目が覚めると俺は縛られていた。  
 
 まあ、縛られているといっても縄でグルグル巻きにされている訳でもなく。  
 部室の椅子にくくりつけられていて、腕は後ろで、足は椅子の前足で縛られている。  
 言葉にしてみるなら、なんだこりゃ。  
「やっと目が覚めたようね」  
 何やら聞き覚えのある声。  
 その声の主は俺の前で腰に手を当て勝ち誇ったような表情を浮かべている。  
「おい、ハルヒ。一体なんのつもりだよ?」  
「なんのつもりって、そうねえ。人体実験かしら?」  
 なんて、さらっと言い放つハルヒ。  
 なんだかハルヒの腕についている団長の腕章がまぶしい。  
 って、人体実験だなんて、一体なにをしようってんだよ?  
「それは秘密よ。キョン、あんたは黙ってあたしに犯されればいいの」  
 はい? 今なんておっしゃいましたかハルヒさん?  
 俺を犯す? ホワイ? 俺犯されちゃうの? そんなのごめんだよ?  
「あんたに拒否権はないの。どうしてもって言うなら、今この場で死刑よ!」  
 びしぃっ、なんて効果音が付きそうな勢いで指を指す。  
 いや、いっそのこと死刑にしてもらった方がいいのだろうか。  
「死刑って、冗談はそれぐらいにしてこの縄をほどいてくれよ。朝比奈さんたちが来ちまうぞ」  
「大丈夫、今日は来ないわ」  
 にやりとした表情を浮かべながら言い切った。  
「なんでそんなこと言い切れるんだよ」  
「そんな気がするのよ。だから今日は誰も来ないわ」  
 そんな気がするって、なに言ってんだよこいつ。  
 今この瞬間に誰か入ってきたら、  
 朝比奈さんだったら、九割の確率で悲鳴をあげてどこかへ行ってしまうだろう。  
 長門だったら、無言で本を読んでそうで怖いな。あいつのことだ。助けてくれないだろう。  
 古泉だったら、とびきりのスマイルでお邪魔でしたね、とか言って退室してしまいそうだ。  
 チクショウ、誰が入ってきたにしろ駄目じゃないか! 誰か俺を助けてくれ!  
「って、こら、ハルヒっ!」  
 そんな誰にも届かない助けの言葉を叫んでいる間に、ハルヒが俺のズボンのホックに手をかけていた。  
 多分、俺の脳みそは危険を感じてパトランプと大音量の警告音を発信しているであろう。  
 だが、手と足は縄で縛られていて自由がきかない。その間にもハルヒはズボンのホックを外してしまう。  
 そして、おもむろにトランクスから俺のモノを取り出すと、  
「なによ、キョン。嫌がりながらこんなにカチカチじゃない」  
「ばっ、これは違うんだ! こいつは俺の意思に反して勝手に……」  
 必死に弁明する俺。そうだ、俺に罪はないんだ。悪いのはこいつな訳で!  
「所詮キョンも変態ね。縛られて触られただけでこんなに大きくしちゃうなんね。このドM!」  
「う、うるさい! お前がこんなことするのが悪いんだろうが!」  
 普通の男の子ならこんな展開は誰もが願ってない程に素敵なことだろう。  
 だが、相手が悪い。涼宮ハルヒさんだぞ。ましてや犯されるなんて本気で勘弁だ。  
 でも悲しいもんだね。男の子の体ってのは正直なのさ。ほら、こんなに元気いっぱい。  
「へえ、これがキョンの……ちょっと、あんた。もしかしてホーケイ?」  
 俺のモノを覆っている皮をつまんで引っ張るハルヒ。ああ、なんて屈辱的。  
「ちょ、う、うるさい!」  
「なによぉ? キョンのこれ被ってるじゃない? これって仮性ホーケイってやつ?」  
 にやにやと上目遣いで俺の見上げるハルヒ。くそう、そんな目で俺を見ないでくれ!  
「キョンは仮性ホーケイ。これは大スクープね! 早速観察よ!」  
 そう言って、右手で携帯電話を握るように俺のモノを握るハルヒ。  
 
