして映し出される長門の入浴シーン。
股間とささやかな乳房に手を這わせ、浴槽の中で自慰なんかしている。
勿論、ぼかしやモザイクなんて無粋なモノはない。ご丁寧にも画面に向かって正対でご開帳。
しかも顔を僅かに赤らませて「んっ、キョン……」等と呟いていた。
30分後、長門はようやく風呂から上がった。
画面も元のゲームモードに戻っている。
鼻血と目眩に悩まされながらも、キョンは観測を続けていた。
しかし顔色は随分と悪い。童貞学生には少々きつかったらしい。
何せ、自慰をしている長門に自分の名前を呼ばれたのだ。
頭と心臓はハルヒが除夜の鐘を打ちまくっているかのよう。
せがれはいまやキリン首のママのようにそそり立っている。
今、長門が視界内に居たら、有無言わさずオカカワリしてしまいそうな勢いで。
そうか長門は俺に気があるのかいやそうじゃなくてこういう時は古泉に電話をしてて言うかなんであんな奴に。
良い具合にパニクっていると、バスタオル一枚の長門が画面に現れた。
暫しの間、迷うように彼女は部屋の中をウロウロする。
時たま、画面の方をちらっと横目で見ながら。
何だろう、いやに強い視線だ。
そう、キョンが感じた直後。
決心したのか、長門はバスタオル姿のまま玄関まで行きドアを開けた。
がちゃり。
「え……?」
自室のドアが開く音が聞こえる。
キョンが後ろを振り向くと、そこに立っていたのは。
「……して」
シトシトと水滴が落ちた床に、バスタオルが滑り落ちた。
暗い、湿った空気の部屋の中。
静かになったキョンの部屋で、ゲーム機の電源が自動的に機動した。
画面には一言、力強い筆文字で
【合体完了】
とだけ表示されていた。
完