「キョン!大変よ!」  
どうした。お前の買った株の会社の社長でも捕まったのか?  
「違うわよ!凛々が・・・・彼氏連れてきたの!」  
「なんだって?!」  
「しかも・・・・・・見たところね・・・・」  
なんだよ、怪しい職業の人間の子供か?  
「古泉君の・・・・子供みたい・・・・」  
 
 
涼宮ハルヒの結婚  
 
 
大学を卒業し、手近な雑誌の編集社で生計を立てることに決めた俺は  
ゲーム会社に就職して生き生きしている同棲中のハルヒにプロポーズした。  
谷口や国木田、鶴屋さんなど結構な人数を招きいれた結婚式の後、  
一時的にこちらへ戻ってきた朝比奈さんを含めたSOS団五人で  
二次会を行い、家に帰ってきた俺たちは小さなアパートで結婚初夜を迎え、  
翌日からもハルヒの名字が変わった以外は何事もなく仕事に勤しみ  
夜はハルヒの手料理で腹を膨らませテレビの話題や今日の仕事のことなどで  
楽しく談笑しつつ深夜にはベッドの上で食後の運動に燃える。  
そんな生活が一年半ほど続いたある日、ハルヒが妊娠した。  
二人で喜びいささみ、俺は前以上に仕事に精を出した。  
8ヶ月目にもなるとハルヒは産休を取り、出産直前の入院後は毎日仕事帰りに  
見舞いに行き、そして元気な女の子を産んだ。  
 
二人で相談した結果名前は「凛々(りり)」になった。  
愛情を込めて大切に育てた凛々も中二になった。時がたつのは早いものだ。  
昨年建てた念願のマイホームはまだまだ綺麗だが。  
幸いにも俺のことをキョン君などと呼ぶことはなかったし、  
ハルヒに似て容姿端麗に育った。俺に似て理屈っぽくなってしまったのが難だが  
まぁ身長面を引き継いでいるので文句を言うのはやめよう。  
 
さて、ここで冒頭に戻るが何故此処に古泉の名前が出てくるかというと  
俺たちに遅れること一ヶ月、大学でできた彼女と結婚した古泉のところは  
俺たちより一ヶ月早く男の子供が産まれたらしい。  
その時の俺たちは自分たちのことで精一杯だったからな。葉書をもらって  
電話でおめでとさん、こっちも産まれそうだと言ったきりだった。  
 
「古泉、どういうことだ」  
ハルヒに二人をリビングに上げてお菓子でも出し、さりげなくいろいろ聞くように言った後  
俺は自室で古泉に電話をした。  
『どういうこと、といわれましても・・・・凛々さんが勇樹にとって魅力的だった。としか  
言い様がないですねぇ』  
ちなみに勇樹というのは言わずもがな古泉の子供の名前だ。  
というか同じ校区にいたということのほうに俺は驚いたね。  
『知らなかったんですか?涼宮さんとうちの家内が保護者会で会ったことがあると聞いていますが。』  
ハルヒは特に何も言ってなかったから覚えてなかったんじゃないのか?  
「最近あいつ随分社交的になってな、母親友達と面をつき合わせて晩御飯を食べた事が記憶に新しいよ。」  
だから知ってても声をかけなかったってヤツではなさそうだぞ。  
『そうですか・・・・。 それより、今夜久々にお会いしませんか?あなたと一杯お酒を交わしてみたいですね。』  
この非常時にこいつは何を言っている。自分の娘が取られかけているというのにそんな呑気なことはしてられないんだ。  
「最後に一つ聞いておこう。『機関』の手回しじゃないだろうな。いくらハルヒが落ち着いたからといっても  
お前の能力や『機関』の消失については聞いていないぞ。」  
『ご安心ください、それはないです。確かに緊急用に僕の力や『機関』は残存していますが  
あなた方が夫婦喧嘩で物の投げ合いでもしない限り出番はなさそうですから。』  
そうか、まぁ酒については考えといてやるよ。じゃあな。  
俺は電話を切り、ハルヒたちのいるリビングへ足を運んだ。  
 
 
「そのときは、父がお世話になりました」  
「いいのよいいのよ。 古泉君がいなかったら孤島にも雪山にもいけなかったんだから」  
「じゃあパパとママは勇樹のお父さんがキューピットになって結婚したって事?」  
キューピットとは違うがまぁ切り口は古泉だったなぁ  
「パパ!」  
幸いにもハルヒがキれるようなことはまだ言っていないようだ。  
ハルヒたち3人はお中元にもらったクッキーを齧りカ○ピス(ギフト用高級版)を飲んでいた。  
俺は食卓のハルヒの隣の席に座り、テーブル中央のクッキーに手を伸ばした。うん、うまい。  
「はじめまして、古泉勇樹です。過去に父がお世話になったようで、ありがとうございます」  
この丁寧口調に俺はさほど驚かなかった。むしろちゃんとした血縁なんだな『機関』じゃなくて良かったと安堵した。  
ぎゅむむむ  
「痛っ!」  
ハルヒが俺の脚を踏んでいた。足許を見ると小さな紙切れを渡そうとしていたので  
「ハルヒ痛い痛い痛い痛い(エンドレス)」  
などといいつつメモを高速で読みきった。  
俺はその指示に従い  
「ちょっと部屋で手当てしてくる。ハルヒ、限度を考えろ、意味のないことをするな」  
などと芝居をしつつトイレに向かった。  
 
「あったあった」  
過保護もいいとこだな俺たち、とつぶやきながらトイレにあった防犯カメラの箱とその上に乗ったメモを  
手に取った。  
次は凛々の部屋か・・  
 
勘の良い方ならお気づきであろう。そう、俺たちが今からすることは凛々の部屋にカメラを仕掛け  
年齢にそぐわないあんなことやこんなことやそんなことが起これば即乱入、というなんとも短絡的親バカ的行為だ。  
食事の呼び出しなどでよく入っているから取り付けにジャストミートな場所は理解している。  
俺はカメラを本棚の上のぬいぐるみとぬいぐるみの間の目立たないところに取り付けた。  
情けないとか言わんでくれ。可愛い可愛い第一子なんだから。  
 
「ハルヒ、俺たちはお邪魔だ。凛々、古泉君を部屋に案内してあげろ」  
「はぁい」  
「失礼します」  
さて、どうなるかな。  
俺たちは居間のTVを外部入力2にして様子を見た。  
 
 
「お邪魔しました」  
「また明日ねぇ」  
結局特にコレといった事は起こらなかった。  
キスをしようとしたところで立ち上がりかけた俺をハルヒが無言で制止したことを除けばだが。  
「ねぇパパ」  
古泉ジュニアが帰り際開けたドアが閉まったとき、凛々が声をかけてきた。  
 
「ママは高校生のときすっごくわがままだったんだってね」  
あのアホ親子め。  
 

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