■4■  
「俺は……寝ていたのか」  
いちいちドラマチックに目覚めずにはいられないお年頃なのだ。  
青がすっぽりと抜け落ちた薄暮が網膜を貫く。  
「いやあ、年甲斐もなくスイミングに精を出してしまった」  
「寝てた」  
「そう、睡眠を実践すること。これすなわちスイミング」  
我ながら苦しい言い逃れだ。  
舟をこぐ、という水つながりでかけて……無理か。  
「おはようさん」  
仰向けに横たわる俺の真上にいて、膝をお借りしている人物に挨拶。  
「……………」  
そこに長門がいた。  
「…………ぅぉ」  
吃驚したあ……。  
胴体はアップダウンを極限まで抑え、オートレーサーが快速でバイクをころがせそうな平坦な先に顔があって、上空から鎌首をもたげてこちらをまじまじと見つめている。  
空疎な眼差し。  
その本意はいずこに?  
「……痛」  
首をチョップされる。  
心が犯された。  
「ひでぶーー」  
俺はしなしなと吼えた。  
「これが……古より伝わる、長門流一子相伝の究極奥義……空中元彌チョップ……。  
むぅ? おお、なんてこったいケーシー。なんだか長年の肩のこりが取れた気分さ。このユキックス社開発の低反発ナノマットレス膝枕さえあれば、寝像の悪いわんぱく坊やもあまりの寝心地のよさに寝返りを忘れて床ずれを起こすに違いないねえ。  
収納はいたってシンプル。この乳房の突起部であるチューブを抜くと…ほうら見て、3日天日干ししたおじいちゃんみたいに空気が抜けてしおしおになるから持ち運びもらくらく。  
旅行でもポンプで空気を入れるだけだし、形状記憶微粒子を100%使用してるからいつでもどこでも君の体型にジャストフィット。  
即席のオーダー・ニー・ベッドの完成だ! オナニーって読めそうで、なんだかバリエロだよね!  
オーケー、オーケー。注文のお電話はコチラ。フリーダイヤル、ゼロイチニーゼロ、ながとーペチャパイノスキー。深夜ですのでおかけ間違えのございませぬように」  
「……………」  
長門からの、かつてない殺意の衝動に脳髄が焙られた。  
 
「あ、あの、もひや夕方でしたか?」  
びびりまくって、謝る用件を誤る、というオヤジジョークしか思いつかないほど自己の生命をこれほど希薄なものだと実感したことが今まであっただろうか。  
俺はこれから自分の心身に降りかかるであろう行く末を予測してみることにした。  
バチバチバチ。  
あついーあついよー。  
はっ!?  
俺火葬されてる!  
「あー、古来より日本では、このような話がある」  
速やかなる安全地帯への撤退を目指す兵隊さんな面持ちで、俺は見渡す限り地雷原だらけの戦地を奔走する。  
勝利の道筋は一本限り。慎重に……この場は時間稼ぎが有効だ。  
「昔々、おじいさんとおばあさんが」  
「死亡した」  
「強制終了っ!?」  
どうやら延命を目論んだ申し入れは、考慮の余地なく、あっさりと長門裁判第一審で棄却されたらしい。  
しっかりと『おまえが第二のおじいさんとおばあさんだ』と死刑宣告の役割も兼ねている台詞は敬聴に値するが、こちらとしてもむざむざ犬死はごめんなので、さて穏便に語らい合おうじゃないか。  
「ホールドアップ」  
冷ややかな肌触り。  
テーザー銃、ポジトロン、宇宙兵器。  
萎縮し恐怖の念に打ち震える俺の額につきつけられた銃身を見た。  
コンビニの割り箸だった。  
「………………」  
長考。  
見なかったことにした。  
大人の対応。  
「大人しくして」  
ナイスゴール。  
いや、違うだろ。  
従う。  
「あなたは黙秘の権利がある」  
「はい?」  
素っ頓狂な声を上げてしまう。  
「ミランダ警告」  
法廷。  
国選。  
なんだか小難しい言葉の宝箱のような警告文を機械的に説明され。  
「質問は?」  
「質問て……全部に於いてさっぱりなんですが」  
「1966年アメリカ合衆国にてアリゾナに在住していたエルネスト・ミランダが強姦および誘拐の容疑で収監。ミランダは取調べで罪を認めた。しかしミランダは逮捕時に警察官によって黙秘権についての説明がなかったと、無罪を主張し勝訴。  
このアメリカ法制度を根幹から揺るがす事件によって、逮捕前に先ほど述べた台詞を告げる現在のスタイルが確立。これが有名なミランダ警告」  
演説はどうやら60年代のアメリカの歴史的背景の説明に移行したらしい。  
 
