「デートじゃないわ!これは視察よ!」
昨日、ある女王様の携帯から電話が掛かってきていた。その時はコンビニでエロ・・自動車雑誌の立ち読みをしていたわけで・・・。
俺の電話番号は教えた覚えは無いのに、どこから調べたんだよ一体。女の力に恐怖を覚えた夏の一夜―――
ああ、今回のおとぎ話はホラーじゃないんだよ。
気付いたのは深夜で、出るか定かではないがその場で連絡し返した。
プルガチャ!
「遅ーーーーーーい!!!!」
「まだワンコールも経ってないだろう・・・」
「ずっと待ってたのよ!?」
これだから女の力は・・・
「申し訳ない。それで、何の用だ?」
「明日、すぐに支度しなさい!日曜日なのに家でゴロゴロしてるのはよくないわ!あんたのためでもあるの。目的は新築建築物の視察!あそこ一帯に続々建てられたみたい。きっと何かあるわ!待ち合わせはハチ公前に10時!お金は沢山持ってくること!以上!」
「あーいっぺんに言わないでくれ。何だ?俺がゴロゴロしてるだと?そんなわけあるか!最近の日曜日は長門の家で勉強しているんだ。悪いが明日も予定が―」
「え・・・?」
「だから長門と―」
「う、うるさいわねっ!二度言わなくても分かるわっ・・・1日くらいいいでしょ?ね?じゃっ・・遅刻したら許さないから・・・・」
「ああ?まあ分かった。」
って勝手に切るな・・・。
―当日
スタバにライオンズマンションにコスモ石油にセブンイレブンか。独特というかあまりデートコースとは言えないよな・・・。
その新築物件とやらはあと何個あるんだろう?ふぅ!ハルヒも楽しそうだし、そんなこと考えるだけ無駄か。
「次は映画館ねっ」
「シネマムービーか・・・」
「バカキョン!英語じゃないわよ!映画!」
外装は簡単だが、中にはいると絨毯が堅く灰色模様。壁も防音と反響のあるものになっている。意外と本格的な映画館と変わらない。
「キョン、チケット買ってきて。はいお金」
ポンと千円と硬貨を手渡されて・・・もう俺が行くことに決まってるのか。
上映時間の確認出来るボードを見ると、大抵上映時間にしか目が行かないが俺はタイトルに釘付けになった。
【僕の妹達】
【無理やりやられちゃって・・・】
【夏祭り×浴衣×変態】
【部長と部員】
「ゲッ!ポルノ映画しかねぇ!」
タイトルでポルノと分かる俺も俺だが映画館も映画館だ。
仕方なく俺は販売員のオススメで【部長と部員】を見ることに。ハルヒにチケットを渡し席に着く。
こんなことなら長門の家に行っていれば良かった。とりあえずこのことをハルヒに伝えねば。
「ハルヒ、上映前に注意点がある。」
「知ってるわよ!上映内では静かに。携帯電話の電源は切る。席を立ったりしない。とかでしょ?」
いやそうじゃなくてだな・・・
ババーーーーン!!!ジャンジャンジャーン!!
始まってしまったのか・・・。もう手遅れだっ!
部長「ああ・・ダメよキョン・・・」
部員「ハルヒさん・・!」
登場人物がよりによって『キョン』と『ハルヒ』か。
しかもキョンがさん付けをしていやがる・・・。
「キョン」
なんだ!?どうしたハルヒ!?
「ちょっと・・・トイレ行ってくるわ・・・。」
「?」
訳も分からずハルヒがトイレから帰ってきたのは上映終了後だった。
ちなみに映画の内容はこうだ。
*
「キョン!また失敗したの!?」
「でも俺は・・・」
「だからこのコードの指はこうでしょう!私達ENOZの名を汚すつもり!?」
「わ・・分かりません・・・」
「だからこうするの!」
「あ・・・ハルヒさんの手、暖かい・・」
「キョン・・」
「ハルヒさん・・・」
「あっ!そ、そうだ!いいフレーズがあったんだわ・・・!」
「ハルヒさん・・・?」
「早速試しましょう!ほらキョン立って!」
「ハルヒさん!」
「・・わかってる。でも私には彼氏の古泉君。あなたには彼女のみくるちゃんがいるでしょ。」
「俺は巨乳のみくるより!貧乳のハルヒさんの方が好みなんだ!」
「キョン・・・私、ずっと愛してた。ずっと見てた」
「はい」
「それくらい愛してるから・・・抱いて頂戴?」
「勿論ですよ・・・」
*
その後延々とセックスして最後に顔射でフィニッシュをしていた。最高につまらない映画だったとも言えるな。
上映が終了し、席を立ったら椅子が勝手に戻るという配慮。新築なんだと思い出させてくれてありがとう。お陰で先の長いデートを想像し、憂鬱になるよ。
前方よりハルヒが顔を真っ赤に染めて息を切らして走ってきたんだが、どう考えても直撃コース。避ければいいのか?
