元気か〜い。今日も頭を抱えている古泉 一樹だよ。  
キョン吉と涼宮をなんとかくっつけようとしているがどうにも成功しない。  
これもそれもやっぱりキョン吉のアレがいけないんだろうな。  
どうにかして二人をくっつけたいんだけどなんとかならないかねぇ?  
誰かいい方法教えてくれ。  
そんなことを考えながら部室に到着、三回ノック。  
計算未来人が扉を開けてくれる。どうやら今回はオレが一番遅かったらしい。朝比奈の顔が普通だったから・・・泣きそうだ  
「遅れてすみませんね」とかいいながら入る。  
椅子に座る前にボードゲームを取り出す、今日は気分的にチェスだな。  
チェス盤置いてどうしようかな〜と考えていると朝比奈が茶をくれる  
「ありがとうございます」と言って受け取る、熱い。  
ちなみ前回キョン吉の湯のみを壊した朝比奈は日曜キョン吉と出かけることに成功したようだ。  
そのためキョン吉の湯のみが別物になっているのはいいんだが・・・なぜか朝比奈のも変っていた。  
しかもキョン吉の湯飲みを少し小さくした湯のみ、夫婦用ってやつだろ。  
これを最初に使った日に一悶着あったのだがそれは別のお話。  
「たいくつね〜何か面白いことないかしら」  
オレとしてはないほうがいい、多分キョン吉も同じことを考えているだろう。  
まあこういうときは大抵朝比奈とキョン吉が大変な目にあう、オレは関係ない。  
とりあえず「はい、そうですね」っていっときゃいいだろ。  
「あ、そうだみくるちゃん・・・」  
「おい、ハルヒ・・・」  
ほらな。  
 
まあこんなのは適当な報告で本番はこの後だ  
具体的には長門の終了時刻を知らせる音が響いた後だ。  
最近は集団下校しているのだが長門が一人で先に帰ったので涼宮もとっとと帰った。  
じゃあオレも帰るか、と思い部室をでて帰ろうとするとキョン吉が扉に背中を預けてたっていたので  
何をしているんだと聞いた所「朝比奈さんに用があるんだ」とのこと。  
すこーし気になったので『機関』の監視員を使い様子を見といてもらった。  
オレのカンも捨てたものじゃない。  
キョン吉があろうことか朝比奈にデートを申し込んだのだ。  
なんでもキョン吉の友人A谷口が映画のチケットをくれたそうだ。それでなぜ涼宮を誘わない?  
理由はこの前湯飲みを買ってもらったために、お礼をしたいとの事。  
あの湯飲みは朝比奈がうっかり落としてしまった(本人談、事実はかなり捻じ曲がっている)ものであり、  
お詫びの品であるためそれにお礼をするうのもおかしな話だがキョン吉らしい。  
朝比奈の返事はもちろんOKだ。隙あらば押し倒そうとするんじゃないかと思う。涎がでてたように見えるのはきっと気のせいだろう。  
まあデートぐらいならともかく、朝比奈が何かしようとしたら阻止しなければならない。  
それどころかキョン吉のことだ、「自分は朝比奈さんが好きなんだ」と思ってなにかしないとも限らない  
あいつも素直じゃないからね、素直になる薬を誰か作ってくれ、二つほど。  
機関に連絡、とりあえずその映画のチケットを確保しなくては。  
その映画だが、なんというか恋愛ものだ。  
あまり有名じゃない映画監督が作ったらしいがその映画で大ヒットしたようだ。  
何度かテレビで宣伝を見たことがある。  
内容はしらん。  
涼宮か長門に応援をたのもうかと思ったがやめた。  
涼宮がデートを見て何をするかまったくわからん。最近は力もなくなってきたが逆に一気に来そうで怖い  
長門は朝比奈同様キョン吉信者の一人だ。世界改変なんかされた日にはたまらん。  
もうしないと言ってはいるが長門的バグデータがすぐにたまるかもしれん。  
といわけで二人とも却下、オレ一人で行くことにしよう.  
何かあったときのために『機関』の何人かにすぐに出れるように準備しといてもらおう。  
 
