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『今日の夜10時にあの公園のベンチで待っててください』  
改めて俺は手紙の丸っこい字を見た。 夕日が翳って朝比奈さんの字を強調していた。  
ただ朝比奈さんは未来に帰ったはずだ。 時間の歪みも消えた以上、ここに来る理由が無い。 もしかして俺に会いに… そんな訳あるかっ。  
「キョン君どうしたっさ?」  
鶴屋さんにポンポンと肩をたたかれた。 そりゃアホみたいに口を開けっ放しでロッカーの前に立ってたら誰だって気になる。  
「いや、何でもないですよ」  
鶴屋さんに見つからないように手紙をブレザーの裏ポケットに隠した訳だが、  
「ん、キョン君何を隠したんだいっ?」  
残像でも出来そうな勢いで前に回りこんできた。 その目はブリリアントカットのダイヤモンドよりも輝いていた。  
そのまま鶴屋さんはブレザーに手を伸ばし、内側をまさぐってきた。 朝倉、ニヤニヤしてないで止めてくれ。  
「ちょ、ちょっと鶴屋さん、ダメですって…」  
デジャヴを感じながら鶴屋さんの手を受け流していると、  
「やあ、お待たせしました」  
制服姿に着替えなおした古泉が戻ってきた。  
「おや? 御2人でで何か楽しそうですね」  
違う、早く鶴屋さんを止めてくれ。 って鶴屋さんどこに手を入れてるんですか。 そんな事されたら…  
「あははっ、間違えたッさ。 そりゃっ」  
笑顔200%で鶴屋さんが俺のブレザーから手紙を引っ張り出した。  
「まったく、傍から見てたらバカップルね」  
「そうですね」  
朝倉(IN喜緑さん)と古泉が同時に肩をすくめた。 そう言うなら止めてくれ。  
「ふんふん、なるほどーっ ほほぉ…」  
1行の分を何回読み直してるんですか。  
「これはみくるの字だねっ! いままでどこに行ってたにょろ?」  
鶴屋さん、それは『禁則事項』ってやつですよ。 俺は指を口に当てて朝比奈さんの真似をして答えてみた。  
「あははははっ! みくるに全然似てないよっ!」  
お腹を抱えて笑うほど似て無かったですか。  
「やっと彼女も出てきましたか。 ですが…」  
「いつまで待たせる気なの?」  
ふと見ると古泉と朝倉(IN喜緑さん)は靴を履き替え終わっていた。  
 
俺たちはそのまま鶴屋さんの家に向かった。 道中の鶴屋さんがいつも以上にハイテンションなのは気のせいではあるまい。  
「しかし、朝比奈みくるは何で戻ってこれたんでしょうか? いや、こちらに来たというのが正しいですね」  
古泉話しかけてきた。  
「分からん、時間軸の歪みも消えたと言ってたはずだしな」  
そんな話をしているといつのまにか鶴屋さんの家の前まで来ていた。  
「さぁ着いたよっ! さぁ入った入った!」  
鶴屋さんは先に入り門の奥でこっちを手招きしてる。  
「結構大きいのね」  
門をくぐりながら朝倉(IN喜緑さん)は辺りを見渡していた。 そういやこいつ初めてだったな。   
そのまま俺たちは離れに通された。 前に朝比奈さんを預かってもらった時の離れである。  
鶴屋さんは着替えてくるらしく俺たちを部屋に残し出て行った。 またあの十二単みたいな和服に着替えるのだろうか。 鶴屋さんも大変だな。  
「しかし、僕たちの服はどうすればいいんでしょう…」  
古泉が横目で朝倉(IN喜緑さん)を見た。 いざとなったら作ってもらう気か。  
「お待たせっ! みんなの着替えももってきたからねっ! サイズが大きいのは我慢しておくれよっ!」  
あの時と同じ和服姿の鶴屋さんが服を持ってきた。 これで不安は一つ解消された訳だ。  
「これが古泉君の分で、これがキョン君のぶんだよっ! で、これがき…じゃなくて涼ぽんの服っさ!」  
突然聞きなれないアダ名で呼ばれた朝倉(IN喜緑さん)は目をついたばかりの蛍光灯のように瞬きをしていた。  
「り、涼ぽん?」  
「仲良くするならアダ名からさっ。 もしかしてイヤだったかい?」  
「いえ、別にいいんだけど…」  
「じゃ涼ぽんで決まりさっ! あとご飯は今作ってるから少し待っててほしいにょろ」  
そう言って鶴屋さんはまた出て行った。  
「涼ぽん…か」  
朝倉(IN喜緑さん)が耳元で囁くような声で呟いた。  
「ん、どうした朝倉?」  
「ううん、なんでもないわ」  
少し照れくさそうな仕草で微笑を作った。 一瞬長門のような印象を感じたのは気のせいだろうか…  
 
