「やぁ、キョン君」  
放課後の屋上、夕日を背に受けて、学園祭の占い師、つまり宇宙から来た悪い魔法使いの  
格好をした長門が俺を見つめる。  
心なしか、その瞳はいつもの長門と少し違うような。  
「長門・・・なのか?お前は?」  
「・・・どうやら君には分かるようだね。さすが、といっておこう。  
 長門有希がエラーを起こしたのも分かる話だ」  
いや普段の長門を知る人間なら誰にでも明らかに分かるぞ。  
口調もそうだし、何より雰囲気が違う。  
例えていうならば、テコ入れ前のヒビキと、監督更迭、テコ入れ後のアームドヒビキくらいに  
違和感がある。今風に言えば、景山ザビーよりもやはり正装着者は矢車さんじゃなきゃ  
ダメだってくらいの違和感だ。っていうかコイツ何言ってるんだ?  
「まず、謝らなければいけない。今の僕は君の知る長門有希ではない。彼女の体を借りているのさ」  
つまり・・・長門の体を乗っ取ったってことか?ありえない。そんな事ができるなんて。  
っていうかお前誰だ。長門の親玉の親戚とか?  
そう言うと、長門は少し顔をしかめながら、それでいてニヤけているような微妙な  
表情を浮かべた。普段の長門は絶対にしない、感情の篭った表情だった。  
「残念ながら・・・僕自身にも自分が何者かよく分からないんだ。僕は世界の危機が訪れたとき、  
 自動的に浮き上がってくる泡――そうだね、こことは違う高校の噂話では  
 "ブギーポップ"呼ばれている同胞もいるようだが。  
 僕達は"世界の敵"が現れるたび、こうして浮き上がってくる存在なんだ」  
 
世界の敵・・・ハルヒが聞いたら大喜びしそうな大層な名前だ。しかし、なんでまた  
そんな電波な正義の味方がこの高校に?確かに宇宙人、未来人、超能力者は居たりするが、  
基本的には人畜無害な奴等だぞ。誓ってもいい。朝比奈さんが誰かに危害を加えるなんて  
想像できるわけないだろう?  
 
「分からないのかい?・・・世界の敵、それは君も知っている。そう、涼宮ハルヒの事さ」  
「ハルヒ・・・が?」  
あいつが・・・世界の敵だって・・・?いや、しかし古泉の機関とやらの見解では、  
世界を思いのままに改変する事ができる、つまりそれは神の力そのもの、世界が  
気に喰わなけりゃ壊す事もできる。・・・あの時のように。  
 
「ちょっと待てよ!確かにあいつは、そのなんだ。ちょっと普通よりも違うけどな!  
 決して世界の敵なんかじゃない!お前、ハルヒをどうしようっていうんだ!」  
「涼宮ハルヒが世界の敵になってしまったから、僕は浮かび上がってきた。  
 世界の敵は排除しなければいけない・・・なんせ僕は自動的だからね。  
 ・・・おっと、そろそろ長門有希に戻らないといけない。  
 情報統合思念体とやらが介入してきている。  
 それじゃあ、また会おう。キョン君。君とは色々話がしてみたいからね」  
そういうと、ふっ、と長門は力無くその場に崩れるようにして倒れた。  
「おい、長門!しっかりしろ!大丈夫か!?」  
長門が目を開いた。いつもの長門のようだ。  
「・・・」  
沈黙。というか、少しばかり驚いた顔をしている・・・ようにも見える。  
俺はもう、何がなんだかですごくマヌケな顔をしているんだろうな。  
「ここはどこ?」  
屋上だ。  
「なぜ後ろに月が?」  
長門は俺の後ろに浮かんだ月を指差している。どうやらいつのまにか  
空は薄暗くなり、月がぼんやりと浮かんでいた。  
 
驚いた事に、長門は夕方から数時間の間の蓄積情報の経過と変異、つまり、記憶が一切無い、というのだ。  
夕方、部室で本を読んでいたが、気が付いたら夜の屋上で俺に抱かれていた、と。  
情報統合思念体は大騒ぎだろうな。  
っていうかハルヒ、ついにお前世界の敵だぞ。悪の幹部をすっとばして  
大首領になっちまったな。  
 
                            つづく  
 

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