放課後になり、俺はいつも通りSOS団の部室へ向かった。女になっても、やることは大してかわらないらしい。  
 既に習慣と化したノックの音を聞きながら、少し考えた。今の俺は女で、朝比奈さんは男なんだから、着替え中  
に出くわしたって別にいいんじゃなかろうか。  
 いや、俺がどうであっても、朝比奈さんは着替えを見られたら泣いてしまうだろうなあ。朝比奈さんの泣き顔は  
超可愛いが、あまり見たくは無いんだ。  
「どうぞ」  
 ドアの向こうから聞こえるのは、透き通るような美しい声。忌々しいことに、昼休みに聞いた物と同じだった。う  
 
んざりした顔の俺を迎えるのは、その声に見合う美しさを持った少女だ。  
 いつもの席で、目の前にゲームボードを開いたまま笑顔で俺を見つめている。雰囲気だけは変わらない、ニヤケ  
面でな。  
「古泉……おまえ一人かよ」  
 朝比奈さんが居ないのはわかっていたが、読書してるだけの長門でもいいから居てほしかったな。  
「朝比奈さんは進路関係の説明会、長門さんはおそらくコンピューター研でしょう。先ほど、部長氏……ああ、彼  
も眼鏡の似合う女性になっていましたが。その彼女が、新作ゲームのテストプレイを依頼しに来ていましたから」  
 そこまで言うと、『涼宮さんは?』と尋ねてきた。俺はあいつのマネージャーかなんかか。知ってるけどな。  
「あいつは掃除当番だ」  
「なるほど、では皆が揃うまでの間、ゲームでもして時間を潰しましょう」  
 言われなくても、そのつもりだ。おまえと二人きりでやることなんて男でも女でも他に無いだろ。少なくとも、  
こいつの回りくどくてわかりにくい話を聞くよりは楽しいからな。  
 そんなわけで、俺と古泉はいつもの暇つぶしを始めたわけだ。性別が変わってもこいつの腕前は変わってないの  
で、ホントに暇つぶし以外の価値は見出せんがな。  
 俺はサイコロを振り、コマを進め、古泉の得点をゴッソリと奪っていく。それでもこいつは笑顔のままだ。  
 ほんと、こいつは勝負のしがいが無いやつだと思う。ハルヒみたく物理的報復に訴えてくるのは勘弁だが部長氏  
程度のリアクションは見せて欲しいもんだ。  
 さて俺が予想通り、何の面白味も無く古泉を負かすことになるだろう、直前のこと。  
「おっと、失礼」  
 古泉はそう言うと、懐から小さなスティック型の物体を取り出した。キャップとなっている片側を取り外しもう  
片側を回転させれば、筒の内部から仄かに色づいた部分がせり出してくる。そうちょうど口紅のように。  
「誤解の無いように言っておきますが、これはリップクリームですからね。どうも最近、唇が荒れてしまって」  
 俺の視線に気づいたらしい古泉が、苦笑しつつそう言った。  
「あなたもいかがですか?」  
「俺はそんなの気にしたことが無い」  
「それはうらやましいことです」  
 古泉が、リップクリームを唇に塗りつけられている。ただの医療行為に過ぎないことはわかっているのだが、問  
題は今のこいつの姿だ。  
 モデルのような長身に整った顔立ち、アイドルのような爽やか笑顔といった、男のこいつが持ってたむかつく要  
因全てが、女となった今でも受け継がれているらしい。そしてこいつが男で無くなった今、俺はそういった美しさ  
を僻み根性抜きで、公平な目で判断できるわけだ。  
 
