なんか随分かかった気がするな
やっと、本当にやっと映画館にたどり着いた。
つーかいまさらながらキョン吉と朝比奈が暗い中二人っきりってのはまずくないか?
朝比奈がキョン吉の手を握ったりしたらキョン吉はオーバーヒートするだろうし、
キョン吉が朝比奈の手を握ったりしたらそくホテルだ(証拠はオレのポケットに入ってる)
なんとかしなければならないのだが・・・どうする?
偶然を装って二人に声をかけるか? いやしかしなぁ・・・
受付でチケットを渡し中に入っていく、オレもチケットを出して中に入ると二人を発見。
『キョン君、ちょっと私お手洗いに行って来ていいですか?』
『ええ、どうぞ。すいません気がつかなくて』
『うふ、だいじょうぶですよぉ』
『じゃあ先に席をとって置きますね』
『はい、お願いしますね』
朝比奈がいなくなる、そういえばオレもトイレ行きたいな・・・ちょっと行ってくるか。トイレに入っ所でイヤホンから、
『あっれ〜キョン君! こぉんなところで会うなんて奇遇だねぇ〜』
と、元気な声が聞こえてきた。
『あれ、鶴屋さん、たしかに奇遇ですね』
『あはは! そうだね、キョン君は一人なのかい? あたしは一人なんだよ〜』
『意外ですねこういうのに一人でくるなんて』
『本当はみくると来る予定だったんだけどねぇ〜なぁ〜んかみくる、どうぉしてもはずせない用事が入っちゃったんだって、チケットはもうとっちゃってたからね、しょうがないから一人できたんだ』
『え、今日・・・ですか?』
『ううん、明日。でも明日は朝から忙しいからって・・・』
オレのポケットに入ってるものがカサリと音を立てた。朝からねぇ・・・
『キョン君は? はるにゃんと来てんの? それとも有希っ子、まさか古泉くん!?』
『違いますよ、えと。一人で来たんですよ』
気になったのでトイレから出て様子を・・・と朝比奈がキョン吉に手で謝っている。
鶴屋からは見えない位置なんだろう。キョン吉にはみえるようだが。
『ひとり〜んん〜めずらしいねぇ〜。良し! せっかくだからお姉さんと一緒に見よっか!』
ナイスッッッッッ鶴屋!!
『ささ、早く席をとろ、早くしないと席が埋まっちゃうよ。あ、すいませ〜んオレンジュース二つとキャラメルポップコーンのいっちばんおっきいのください〜い』
イヤホンから小さく「かしこまりました」と聞こえる。
どうやらキョン吉は鶴屋と映画を見ることになったらしいな。まあ朝比奈の自業自得だろ、いい気味だ。
これで朝比奈もあきらめるかな?
と思ったのだがそんなことはないようだ、一人で入っていった。
しかたない、オレもいくか・・・その前にトイレ。
映画の内容ははっきり言って全然頭には入らなかった。
キョン吉と鶴屋は真ん中ぐらいのいい所で並んで座っている、朝比奈はその三つ後ろで二人の後頭部を見つめているようだ。オレはその右斜め後ろ四列目、人が少ない所だ。
ここなら鞄を隣の席においてもなにも言われないし映画を見てなくても不振に思う奴もたぶんいない。
オレは遠くから三人の様子をじっと見つめている、当たり前だが会話がないため結構退屈である。
ただじっとしている三人を見つめる俺はもしかしたらものすごいバカなんじゃないのだろうか?
上映開始から一時間半、変化は起きた。
『・・・うっ・・・うっ・・・』
イヤホンから声が聞こえ始めた。
イヤホンがついているのはキョン吉の肩なので朝比奈ではない、キョン吉のあたりからきこえるものであろう。
少し聞いて見当がついた、よ〜く周りを見渡せば同じようやつが何人かいる。ちょうど映画も泣きのシーンであるためそれを見た人間の涙腺が緩んだんだろう。
『・・うっ・・グスッ・・・めがっさ・・・めがっさ』
もしかしてめがっさって泣き声なのか・・・?
非常にわけがわからないが非常に助かることに「めがっさ」=鶴屋なのでこれは鶴屋の声であろう。
映画を見て感動しているようだ。
こういうと一番最初に泣くであろう朝比奈はキョン吉たちの後頭部を見るので忙しいのか泣いている様子はない。
『うっ・・・ううっ・・』
『・・!』
鶴屋の泣き声とキョン吉の変な声が聞こえた、まさかキョン吉も泣きそうなのか?
しかしそれは違うようだ、キョン吉の様子は変だがあれは感動とかではない。どちらかというと・・・動揺?
あそこでなにが起きているのかさっぱり分からないがこういうときはどうすればいい?
