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その日も、あの夢のことが頭に引っかかっていた。  
くそっ、涼宮ハルヒ、長門有希、朝比奈みくる、古泉一樹、全部聞いたことも無い。 古泉総理なら知ってるんだが…  
昼休みにでもとりあえず名簿でも見てみるか。 一人くらいはウチの学校だろう。  
 
そして教室についたわけだが、谷口がうらやましそうな顔でこちらを見ている。  
「キョン… お前だけは友達だと思ってたんだがな…」  
「何のことやら…」  
「知ってるぞ、三年の鶴屋さんと付き合うそうじゃないか…」  
…なんでそういう色恋話だけは伝達が早いんだ? と言うより鶴屋さんから誰経由で谷口まで伝わったんだ?  
「知らん、だがチェーンメールで8人同時に来れば誰だって信じるさ」  
谷口はシャーペンを指でまわしながら国木田に視線を送る。 お前も送ったのか?  
「でも、キョンがあの鶴屋さんと付き合うとはねぇ…」  
あの? 首をかしげた俺に国木田が補足説明をよこした。  
「知らないの? 三年の中でも結構人気なんだよ。 付き合うのは大変そうだけど」  
たしかに常時あのテンションでいられると神経が耐えれない人が出てくるな。  
「だけど僕にも3人もメールが来たって事は、ほとんど全校生徒が知ってるって事だね。 おめでとうキョン」  
これはお前のメールの来なさにツッコむ所なのか、それとも「おめでとう」にツッコむ所なのか?  
 
国木田の言うとおり、どうもみんなに知られてるようである。 授業中に視線を感じる。 こらそこっ、聞こえるように陰口を言うな。  
後で谷口にメールの内容を見せてもらったが、幸いにも俺はキョンという間抜けなアダ名で書かれていた。  
これがもし本名でもかかれてたら全校生徒から視姦プレーを受けることになってたろう。 そうなったら本気で引きこもるぞ。  
 
クラスの中の好奇の目に耐えられなくなった俺は、昼休みという時間を利用して逃げ出した。  
とりあえず名簿を見に行くか。 あの夢の件も気になる。  
名簿をみて古泉一樹については意外にあっさり見つかった。 特進クラスの九組だった。 俺とは縁の無いクラスだな。  
他の三人については、名簿にすら載ってなかった。 ほかの学校か?  
とりあえず古泉とかいうのに会いに行ってみるか。  
 
九組の教室行ってみて、古泉を呼び出してみた。 意外にあっさり会えた。 入れ違いとかもあると思ってたんだが…  
「古泉は僕ですが…」  
なんとまぁ、張り付いたようなスマイルでご登場だ。 キャラ作りってやつか?  
「なぁ古泉、俺とお前は面識はあるか?」  
まぁ、同じ学年だし、呼び捨てでいいか。 というか呼び捨てたい。  
「いえ、ないはずですが…」  
古泉が疑問符を浮かべて首をかしげている。 たしかに俺がそう聞かれてもそういう反応をするしかないな。  
「そうか、それだけだ。 すまないな、呼び出して。」  
用件を済まし、教室に帰ろうとしたんだが、  
(彼は超能力者…)  
まただ。 俺はまたつられるように、古泉に聞いた。  
「なぁ、お前は超能力者とかじゃないよな?」  
「いえ、僕は普通一般の人間ですが…」  
古泉は馬鹿にしたように肩をすくめた。 何かその態度むかつくな…  
(情報プロテクト解除 情報構成拡大処理開始…)  
「痛っ」  
また頭が痛み出した。 何か脳からひねりだされるような、そんな感じだ。  
「大丈夫ですか?」  
どうやら古泉は俺を頭が痛い人(いろんな意味でだ)と認識したようだ。 何か悲しいな。  
 
結局古泉と会って頭が痛くなっただけだ。 何なんだよこの頭痛。 とりあえず風邪ではないことは確かだ。  
とりあえず俺は教室に戻って授業の準備を始める。 谷口、いい加減機嫌を直せ。  
 
そして午後の授業も残り10分というところで、また頭痛がした。 今度は小規模だがな… そして頭の中でまた声がした。  
(脳領域における必要情報構成完了。 記憶情報を再構成する)  
何かが変わった気がする。 ん? この声は… 朝倉!?  
(そうよ、やっと気づいてくれたわね)  
そうだ、俺はあの時記憶を消されて…  
「そうだ、ハルヒだ!ハルヒはどこだ!?」  
俺は会議で自信のある企画を発表するサラリーマンのように立ち上がった。 何で忘れてたんだよ、俺!  
「なぁ、キョン。 何か興奮中のところ悪いが、とりあえず落ち着いてくれ」  
谷口、これが落ち着いてられるか! 長門はどこだ? 朝比奈さんは未来へ帰ったのか? 古泉は… まだいたな。  
「今はまだ授業中だぞ」  
クラスの全員の視線が集っているのに気づいた。 我に帰った俺は、あたりを見渡して座ることにした。  
 
