さて、諸君にお聞きしたい、貴方は今まで「偽名」を使ったことはありますか?と。  
まあ、よくファミレスなんかで、悪戯気分で、総理大臣の名前をお待ちの方の欄に書き込んでしまった、  
などという経験は少なからずあるかもしれない。あれ、意外に楽しいんだぞ。  
暇な奴はやってみるといい。責任は取らんが。  
さて余談はこのくらいで、俺の事を話そう。俺は……ある。  
「ジョン・スミス」という名、三年前の涼宮ハルヒに名乗った名だ。  
あとは消失した世界でも使わせて貰った、俺とハルヒを結ぶ、なんて書くと恥ずかしいが、正直役に立った。  
が、こんな事もあったんだ。  
 
 
季節は秋、秋という季節は「〜〜の秋」と言われるように、日本人に好かれている季節だ。  
といっても、他の季節が嫌われているわけじゃない。  
芸術やスポーツは年中出来るし、読書も長門じゃないがいつでも出来る。  
ま、恐らくだが「色んなことが出来る時期ですよ」という意味合いが強いんだろうな。  
さてここはハルヒのいない教室、俺と谷口、国木田といういつも通りの三人で無意味に話していた時のことだった。  
「そういえばさ、このまえ長門さんを見たよ」  
「なに!?どこでだ!」  
国木田がそう言って谷口がすかさず反応した。  
「図書館」  
なるほどね、あいつが人目につく所で行きそうなの、そこくらいだしな。  
「お前はなんで図書館なんかに?」  
谷口の質問が続く。  
「実は最近推理小説にはまっていて、僕も借りに行ったんだ」  
「何か話したのか?」  
「ううん、北高の制服姿が見えたから、振り返ったら長門さんだっただけ、話してないよ」  
「そうか、長門さんは図書館で逢えるのか」  
「やめとけ、あいつは読書中に邪魔されると、酷いぞ」  
「う、キョンの言葉には物凄く説得力があるからな、それに、図書館なんて俺の柄じゃないし」  
よかった、悪い虫は去った。長門よ、これからも安心して図書館に行ってくれ。  
「キョンは?読書はするほう?」  
国木田に訊かれる。一応同意しておこう。  
「まあな、長門ほどじゃないが、俺も最近は漫画以外の本も読むぞ」  
専ら、長門に「これ」と勧められて読むのだがな。  
この前の、なんだっけ、かなり読み応えのあるSF小説は面白かったぞ。  
「そうそう。古い本でも面白いの一杯あるし、えっと5年位前の本で……」  
国木田は、俺の同意に気をよくして、オススメ本を思い出そうとしていた。  
「……っていう本。きっとキョンは気に入ると思うな」  
「そうなのか?ちなみに作者は誰なんだ?」  
このときの俺の質問に誰がけちをつけられよう。至極当然で会話の流れにも合っている。  
しかしここでの国木田の出した回答に対しては、流石に驚いた。  
 
「確か、作者は、ジョン・スミスって人だったと思うよ」  
 
……  
まじかよ。いくらなんでも、同姓同名だと!?  
いや、待て。慌てるな、俺。「ジョン・スミス」なんてありふれた名前じゃないか。  
ジョン氏だってスミス氏だって、欧米ではありふれている、はずだ。  
しかし、俺がとっさに使わせてもらった奴の書いた本か、気になるな。  
長門と図書館での暇つぶしのお供にでもなればいいかなと、そのときは思った。  
 
放課後、当然のように部室でまったりとした時を過ごす、SOS団の4人。  
あぁ、平和だ。しかしこの束の間のへいw  
「おっんまたせぇぇ!!!」  
はぁ、これがここでのいつも通りか、  
「今度は何だ」  
「ん〜〜〜ん、探検しましょ!」  
唐突だな、じゃあ週末の定時パトロールは無しか。  
「いえ!今から行くの!」  
「今からだと!」  
「そ!で場所なんだけど」  
ハルヒはびしっと椅子に座っている読書少女を指して。  
「有希」  
読みかけの本を閉じ、顔を上げる長門  
「なに」  
「貴方、いつも本読んでるわよね、なんで?」  
これはまたえらい質問だ。長門がなぜ本を読むのか。俺も知りたい。  
この万能宇宙人端末な長門がなぜ本を読むのか。事情を知っている俺が気にならないはずは無い。  
「……」  
しばらく考えた後、長門は2センチほど首をかしげた。自分でも解っていないらしい。  
「そうよね、本には不思議な魅力があるもんね。ありがとう有希」  
「そう」  
「ってことで、今日は図書館に行きます!!」  
あの、この思考経路。どうにかしてくれません?無理、そうですか……などと一人脳内漫才を終えて。  
「やれやれ」  
「いいじゃないですか、読書の秋ですしね」  
「あのぉ、お料理の本とか借りれますかぁ?」  
「……」  
満場一致だな、今日はハルヒの提案に従うしかないな、こりゃ。  
いかん訂正。今日「も」だ。  
 