鶴屋がなにかをするとは考えにくいが・・・
いやまあ、結局オレは何もしなかった。
というかする必要がなかったからだ。
あれからのことを少し話そう。
映画の途中で泣き出した鶴屋だが、キョン吉が何も言わずに鶴屋の頭を抱いてやった。
泣いた子をあやす親のように優しくだ。
その瞬間朝比奈がビクッ! と震えたが気にしない。
鶴屋の泣き声はそれで収まった。
映画が終わって二人が映画館をでた後朝比奈が少し後ろで二人を見つめる中、オレのイヤホンからはこういう会話が出てきた。
『ごめんねぇキョン君、恥ずかしい所をみせちゃったね』
『いえいえ、むしろこちらこそいい思いをさせてもらいましたよ』
なにしたんだよ。
『もぉ〜キョン君はそういうことをあまり言わないの、ただでさえハルにゃん達のこととかあるのに』
『ハルヒが・・・なんです?』
『・・・あっちゃ〜みくるから聞いてたけどここまでだとは』
『・・・?』
ええ、わかってくれますか? オレもそれで苦労してます。本当に。
『あーいいのいいの気にしないで、それよりキョン君』
『はい?』
『今日のことは・・・さ、内緒にしてくれないかな? キョン君と映画を見て泣いて思わずキョン君の手を握っちゃったなんてさ。ちょっと・・・恥ずかしい・・・かな?』
あ〜さっきのキョン吉の動揺は鶴屋に手を握られたからか。手を握って動揺するとは・・・青いのぉ。
『わかりましたよ、そういうことでしたら内緒にしたおきましょう』
『うん! ありがとね! あっ! そうだキョン君、これから用事ある? おいしい中華のお店があるんだよ』
鶴屋が行くような店ってどんな所なんだろう、そこには興味あるな。
『いえ、せっかくですがこれからちょっと用事がありましてね』
『そうなのかい? じゃあしょうがないね。じゃ! あたしはもう行くね』
『ええ、懲りずに誘ってくださいね』
『まかせるにょろよ!』
鶴屋が一人、キョン吉から離れて歩いていく。やっと朝比奈が合流した。
『どうも、なぜか随分久しぶりな気がしますよ』
『そうですね』
『じゃあ映画も終わりましたし・・・』
『はい』
帰るんだよな。帰るんだよな!?
現在時刻、午後五時。夕飯を食べてホテルにゴーにはいい時間である。
朝比奈がポケットに手を入れてるし! キョン吉ぃぃぃぃ! ゴーホーム!
『帰りましょうか?』
やったぁぁぁぁぁ!!!!
『え?』
『朝比奈さん、明日は朝から用事があるみたいですしね。すいませんそんな日に誘ったりなんかして』
『えっ・・・いやその』
『駅まで送りますよ、早く行きましょう』
『・・・・・・・・・・はい』
神はオレを見捨てなかった・・・
いや、神=涼宮ハルヒだから無意識のうちのキョン吉を守ったのかもしれん。
それはともかくこれで今回の仕事は終わりそうだ・・・よかった。
見慣れた駅にたどり着き、キョン吉と朝比奈はここで別れる。
『じゃあ朝比奈さん。また部室で』
『はい・・・じゃあ』
二人が分かれるのを見て俺は最後の仕上げに入る。
キョン吉近づいて、
「朝比奈さんとデートですか? うらやましいですねぇ」
「ぬぉ・・・古泉・・・いつから見てた」
最初から。
「今しがたですよ。用事がありましてね、少し出てたもので。そこから帰ってきたらあなた方がいた。それだけですよ」
「そうかい」
「ええ」
キョン吉が探るような目でオレを見ている、そうそうに立ち去るとしよう。
キョン吉に近づいて肩に手を置き。
「僕はね。あなたがどんな選択をするか楽しみなんですよ」
「選択? 悪いが俺はお前らの言うとおりに動くつもりはないぞ」
「もちろんわかっていますよ。僕が言いたいのそういうことではなく。もっと大事な・・・」
「大事な?」
「・・・ここから先は自分で考えてください。僕が言うのは禁則事項ですから」
キョン吉が俺をにらんでる。
「お前の話は何一つわからん」
「本当に分からないんですか? それとも分からない不利ですか? どちらにしろ。今のあなたは少し残酷です」
「なんだと?」
「僕に出来るのは涼宮さんの娯楽提供だけです。ですが、あなたは違う。あなたの選択一つで世界がどうなるか・・・想像もしたくありません。ですが、それを差し引いても僕はあなたの選択が気になりますね。個人的に」
肩から手を離し。盗聴器回収。
「いずれにせよ、それが見られるのはそう遠くないでしょう。期待してますよ? もちろん個人的に・・・ね」
キョン吉に背を向け歩きだす、キョン吉が俺をにらんでいるのがよく分かる。
あ〜あ疲れた。尾行もそうだがあの口調とそれっぽいこととか面倒なんだよな。
最初っからお前の答えも見えているのにさ、うまくいかない。うまくいかないよ。
こういうときにぴったりの言葉があるな
キョン吉の得意の台詞だ、借りるぜ。
やれやれ・・・
次の日
俺は校門前で悩んでいた。
正確にはその手前だが。
校門のところで鶴屋が立っている、どう見ても人を待っている感じだ。
待っているのが朝比奈で無いことはたしかだろう。
手に何かを持っている。
何かを考えては赤くなったり落ち込んだりしているので何を考えているのか正確にはわからないが
多分キョン吉をまっているんだろうなぁ。
昨日のことかな・・・
案外鶴屋が妙にSOS団にかかわってくるもそういうわけなのかもしれないな。
もう一回借りよう
やれやれ。