その後鶴屋さんに呼ばれて母屋の方で夕食を頂いた。 なんと鶴屋さんのお手製の焼きそばという事だ。。  
食べてみるとこれがかなりおいしく、これならご飯が何膳でも… って邪道かこれは。  
焼きそばをおいしく頂いた後あの離れに戻ろうとすると、鶴屋さんに呼び止められた。  
「キョン君、ちょっちお話があるっさ! こっちに来てくれないかい?」  
隣の部屋の襖から半身を出して手招きをする鶴屋さん。  
「ここじゃ話せないことなんですか?」  
「そうなんだよねっ、まぁこっちに来ておくれっ」  
近づいた所で手を引っ張られて俺は暗い部屋に入った。  
部屋は畳張りのようだが暗くて鶴屋さんも輪郭しか見えないほどだ。 こんなとこに連れてきて何をする気だ?  
「で、こんなところで何のようですか?」  
恐らく鶴屋さんがいるであろう方向に質問した。  
いきなり襖が閉まり、  
「キョン君っ、この後みくるに会いに行くんだよねっ」  
部屋の真ん中辺りから声がした。 心なしか声のトーンが低いような…  
「そうですが、どうかしましたか?」  
よく目を凝らすと鶴屋さんの輪郭だけが確認できた。  
「んっとねぇ… 行かないで欲しいんだけどダメにょろ?」  
気のせいか、「行かないで」と聞こえたような…  
「本気と書いてマジなんだよっ 」  
少しづつ鶴屋さんが近づいてきた。 暗闇で表情は分からないが、いつもの笑顔ではないはずだ。 多分。  
「すみません鶴屋さん。 俺は何が何でも行かないといけないんです」  
もし朝比奈さん(大)ならば何か解決のヒントをもらえるはずだ。 そうすりゃあの前ににでもタイムスリップしてもらって改変しちまえばいい。  
「キョン君がそんなに押し通すってことはハルにゃん絡みなんだねっ」  
「まぁ、そうと言えばそうなんですが…」  
朝比奈さんが入れたお茶を片手に古泉とオセロをし、隅のほうで長門が本を読んでいる。 そしてハルヒがまた無茶を持ってくる。 俺はそんな生活に戻りたい。  
「それでも行って欲しくないんだよっ」  
そう言われても困るんです。  
「恋人同士なのにかい?」  
…今なんて言いました?  
「もっかい言うよ。 あたしたちは恋人同士じゃなかったのかい?」  
思わず固まったね。 記憶が無かったんじゃなかったんですか?  
「そんなの嘘に決まってるっさ。 今までは意識しないようにだけどさっ、もうダメっさ! 頭では分かってんだけど、キョン君を離したくないんだよっ」  
心の奥底を鷲掴みしそうな声で言った。  
「ハルにゃんじゃなくてあたしじゃダメなのかい?」  
その言葉に一瞬時が止まったように感じた。  
「いや… あの、それはですね…」  
俺があたふたしてる間に鶴屋さんは俺の両肩を掴んだ。 その勢いで表情が見えないまま顔を一気に近づけてきた。  
「どうなんだい?」  
頭の中が鳴門海峡の渦潮のようにグルグルと回り、鶴屋さんとハルヒがなぜか交互に頭によぎり、最後にハルヒのアカンベーが頭に留まった。 何を今さら迷ってたんだ。  
「すみません、やっぱり俺は行かないと…」  
「そっか…」  
しばらく沈黙が部屋を包み、鶴屋さんが急に抱きついてきた。 髪がサラリと揺れて甘い匂いが漂ってきた。  
「少し… このままでいさせて欲しいっさ」  
俺も自然と手を回していた。  
どれくらいそうしていただろう。 薄暗い中抱き合う俺と鶴屋さん。  
鶴屋さんが急に俺を突き放した。  
「もう大丈夫っさ。 ありがとうキョン君っ!」  
声はいつもの鶴屋さんに戻っていた。 そして薄暗くて表情が見えなかったが、縦に光る筋が一瞬だけ見えた。  
 
 
鶴屋さんに「先に出てて欲しいにょろ」といわれたので部屋を出て、その足で公園に行くことにした。  
見慣れた公園、ここは何かと宇宙人とか未来人とかと絡むな…  
っと考えている開田に約束の場所に到着。 時間より早く来てしまった為、俺はベンチに座って時間が来るのを待った。  
そして公園の時計が10時をさした。 その直後後ろの草むらがガサリと揺れた。  
「よいしょっと…」  
こけそうになりながら植木をまたいで出てきたのは朝比奈さん(小)だった。 気のせいか朝比奈さんの背が高くなってるような…  
「久しぶりです。 あ、もしかして待ちましたか?」  
待ってはいませんがそんなところから出てくるとは予想外でしたよ。 奥にシルバーの時を駆ける翼でも隠してるんですか?  
「どうも安定しなくて…」  
あなたのドジっぷりはよく知っていますのでそのくらいは想定内ですよ。  
「で、朝比奈さん。 時間の歪みも消えたのにこの時代に何かあるんですか?」  
朝比奈さんもベンチに座り、真剣な目でこちらを見た。  
「実は言うと、命令無視して来ちゃいました」  
はい? まさか朝比奈さんにそこまでの意思があるとは。 そこまでして何かしないといけないんですか?  
「そういう事です」  
朝比奈さんは真剣な顔を崩さず、  
「もしかしたらまた強制帰還させられるかもしれないし、戻ったら絶対処罰されます。 でもこれだけはやっておきたかったの」  
「何をですか?」  
「あの始業式にもう一度時間遡行します」  
俺は驚愕した。 まさか朝比奈さんが時空改変を試みるつもりとは…  
「でもどうするんですか? このまま行っても改変に巻き込まれるだけですよ」  
「あ… ふみぃぃ、そうでした…」  
だが俺たちには朝倉がいる。 いくら制限があるとはいえ長門みたいにプログラムを仕込むくらいはできるだろう。  
「え? 朝倉って誰ですか、その人?」  
そういや朝比奈さんは知らんのか。  
「まぁ、とりあえず鶴屋さんの家にきてください。 古泉もいるんでそこで話しますよ」  
「え、鶴屋さんですか。 わかりましたぁ」  
とりあえず俺は朝比奈さんを連れて鶴屋さんの家に戻ることになった。 後ろから朝比奈さんが野うさぎのように俺の後を追っている。  
さぁ、待ってろよハルヒ、これで鍵はそろったぜ。   
そして長門、これがお前の本心なのかしっかりと問い詰めてやる。  
 

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