(で、朝倉。 なぜお前の声が聞こえるんだ?)  
(刺した時にナノマシンを注入しておいたの。 それを媒介にあなたの構成情報の一部を使わせてもらってるのよ)  
脇腹が痛み出してきた。 これはトラウマになりつつあるぞ。  
(じゃあ何で今まで)  
(今までは長門さんがいたからなの。 下手に干渉して結合解除になったら元も子もないでしょ。 今は長門さんの直接介入が無いから、こうやってアプローチをかけることが出来たのよ)  
(まさか昨日からの頭痛はお前のせいか?)  
(そう、長門さんのかけた情報制御は強力よ。 あなたがキーワードを言った瞬間に再度情報操作をかけて絶対に思い出せないようにしてた。 情報操作に回るスキを狙ってこっちの情報拡大していくしかなかったの)  
そこでチャイムがなり朝倉との脳内話に夢中になっていた俺は、礼中に一人だけ座ったままという失態をさらしてしまった。  
 
全員が帰った後、教室で再度朝倉と(脳内でだがな)話し合うことにした。バレたらいけないので寝てるフリをしながらだ。  
(まずお前も情報なんとかの一員じゃなかったのか?)  
(私は情報結合を解除された後、情報統合思念体からは切り離されてたの。 今回のことは私は関係ないわ。 まぁ、分離されてたおかげで情報統合思念体の影響もなかったんだけどね)  
(それを証明できるのか? はっきり言って俺はお前を信用して無いんだぞ)  
(できないわね。 でも今の状況は今の状況は私にとって好ましくないわ)  
(利害の一致ってやつか? そのわりによく殺そうとしてたじゃないか)  
(あれはちょっとした手違いよ)  
(人の生死を手違いで片付けられるのはちょっとな…)  
(まぁ、いいじゃない。 それに今のあなたは私以外頼れないんじゃない?)  
図星だ。 古泉は記憶を消されてるし、今回は長門の緊急脱出プログラムもなさそうだ。 きっかけは長門だし。  
(かといって私もあの時ほど色々出来る訳じゃないけどね。 情報統合思念体からは分離されてるからあまり大規模な情報変換は無理なの)  
(とりあえず今の状況をお前の分かる範囲でいい、教えてくれ)  
まずはそれが知りたかった。 一体この世界はどうなってるんだ?  
(とりあえず涼宮ハルヒ、およびSOS団に関与した人間はすべて記憶操作されてるわ。 朝比奈みくるに関しては、この時代にはいないようね。)  
やっぱりあの時に帰されてしまったのか。 もう会うことはないのか?  
(古泉一樹はさっきも見たとおり、ただの一般人になってるわ)  
(古泉はどうでもいい。 長門とハルヒはどこなんだ?)  
(涼宮ハルヒと長門さんに関しては消息不明ね。 捉えることが出来ないっていうのが正しいと思う)  
(そうか…)  
(だからこそ私がこうやってあなたに接触できたんだけどね)  
(俺に何ができるんだ? 俺自体には何も不思議属性はないんだぞ?)  
(私が可能な限り手伝うわ。 とにかくまずは協力者を集めないと…)  
(どうやって集めるんだ? まさか正直に打ち明けるわけにも行くまい)  
(それについては考えがあるわ。 今鉛筆なんかもってる?)  
鉛筆は無いが、シャーペンならある。 俺は鞄の中から筆箱を出して、シャーペンを取り出した。  
(そのまま机に置いて)  
言われるままにシャーペンを机に置くと、どんどん宙に上がっていった。 そしてそれは渦を巻いていき、見覚えのある形になった。  
(短針銃よ。 針に情報復元プログラムを付着させてるわ)  
12月と同じか。 またこれを使うことになるとは…  
(でも針は3本しか無いから慎重に使って)  
 
