IF すとーりぃ ケース1
『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て』
そんな意味深な手紙(といってもノートの切れ端だが)を下駄箱経由でもらい受け、差出人をいろいろと思い浮かべてみる。
長門、朝比奈さん、ハルヒ… 出しそうな人物を思い浮かべたが誰も違うようなので、とりあえず谷口と国木田のとびっきりジョークと判断した。
部室で時間を潰し、5時半を回ろうとしたので教室に行ってみたところ、そこで待ってたのは意外な人物だった。
「遅いよ」
朝倉涼子が笑顔で待っていたのだ。 これには意表を突かれた。
「入ったら?」
朝倉が、こっちにむかっておいでおいでをしている。
その動きに、まるでトラクタービームが出てるかのごとく、俺は引き寄せられる。
「お前か……」
「そ。意外でしょ」
くったく無く笑う朝倉。 すまん、もう俺には朝比奈さんという心に決めた人がいるんだ。
「そういう話じゃないのよ」
ちょっと意地悪めいた顔になる。 …ってことはやっぱりドッキリか。 で、谷口はどこでビデオ回してるんだ?
「そうでもなくって… あなたは涼宮さんの事をどう思ってるの?」
またハルヒか… どうやらこの思いが無意識のうちに態度に出てしまったようで、
「そんな反応をするってことは、もう色々情報を入手したみたいね。」
そりゃあ長門から、朝比奈さんから、古泉から、各方面から話は聞いてるがどうも信用ならん。
そんな話を振ってくるって事は、朝倉も謎の属性があるってことか。 やれやれ、これ以上雑草のように増えないでもらいたいな。 そのうち谷口や国木田までもが「俺たち超能力者なんだ」なんて言い出しかねんぞ。
「朝倉、じゃあお前は何者だ? まさか異世界人とか言わないでくれよな。」
朝倉がクスリと笑った。 何か馬鹿にされてる感じだ。
「期待に添えなくてごめんなさい。 さすがに異世界人ではないわ。 長門さんと同じ… って言えば分かるかな?」
あぁ、あの対有機生命体人型最終決戦兵器か。
「もう、ぜんぜん違うじゃない。 対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースよ。」
そういやそんな感じだったな。 で、なんでその宇宙人が俺を呼び出すわけだ?
「実は私と長門さん、確かに同じ情報統合思念体のインターフェースなんだけど、派閥が違うのよ。 彼女が主流派で、私が急進派。」
俺は適当に相づちを打つ。 ふーん、宇宙人にもいろいろあるんだな…
「急進派では、あなたに何かすれば、涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こすと考えてるの。 多分大きな情報爆発が起きるはず。」
「つまりどういうことだ? 俺に何をして欲しいんだ?」
いつの間にか俺は後ずさっていた。 警戒態勢をとりながら少しずつ後ろに。
「そうねぇ、あなたを殺せば、一番手っ取り早いんだけどなぁ…」
ナイフを手にあっけらかんととんでもない事を言いやがった。 ってかそのナイフはどこから出してきた。
「あぁこれ? そこら辺の椅子を情報変換して作ったの。 いい出来でしょ。」
そんなものを振り回すな。 俺が切れたらどうするんだ?
「あら、それもいいかもね。」
そう言って俺にナイフの切っ先を向けてくる。
その時。
天井をぶち破るような音とともに瓦礫の山が降ってきた。コンクリートの破片が俺の頭にぶつかって痛えなこの野郎!
降り注ぐ白い石の雨が俺の身体を粉まみれにして、このぶんじゃ朝倉も粉だらけだろう。
「けほっ、けほっ」
うん、朝倉も見事に真っ白だ。 しかし、それほど驚いてる様子は無い。 そのまま視線を横に向けると… なんと長門だ。
「一つ一つのプログラムが甘い」
長門は平素と変わらない無感動な声で、
「天井部分の空間閉鎖も、情報封鎖も甘い。」
その後も長門が何か言おうとしていたが、朝倉がそれを遮った。
「長門さん、まだ私何もしてないんだけど…」
「え…」
こりゃ珍しい表情を見れた。 あの長門が目を大きく見開いて、あたりを見渡している。 当然いつも通りの教室で周りにあるのは椅子と机と窓くらいだぞ。
「わざわざ天井から入ってくることも無かったんじゃないの?」
「…」
俺は天井を見上げた。 おー、まるでここだけ発破解体されたようだ。 これを長門がやったのか。
ふつ視線を戻すと、長門がこちらを見ていた。
「フライング」
え、それはどういうことだ?
長門は落ちてきた穴から上の階に戻る。 床破壊といい、お前は宇宙人じゃなくて忍者の末裔じゃないのか?
最後に上の穴から顔を出して、
「続けて」
そう言い残して、穴から顔を引っ込める。 その直後、天井がビデオの巻き戻しのごとく元に戻っていく。 これが忍術… じゃ無くて宇宙人の力か…
「とりあえず朝倉、そのナイフをしまってくれないか?」
「そうね、なんだか調子狂っちゃったし。」
そう言ってナイフを椅子の形にしていく。 というか質量的に無理が無いか?
「ま、、細かいことは気にしないで帰りましょ。」
「お、おい。 長門はいいのか?」
「いいのいいの、早く行きましょ。」
教室を出ようとした瞬間に、こんな空耳が聞こえた。 というか空耳であって欲しい。
「いじわる…」
やれやれ、後で長門のマンションにでも行って謝っとくか。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、朝倉は、
「あ、そうだ。 私の住んでる所、長門さんと同じマンションなのよ。」
…朝倉。 俺にどうしろと。
続かない