それは俺が2年の三学期を迎えたときのことだった。  
憂鬱な試験も終わり、最近はめっきりおとなしくなったハルヒの面倒も見る事も、  
いわゆる「敵」の動向も収まった頃。  
端的に言えば俺がすっかり油断していた頃のことだった。  
 
衰えてきたとはいえ、未だ健在なハルヒのバカパワーにより、1年と変わらず後ろにハルヒ、  
その他に谷口、国木田、そしておそらくハルヒにとってクラスの友人として目されたのだろう、阪本が居る。  
 
このクラスで、谷口、国木田と3年のクセに暇を持て余していた鶴屋さんで集まって、  
短縮授業の放課後、大貧民をしてだべっていた時にそれは起こった。  
と言うより廊下の窓ガラス越しで目撃した。  
 
中庭で朝比奈さんが何者かに告白されている。  
 
……まああの人だからな。海岸に舞い降りた天女のごとく、  
あるいはヨーロッパの教会における聖母マリアのように  
崇拝対象としての地位を確立している朝比奈さんが告白されることなど、  
サーカスに行ったときに象が芸をするのを見るくらいにはありふれた事だ。  
しかし問題なのはそんなことではない。  
 
相手がどう見ても「俺」にしか見えなかったことだ。  
 
「なっ………っ!?」  
 
俺は廊下の方にナナメに傾けた椅子をひっくり返す勢いで、その光景が広がっている  
中庭に向けて広がっている窓へと一気に駆け寄った。  
「おい、キョン、どうした?!」  
うるさい谷口。今はそれどころではない。  
 
俺は某訓練された不可能を可能にする女王様付きのスパイではないので、  
読唇術の心得は無い。故に喋っていることはここから見ているだけでは解読不可能だ。  
だが、あれはどう見ても告白シーンだ。しかも相手はなぜかここに居るはずの俺。  
 
…落ち着け。同時刻に二つの自我が存在できないことを証明した哲学者のことを  
思い返しながら、俺は考えた。  
あれはおそらく「異時間なんたら体」とかの俺に違いない。  
おそらく何らかの事件があって、その演技をしているだけなんだろう。  
そうに違いない。今の俺にそんな事件の心当たりが無いので、未来にそんな時間を遡ることを  
必要とする時が来るのだろう。…我ながら羨ましい。くそう、あんなにくっ付きやがって。  
 
……いや前言撤回。こんなシーンを見つけたら、地球上で最も混沌を引き起こすであろう者が、  
選りにもよって、こんなタイミングで中庭へと続く渡り廊下へとやってきた。  
至高存在たる我らがSOS団団長、涼宮ハルヒである。  
 
……ああ、未来の俺よ、俺の寿命はそれまでだったか。いつの俺だか知らないが、  
せめて今の自分の人生を楽しく生きようと思う…  
って、何だハルヒ?!なぜ柱の陰に隠れる?  
「団内恋愛禁止!みくるちゃんから離れなさい!」  
などとドロップキックを俺にかますのがお前のキャラだろ!  
なぜそこで某ACTゲームの特務兵のように身を隠す?!  
 
ヤバイ。なぜだか分からんが、非常にヤバイ気がしてきた。  
とりあえず俺は、後ろから声を掛けて来る谷口らの声を無視して、  
SOS団のアジトの方へと一目散に駆け出した。  
それでも長門なら…長門ならきっと何とかしてくれる…  
そう考えたかどうかまでは分からんが。  
 
しかし、ノック抜きでドアを開けた俺の目の前に現れたのは、ある意味  
限りなく予想外の人物だった。  
 
…朝比奈みくるさんがここにも居る。  
しかも半裸。  
…あー、そうだった、確か今は3年は自由登校期間で、みくるさんは大学も推薦で決まったため、  
わざわざ教室で自習なんかはしてないんだよなあ、お陰で長門と並んで  
今やSOS団付きの常備品となっているんだ…ってなんだこの説明文は。  
 
元々色白の顔を真っ赤に染めた朝比奈さんは、少し凍りついた後叫んだ。  
「出…出て行ってくださいっ!」  
も、もちろん出て行きますともっ!俺は後ろ手でバタンとドアを閉めた。  
…もうそろそろ卒業なんだし、いいかげんで学習してくれないのか、あの人は。  
鍵だってついているのに…  
「どうぞ、入って良いですよ。」  
 
そこにはメイド服の朝比奈さんと、思った通り長門が居た。  
 
…まて、なぜさっき中庭に居た朝比奈さんがここにも居るんだ?  
俺は少なくとも中庭からよりは近い、俺のクラスから一直線にここに向かった。  
俺よりはるかにとろい朝比奈さんが俺より遠いところから早くこの部屋に到着しつつ、  
メイド服に着替えるサービスシーンを提供する…それなんてプリンセステンコー?  
 