長門はマージナルレベルにやさぐれている。  
なんたって、マッキーペンで黙々とヒエログリフを俺の腹部に刻みはじめているのが何よりの証拠。  
「かきかき」  
ハッ! なんか(宇宙的なもの)呼ばれてる!?  
「待つのだー、長門よー」  
1分稼ぐ、その間にみんな逃げろ! 俺が止めているうちに!  
「ふ〜」  
耳に息を。  
「ああん、ダメェ♪」  
オレ陥落(2秒)。  
ホントに駄目人間な俺だった。  
引き続いて、何かが長門のポケットから取り出される。  
やはりコンビニの割り箸だった。  
安堵から俺は破顔する。  
「へへ……所詮はまだ乳臭い小娘か、驚かせやがって」(死亡フラグ)  
ラベルを読んだ。  
ちきゅーはかい……。  
「!?」  
「ぽいっ」  
「ヒイィィィ!?」  
落下寸前で滑り込みキャッチ。  
あんた、そんなライトなノリで!  
地球がドッカンドッカンですよ! 洒落にならない方の意味で。  
「らーるーらー」  
よくよく観察すると瞳の色や口調だとか諸々ひっくるめて変だ。  
制止をかけないと地球が大ピンチな気がして、俺は慌てふためきながら長門の膝からおいとますると、ふかぶかと頭を下げて謝罪した。  
「ごめんなさい」  
大地に身を投げ出す。  
TO GE THER !(土下座英語表記)  
技っぽいの出た。  
「長門様の怒りもごもっともであると我々社員一同猛省しております。今後このような粗相がございませぬよう、充分この発声器官の方に言い聞かせておきますので」  
面を上げると、そこにはいつもの長門がいた。  
「冗談」  
うそつけ。  
スズメ蜂の巣はむやみにつつくものじゃないよ、と毎度夏休み間近に配布される黄ばんだプリントの規約の意味を実体験を持って知ったことで、俺は今日また一つ賢くなった。  
 
「ところで長門よ。他の奴ら来なかったか」  
「来ていない」  
質問に対する答えを前もって用意していたとしか思えない絶妙なタイミングで、長門は即答した。  
まるで、その話題は訊いてくれるなという長門の訴えるような眼差し、と勝手に解釈。  
「そうか」  
「緊急なら連絡を取る」  
「む……」  
少し悩んだが、特に用事もないのに、それもどうかと思い直す。  
「いや、やっぱいいや」  
「そう」  
「朝からここにいたのか」  
「そう」  
でも俺が来たときはいなかった。  
「いたかったから」  
「ん」  
気になった。  
「そうか」  
「そう」  
会話はそこで打ち切られる。  
ミーンミーン。  
俺の腹の虫。  
すごいけど季節はずれもいいところだ。  
「んじゃ、帰るか」  
小さく頷く長門。  
俺は先に廊下に出ててもらうように頼み、部屋の隅に置かれた備品に歩み寄る。  
「…………」  
「…………」  
目があった。  
(いつから?)  
(2時間前。)  
(見てたのか?)  
(ばっちりと。)  
アイコンタクトのみで語らいあう二人。  
客観的に現在の光景を思い浮かべてみると、なんとも言語で表すことを躊躇われる並々ならぬ気色の悪さに、憤怒のやくざキックをロッカーにかますと、キイ、と金属音を鳴り響かせ、私服を身に纏った古泉が中から出てきた。  
「…………」  
「…………」  
「帰るか」  
「ええ」  
帰宅した。  
 
