例によって唐突なハルヒの思い付きによりSOS団で夏祭りに参加することになったのが、  
最早これ以上新規にケチなどつけようのないほどにケチまみれな日常に更に厄介を増やすなん  
て当時のおれは想像だにしていなかったわけで、だから俺の発した質問が呑気な部外者のもの  
だったとしても仕方なかったんだ――と考えても現在の窮状を救う役には立たないが。  
 二日前のことだ。  
 俺は訊いた。「夏祭り?」  
 ハルヒは無意味に仁王立ちして「祭りよ。あんたのとこにも回覧板が回ってきてるでしょ」  
 そういえば家を出るとき郵便受けに板状の何かが差し込まれているのを見たような見ないような。  
 「・・・それよ!あのね、ご町内の情報ネットワークから外れてるのはよくないわ。新聞なんて  
いいから回覧板とお隣のおばさんのひそひそ話は必ずチェックすること!でないと村八分よ」  
 なんだそりゃ。朝比奈さんが真剣そうな顔でこくこく頷いている。古泉はいつものにやけ面で曖昧に同意。  
長門は本から目をあげない。  
 「で、その祭りってのはいつあるんだ。どこであるんだ。そこでなにをするつもりなんだ?」  
 「あさってよ!神社の場所くらいあんたも知ってるわよね?」ハルヒは形のいい眉を器用に片方だけあげて  
みせた。「神社のお祭りですることなんてひとつでしょ?」  
 つまりいつもの面子で屋台めぐりをしたいと。なんでこいつの言うことは実も蓋もないようでいていつも変にまわ  
りくどいんだ?  
 「あと、みくるちゃんは浴衣着用で来ること!団扇も忘れちゃだめよ。アニメキャラのパチモンみたいな変なお面は  
現地調達しましょう!」  
 朝比奈さんが安心したように息をついた。いつものあれやこれやに比べればまだしもTPOにあった穏当な格好だからだろうな。  
・・・朝比奈さんの浴衣姿か。ひとつだけでも楽しみができたな。  
   
   
 話すだけ話すとハルヒは用事があるからとさっさと帰ってしまった。  
 古泉が近づいてきたので先を越して言った「“今回は楽ができそうですね”だろ」  
 「そうですね」珍しく奇妙に歯切れの悪い調子で「だといいんですが。いやそうなるでしょう」  
 なんだ?まあ意味ありげな口調はこいつの十八番だから気にしてもな。  
 「お前がそう言ったって、いつも、どうせ何か起きるんだがな」  
 古泉は苦笑した。そして気分を変えるように、いつもの添加物百パーセントの愛想の良い笑顔で、  
 「涼宮さんはきっと浴衣で来ますよ。もしかしたら長門さんも。われわれはどうします?」  
 いいや俺は結構。そもそも浴衣を持っていない。最後に着たのは小学校低学年の頃だ。  
 戸を開閉する音がした。見るといつの間にか長門の姿が消えていた。  
 朝比奈さんはまだメイド姿で椅子にちょこんと座っている。訴えるように潤んだ瞳がこちらに向け  
られているのはある種の勘違いを誘発するためではなく着替えたがっているのだと気づいた。古泉を  
促して、教室を出た。  
 
 古泉を適当に追い払い、玄関口でしばらく待っていると、制服姿も天使のような朝比奈さんがのんびりと  
歩いてきた。俺に気づいて一幅の絵のような天使的微笑を浮かべる。  
 「ごめんなさい。待たせちゃいました?」  
 まさか。待たせて頂いたんです。などとは言わず首を振る。  
   
 蝉の声がうるさい夕暮れの道を二人で歩く。  
 ハルヒやその他二名の顔を見ずに二人きりというのは久しぶりだな、そういえば。  
 そのせいかなんとなく話すことがみつからず、仕方なくさっきの話を蒸し返す。  
 「夏祭りって、俺はよく知らないんですけどそんなに大きいんですか?」  
 朝比奈さんは楽しそうに「ええ。夜店がたくさん出るし神社の境内が人で一杯になるんです」  
それから、何か思い出したみたいにくすくす笑った「去年はみんなでバニーガールの格好をして行ったんですよ。  
恥ずかしかったなあ」  
 「みんなで・・・古泉もですか」  
 一瞬、朝比奈さんの表情が曇る。  
 「罰ゲームだったんですよ。涼宮さんがポーカーで一人勝ちして、“王様”役でみんなにひとつだけ命令できたんです」  
 終わりのほうは失言を悔いるかのように力なかった。そしてそのままうつむいて沈黙。  
 ふと、俺は違和感を感じる。この村に引っ越してきてからこっち、折に触れ抱かされる、不透明な印象。  
 俺は気になっていたことを思い切って訊ねる。以前、ハルヒに訊いた時には不機嫌にはぐらかされた質問だ。  
   
 「・・・朝比奈さん。“キョン君”て誰なんですか?」   
 
 あふれるような蝉の声がいっせいにやんだ。  
 朝比奈さんは顔を伏せたまま、立ち止まっていた。  
 「知りません」  
 冷たい、はねつけるような一言だった。『禁則事項です』というときの甘さはなかった。  
 背中に厭な汗がわくのを感じながら、よせ、やめろ、何事もなかったかのように話題を変えろ・・・  
もうひとりの俺が心の中で叫ぶ。だが、口をついて出たのは。  
 「知らないはずないですよ。去年、SOS団のメンバーだったんでしょう?」  
 俺は続ける。  
 「国木田が口を滑らせたんです。・・・へんですよね。同級生のことをなんで隠さなきゃならない  
んだろうなって、それが不思議で」  
 
 「知らないっ!!」  
 怒りのかたまりをたたきつけるような。俺を消し潰したいと心底願うような声。  
 「知らないっ!知らないっ!知らないって言ってるでしょっ!!」  
 俺は。俺は。俺は。  
 あさひなさん?これは・・・俺の知っている・・・あの・・・朝比奈みくる・・・?  
 

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