…そうか、「あの」朝比奈さんも未来からやって来たのか…しかし何のお使いなんだ?  
 
「それは無い。」  
いつの間にか声になっていた俺の思考に、長門は容赦ないツッコミを入れてきた。  
「ちょっと待て。何が無いんだ?」  
「あなたと朝比奈みくるの異時間同位体が過去280時間の内の時空に現れたと言う記録は無い。」  
こいつと話してると説明が省けて非常に助かる。  
「…タイムトラベルした俺じゃないなら、あれは何だ?俺は確かに見たぞ。  
朝比奈さんがなぜだか知らんが、俺の告白を受けていたシーンを。」  
 
「えええっ!私キョン君に告白されたんですかあ!?それはその…困りますっ!禁則事項ですっ!」  
いやちがいます朝比奈さん、俺はその情景を見ていた純然たる傍観者だったわけで、告白した覚えも、  
とりあえずはする予定もありません…って何でそんな目で見るんですか。  
「いいですっ!」  
朝比奈さんがむくれた姿は確かに可愛いが、今はそれ所ではない。  
 
「長門、一体俺が見たのはなんだったんだ?」  
「大気中の水分等の小滴、および塵芥による、光学的映像。」  
「…?」  
「通俗的な言い方をするなら、幻。」  
 
でも俺だけではなく、ハルヒにも見えていたぞ?  
…というか見ていたというリアクションを取っていた。  
 
「涼宮ハルヒが現出させたものだから。」  
 
考えているときに頭からクエスチョンマークが発生するものならば、  
それによって首が折れる位に理解が不能だった。  
ハルヒはそんなものを見て何をしたいと言うのだ。  
 
「…正確には見たいというわけではない。  
涼宮ハルヒがその情景を本当に心から見たいなら、  
朝比奈みくるとあなたそのもので現出する。」  
 
これは残念がる所かね?どっちにしても理解不能なのは変わりないぞ。  
説明好きの超能力者、ドアの後ろに隠れて居ないでとっとと出て来い。  
「いやあ、あなたに指名されるとは光栄ですねえ〜。」  
どこから聞いていた?  
「割とそもそもの初めからですよ。」  
なら話が早い。お前はハルヒの精神についてはプロフェッショナルだろ。  
長門の説明も含めて、俺にもわかるように解説してくれ。  
 
「あなたは少女マンガなどを読まれたことはありますか?」  
無い。妹が何冊か貸してくれたが、セリフが読みにくくて断念した。  
「それは残念。あれはあれで、結構名作もあるのですよ。」  
持って回った話はどーでもいい。それより、少女マンガと今回のことと、何の関係がある?  
「少女マンガに良くあるパターンとして、  
『憧れの先輩に、卒業式間際に秘めていた思いに気がつき、告白する』  
というものがあるんですよ。」  
つまり、ハルヒはその系統のものを読んで、こうあったらなあって思ったってことか?  
「半分だけ正解ですね。ここは前提で、『かつてその様なものを読んだ』という所です。」  
残りの半分は?  
「あなたの所為ですよ。  
みくるさんが着ているメイドコスチュームにしても、巫女コスチュームにしても、最近  
朝比奈さんのなかで流行っているらしい新人OL風コスチュームにしても、  
とにかく、SOS団の部室では隙あればあなたはそればかり見ている。」  
まあ、最後のはなんとなく朝比奈さん(大)を思い返してみている感が強いがな。  
「これは普通、少女マンガ的には憧れの先輩に対する態度ですよ。  
…この場合男女は逆ですが。」  
それは違うだろ。普通の美的センスを持っていたならば、あれほど似合っているものを見ないのは逆におかしいだろう。  
ってなんでまた睨むんですか朝比奈さん、俺は褒めているのに。  
「ええ、私もそう思います。実は私も結構眼福に与っているんですがねえ。」  
…おまえ、やっぱりムッツリだったか。  
「ま、この際それは置いておきます。」  
置くな。  
「重要なのは、そこで涼宮さんがその所為でそれを連想してしまったこと。  
そして、今、朝比奈さんが卒業するタイミングであったことです。  
涼宮さんは、あなたはその様に見ていないであろうことは承知している。  
だがもし万が一、その様な思いで朝比奈さんを見ていたらどうしよう。  
それが光学的錯覚として、涼宮さんの目の前に現出した。  
…こんな感じでよろしいでしょうか?」  
古泉は長門に流し目をくれると、長門は5ミリほど顎を下げた。  
「およそ間違ってない。」  
 