 その手は少し冷たく、熱くなっている俺のモノには妙に心地よい。  
「ところでキョン、あんたのは大きい方なの?」  
 知るか、そんなもん。  
 俺は他の男と自分の大事なモノを見せ合う趣味もなければ、比べたこともないわい。  
「なあ、ハルヒ。そろそろ勘弁してくれないか」  
 恥ずかしさも気まずさも限界だ。  
「ダメよ。もっと観察しなきゃ。精液も採取しなきゃだしね」  
 採取って、俺は一体なにをされるんだ。あといい加減に観察もやめてほしいんだが。  
「ここにキョンの精子が詰まってるのね」  
 とか言いながら俺の玉をいじりまわすハルヒ。  
 やばい、なんかちょっと気持ちいいかも。って、なに考えてんだ、俺。  
 ああ、なんか死にたい気分。誰かこのまま俺をナイフで……なんて考えたところでいつかの教室を思い出した。  
 ごめん、やっぱ今のなしね。  
「なにブツブツ言ってんのよ」  
 ハルヒは細い指を俺の玉からモノへと這わせる。  
「ちょっ!」  
「え、なによ?」  
 裏筋をそのように触るではない。  
 こらこら、そんなにまじまじと見つめるでない。  
 俺のモノを見つめるハルヒの目は、まるで珍しいものを見つけたかのような、冒険に満ちている。  
 まあ、今はその目が非常に怖い訳だが。  
「ふうん」  
「なに納得してんだよ」  
「雑誌で見た通りだな、ってね。あ、でもホーケイなのは違ったわ」  
 雑誌かよ! ていうか、もうホーケイについては触れんな! 恥ずかしいだろうが!  
「よし、観察は終わり。次いくわよ」  
 俺のモノをぴんっとデコピンで弾くハルヒ。  
 次ってなんだよ、とか思っていたがすぐに解ってしまった。  
 だってなんか、ハルヒのやつ。自分の唇を舐めて湿らせてるんだもん。  
 そして、おもむろに被っている俺の皮をぐいっと引きおろす。やばいやばいやばい。  
「ちょっとタンマ! ハルヒ、それはまずい! 今なら引き返せる! だから、っつぁあ!」  
 必死の抵抗も虚しく、ハルヒは俺のモノを咥え込んでしまった。  
 予想はしていたものの、あまりに唐突すぎて俺は超がつくほどマヌケな声を出してしまった。  
「はひはぬへなほえだひへんほよ」  
 俺のモノをくわえながら喋っているせいで何を言っているのかわからない。  
 そして、俺は俺で初めて味わう、下半身への刺激に半ば意識が飛びそうになる。  
 ハルヒの口の中はぬめぬめと湿っていて生温かい。言葉に出来ない快感が込み上げる。  
 こんなのコンニャクとかカップヌードルとか比にならんぞ!  
 
「……っくぁ!」  
 しまった。  
 出しちゃった。  
「んんんんっ!?」  
 ハルヒは俺の突然の射精に驚いたのか、俺のモノを口に含みながらもがいている。  
 目には涙が浮かんでいるようにも見える。ああ、なんか罪悪感。でもまだ止まらない。  
 苦しそうに咳き込みながらハルヒは精液を床に吐き出す。  
「このバカキョン! あんたがいきなり出すからちょっと飲んじゃったじゃない!」  
「し、知るかよ! お前が勝手にしてきたんだろ!?」  
「だからっていきなり出すことないじゃない! この早漏バカ!」  
 うわ、早漏って言われた。  
 言っておくが俺は断じて早漏なんかじゃないんだぞ?  
 エロ本とかエロビデオで抜く時は一時間なんて軽いもんさ。言ってみりゃ遅漏の分類なんだぞ?  
 脳内でそんな言い訳をしてみるが、咥えられて次の瞬間にイッてしまうようじゃあ早漏と言われても仕方ないか……。  
「だいたい元はお前から勝手に始めたことだろ? もう終わったんだからこの縄ほどいてくれよ」  
 正直なところ、かなり気持ちよかった。  
 出る瞬間は天にも昇る快感だったと言っても過言ではない。  
 だが、もう嫌だ。この相手が朝比奈さんだったらどれだけよかったことやら。  
 今はとにかく快感よりも、ハルヒにM男とか罵倒されたりホーケイをバカにされたり、早漏野郎と言われたショックの方が大きい。  
「ダメよ。まだ帰してあげない。そうね、あと五回は頑張ってもらわなきゃね」  
 にやにやして言うハルヒ。背筋に冷たい汗が流れた。  
 
 
 結局このあと、予定より一回多い、六回発射させられた。  
 一度暴発してハルヒの顔に、また暴発してハルヒの制服に。  
 予想はしていたが、やっぱりグーで殴られた。俺は悪くないのにね。  
 
 
 六度目の射精と同時に俺は布団の中で目を覚ました。  
「はあ、なんか夢だったか……」  
 思わず独り言を呟く俺。でもなにかおかしい。なんていうかな、下半身が気持ち悪い。  
 嫌な予感がして俺は恐る恐る手を伸ばす……。  
 
 
 「いい歳こいてなあ……」  
 
 
 洗面所で自分の精液でべとべとになったトランクスを洗う俺がいる。  
 
 
 おしまい。  
 

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