 
■5■  
 
古泉×俺=悪夢。  
「ノ、ノーモアアメリカ!」  
アスタリスクの明日を守る、不可侵条約締結を!  
一般人にとっては寝るのは早い8時。  
悪意で満ちた夢、略して悪夢にうなされて跳ね起きると、けたたましくインターホンが鳴らされていた。  
眠気が一気に濾され、感覚器の加速が一気に促された。  
予知夢?  
「こんにちはー」  
よかった、古泉ではない。  
アニメにでも出てきそうな丸っこい声。  
まったく誰だこんな夜間に阿呆みたいに声を張り上げて、聞き苦しいったらない。  
礼儀作法のなってない新興宗教の勧誘かなにかだろう。  
居留守確定。  
「朝比奈ですぅ、誰かいませんかー」  
 
階段→シャワー→玄関。  
 
「お困りですかな、お嬢さん?」  
朝比奈さんは数歩たじろいだ。  
「おっと失敬、少し曲がっていたかな」  
白蝶タイを直す。  
「あの、どうして燕尾服なんですか? しかも薔薇の花束を携えて」  
「いやだなあ、これは某の普段着ではありませんか」  
「一人称まで変わってますよ」  
「戯画めいた現行のロマン主義国家におけます風間のような世態に関しましては、手始めに10年後を担う若者たちの服装・言葉遣い、またはニートのための職業安定所のようなモラルハザードに歯止めをかけるために抜本的改革が必要であると、  
某は前々より陰ながら訴えてきたのでありますが、そのためにまず自身にスポットライトを当て、自我にルールを科すことにし、悟りの境地を今日日見出した………と、まあ、そんなところです」  
不思議な高揚感に捕らわれていた俺は、機関銃のようにいかにもな知識人の仮面をかぶり、饒舌にまくし立てた。  
「わー、わー」  
朝比奈さんは尊敬のきらきらした眼差しで俺を見ていた。  
嘘も積もれば、やがて恋となる。  
容易く知性をひけらかす人間がいかに薄っぺらいか。  
少女は気付くまい。  
 
「どーぞ」  
「ありがとございますー、お邪魔します」  
なんて甲斐甲斐しい。眩暈がする。  
そんな大当たり出されたら、毎夜毎夜の妄想パチンコ玉のバーゲンセールも今夜限りで打ち止めだ。  
「ここですかあ」  
部屋到着。  
「煎餅座布団で恐縮ですが、どうぞそちらに。あまりベッドの下とかのデッドゾーンは見ないほうがいいですよ。ルパンの末裔から秘密の書を守る地底人の番人が出現して八つ裂きにされちゃいますから」  
ジェンダーの解剖学的相違点を局所的見地から研究する学術書のことである。  
朝比奈さんをチラ見。  
「……す、すごい格好」  
エロ本見てた。  
「ロマーーーーーリオ!!」  
俺はその本を、思い切り窓の外にシュートした。  
このお嬢さん、いきなり忠告無視ざますか!!  
対面では朝比奈さんが顔を朱色に染めあげて身を小さくしている。  
「朝比奈さん」  
「はい……」  
「キスしましょうか」  
「なぜそうなりましゅか!?」  
ろれつが回っていない。  
「この瀕死した空気を蘇生するには何かないかと考えて、一番マシ……ではなく最善の策を」  
まぐわい、という提案が頭をかすめたが瞬時に葬った。そんな案を出しやがった脳細胞と共に。  
「考えてごらんあそばせ。白雪姫、眠れる森の美女、オーロラ姫……。ディズニー三大キス女です。つまり、いつの時代でも蘇えりの儀式はチッスと決まってるわけです。  
く、苦しい、早く憧れのベーゼ……別の名を、2個体の収縮状態にある口周括約筋の解剖学的並置をワタクシに」  
「だ、だいじょうぶですか?」  
「もうアタクシ辛抱ならんのです。どこまでもディープでハチミツのように濃厚な女汁率150%のフレンチキッスをご所望だ。Hey キッスミー、チッスミー」  
迫った。  
「でも白雪姫って王子様のキッスじゃなくて召使いのキック一発で蘇えった筈じゃあ?」  
「USO」  
「まるで未確認な飛行物体と間違えそうですね」  
「UNKO」  
「こら」  
低い声で叱られた。怖い。  
つうか、もう気まずい空気霧散してるし。  
まあ、それでも完全な可逆とはいかなかったようで。  
 