…なんてややこしい事をしやがるんだ、アイツは。  
最近おとなしいと思ったらこう来るとは。  
…でだ。アイツの勘違いを修正するにはどうしたら良い?  
「おや、あなたのことですから、これを既成事実とでもするつもりなのかと思いましたよ。」  
冗談を言うな。しかも笑えない。俺はアイツが勝手に妄想で人をくっつけようとするのが気に入らないだけだ。  
「はあ〜あ、やっぱり私じゃいやなんですね…」  
えーと、朝比奈さん、そっちも変な勘違いしないで下さいね?  
ただ間違いを何とかしたいだけなんですから、ね?  
「そうですねえ…正直涼宮さんの精神状態は閉鎖空間を作る一歩手前です。  
即座に作らない所、成長したって言うところでしょうか。これは迅速に何とかするべきでしょう。」  
なんとかってどうしたら良いんだ。  
「そうですね、とりあえずあなたは涼宮さんを呼んできてください  
ああ分かった。  
…って無理言うな!今のアイツを俺が連れてこれるとでも思うのか?!  
「むしろあなただからこそですよ。  
長門さん。涼宮さんはいま学校のどこに居ますか?」  
「新館の屋上…中庭から移動してから、現在のところ28分19秒移動していない。  
しばらく移動することはないと予想される。」  
それを聞くと、古泉は片手で俺の肩を叩いた。  
「だ、そうです。行ってきてください。」  
 
俺はまるで東部戦線からドイツ本国へ撤退するドイツ兵のように戦線に絶望していた。  
状況を考えるに、ハルヒは「俺が朝比奈さんとくっついた」と思っていることだろう。  
しかも、あの中庭での反応を見るに絶対怒っては来ない。  
…むしろ…  
 
考えていても人間は足が動くもので、いつの間にか俺は屋上へのドアの前に立っていた。  
ええい、ままよ!  
 
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「行きましたね。では長門さん、あの時一緒に居た、キョン君の友人を連れてきてください。」  
「もう既に場所は捕捉した。あとは捕らえるだけ…」  
「まあ任意同行で頼みます。それと朝比奈さん。」  
「は、はいっ!」  
「あなたは私とちょっとこの場所を外しましょう。やることがありますし、  
その後適切なタイミングで戻ってくる必要があります。」  
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長門の言うように、ハルヒは屋上の柵の段になっているところに座っていた。  
「おいハルヒ!」  
「何よ。どうしてここに居るなんてアンタに分かったのよ。」  
光の関係で逆光になって、表情が見えない。クソっ。  
「あー、あれだ。今日は団活は無いのか?」  
「…今日は休み。」  
クソ、もっと良いセリフは出てこないのか、俺!  
「休みでも良いから、少し部室に来てくれないか?」  
「なんでアンタにそんなに部室に来い来い言われなきゃならないのよ。」  
だー、ここで引いたらダメだ。何がダメだかわからんが、絶対ダメだ!  
俺は無理やりハルヒの手を引っつかんだ。  
「良いから来い!」  
「!!なによ!痛いじゃない!行けば良いんでしょ、行けば!分かったわよ!」  
 
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「来て。」  
「おー長門っち!なになに、何の用にょろ?」  
「部室。」  
「ひょっとしてそれはめがっさキョン君がらみにょろね?」  
「…そう。それと。」  
「それと何だ?」  
「涼宮ハルヒ。」  
「…分かった。俺はこう見えて友達思いだからな。全く、キョンも良い友人を持ったもんだぜ。なあ?」  
「ははっ、そう思うよ。」  
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さて、部室に来たはいいが、俺はどうすれば良いんだ?  
ハルヒはおとなしく手首を捕まれてはいるものの、こっちを見ないから相変わらず表情が見えないし、  
どうも部室には人気そのものが無い。  
やり場無く手をポケットに入れたら、何か紙があった。  
古泉の字だ。…アイツ、スリの技まで仕込まれてるのか。肩を叩いたときに仕込みやがったな。  
『長門さんが来たら、『全部お前の仕業だろ、出て来い、お見通しだ』と叫んでください。』  
?意味が分からん。まあいい。お陰で指針が出来た。  
 