「いい、何か面白い物を見つけたら、すぐに皆に連絡」  
図書館で面白いものねぇ、本だらけの空間に本以外で面白いことがあるのか?  
「キョン、うるさいわよ。じゃあ一時散開」  
気持ち小さめだが、それでもこのひっそりとした空間では大音響がこだました。読書中の方すいません。  
「さてと」  
長門はいつもの如く、つつぅぅっと夢遊病者な足取りでお目当ての本棚に行き、地に根を生やして読書。  
朝比奈さんは「家庭」とジャンルされる、料理裁縫作法などの書籍のコーナーにいて、色々吟味している。  
未来には図書館は無いんですか?  
「えっと、その、禁則事項すれすれですぅ、キョン君ごめんなさい」  
「いえいえ、気にしないでください」  
さて説明したくないが古泉は、国木田と同じ推理小説のコーナーに居た。  
「涼宮さんに提供する、ネタになればと思いまして」  
「それで推理物か」  
「ええ、冬の時はあっさり解かれてしまいましたから、リベンジ、ですかね」  
何気に真剣な表情を見せる古泉、実はショックだったのか。  
「僕ら提供側としても、「しまった!そうだったのか!」という展開も期待しながら楽しみます」  
そうか、ま、せいぜい頑張ってくれ。  
 
「すいません、本を探しているんですが……」  
ここで俺からアドバイスだ。図書館や本屋で目当ての本を探したい時は、司書を使いなさい。  
彼らは本の専門家だし、パソコンで検索すればあっという間だ。文明の力に感謝したい。  
「Eの6、Eの6っと、ここだな」  
大まかな本の位置を教えて貰った俺は、ほとんど迷うことなくそこについた。  
「う〜〜〜ん」  
そこには、背伸びしてなんとか最上段の本を掴もうと必死になっている、  
涼宮ハルヒが居た。弱気なあいつも可愛いが、これもまた、なんというか。  
俺は小さく溜息をはいた後、ハルヒがぎりぎり中指の掛かっている本をひょいと取って。  
「ほらよ」  
「えっ?」  
「読みたかったんだろ。これ」  
本を渡すと顔を赤らめて視線を外すハルヒ、まるで着替えを見られた朝比奈さんの反応みたいだ。  
「むむぅっぅ」  
と唸っている。俺なんか悪い事したのか?  
「!!別に!その、あ、……ありがと」  
物凄く小さくお礼を言われた。正直悪い気はしない。なんてったってハルヒだからな。  
「ねぇ、野球場の話覚えてる?」  
「以前、した話か、なんとなく覚えている」  
「じゃあ、中学のときの校庭の落書きの事は、知ってる?」  
どきっとした、がこいつは「覚えている?」ではなく「知ってる?」と訊いてきた。これは助かる。  
つまりこの質問は「私が以前校庭に落書きをした事を聞いたことがあるか?」という風になるな。  
だから、俺はこう答えた。  
「谷口から、聞いた。夜中の学校に忍び込んで校庭にけったいな絵文字を書いた、ってな」  
「そう、そのときにね。出合ったの、あいつと……」  
あいつってのは、俺と朝比奈さんだな、間違いなく  
「そいつにね、名前は?ってきいたらジョン・スミスって答えたの」  
キョンとか本名を言うわけにはいかなかったしな、とっさの偽名って奴さ。  
「そいつ、ジョンはあたしが宇宙人はいるかって尋ねたらいるって答えた」  
長門を知っていたしな。  
「未来人は?って訊いてもいるって、超能力者なんてごろごろいるって言ってくれた  
あたしの質問に、嘘を付く様子も馬鹿にする様子も見せずに言い切ったの、ジョンは。  
あたしは嬉しかった。自分の考えを認めてくれる存在に、いままで出会った二人の内の一人、それがジョン」  
このままだと、なんかまずい展開になりそうなので、話を斜めに切り返してみることにした。  
「すると、もう一人は?」  
「!!!っっ、教えるわけないでしょ!」  
「そうか、残念だな、でだ、どうしてそんな話を俺に?」  
「これね、あいつが名乗ったジョン・スミスって人が書いた本なの。あの時の名前は間違いなく偽名。  
でもね、あのジョンがこの本に何か影響を受けてその名前を使ったのかもって思うと……」  
哀愁の漂う瞳で本を見つめるハルヒ。失礼だが凄く可愛い。  
夢みる少女そのものじゃないか。乙女チックなハルヒもなかなかにいいものだ、なんて無粋なことを考えていた。  
 
ずいっ  
本を俺に向けてくるハルヒ。  
「なんだ?読めってか」  
「そうよ、というか読んで欲しいの、あんたに」  
「そうかい」  
「ちゃんと、感想聞かせなさいよ」  
「解ったよ」  
「それと汚したら、死刑だから」  
「へいへい」  
「そろそろ時間ね、さ、キョン、みんなの所に集まりましょ」  
 
 
てなわけで、なんとかキョン=ジョンという構図はハルヒの中では不成立に出来たわけだ。  
しかし適当に使った偽名でこんな事になるとは、もっと慎重になるべきだったか、俺。  
そして肝心の本だが、面白かった。やはりプロの作家は違うなと感心させられたもんだ。  
え?内容?そうだなじゃあ、ヒントを少しだけ。  
一人の少女に振り回される男の子の話だ。  
気が向いたら読んでみてくれ。  
 
完  
 

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