〜ユメ、ゆめ、夢〜
はい、ここはSOS団のあじとの文芸部室です。
今ここには、本を読む長門さん、いつものようにネットをする涼宮さん、それにあたししかいません。
キョンくんは進路指導とかで先生に呼ばれているらしく、古泉くんは、よくわかりません。
つまり女の子だけです。こんなときのここはというと……
「つまんないわね」
「……」
「え、えっと……」
はっきり言うと、空気重いです。キョンくん達のありがたさがよく解る時間です。
でも、私だって、たまには話題を振りたいなと思って、思い切って鞄に入っていた雑誌を取り出しました。
ぱらぱらとめくり目的のページを発見、こうやっていつもと違うことすると、大抵は、
「あれ?みくるちゃん。なに読んでるの?」
よかった、これでダメならどうしようかと思っていたんですよ。
「これですか?今巷で流行っている、占いの雑誌ですぅ」
「占い?ふーん、ねえ!暇だし、占ってよ」
涼宮さんは奇抜なことが大好きですが、こういった女の子っぽいのも実はかなり好きなんです。
「じゃ、じゃあ、このグループ占いなんて、どうですかぁ?」
「グループ占い?何それ?」
「文字通り、女の子のグループで占うんです。例えば、共通ラッキーカラーとかアイテムや
えっと、気になる異性の子の夢を見れる方法なんてのもありますよ」
「へぇ、面白いわね。そのグループは三人でもいいの?」
「はい、最低三人なんで、いいと思います」
「それじゃあ、有希!ちょっと、こっち来て」
本を閉じて、こちらに向かってくる長門さん。この無表情からくる雰囲気は、あたしは苦手です。
嫌というわけじゃなんですけどぅ、あぅぅぅ。威嚇されていそうで、ちょっぴり怖いです。でも内緒。
「それじゃあ!占ってみましょう!」
……
…………
「ふむふむ、こうすると……」
「気になる男の子と貴方との新婚生活を見れます、ですかぁ」
「続きが書いてありますね……」
「……」
あれ?いつのまにか長門さんが真剣な表情に。貴方は宇宙人さんですから未来予測なんて、って私も未来人でしたね。
でもでも、こういうのって気持ちが大事なんですよ。きっと。
〜第一夜〜
俺は深い眠りの中に居た。
「……きて」
ん?誰かが俺を呼んでいる。
「起きて」
大きくは無い。しかし透き通ったその声に触発されて、目を醒ます。
俺が目を開けると、目の前に両手を胸に組んで立つ一人の女性、
長門、いや、有希がそこに居た。
「おはよう。有希」
「おはよう」
「今日は早くないか?」
「無い、あなたが遅いだけ」
「ははっ、手厳しいな」
「早く起きて。今日は…………力作……」
俺と目の前の有希、旧姓長門有希は。高校一年の時知り合い、三年間の交際を経て結婚した。
涼宮ハルヒの力は、日を増して弱くなり、最後には全く感知されなくなったそうだ。
それを機としたのか、俺は統合思念体に召集された。
「長門有希は役目を十分に果たした、これからは彼女の好きにさせる。君も協力してくれ」
俺は二つ返事で返した。断る理由なんて無いだろ。俺は長門が居たから生きてられんだし。
それに……俺は長門、いや、有希が好きだった。
ハルヒは始め納得していなかったが、有希の幸せそうな顔を見て、祝福してくれた。
あいつが他人の幸せをねぇと驚いたが、人間的に成長したんだと思って納得した。
それから卒業と同時に入籍。身寄りが無い有希だったが、俺の両親は快く承諾した。
それから、俺は実家を出て有希の家に住むようになったって訳だ。
「……あなた?」
どうやら、箸の進め方がいつもより遅いのに気付いたらしい。
「病気?」
「いや、体は健康そのものだ」
「今朝の料理……その、おいしくない?」
俺は目の前の煮物をつまみ、有希の口に持って行く。
「???」となりながらも、小さな口を心持ち広げ口に入れる有希。
「美味しくないわけ無いだろ。今日はあまりの旨さにいつもより味わってるんだ」
「…………よかった」
「ん?どうした?」
見ると、心底ほっとした表情を浮かべる有希。一応弁解もしておこう。
「実はさっき、高校時代の事を思い出してな。昨日見た夢のせいだな」
「私達の出合った頃の事?」
「も、含めてだ。あの頃はなんやかんやで楽しかった。色々やらかしたんだなぁ、なんてな」
こういう話をすると、有希は少し寂しそうな顔を見せる。だからちゃんとこうも言っておく。
「もちろん今の方が何倍も幸せだ」
「っ……//」
はっ、となった表情も愛らしい。いかん、朝なのに、もうむらむらぁっときた。昨晩もあんなに愛し合ったのに……
でもそんな提案を出そうものなら「今からでも」なんて平気で言ってくるからな。
肌を重ねること、それ自体に有希は幸福以外の何かを感じているのだろうか?今度軽く訊いてみるか。
と、有希は煮物を欠片を持ち、こちらに突き出してきた。
新婚なら当然の「あーん、して?」攻撃だが、有希がそれをしてくるとは。今まで無かったはずだ。
「どうした?」
訊くと、目の前の新妻は、昔、記憶の中で入部届けを渡した時のような、そんな表情でこう言った。
「…………お返し……」
いつもより長く時間を割いた朝食を終える二人。
「さて、今日はどうする?」
「あなたの好きに」
「じゃあ、有希のしたいことに俺が付き合う日にするな」
「……いじわる」
「で、有希は、何がしたい?」
「また、いつもの所に」
「あぁ、図書館だな」
もう、幾度と無く向かった図書館に歩いて向かう。俺たちのお決まりのデートスポットだ。
着いた途端、つつつぅぅっと本棚に引き込まれていく有希の光景も変わらない。
俺も適当に本を探して見る。高校のときに比べて格段に本に触れるようになった。
漫画ばかりじゃないぞ。これも有希のおかげだ、なんて思っている。
くぃっくぃっ
「これ」
「よし、じゃあ借りて、いつものところで読むか。今日は天気もいいし」
こくっ、と頷く有希を横に連れて本を借りにいく俺達。さしづめ文学夫婦と言ったところか。
それから、しばらく歩き目的の場所に着く、いつもの公園だ。
ここは見た目以上に広く、なだらかな芝生の絨毯の向こうでは、親子連れと犬がわいわいはしゃいでいる。
そこの中央に大きな木。雨宿りにもなりそうな樹齢何百年クラスの木に隣り合わせで座る。
「今日も、風が気持ちいいな」
「いい」
「また気持ちよくて、眠っちまうかも」
「構わない、夕食前には起こす」
「そうか」
「そう」
こうして並んで本を読む二人、夫婦というより恋人みたいだ。初々しくていいな、なんて解釈している。
「……」
「……」
次第に瞼が重くなっていく。仕方ないだろ、こんなにいい天気で、傍には有希が居て、幸せなんだ。
「眠い?」
昨日の睡眠時間は、少なかったしな。っと後悔は全くしてないがね。
「けだもの……」
こういう皮肉的表現も使えるようになったんだぞ。ハルヒはもちろんだが有希も同じくらい成長したんだ。
「また昔の夢を見そうだ」
「夢?」
「あぁ、高校一年の、あの頃の……」
と静かになる、有希は俺にはもう見えていないが、恐らくにっこり微笑みながら、小さな声で、囁いたんだろう
「どうか、良い夢を……」
続く