いつもは古泉が座ってる席に、力が抜けているハルヒを座らせた。  
「おい、ハルヒ、ちょっとそこで座ってろ。」  
「分かったわよ…」  
…しおらしいハルヒは何か調子が狂う。  
 
だが、古泉の伝言に拠れば、まず長門が来るらしい。  
…待つ時間はカタツムリの歩く速度のようにゆっくりに感じる。  
いや、これはダウナーな精神的状況であるハルヒの所為か?  
 
そして、何の前触れも無くドアが開いた。  
「…。」  
「おー、キョン、俺たちに用事だって?」  
「長門っちに頼まれたんだけどー、一体何の用にょろ?」  
「キョンが僕達に頼みごとなんて珍しいよね?」  
 
連れて来た三人を見て、瞬間的に俺は古泉の意図を悟った。成るほど。  
 
「あー、すまないな、長門。伝言を頼んだりして。」  
いつものように、長門は5ミリほど頭を揺らした。  
「いい。」  
 
あー、まずはこれからだな。  
 
来て貰ったのは他でもない。今日、俺は皆と放課後、大貧民をしてたよな?  
「ほへぇ?」  
鶴屋さん、まあそう意外そうな顔をしないでください。  
うん、確かに俺もいきなり記憶喪失に陥ったピアノマンのような  
持ち掛け方で聞かれたら普通はそういう反応をするのでしょうが。  
「うん、してたよ。キョンは4連敗だよね。あとできちんと掛け金払ってね?」  
「なんだ、呼んでおいて何かと思えばそんな話か。  
涼宮、こいつは放課後、えーと4:30位までか?チャイム聞いたしな。  
俺たちとだべった後、突然部室棟のほうへ走って行ったぞ。スコア表もあるから間違いない。」  
よし、アリバイ証明完了。良くやった長門。オマケに古泉。  
 
ハルヒの顔が、少しずつ上がっていった。ようやく表情が見えた。  
ハルヒはなにやらキツネにつままれた上に、河童に川に引きずり込まれたような顔をしている。  
 
よし、次の幕を開かないとな。  
「と、いうわけだ。『全部お前の仕業だろ、出て来い、お見通しだ』!!」  
俺は台本通り…というか、鬱憤晴らしを若干こめて大きな声で叫んだ。  
 
すると、案の定ドアのかげから古泉と朝比奈さんと…だれだこいつ?  
「いやあ、ばれてしまいましたか。ばれては仕方ありませんねえ。」  
いつものこととはいえ、お前はオーバーアクション気味なんだよ。  
 
「どこまで分かってたんですか?」  
クソ、三文芝居に俺をつき合わせるつもりか。  
いいだろう、乗ってやるよ。  
「あれだ、そこにいる俺のそっくりさん、そいつを使ってハルヒに悪戯を仕掛けたんだろ。  
生憎だがな、その光景は俺の教室からも見えたんだよ。」  
横にいる男をじろじろ見てみた。おいこらなぜ目を逸らす。  
しかもなぜ照れる。わけが分からん奴だ。  
しかし古泉がどっから調達してきたんだか知らないが、そいつはウルトラマンと偽ウルトラマン以上に  
俺に良く似ていた。本当によく似てるな…さすが機関とやら。底知れないな。  
 
「あなたに見えないような場所を考えていたんですけどねえ、  
いやはや、あなたに見られてしまったのは失策でした。」  
古泉はやれやれ、という風情で手を肩にまで上げる。わざとらしい野郎だ。  
「朝比奈さんにも協力してもらったのに、台無しです。」  
だが今回は助けてもらった恩があるし、その辺は見逃してやる。  
そう、今の俺は寛容なのだ。…その後が無ければだったが。  
 