 ああ、ぶっちゃけるとかなりいい女だと思うね。どっかの女子高ならロサなんとかって呼ばれてるだろうさ。  
 おまけに、こいつ朝比奈さんほどじゃないがスタイルがいい。ブレザーの上からでも、その下から存在を主張す  
る二つの膨らみがわかる。ゲーム中、そいつらを寄せるように腕組んで考え込むんだから、少々目のやり場に困っ  
た。  
 ちなみに、俺の顔は男の時と同じくエキストラ役の似合う平凡面。身長も日本女子高生の平均160弱程度、ス  
タイルの方は、それどころか平均以下だ。乳は無いし、他の肉付きも悪いしな。  
 自分自身がそんなみすぼらしい出来になってるせいか、目の前のこいつの美しさが、けっこう気になってしまっ  
てる俺だった。うらやましいとは思わんがな。  
 だからな、リップクリームを塗られて、艶やかな光を放つ唇に目を奪われても仕方が無いと思うんだよ。  
「………なにか?」  
「別に?」  
 何気ない様子で目を逸らす俺。あぶねえあぶねえ、こいつの唇に見惚れてた、なんて知られたら――――  
 突然、ガタッと音がした。  
 大した音ではない、椅子を引いて立ち上がる、学校では当たり前に聞く音だ。問題があるとすれば、それは目の  
前の席に座っていた古泉が出した音だってことだが。  
 ちょっと待て、なんで立ち上がる。まだゲーム終わってないだろ。俺がサイコロ振れば、なにが出ようとお前の  
負けで終わるんだぞ。  
 あのな、なんで寄せられた机を周って俺のトコにやってくるんだ。なんでそのニヤニヤ笑いを崩さないままなん  
だ。  
「さてなぜでしょう?」  
 古泉は表情を崩さない。それを見て、俺は反射的に立ち上がった。俺の席までやってきたこいつから、慌てて距  
離をとる。  
 この時、俺を動かした感情は何かと尋ねられれば、『恐怖』と答えるしかないと思う。そしてなぜ恐怖を感じた  
かと尋ねられれば、答えられないが、それがそのまま回答になるだろう。  
 未知の物に対する恐怖って奴だと思う。  
「おや、なぜ逃げるのですか?」  
「おまえが来るからだ」  
 俺の答えに苦笑しつつ、古泉は俺を追ってきた。俺を気遣うように、ゆっくりと、ゆっくりと。なぜか俺もその  
歩みに合わせてしまい、こいつの動きから逃れることができない。  
 気がつけば、部室のドアは古泉を挟んだ反対側にある。迂闊だった、最初に立ち上がったとき、ドアの方に逃げ  
ればよかったのだ。  
 ゆっくりと距離を狭めてくる古泉に対して、俺も同じ速度で後退していたが、不意に何かに背中をぶつけた。  
 振り向けば、そこにあるのは薄汚れた黒板。つまり、行き止まりだ。  
(やべっ……!?)  
 黒板から視線を戻せば、さっきまで見惚れていた古泉の顔があった。眼前に。  
「そんな、化物を見たような目で見なくてもいいじゃないですか」  
「う、うるせえ。長門みたいな瞬間移動しやがって……」  
 古泉が、俺を挟むように後ろの黒板にポンと手をついた。ほんとにただ手をついただけだというのに、俺の体は  
その音にビクリと震える。  
「そんなに警戒しないでください。別にあなたを責めるつもりはないんですよ」  
 俺に顔を近づけ、諭すような口調で言う。  
「自分で言うのもなんですが、今の僕の容姿はなかなか高い水準にあると言っていいでしょう」  
 ほんとに自分で言うんじゃねえよ、こいつ。  
 
「そして、僕とあなたは女性化したとはいえ、長門さんのおかげで中身は男性のままです。つまり、異性の体にあ  
らぬ思いを抱いたとしても、何の不思議も無いわけですよ」  
 古泉は笑顔のまま、言う。俺の愚考を、全て許すかのような笑顔で。いつもなら嫌がらせくらいにしか感じられ  
ないこいつの笑みが、今は素直に受け入れられた。  
 たぶん、俺自身がこいつの許しを求めていたってことだろう。扱いにくい奴とはいえ、友人といえる人物をそー  
いう対象として見てしまったわけだからな。罪悪感を感じないわけが無い。  
「……ああ、そうだよ。朝比奈さんや長門、ハルヒのおかげでそれなりに女慣れしてるつもりだったんだがな。今  
のお前みたいなタイプは初めてだったんで、ちょっと焦った」  
 と、俺は白状した。自分に残る罪悪感を、そうすることで全て発散させるために。  
「ええ、当たり前のことです」  
 古泉は、変わらない笑顔で俺の懺悔を受け入れ  
 