「遅いぞキョン君。 ずぅーーーーーっと待ってたんだからねっ」  
その声に顔を上げると、鶴屋さんの100ジゴワットの笑顔が輝いていた。 いつもより明るいのは昨日の件があるからか。  
「すみません少し寝てました」  
という事にしておく。  
「うん、素直でよろしいっ!」  
ふと鶴屋さんの視点が俺の右手に向かう。 あ、短針銃…  
「キョンくん、一体それは何だい? おいたはダメにょろよー!」  
「いや、あの… これはですね…」  
言い切る前に鶴屋さんが短針銃を取ろうとしてた。  
「これはダメですよ。 大事なものなんです」  
「私より大事なものかいっ? そんなもの無いと思ってたんだけどねぇー!」  
ニヤニヤしながら鶴屋さんが手を伸ばしてくる。 ものすごく髪が当たるんですが…  
「ちょっと、本当に、あ…」  
音も無く短針銃が発射された。 と同じダイミングで鶴屋さんが倒れた。  
「鶴屋さん!?」  
幸いにもどこにも当たらずにすんだ。 これで傷でもつけたらファンの人に袋叩きにされるぞ。  
(どうやら無事情報修正プログラムが起動したようね)  
朝倉の声が聞こえる。 どういう事だ?  
(安全にプログラムを起動させる為に睡眠状態に移行させたの。 起きたままだと固有情報に悪影響があるの)  
(記憶が修正されたらこの世界の記憶はどうなるんだ?)  
(安心して、それは残るわ。 告白の記憶もね)  
コイツ、そこまで見てたのか…  
(それより前からずっと見てたわよ。 夏休みのことも、文化祭のことも。)  
ストーカーか? 下手するとアレまで見られてるかもな。  
 
 
それからおよそ10分くらいが経ち、鶴屋さんが目を覚ました。  
「あれっ? 何でこんなところで寝てるんだろうねっ」  
気付いたと思ったらいきなり起き上がった。 いつもアクティブでアグレッシブな人だ。  
「たしかキョンくんと何か取り合いになってーっ」  
俺の机を見るが、流石にもう短針銃は隠した。  
「気のせいじゃないですか? ところで何か異常は無いですか?」  
「特に何もないにょろよ。まるで寝てたみたいだよっ」  
まぁ、実際寝てたみたいなもんですが…  
「もっと他に… 昨日の事とか憶えてますか?」  
何よりもそれが気になった。 もし朝倉の言うとおりなら、あの告白も覚えてるはずだ。  
「お、キョンくんめがっさ鋭いねっ。 それが昨日と一昨日のことを全く覚えてないんだよっ。 何かあったのかい?」  
「いえ、別に何も無かったですよ。」  
とりあえず忘れてるのなら無理して思い出してもらうことも無い。  
「そういえばこんな時間だけどSOS団はいいのかいっ? みくるも待ってるよっ」  
「えっと実はですね…」  
これまでの事を言いかけて俺の口は止まった。 はたしてこの人に言ってもいいのだろうか? 色々と知ってそうだが…  
「ここは夢の中なんですよ」  
我ながら苦しい言い訳だ。 流石に鶴屋さんどころか妹も騙せないだろう。  
鶴屋さんは少し考えたような表情になって、  
「ほっほーっ、夢なのかい? その割に感覚があるにょろよ?」  
通じた… のか?  
「感覚がある夢なんですよ」  
こうなりゃヤケだ。 このまま押し通してやる。  
「そんな夢もあるんだねぇ…」  
「それを承知で聞いてください」  
俺は鶴屋さんにハルヒや長門、朝比奈さんや古泉の事を話した。 そして今回起きている事(脳内の朝倉も含めて)を話した。  
「なるほどっ。 よーく分かったさっ」  
普通の人なら精神科のドアをノックしそうな話を鶴屋さんはすんなり受け入れてくれた。 やっぱかなり知ってたな。  
「で、これからどうするんだい?」  
もっともな質問である。 俺もそれが知りたい。  
「ちょっと待っててください。 聞いてみます」  
俺は脳の中にたむろしてる  
(おい、朝倉。 これからどうすりゃいいんだ?)  
(私にも分からないわ あとは野となれ山となれね)  
(そうか…)  
朝倉との脳内会話を終えた俺は、  
「とりあえず帰ってもいいみたいですよ」  
「分かったさっ。 じゃあまた明日ここで集まろうっ。 それじゃねっ」  
そう言って鶴屋さんは加速装置でもついてたかのような速度で教室を出た。 速えぇ…  
「あとそれとっ」  
いきなり鶴屋さんが引き戸から顔を出した。  
「やっぱなんでもないっさ! じゃねっ」  
鶴屋さんの足音が遠ざかっていった。 何だったんだ?  
 
鶴屋さんが教室から離れたのを確認しつつ俺は再度朝倉に問いただした。  
(記憶が消えてるじゃねぇか)  
(おかしいわね、あのプログラムにそこまでの力はない筈なんだけどなぁ)  
(でも実際消えてるみたいだぞ。 それは紛れも無い事実だ)  
(まぁいいわ、早く帰りましょう。 ここにいても何もないでしょうし…)  
朝倉の声しか聞こえないが、姿が見えていたらきっと古泉のような顔で肩をすくめてるに違いない。  
 
とりあえず家に帰った俺はつつがなく一日を終えた。  
昨日みたいに朝倉が夢の中に出てくるという事も無いようだ。 そうする必要が無いからな。  
さて、明日はどうするか。 味方になってくれそうな奴は…   
目をつぶった俺のまぶたの裏には、長門が映り、朝比奈さんが映り、ハルヒが映って消えていった…  
 

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