だがちゃんと目の前で止まった。
「ハァハァ・・・これはね!走ってきたから顔も赤いし息が切れてるの!別になんもしてないわよ!」
「?」
そんなことなぞ聞いていない。俺は先のことが心配でそれが聞きたい。
「あと何件回るんだ?」
「あの!予定変更!今日は・・・あと一件だけだから。絶対来なさい!約束よ!?」
「ああ!約束だ!」
これで帰れる!
ハルヒにこれ以上がんじがらめにされたくない。ましてや変態扱いされたからな、もう二度とお前とデートはしない!断じて!
「キョン。そこの場所が分からないから、繁華街散策しながら見つけるわ。いいわねっ!?」
一件のくせにそんな大問題を抱えやがって。
「はいはい分かりましたよ」
くくく・・・思わず笑ってしまう。自分の不甲斐なさに。ハルヒの傲慢さに。くっくっく・・・
「ねぇキョン、街っていろいろあるのねぇ。知らなかったわ。」
「くっくっく・・・」
「ちょっと聞いてるのキョン!?こうやって男性と連ねて歩くのもあんまり無いし。まあキョンほど惹かれる男性もいないっていうか・・・キョンになら・・・」
「俺になら?」
「うわっ急に正気に戻らないでよっ。ん?」
「どうしたんだハルヒ?」
一体何を見てる―――
こいつの目線の先を追ってみた。えっと・・・
「ラ・ブラ・ド・ホテル」
「La bra da Hotel・・・別名ラブホ・・」
「えっとその・・・こういうのが興味対象か?」
「ねぇ・・・入ろ」
目つきが怪しい・・・これはヤバい!獣を狙う女狐の眼だ!
「ねぇ、入ろっ」
「入ろう!」
「入ってよ!!!」
「キョン、入るわよ!!!」
「無理やり入れるわよ!?キョン!!」
「キョン!!!!!私と性行為しなさい!!!」
「我慢出来ないのーーー!!!」
さっきからグイグイ引っ張られて袖が肉を挟み痛い。
「あと一件は・・・」
「分かりなさいバカッ。ラブホを探してたの!さっきの映画でもうグチョグチョ!オナニーだけじゃ足りないわ!!!」
開き直りやがった。これも女の力か?
「お前ってどんなオナニーするんだ?」
「あれれ〜?みたいのぉ?」
「見たくない」
当たり前だな。誰一人として見たがるバカは存在しない。
「!?キョン!!!!入るわよ!!!!!!!!!」
グイッ!!!!
うわっ!?何て力だおい。そんな筋肉質には見えないが・・・。
「ちょっと勘弁してくれ」
「私じゃ・・・ダメなの・・?」
ズキンと胸打たれ即ノックダウン。それでも理性は保たれた。
「ああ・・・ううん違うな・・・だけどダメだ。」
「そう。ところでこれ、クロロホルムっていうのよ」
気を失う寸前にハルヒの笑い顔だけが見えた。薄くなる記憶の中で―
俺は意識を失い、気付いた時はベッドの上。側に笑顔のハルヒが横たわっていた。
「終わったのか?」
ハルヒはにやけ顔を更ににやけさせて顔を斜めに上げた。
「楽しかったわ☆」
女が悪魔に近いのか。ハルヒが悪魔なのか。夏の夜は笑い顔さえも一段と怖く見えた。これが女の力・・・か。
その後
「キョン様お支払いで43000円となります。」
「・・・!?!?」