「だから、僕の気持ちもわかってくれますね?」  
 
 そう、言った。  
 俺がその台詞を理解する前に、俺の唇が塞がれていた。そして、俺の目の前には大写しになった古泉の顔がある。  
 キスされた、そう気がついた瞬間には、唇が離れていた。  
「あなたが僕の体に抱いていた思いを、当然僕も抱いていたというわけですよ」  
 直前まで俺に触れていた唇が、そんな言葉を紡いでいる。その言葉が向けられているのは、もちろん俺だという  
ことはわかっている。  
 だが、俺の出来の悪い頭はそんな当たり前の事実さえ受け入れることができなかった。  
 こいつが、俺と同じことを考えていただと?  
 ゲームの間、いや女となった古泉の姿を見たときから、考えていたことを。  
 綺麗な顔だな、髪サラサラだな、とか。  
 乳でかいな、いい体してんな、どんな下着着けてんのかな、とか。  
 触ったらどんな感触だろうか、とかよ。  
 俺みたいな男子高校生(元)なら考えても仕方の無い、下世話な妄想って奴を、古泉が俺に抱いてたってのか?  
 それを理解した瞬間、背筋に寒気が走る。自分が想像しているうちはなんとも思わなかったくせに、その対象が  
自分って考えただけでこの有様だ。  
 随分と都合のいい考え方だ、と思う。だが、自分を責めるより前に、この場から、こいつから逃げ出さねば――  
―と、俺は考えていた。  
 過去形なのは、そうする前に体を拘束されたからだ。  
 古泉の、二度目のキスによって。  
 さっきが一瞬触れるだけのバードキッスだったのに対し、今度は俺の口内まで舌を侵入させる、ディープな奴だ。  
 俺はねじ込まれた舌を、自分の舌で押し返そうとした。だが、逆に古泉の舌が俺の舌に絡みつき、口内から引き  
ずり出される。俺が反射的に舌を引き戻そうとすれば、それにあわせて古泉が舌を侵入させてくる。  
 そんな攻防の繰り返しの結果、俺と古泉は互いに舌を絡ませているような状況になった。口内に唾液があふれ、  
俺は溺れまいとしてそれを嚥下する。古泉も同じことをしていたため、お互いに唾液を吐き出し、すすりあうとい  
う状況に陥っていた。  
 肩口を、何かがずり落ちていく感触がする。脱がされたブレザーがパサリと床に落ちた瞬間、俺はようやく我に  
帰った。  
 
 ちくしょう、この俺の口の中でウネウネ動いてる奴を噛み切ってくれる。そう思って顎に力をこめる直前、古泉  
がスルリと舌を抜いた。  
 虚しく、歯がカチリと音を立てる。古泉はそんな俺の顔を見て、また笑った。全てお見通しですよ、とでも言う  
ように。  
 くそ、ようやくこいつのやり方がわかってきたぜ。  
 俺が何かをする直前に、こいつは先手を打って俺の行動を封じる。それに対して俺が反撃する前に、一度退いて  
反撃のタイミングを奪う。いつかのコンピ研の戦法を思わせるやり方だ。ただし実際に攻撃を受けているのはパソ  
コン上の戦艦ではなく俺自身であり、そのやり口もコンピ研より数段上手だと思うね。  
 だって、こいつのやり口がわかったとしても、俺にはそれをどうにかする手段が浮かばないんだからな。方法が  
わかったおかげで、より絶望的に。  
 目の前には古泉が、いつの間にか自分もブレザーを脱いだ状態で立っている。俺と同じカッターブラウスに包ま  
れた上半身に、その豊満なふくらみがより鮮明に浮き上がっていた。だめだ、こんなもんに目を奪われてる場合じ  
ゃない。  
「待てよ、俺、女のお前ほど見てくれよくないだろ!?」  
 わざわざ自分でも言いたくないことを、俺は言った。だってそうだろう、俺がアホなこと考えたのは女の古泉が  
普通にいい女になってたからであって、俺みたいな地味っ子を見ただけでどうにかしようとは思わないはずだ。大  
体、むかつくことに男の時のこいつは、俺と違って女に苦労するようなタイプでも無かっただろう。だったら、な  
おさら俺みたいなのに馬鹿な考えを抱く理由がわからない。  
「ああ、語弊がありましたね。あなたであり、女性であるということが重要なんですよ」  
 何が重要だってんだ。それは、会話しながら当たり前のように俺のブラウスのボタン外してる、お前の手より重  
要だってのか? なんなんだ、そのスベスベお肌に白魚みたいな指は。  
「僕は、あなたという存在に惹かれていたんです。ですが同性愛の素質までは無かったようで、友人以上の関係に  
なろうとは思わなかっただけなんですよ。だというのに、そんな可愛らしい姿になったあなたを見せられては、我  
慢できるわけないじゃありませんか」  
 ね? と古泉は気味の悪いウインクをした。そんなもんで同意を求めるな。  
 互いの体にやらしーことを思い浮かべているってのは、情けないが事実だとは思う。だが、そこに至る過程が俺  
と古泉では全く違っていた。  
 単にいい女だったから、という間抜けな理由で興奮しただけの俺にとって、古泉の理屈に同意できるはずが無い。  
 