 
オレは今、駅前の広場で隠れている。十一時に駅前で待ち合わせとのことなのでその一時間前から張っている。朝比奈はすでに到着済みで、先ほどからわくわくしながら待っているのが遠くから見てもわかる  
ただ・・・さっきからナンパしてくる奴に大して本場の方々でもビビル様なにらみをしなければ誰がみても微笑ましい光景だったろうに。  
朝比奈の格好はなんというか大人っぽいものである、普段は(なぜか)できないポニーテールにしてるのは狙いか偶然か・・・  
待ち合わせ三十分前にキョン吉が現れる、キョン吉もなかなか大人っぽい。普段は絶対にしないであろう服装で現れた。朝比奈は朝比奈でさっきまでにらみで人を殺しかねん勢いだった目をやめて満面の笑みだ  
何度も言うがここだけだったら微笑ましい光景だったろうに。  
ここからオレの尾行がスタートする。  
電車に乗って移動、この電車というのが実はなかなかのむずかしい。密閉された空間は尾行で気づかれやすいところだ、オレはなんでもない風を装って隣の車両に乗る。  
何を話しているんだ? 変な事を話して朝比奈を欲情させるなよキョン吉。  
お前の身、そして世界が危ないんだからな。  
あの未来人も宇宙人も何をかんがえてるんだろうねぇ? ばれなきゃいいと思ってんのか?  
絶対にバレる、なぜかはキョン吉だから。  
首尾よく電車内で気づかれることはなかった。周りの人間にはどう見えたんだろうね、オレ。  
駅をでると映画館とは反対の方向に歩き出す、どうやら少し時間を潰してからいくようだ。  
人ごみの中の尾行は比較的楽で二人を監視しながら歩いてる。  
二人は露天をひやかしたり服を見立てたりどっからどうみても幸せカップルだ。  
涼宮をつれてこなくてよかった。  
二人が公園に入りのんびり散歩をしている、いい加減会話が聞きたい・・・  
いいことを思いついたので『機関』に報告をした。  
公園にクレープ屋の店が現れる、そいつこそ『機関』の構成員の一人だ。  
店には「カップル限定三割引」との宣伝をしてもらう。  
二人はちょうどいいと思ったのか店に近づく。  
少し話した後クレープ屋をやっている構成員がキョン吉の肩をたたく、これは盗聴器をつけるために指定した、ちなみにこの時。  
「よう、兄ちゃん。かわいい彼女だなぁ。うらやましいねぇ」  
と朝比奈にも聞こえるように言えとと指定しといた。  
朝比奈が顔を赤くしているので首尾よくやっているようだ。  
二人が遠ざかるのを確認した俺はクレープ屋に近づく。  
「これを」  
渡されたのは盗聴器の本体。鞄の中に隠してあるので見つかりはしないだろう。  
「そんなに問題なんですか? あの冴えない男が」  
「お前には関係ないよ、俺にもね。恋愛沙汰で世界がなくなろうって言うんだからとんでもない茶番だよ」  
「その茶番を守っている俺らは道化以下だな」  
「なぁ〜に、神様の気分一つでどうにかなる世界だ、これくらいのほうがちょうどいいんだろ」  
「そうかもな・・・」  
「涼宮は?」  
「いまの所は特に、ガキに勉強を教えてますぜ」  
ガキ・・・いつかのハカセっぽい子か? 朝比奈と話だと未来に必要な人物らしいが。  
「そうかい、ありがとよ・・・あと」  
「なんだ」  
「おれにも、クレープくれ。腹減った・・・」  
「・・・あいよ」  
 
 
鞄(盗聴器)を肩にかけ、鞄の中からイヤホンを取り出す。  
片手に持ったクレープが少し邪魔だな。  
ちなみにさっきもらったこのクレープは「バナナチョコミントアイスクレープ」だ。  
バナナとミントミスマッチが癖になりそうだ・・・  
一度お試しあれ。  
それはそうとキョン吉と朝比奈はベンチに座ってクレープ片手に雑談をしている。  
オレは近くの茂みにて待機・・・後ろ姿しか見えない・・・  
イヤホンから聞こえる会話に耳を傾ける。  
『それおいしそうですね』  
『ええ、けっこういけますよ、食べてみます?』  
『はい』  
朝比奈がキョン吉に近づく、ん〜後ろ姿しか見えんがクレープを食ったのかな?  
『おいしいですね〜今度はこれにしようかな』  
『朝比奈さんのもおいしそうですね』  
『食べてみますか?』  
『是非』  
朝比奈がキョン吉に向けて右手を差し出す、キョン吉はその右手に顔を近づけて、ああぁまだるっこしい。  
ん? 今朝比奈の右手が変な動きをしなかったか?  
『おいしいですね、これなんです?』  
『バナナチョコミントアイスクレープです』  
これかよ!?  
『あれ、キョン君。ほっぺにクリームが付いてますよ』  
『え、どこです』  
キョン吉が手で顔をぺたぺた触りだす、クリームは・・・たしかについてるな。  
『キョン君、ここですよ』  
と言って朝比奈がキョン吉のほっぺを・・・舐めたぁー!?  
『うふ、取れましたよ』  
『あ、朝比奈さ・・・今・・・」  
『え、あ! 私ったら、えっと、その・・・」  
なぁ〜るほど、今右手が変な風に動いたのはこのためか。恐ろしい女よ。  
イヤホンからは沈黙のみが聞こえてくる、朝比奈計算したんだから特に気にはしてないんだろうが表面上は恥ずかしがっている。なんだこの沈黙は。  
『あ、あーそういえばさっきは困りましねぇ』  
キョン吉が沈黙に耐えかねたのか話題を出した。  
『えっと・・・さっき?』  
『さっきの、クレープ屋の人ですよ。いきなりかわいい彼女だなんて・・・』  
!? キョン吉、それは駄目だ! オレは反射的に携帯を取り出した。  
『・・・キョン君は、私が彼女に見えるのは嫌ですか?』  
あんのバカキョン吉が! その話題は誰がどう見てもチャンスだろうが! 登録してある番号を呼び出して  
『キョン君は、私とカップルに見えたら嫌ですか?』  
朝比奈がキョン吉を向いて真剣見つめている。コール、相手が出ることは無い、が。  
『え、えっと・・・朝比奈さん?』  
なんか空気が黄色だ、アレが初々しいって言うのか!?  
キョン吉が朝比奈の言葉の意味を考えているようだ、ああもう。鈍い。  
こんなことを思うのもおかしいかもしれないがオレは三人娘が時々すごい可哀そうに見えるぞ。  
そんなことを考えていると遠くから笛の音が響く。来たか。  
先頭はピエロの格好をした男、その男が笛を吹いている。  
後には熊の気ぐるみやら太鼓を持った女達、とここまで説明すればわかるだろう。  
子供向けのパレード、ちんどん屋ともいうな。  
キョン吉も朝比奈もそっちを見て呆然としている。さっきまでの黄色い空気はもう無い。  
『えっと、朝比奈さん。そろそろ映画に行きましょうか。もういい時間です』  
『え、あ、そうですね。いきましょう』  
二人はクレープの包み紙をゴミ箱に捨てて公園をででる。オレも後を追うぞ。  
と、そこで手に違和感を感じる。  
クレープが溶けていた。  
 
