さっきまで教室だった空間は、いつの間にか閉鎖された空間になっていた。  
あれだ、思い出したくもないが、朝倉との一件があったときと同じだ。  
「後ろに」  
俺を庇うように立ちはだかり、前を睨む長門の姿も、あのときを思い出させる。  
違うのは、相対しているのが朝倉ではなく、喜緑さんであることくらいだ。  
 
「あなたは間違った方向へ進んでいます。矯正しなければなりません」  
 
そう喜緑さんが長門に向かって言い放ち、何やら高速で呪文を唱える。  
これはヤバイんじゃないかと考えた瞬間、いきなり槍のようなものが現れ、  
ものすごいスピードで飛んできた。  
「わっ!」  
思わず叫んでしまう。何もない空間に物質を具現化させるとは質量保存則を無視しているんじゃ  
ないのか、いや違う、物質変換だ、などと、現実逃避気味に意味不明なことを頭に浮かべながら、  
それでも反射的にしゃがみこんだ俺はブスっと言う嫌な音を聞いて現実に意識を戻した。  
 
反射的に見上げると、腹部に刺さった槍を両手でつかみ、何かを唱えている長門の姿があった。  
「大丈夫か!」  
思わず後ろから肩を掴む。  
「大丈夫……だと思う。修復プロセスに問題がある。リカバリーモードへ移行」  
長門が両手で掴んだ槍は、ゆっくりと霧になって消えた。  
「キャッシュ強制退避。各系ノード切断。全ステータス退避。待機伝達系、現用化開始……」  
長門は何か呟いてたが、そのまま力を失ってずるずると床に倒れこむ。  
「な、長門!」  
この世でもっとも信じたくない光景を目の当たりにして、俺は、完全に冷静さを失っていた。  
 
「その槍の先端には、矯正プログラムが塗布してあります。なにも問題はありません。  
再起動は正常に行われるでしょう」  
 
崩れ落ちる長門の腹部が真っ赤に染まっている。思わず俺は長門を抱きかかえた。  
何度か見たことのある修復も、今回は間に合っていないようだ。  
「しっかりしてくれ!」  
「待機伝達系への移行に失敗。制御不能なリカージョン検出。状態遷移追跡不能。現用系強制停止」  
「何も言うな。すぐ救急車を呼ぶからな」  
俺は思わず長門を抱きしめ、その耳元で大声で叫んでいた。  
救急車を呼んで何とかなるとは思えない。そうさ、それくらいは解っている。  
でも、それ以外に何が出来るって言うんだ?  
 
「わたしは、あなたを……」  
 
そう呟く長門の瞳が、徐々に輝きを失っていく。  
 
俺は、俺の腕の中で長門の両目がゆっくりと閉じていくのを、信じられない思いで見つめていた。  
床も俺の制服も、血に染まっている。  
 
なんてこった。なんでこんなことになったんだ?  
 
「それは、機能障害状態にありました。涼宮ハルヒの観察、それがそれに与えられた使命でした。  
しかし、それは障害を起こし――」  
 
やかましい! そんなことを訊いているんじゃない! 俺の長門を“それ”呼ばわりするな!  
 
俺はぐったりした長門を抱きかかえたまま、喜緑さんと対峙した。絶体絶命ってやつか。  
思考がまとまらない。でも俺は、考えをまとめてから行動するタイプじゃないんだ。  
だから、思ったままに行動させて貰おうじゃないか。  
 

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