キョンがおかしい。  
SOS団の活動を最近休みがちなのよね。  
学校がある日は普通なんだけど、日曜日に今月二回も休んだ。  
キョンは家族で出かけてたと言ったけど、妹ちゃんに聞いたら違うって。  
しかもそのうち一回は女の子(北高生らしい)と出かけてたですって?  
団の活動をさぼって女の子と遊んでるなんて。  
べ、別に女の子と出かけてたのが気になるとかじゃなくて、団の活動を疎かにしてるのが許せないだけよ!  
次の日曜日もキョンは出れないと言ってきたわ。  
今回は日曜日は中止と言ったら露骨に安心してたわ。  
そう、今度の日曜日はキョンの追跡よ!  
 
古泉君にその話をしたら、尾行のプロを連れて来た。  
なんと新川さんだった。  
なんでも、新川さんは元は凄腕の傭兵だったらしい。  
私はキョンへの罰ゲームを考えつつ、新川さんから尾行のコツを聞いた。  
しかし新川さんがこんなに饒舌な人だとは思わなかったわ。  
何しろ段ボールの話を一時間も話すんだもの。  
ためになったのは最初だけだったけど、面白かったからいいわ。  
さて、いよいよ明日。  
キョン、覚悟しなさい!  
 
 
日曜日。とうとうこの日がやってきた。  
妹ちゃんから聞いた話だと、キョンは女の子と商店街に行くみたい。  
家から尾行しようと思ったけど、気付かれたら元も子もないもんね。  
商店街の路地裏で隠れましょう。  
とと、もう来たわ。キョンと女の子が てくてく歩いてる。  
後ろからだから、相手の顔はよく見えないわね。  
なんか御嬢様みたいな服装だという事しか判断出来ない。  
うわっと。いきなり振り向かないでよ。  
段ボールがなかったらばれてたわね。危なかったー。  
さらに尾行を続けて10分、キョンは 雑貨屋の前に立ち止まった。  
周りを見回した後、女の子と店に入ったんだけど、一瞬その子の顔が見えた。  
あれは、さ、阪中さん?  
そういえば、最近私が学食から戻って来るとよく喋ってたわ。  
…なんだろう、この変な気持ち。  
私は、尾行をやめて家に帰った。  
 
 
尾行から帰った後、私は布団の中でさっきの事を考えていた。  
あのキョンと阪中さんが付き合っている。  
団の中の恋愛ではないし、阪中さんは悪い人じゃない。  
それは私が太鼓判を押してあげる。  
私のSOS団以外じゃ高校初めての友達だしね。  
意外とお似合いなのかもしれない。  
…でも、あの二人を見た時、心臓が痛くなったの。  
この気持ちはなんなの?  
私は自分自身に聞いてみた。  
 
私はキョンの事をどう思ってるの?  
みくるちゃんにデレデレしてて、私にいつも文句を言う。  
顔や学校の成績も普通。  
映画の時は本気で怒ってたっけ。  
おまけに階段から落ちて病院に運ばれて、みんなに迷惑もかけている。  
役に立たない雑用ね。  
…本当にそうなの?さっきよりも心臓が痛くなった。  
違うでしょ。本当にそう思ってるならキョンは団にいない。  
今この時、自分自身に素直にならなかったらずっと後悔する事になるわよ。  
キョンはあなたにとって特別な人なんでしょ?  
野球や映画の時、素直に言う事を聞いたのは何故?  
合宿の時、犯人を言わなかったのは何故?  
バレンタインの時、みくるちゃんに義理と書かせたのは何故?  
そして…  
キョンが入院した時、学校を休み、家にも帰らずキョンの所に三日も付きっきりだったのは何故?  
もう一度聞くわ。はっきりと答えなさい。  
あなたは、キョンの事が好きなんでしょ?  
「そう、私はキョンの事が好き。」  
私は、自分自身にはっきりと答えた。  
 
キョンの事が好き。でも阪中さんとの中は壊したくない。  
何より、キョンに拒絶されるのが怖い。  
それが私が自分自身に素直になれなかった理由。  
キョンが聞いたら呆れるんだろうな。  
私はこの今の状態が崩れるのを恐れている。  
学校に来る楽しみが、ううん、生きる意味が無くなってしまうような気がするの。  
そんな事になるくらいなら、いっそのことキョンと阪中さんとの中を応援しよう。  
そこまで考えた所で私は眠ってしまった。  
 
翌日、珍しく古泉君と朝から話をした。  
なんでも、今月の第一日曜日に、キョンが古泉君の知り合いの所でアルバイトしていたらしい。  
なんで私に話すのかはわからないと言ったら、そのうちわかりますだって。  
ハルヒ「おはよ、キョン」  
キョン「ん、おお」  
キョンはどことなく不自然だった。  
キョン「日曜日休みまくってすまなかった」  
ハルヒ「まあ、用事があったんだから仕方ないわ。ところで、今週は出れるの?」  
キョン「ああ、もう大丈夫だ」  
ハルヒ「そ、わかったわ」  
この会話の後、いつものように時間は過ぎて、下校時間になった。  
 
 
帰る途中に、キョンが呼び止めてきた。  
もしかして、阪中さんとの事かな?  
だったら盛大に祝ってあげるわ。  
キョンが鞄から何か取り出した。  
ん、これは何?  
キョン「いいから開けて見ろ」  
これは…私が欲しかったイヤリング。なんでこれを私に?  
キョン「お前、もしかして気がついてないのか?」  
なにをよ。  
キョン「お前の生まれた日だろうが。ま、俺も人の事は言えんが」  
え、あんた阪中さんと付き合っているんじゃ?  
キョン「あれのことか。お前まさかストーカーまがいの事してたのか?」  
ち、違うわよ!たまたま見かけただけよ。  
キョン「阪中さんから一ヶ月前くらいに話を聞いてな。  
どれがそのイヤリングなのかを聞いて一緒に探してもらったんだ」  
 
キョン「たまたま無くしたへそくりが出て来てな。  
妹にばれるくらいならと思って泣く泣く私財を使ったんだ。  
古泉には色々言われるし、朝比奈さんと長門には睨まれるし、ひどい目にあった」  
ハルヒ「キョン…そ、その…あ、ありがとう。すごくうれしい」  
キョンはまるであってはならないものを見たような顔をしてる。  
キョン「お、お前がそんな反応をするとはな。今日はハレー彗星が地球に衝突するかもしれん。  
そうだ、お前も一応阪中さんにお礼を言っておけよ」  
ハルヒ「わかってるわよ。 さて、キョン。  
団長を驚かすとはいい度胸ね。罰ゲームを受けてもらうわ!」  
 
キョン「ちょっと待て。お前さっき自分で言った事を覚えてないのか」  
それはそれ。これはこれ。てなわけで罰ゲームを受けなさい!  
キョン「どんなわけだよ…やれやれ」  
すぐ終わるから大丈夫よ。  
キョン「お前にとっての大丈夫が俺にとって大丈夫だった事などないぞ」  
いいから!目を閉じて少し屈みなさい!  
キョンは諦めた様子で指示に従う。  
私はキョンの顔を両手で掴んで―  
キスをした。  
 
 
キョン「―!!お、おい!ハルヒ!お前今なにを」  
ハルヒ「プレゼントのお礼よ!それ以上でもそれ以下でもないわ!  
勘違いしないでよね―!」  
あはは、キョン顔真っ赤。心なしかうれしそうね。  
脈は全くないってわけでもなさそう。  
 
 
 
いつか―自分に、そして、キョンに素直になれる日がきますように。  
 
 

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