そんなもん、理解もできん。  
「結局、同性愛に変わりは無いわけですが……お互いに、女性の体に興奮を感じる性質は持ち合わせているのです  
から、問題無いでしょう」  
 気がつけば、俺のブラウスは既に肩から離れ、袖の部分だけで俺の体にしがみついていた。完全には脱がさず、  
両の上腕辺りで止められたそいつは、まるで拘束具のように俺の反撃を封じている。こいつの話が理解できないの  
はいつものことだってのに、そんなことにわざわざ耳を傾けるからこんな羽目になるんだ。  
 古泉が、露にされた俺の胸元へ手を伸ばす。そこにあるのは、貧弱な膨らみを隠すスポーツブラだ。  
「おや、可愛らしいものをつけてらっしゃいますね」  
 スポーツブラの上を、古泉の手が這い回る。谷口と見た巨乳物のAVのように荒々しく揉みしだくのではなく、  
胸の肉を寄せるように、ほぐすように掌が踊っていた。その動きはマッサージ師が凝り固まった筋肉をほぐすよう  
な動き――――実際にやってもらったことは無いんだが、そんな印象を受けた。  
 なにが言いたいかって言うと、古泉にやられてるって精神的な問題さえ無視すれば、決して不快な感触では無い  
ということ。むしろアレだってことだ。  
「……んっ」  
 まずい、抑えていたつもりだが吐息が漏れた。自分でも、これは不味いとわかる種類の吐息が。  
 古泉はそれを聞くと満足気に微笑み、俺の胸から手を離した。その時、わずかな喪失感を感じたのは気のせいだ  
と思いたい。  
 
