IFすとーりぃ ケース3  
 
朝、行き掛けに星占いを見てみた。 いつもは見ないんだが、ちょうど俺の星座だったので少し見てみた。  
『今日の運勢は△ 思いがけない人から意外なことをされるかも。 刃物に注意ー。 今日のラッキーアイテムはボブカット!』  
うん、このラッキーアイテムは俺の周りだとかなりピンポイントになるな。  
もはや日課となっている強制ハイキングコースを歩き、体中の水分をだしてそうな汗を流しながら学校に着いた。  
もしここにエスカレーターでもできたら俺は100円払っても乗るね。 200円なら歩くがな。  
そんなことを考えながら、下駄箱まで来ると、手紙が入ってた。  
『放課後誰もいなくなったら、一年五組の教室に来て』  
これを何回も読んだ気もするが、たぶん気のせいだろう。  
その手紙をポケットに入れ、誰が出したかを思い浮かべる。 長門、朝比奈さん、ハルヒと思い浮かべたが、この書き方じゃ誰も違うだろうな。  
大方谷口たちの趣味の悪いイタズラだろう。  
 
放課後部室で他愛もない話で時間を潰し、時計を見てみた。  
5時半か…  そろそろ誰もいないだろうと長門に声をかける。  
「長門、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ。 一緒に教室まで来てくれないか?」  
「分かった」  
人差し指でメガネのブリッジを軽く上げ、席を立つ。 今日のラッキーアイテムらしいし、もし谷口の冗談だったら、一緒に懲らしめてもらおう。  
 
夕日のさす教室で待っていたのは、かなり意外な人物だった。 占いよく当たるなぁ…  
「遅いよ」  
朝倉涼子が西日を身体に受けながら笑顔で教壇に座っていた。 夕日の赤と朝倉の白い顔が、やけに目立っていた。  
教壇を降り教室の中程まで進んで、朝倉は笑顔をそのままに、誘うように手を振った。  
「入ったら?」  
引き戸に手をかけたままの俺は、その動きに引き寄せられていった。 そして引き戸の影になっていた長門も、紐でくくられた風船のようについてきた。  
朝倉は長門を見て笑顔を消し、スナイパーが10センチ先の的をはずしたときのような顔をしている。  
「………」  
長門は朝倉を凝視し、三点リーダーを出している。  
「な、何で長門さんが…」  
その直後、いきなり長門が早口になった。 かろうじて、  
「パーソナルネーム朝倉涼子を敵性と判定。 当該対象の有機情報連結を解除する。」  
とだけは聞こえた。  
「そんな… いくらなんでも早すぎ…」  
朝倉の台詞を遮って長門は、  
「情報連結解除、開始」  
いきなりだ。  
その瞬間、朝倉がどんどん砂のようになっていく。 これは一体どういうことだ。  
「情報結合を解除した。」  
いや、そう言われても俺には分からんのだが…  
そんな疑問符を浮かべてる俺を放置し、長門は朝倉に向き直る。  
「あなたはとても優秀。 だけど彼が私を連れてくる事を想定してなかった。 それが敗因。」  
敗因も何もまだ勝負すらしてなかったと思うんだが…  
そんなことを思ってると、いつの間にか朝倉が完全に消えていた。  
 
再度メガネのブリッジを人差し指で上げ、再度こっちを見つめてきた。  
「終わった」  
何がだ? 俺の15年弱の人生がか?  
「違う、彼女は急進派。」  
その後の長門の説明によると、情報なんとかも決して一枚岩ではなく、さまざまな派閥があるという。 で、今回は急進派の朝倉が俺に対して行動を起こしたわけだ。  
「なぁ、朝倉は俺に何をしようとしてたんだ?」  
「あなたを殺そうとしてた。」  
あっけらかんと物騒なことを答えるな。  
「じ、じゃあ長門。 何で朝倉はハルヒじゃなく俺を狙ったんだ?」  
「あなたが死ねば、涼宮ハルヒは何らかのアクションを起こす。 恐らく、大きな情報爆発を観測できる。」  
「簡単に言うと、ハルヒに力を使わせようとしたわけか?」  
「そう」  
長門は、ほんの少しうなずいた。  …気がする。  
「じゃあ長門もいつか俺を殺そうとするのか?」  
長門は少しうつむいた後再度俺の目を見て、  
「そんなことはしない。 それにさせない。 何があってもあなたは絶対に守る。」  
あの、それはむしろ俺が言った方がいいような台詞じゃないのか?  
「まぁ、とにかく今後もよろしく頼むよ、長門。」  
「分かった。」  
 
 
この時、まさか谷口が引き戸の影でこのセリフを聞いているとは夢にも思わなかったわけで。  
ホント、星占いがよく当たるよ。  
やれやれ。  
 
続かない  
 

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