【朝比奈、迫る、キスされた】  
 
以上、サザエさんチックな断片的ダイジェスト3本立てでした。  
ディレクターズカット版をお楽しみください。  
『んんっ、キョン君、ああ!』  
『あ、朝比奈サーーーン』  
『ああ、キョン君っ、らめぇ! 膣内にィィ!』  
………間違えた。  
なんだ、今のは?  
俺の妄想の翼は、どこの太平洋の大空を飛び回っているやら。  
では今度こそどうぞ。  
「それじゃあしましょうか」  
「はい?」  
「キス」  
朝比奈さんはいたずらっぽっく笑った。  
「………?」  
現在状況を処理中。  
「そうだ!」  
寿司を食べよう。  
俺は立ち上がろうとする。  
「たりゃ」  
腰にタックルされて押し倒された。  
四つんばいでよじのぼってきた朝比奈さんと頭の位置が平行になる。  
「む」  
口を口で閉鎖された。  
しまった侵略行為を許した、息ができない、と思ったが呼吸器はもう一つあったぞ。  
「ん…、ちゅ、れろ」  
いきなり舌挿入。唾液を流し込まれる。  
バリエロ!!  
妖艶な。  
芸術だ。  
爆発だ。  
やばいぞ、これ。  
この間隔の感覚は。  
直後。  
 
胸が、疼いた。  
 
「………!」  
逆に押し倒し、下腹部をつかんだ。  
「いっ!」  
ソレは顔をしかめる。  
でも濡れていた。  
びちょびちょ。  
ハハハハハ。  
向かいの人物を冷酷に見下す。  
盲目かつ純潔な朝比奈みくる。  
その清廉潔白の身も心も、研ぎ澄まされた悪意のままに簒奪してみたい。  
飴玉みたいに、擬態した慈しみで、転がして融かすのだ。  
印を刻め。  
略奪せよ。  
胸が痛い。  
命令。  
「朝比奈さん」  
 
やなこった。  
 
「好きだよ、みくるを誤ってみるくと読んじゃいそうなところが」  
身体を離す。  
壁側に転がって、眠った。  
「んじゃ、おやすみなさい」  
「キョン君?」  
「ぐーすかーぴー」  
豪快ないびき。  
「…………」  
寝返りを打つ。  
朝比奈さんは消えていた。  
足音も、ドアの音も、すべてをかき消して。  
「なんだかなー」  
そして俺はホントに寝た。  
 
 
■6■  
われらが学び舎。  
部室には長門がいた。  
「いてくれたか」  
俺はいつかと同じような台詞をはき、いつかと同じ安堵のため息を漏らした。  
「俺がどうしてここに来たか、わかるか?」  
仮面の側顔がゆっくりと正面を向くと、俺は名状しがたい感慨の波に襲われる。  
俺に焦点を結んだ双眸から浮き彫りとなる皮相は人工的で、喜怒哀楽といった感情を液体ヘリウムで真空凍結乾燥させたあげく、  
合成着色料を惜しげもなく添加したようなサイケな色調といったら、さしずめフードファディズムに反旗を翻すスーパーバッドインフルエンスミックスサンドを彷彿と、って何語だこれ。  
「異文化コミュニケーションにもほどがある……」  
自分のモノローグの解読に苦悩する俺を尻目に、ふるふると長門は首を左右に振る。  
夢から覚めてみれば一目瞭然だった。  
がらんどう。  
地球外の眼差しだ。  
だが。  
古泉がロッカーに潜んでいたことだって、長門は気づかなかった。  
もしや……と俺のメタすごい脳は四則演算っぽいものを駆使して一つの推論を構成した。  
長門に以前ほどの能力はない……いや、それどころかすでに緊急特番などに出演している自称ESP現象者とさほど変わりないレベルまで減衰しているのではないか。  
なんだか草野仁とかのが強そうだ。  
というか草野仁 イズ 宇宙人だ。  
いい加減みんな気づけ。どんな世界の不思議よりも、還暦オーバーでべらぼうな筋肉を蓄えているあのマッチョマンが一番不思議な存在だということに。  
いつか遠くない将来、日本に渡来したアメリカザリガニのごとき異常繁殖と人間界で培った適応能力を武器に、鍛え抜かれた腕力のままに生態系を破壊されていそうで怖かった。  
恐慌に陥った俺はヒエラルキーの最下層を弾圧することで自己を保守するという究極に下衆な最終手段を思いついた。  
「ふははは、見ろ! 野々村がごみのようだ!」  
「………」  
絶望的地獄絵図を垣間見て緊急脳内シンポジウムを開催する俺をまじまじと凝視する長門。  
俺は我に返ると、堰を一発こぼし、今更ながら真顔を取り繕う。  
「確認するぞ長門。お前の力は銀二にほとんどを剥奪されて風前の灯。正解か?」  
長門は頷く。  
予感的中。  
ちなみに銀二とは。  
情報統合思念体=銀河の男=銀二。  
下町情緒溢れる江戸っ子のいなせな風味がほとばしる、我ながら心にくい演算方式から導き出した二つ名である(ネーミングセンスゼロ)。  
そんな永遠に実を結ぶことのない二義的な内容の雑談は後回し。  
 