…しかしこいつはそれ以上のことをやりやがった。  
「実はですね、僕たちは少しイライラしてたんですよ。ねえ、朝比奈さん。」  
「そ、そうですっ!涼宮さんとキョン君、いいかげんはっきりしてほしかったんですっ!」  
…はあ?何を言い出すこの二人組は。  
 
「ちょ、ちょっと、私が何をはっきりさせないって言うのよ!  
私は常に太陽のように公明正大よ!隠し事なんて微塵もないわ!  
キョンはどうだかしらないけど。」  
…まあ暑苦しいって意味では太陽みたいなもんだな。  
 
「好意。」  
まるで固体化した二酸化炭素のような声で長門はのたまった。  
 
一瞬にしてマイナス196℃になった空気に巻き込まれ、固まった俺とハルヒを見ると、  
長門は顔を上げ、二人の顔をゆっくりと見、再び口を開いた。  
「互いが互いに向けて持つ好意。」  
いや、説明はしなくていい。  
 
「なーるほどねえ、たしかにムカつくからなあ、こいつら。バレバレなのにさ。」  
「そうそう、今この学校でそれに気づいていない人なんていないのに。」  
「え、まーだ付き合ってなかったの?キョン君って、めがっさ鈍いにょろねぇ。」  
こら、お前らまで何を悪乗りしてやがる。  
いいか、俺はこいつが何をするのか分からんから目を離さないだけだ。  
だから自然一緒に居る機会が多いのは仕方が無い。何しろ離れられないか  
「きゃー、『離れられない』ってめがっさ凄いにょろ!女の子が一度は言われたいセリフナンバーワンにょろ!」  
「お前らなあ、少しは周りに気を使っていちゃつけよ…俺はマジでへこむぞ。」  
「まあまあ谷口、気持ちは分かるけど妬かない妬かない。」  
「あとは若いもの二人で…ねえ?」  
「そうですねぇ、さあ長門さん、行きましょう?」  
「…じゃあ。」  
おい待てお前ら、この状況で置いてくな…ああああああ!  
 
 
「…えーとだな、ハルヒ。」「えーと、キョン?」  
やべ、被った。  
「そっちから言ってくれ」「そっちから言って」  
…また被った。  
………………  
やばい。ここはやっぱり男の俺から言うべきなんだろう。  
「その…そういう取り扱いが嫌だったら言ってくれ。あいつらのあの調子だと、次の日には  
公認カップルにさせられているだろうから。」  
…いや、そういうセリフじゃない。こういう時、もっと良いセリフがあるだろ俺!  
「…嫌じゃない。」  
………………  
「俺で良いのか?」「私でいいの?」  
被った…もう三度目か。  
くそ、なんだかこいつが元気がないと、俺までへこんで来る。  
よし、行くぞ俺!ここはテンション一つが勝負だ!  
「悪いわけがないだろ!ああそうさ、最初からお前が良かったさ!  
最初からお前に決めていた!付き合ってくれ!」  
ハルヒは呆然としていたし、それはそれでレアで可愛いなあと思っていたのだが。  
…変に勢いをつけた俺がバカだったとしか言いようが無い。  
 
「…ふっふーん、とーぜんね。私のような超絶的美少女に言い寄られて、  
ぐらっと来ない男なんてこの世に存在しないもんね!  
ガチのゲイだってノンケに立ち戻るわ!  
いいわ、こうなったら学校一といわず、世界一のバカップルを目指そうじゃないの!」  
…もう100wの笑顔が復活しやがった。まあその方がいいや。  
このハルヒじゃないと正直調子が出ないのも確かだしな。  
 
「さし当たって、家族計画を考えないといけないわね。  
やっぱり一姫二太郎三茄子っていうくらいだから、まずは女の子ね!  
次は年子で男の子!最終的には野球とまでは行かなくても、フットサル出来る位は必要よ!  
何しろワールドカップイヤーだし!」  
おーいハルヒ、その慣用句は最後間違っているし、そもそも順番が違うだろ。  
「そう?だってこういう両思いのときってすぐするんでしょ?セック」  
だー!女の子の口からそんなこと言うんじゃありません!  
だからだ、こういう時は、親に挨拶してだ、「お付き合いしています」とか言ってだな。  
「あんたふっるいわねえー、まあキョンがそうしたいって言うんならそうしても良いわよ。  
じゃあ、行きましょうか!」  
行くってどこへだ。  
「あたしんちに決まってるじゃない!」  
まて、俺は用意が出来てない。つーかお前の家族構成すらよく理解してないぞ俺は。  
「そんなの行きながら教えるわよ!」  
 