「おっと、そういえば僕ばかり楽しませてもらっても不公平ですね」  
 そう言うと、古泉は自分のブラウスのボタンを外し、見せ付けるように前を開く。そこにあるのは、美しいレー  
スで彩られたブラと、それに決して見劣りしない豊かな膨らみだ。  
 巨大なカップに納められたそいつらは、古泉の呼吸に合わせるが如く、かすかな動きを見せている。  
 サイズといい質感といい、俺の物とはASIMOと先行者くらいの差があると思う。  
「ゲームのときから、あなたはずっとここばかり見てましたよね。おかげで、ゲームに集中できませんでしたよ」  
 古泉が俺にもたれるように体を預けてきた。俺は黒板と古泉によって挟まれる体勢になるわけだが、苦しくは無  
かった。  
 丁度、俺の胸の辺りにエアバッグがあったからだ。  
「わかるでしょう? 僕の胸とあなたの胸が触れ合っているのが」  
 ああ、わかってるっての。お前の乳が、俺の乳を押し潰しているのが。  
 古泉の胸の感触が、俺の胸を通して伝わってくる。下着二枚を通した感触とはいえ、その弾力は俺がゲーム中に  
思い浮かべていたものを、はるかに超えていた。童貞の俺の妄想なんだから当たり前とも言えるがな。  
 こいつが体をすり寄せるたびに、こいつの胸が俺の上でむにむにと形を変える。まるで、俺の固い胸でこいつの  
乳をもみほぐしているような感覚だった。  
 古泉に攻められてるのか、俺が責めているのかわからなくなるような、倒錯した感情が、俺の体に響き渡る。  
「やはり、可愛いですねあなたは」  
 古泉が、三度キスをする。今度はすぐに唇をずらし、頬を舐めるように舌を這わせていった。俺の後頭部、いや  
ポニーテールによってむき出しになっているうなじの部分を指で支え、俺の首筋にも舌を這わせる。   
「あなた、ここにほくろがあるんですよ? 気がついてましたか?」  
「見たことねえ、よ、そんなもん……」  
 こいつの指がうなじを滑る度に、背筋にゾクゾクと寒気が走る。俺がその感覚を堪えていると、今度は鎖骨に舌  
を伸ばす。  
 ブラに守られた胸元を避けるようにして、脇へ、更にその下にある脇腹へ。唾液の筋が、ナメクジの通った後の  
ように艶を放つ。俺はといえば、舌のヌルヌルとした感触、それが通過した後のヒヤリとした感触、その二重攻撃  
を息を殺して耐えるけだった。  
 背筋に走った悪寒を追うように、古泉の指がうなじから脊髄の上を伝って降りていくのが感じられる。腰を通過  
したところで、その指が離れた。  
「では、失礼」  
 古泉の手が、俺のスカートの中にもぐりこむ。形を確かめるように、尻を撫でてきやがった。なんて気色悪い、  
奴の指が俺の尻肉に食い込むたびに、体に震えが走る。  
 その感触を堪えるために、俺は古泉の体にすがりついた。更に鮮明に感じられるこいつの乳の感触が、俺の不快  
感を和らげてくれる。  
 おかげさまで、尻から脳髄まで駆け上る感覚にも随分と体が馴染んできやがった。なんか、疼くというか、切な  
いというか。  
「おや?」  
 古泉は首をかしげると、『失礼』と言って俺のスカートを捲り上げた。ここまでやっといて今更なにが失礼だっ  
てんだこいつ。  
 全身に受けたこいつの愛撫によって朦朧としていた俺は、抵抗もせずにスカートの下をさらけだす。そこにあっ  
たのは、今朝、俺がマイサンの有無を確認するときに見た地味ーなショーツではなく、紺色のスパッツだった。  
 下着が外気に晒されているというスカートの感覚に、どうしても馴染めなかった俺が取った気休め程度の防御策  
だ。女の俺も同じだったのか、タンスの中にいくつか詰まっていた。  
 だから、これさえ着けてりゃ見られたって平気なはずなんだが―――スカートを捲り上げられた状態で見られて  
るってだけで、なんでこうもハズいのかね。  
 