 
結局クレープを食べることもかなわず腹は減ったまま二人をつける。  
まっすぐ映画館に向かう二人を遠くから見てる俺、いまさら自分が周りからどう見られるかなんて考えやしない。悲しくなるだけだ。  
イヤホンからは学校の教師についてやSOS団のこと、なぜか鶴屋のことまででてきて異様な盛り上がりを見せていた。  
『鶴屋さんは本当に元気な人ですね』  
『ええ、でも鶴屋さんのおかげで私はこの時代で任務以外のことを楽しむことができて・・・本当に鶴屋さんには感謝しているんですよ』  
今はキョン吉目当てだろうがな。でも鶴屋のおかげで・・・という話を聞いていると本当に二人は仲良しなんだよな、と思う。  
そのことはキョン吉という朝比奈にとって心許せる大切な人だから言えることなんだろう。  
それをこうやって聞いていると心が痛い、どんな形でもいいからこの任務が早く終わればいい。  
『でも・・・』  
『・・・?』  
『鶴屋さんとも、キョン君たちとも。いつかはお別れをしなきゃいけないんですよね』  
『朝比奈さん・・・』  
『私はこの時代の人間じゃないから、キョン君たちとは・・・違うから』  
そうだ、朝比奈みくるという人間はこの時代の人間ではない。  
オレも涼宮もキョン吉も任務が終わったあともここに残るだろう。もしかしたら長門も残るか知れないし鶴屋もこの時代の人間。いなくなるのは、朝比奈みくるだけ・・・  
彼女だけがここからいなくなり、彼女だけがその存在をいつかは忘れられるのかもしれない。  
『ねえ、キョン君』  
『なんですか』  
『キョン君は、もし・・・私がいなくなったら・・・』  
『悲しいです、悲しくて泣いてしますね。多分鶴屋さんも。ハルヒも長門も古泉もあなたがいなくなったら悲しむでしょう』  
『・・・私も、悲しいです』  
『ええ、ですから。今は思い出を作りましょう。その悲しみを受け止めて、受け止めた上で前に進めるように、前に進んでもあなたの存在を俺達が決して忘れないように』  
『・・・』  
『たくさん、思い出を作って、未来人に自慢してやってください。私はこんなすばらしい仲間達と出会えたんだって、そうすれば頭の固いやつらも思わず朝比奈さんがまた過去に行くことを許してくれますよ』  
たぶん最後の冗談なんだろうな、それとも朝比奈(大)のことを言っているのか。  
だとしても思い出をたくさん作るというのは賛成だ、SOS団の日々は思ったより楽しいしな。  
『キョン君』  
『なんです』  
朝比奈はキョン吉を向いて笑顔になり。  
『たくさん。思い出を作りましょうね』  
満面の笑みですばらしい提案をしてくれた。  
『もちろんです、損はさせませんよ』  
二人にとって、今回のデートがいい思い出になるといい。オレは、そう思う。  
『キョン君、私に思いでをくださいね』  
『姫様のお願いならば、この命に代えても』  
キョン吉はキザッぽく前髪を掻き揚げながら言った。  
二人は笑顔で見詰め合っている、その空気はピンク色・・・あれ?  
今、朝比奈が鞄からなんかとりだしたな・・・なんだあれ。  
出しやすいようにポケットに入れなおしたな。  
・・・映画のチケット? でもチケットはキョン吉が持っているしな。  
『機関』に報告、それを調べてもらうとしよう。  
と、前の方から機関の人間が歩いてくると、  
朝比奈とすれ違いざまポケットの中のものをとる、そんなことできるやつもいたのか。  
オレとすれ違いながら手に入れた紙をオレに差し出す。  
それを受け取り目を落とすと内容は・・・  
 
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「私に忘れられない思い出を頂戴」  
 
ずっこけた。  
 

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