まあそんなわけで、高校の間、ほんのひと時のものだったはずの俺のお守り義務は、  
この日から一生モノになってしまったわけだ。  
まあそれでもいいか、と思う俺が居るのは否定しない。  
つーかいまさら否定したところではじまらんだろ。  
 
終  
 
 
 
オマケ1  
 
「そうそう、挨拶したら次は結納?披露宴?まあキョンの家族は全員連れてくること!妹さんは確実にね!  
私の方は絶対に全員来るわよ!」  
ああ…まあお前がそう確信してるならそうなんだろう。  
っていうかそこまでもう決定済みなのか。  
あの一時のテンションで俺はとんでもない決断までしてしまったなおい。  
「あとSOS団には特別席を用意しなくちゃいけないわね。  
そういえば古泉君やみくるや有希の家族ってどうなってるのかしら。  
こちらも全員連れてくることを要求しなくちゃね!」  
まあ古泉は家族居るんだろうな、超能力者だとは言っても、一応この世界の住人だしな。  
だが朝比奈さんの場合、未来からつれてくるのか?絶対禁則事項だろうな。  
でもハルヒなら時空を超越しかねない。  
…長門は…モノリスかシリコニイでも持って来たらいいんだろうか?  
USBメモリや外付けHDを持って来たらどこに座らせれば良いのだろう。  
「あとねえ、谷口と国木田、鶴屋さんも今回のこともあるから必要だし、  
SOS団配下たるコンピ研も呼んだ方が良いかしら。  
仲人は岡部先生で良いわね。」  
いや、むしろ朝比奈さん(大)の方が仲人としては適任だと思うが…  
まあハルヒはその辺知らないしな。  
「つーかそんなにどこに入れるんだ。ウチは中流家庭だ。そんなに入る場所なんて安くないだろう。」  
「なーに言ってるのよ、古泉君でも鶴屋さんでも身近にそういうの持ってる人いるでしょ!  
友達なんだから当然唯で貸してくれるに違いないわ!」  
…正に『立ってるものは親でも使う』唯我独尊振りだなこいつは。  
 
 
 
オマケ2  
 
「なあ古泉、あの男、どっから連れて来たんだ?嫌になる位俺にそっくりだったんだが。」  
実際似ていた。正直俺の家族ですら簡単に誤魔化せるんじゃないかって位には。  
「何かと思えはそんなことですか。あれはあなたですよ。」  
 
…なんだと?  
 
「ちょっと朝比奈さんに頼んで、連れてきてもらいました。  
なんでも『規定事項』だそうで、案外あっけなく通りましたよ。  
まあこっちはこっちで、いざという時のためのそっくりさんはダース単位で用意していましたが…」  
何の「いざというとき」だ。俺はレアCDやレンタルビデオや羊のドリーじゃない。  
「やっぱり本物にはかないませんねえ。」  
つーと俺はもう一回あのこっぱずかしい風景を見なきゃならんのか…  
未来の俺、がんばれ。つーか俺か…  
道理で目を合わさない上、目のやり場に困っていた訳だ。  
 
 
 
オマケ3  
「あーあ、やっぱりかないませんでしたねえ…  
『規定事項』にはかなわないのかなあ…」  
「…そんな事は無い。」  
「へ?」  
「あなたがたが言う『規定事項』は最も確率の高い事象に過ぎない。」  
「じゃあ望みは有るって事ですかぁ?!」  
「1.68×10のマイナス68乗%の確率であの二人は破局し、その場合の事象の内99%以上の確率で。」  
「でぇ?」  
「…新しいパートナーが選ばれる。  
その場合最も有利なのは近くに居る異性。特に私と…朝比奈みくる。  
故に私は離れる道理が無い。」  
「と、いうことは…でも負けませんよっ!」  
「現状を基にした計算では私のほうが15%程有利。」  
「うぐぅ…」  
 
「…あのー、僕には何か無いんでしょうか?」  
「古泉一樹には99%以上の確率で10年以内に適切なパートナーが見つかる。  
ただし『適切なパートナー』には私たちは含まれない。」  
「へえ〜、いい話じゃないですか〜」  
「…複雑な気分ですねえ…いや、別にあなたたちが何かというわけじゃないんですが。」  
 

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