「話はそれだけ?」  
長門はハードカバーに再び目を落とす。  
急に訊ねられてどぎまぎしたが、ようやく俺は本題を切り出すことができる。  
「朝に商店街行ってきた」  
ぺら。  
「息を吸った」  
ぺら。  
「5秒の座禅の末に、宇宙の真理に到達した。すごかった」  
ぺら。  
打てども響かない。ソー・クールだコンチクショウ。  
「よくクラスで、数学の微分積分だとかって将来役に立つの? とかどこの界隈でも100万回以上議論されてきた質問を上げるヤツいるだろ。  
一概には言えないが俺の持論ではそれは人それぞれだ。  
学校という人生の縮尺地図で日本の青少年は最低9年間の義務教育を過ごした上で本物の社会に放流と相成る。  
社会はどす黒い濁流そのものだから必ずしも二元論ばかりでなく勘ぐりが必要不可欠。特に三十路を迎えた俗称負け犬女の安全日ほど信用ならないものはないから要注意だ。  
つまり、果たしてこの数学とやらは将来役に立つのだろうか? とファジーな切り口で物事に突っ込めるようになったという点で、数学は大変有意なものに昇華する。  
またはこうも考えられないだろうか?   
将来セクハラ幹部の魔の手によって、『女子社員は全員ミニスカートだ!ふぉふぉふぉ』などと不合理な事態に遭遇しても、  
あの時無意味な数学を耐え忍んで学んだおかげで、私は今日我慢するという選択ができるようになりました、先生どうもありがとー……と無我の境地に近い精神を育む全国がまんくらべ大会みたいな意味合いも兼ねているのではなかろうか、と」  
「………」  
ぺら。  
スルーだと!?  
「ここまでこけにされて、男として黙っちゃいられねえなあ……」  
俺は最後の手段を投じる。  
「僕と付き合ってください」  
プロポーズ。  
「いい」  
喋ったああああ。  
俺は今だったらどんな冒険だろうがやり遂げる気がした。  
「じゃあこの誓約書にサインと印鑑を」  
「OK!」  
婚姻届(本物)。  
「滅茶苦茶根回ししてるじゃないですか!」  
長門はブライダル情報誌を片っ端から読み耽っていた。  
取り上げて破る。  
長門が恨めしそうに流し目。勿論無視する。  
俺が無視を続けたため、結果長門は読書に戻る。  
 
「昼に山に登った」  
ぺら。  
「下界を眺望しつつ飯を食って」  
ぺら。  
「そんで墓参りしてきた」  
パタン。  
長門は手の上の本が閉じて立ち上がる。  
「帰るのか?」  
「あなたは」  
「俺はここで寝てくとするよ。朝早かったし」  
「そう」  
長門が部屋を出て行く。  
俺は公言したとおり椅子へもたれ掛かり、ひんやりとする机に突っ伏した  
眠りに落ちる間際に、俺は今朝の出来事を回顧する。  
少女の声に似た懐かしい風が通り抜けた気がした。  
「ハルヒ……」  
お前は、まだここにいるのか?  
 
交通事故だった。  
地面の白が見る見るうちに赤色にに染まっていく光景。  
誰かの悲鳴。  
俺は動くことができない。  
ただ見つめ続けていた。  
 
涼宮ハルヒが死にゆく時を。  
 
12月27日。  
つまり去年の今日。  
ハルヒは、俺の腕の中で、死んだのだ。  
 

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