「これはまた可愛らしい物を」  
 苦笑すると、尻を撫でていた手を更に下へと滑らせる。そこにあるのは、童貞の俺でもわかる、安易に触ってほ  
しくない場所だ。俺自身でさえ、トイレで用を足すときに変なトコ触らないように注意したってのに。  
 古泉の指が、スパッツの上から俺の股を擦りあげた。  
「ひっ!?」  
 今まで、俺の内側に溜め込まれていくだけだった物が、逆に吐き出されたような感覚。下半身から全身に響き渡  
る衝撃が、俺の思考を焦がす。  
「ちょ、待て!! やめろ!!」  
 反射的に股を閉じるが、結果的に古泉の腕を太股で挟みこむような体勢になった。当然、これではこいつの指の  
動きまで封じることは出来ない。  
 古泉の指が、割れ目を押し割るかのように食い込んできた。スパッツとショーツ、二枚の布で防御されているは  
ずだというのに、衝撃が俺の体を震わせる。  
 俺は困っている時の朝比奈さんみたく、『ひっ』とか『あっ』とか動物じみた声を出すことしか出来なかった。  
「安心してください。機関である程度の訓練は受けましたので、あなたに痛い思いをさせることはありませんよ」  
 そういう問題じゃねえ。いや、むしろ頭が冷めるほどの激痛なら、今すぐこいつをぶん殴ってやるってのに。今  
の俺が感じているのは、紛れも無く『快楽』って奴だった。頭を覚ますどころか、意識を朦朧とさせるような類の。  
 俺はそのまま、古泉に抱きしめられたまま下半身を責められていた。こいつが時折キスをまじえながら、耳元で  
なにやら囁いてきやがるが、今の俺に答える理由は無い。ただ、呻き声と全身の震えで答えるだけだ。  
 それでもな、流石にこいつの手がスパッツのゴムの部分にかけられた時は、目が覚めたよ。一瞬だけだったがな。  
「なにすんだっ……!!」  
「なにって、脱がすんですよ」  
 いけしゃあしゃあと、言う。俺の耳元で、唇で耳朶を弄びながら。  
「それとも、スパッツをビショビショに濡らすような事態がお好みですか? 僕はかまいませんが」  
「ちっ……!!」  
 俺は答える代わりに、腰の力を抜いて『好きにしろ』とアピールした。こいつの言葉が嘘ではないってのがわか  
っていたからだ。現に今も、スパッツの下にあるショーツに、不快な湿り気を感じてたところだからな。  
 このまま下手なことをされれば、スカートの下はノーパンで家に帰らなきゃならないかもしれん。  
 そう、俺が考えた直後、スパッツが下ろされた。その下のショーツごと、二枚まとめてだ。  
 となると、俺の下半身を守る物は何も無い。濡れた陰部に外気が触れ、ゾクリとした感触が背筋に走る。  
「てっ、てめえ!?」  
 目の前の変態に蹴りでも入れてやろうかと思ったのだが、脱がされたズパッツとショーツは俺の膝辺りに引っ掛  
けられたままだ。当然俺はバランスを崩し、古泉の胸へ飛び込むような形になる。  
 そしてこいつは、俺を優しく抱きしめてくれやがった。それだけのことで、剥き出しにされた陰部が熱く濡れる  
感触がする。  
 いくらなんでも、敏感すぎるぜ俺の体。古泉にうなじを撫でられるだけで、ゾクゾクきやがる。  
「ところで、これなんだかわかります?」  
 そう言った古泉の手には、小さなスティックがある。さっきまでこいつが使っていたリップスティックだ。ある  
意味、俺が現在陥っている事態の銃爪になったといえる物だ。  
「僕が男性のままならこのような物に頼る必要も無かったんですけどね。ああ、でも僕が女性になったからこそ、あ  
 
なたとこういうことが出来るわけですし。いやはや、難しいものですね」  
 何言ってんだ、こいつ。って言うか、何を考えてんだ。  
 何を俺にする気だ。  
 
「失礼」  
「ム゛ッ!?」  
 古泉が、リップスティックを俺の口に突っ込みやがった。そのまま口内を犯すように、そいつを出し入れさせる。  
 
口に使うものだとしても、明らかに使い方が違うだろ。  
「よーく濡らしておかないと、痛いですからね。ああ、最も……」  
「んんん〜〜〜!?」  
 プラスチックの筒を俺の口で出し入れしながら、触れた。露になった俺の股間に。  
 古泉の指が割れ目に沈み、俺の体を震わせる。熱い物が零れだす感触が、自分でもわかる。  
「これだけ濡れていれば、必要無いかもしれませんね」  
 涙目で筒を銜える俺の目の前で、粘液を纏った指を晒す。見せ付けるように指をニチャニチャと鳴らした後、俺  
の口内を支配していたリップクリームを引き抜いた。  
 すでに唾液で濡れているそいつに、俺の下半身から漏れた粘液をまぶす。濡れてテラテラと光るそいつを見て満  
足気に微笑むと、軽く口づけた。  
 ここまでされれば、いくら頭の悪い俺でもわかるってもんだ。いや、本当はわかってたんだろうが、考えたくな  
かっただけだろう。  
 こいつは入れる気なんだろう、俺に。ただ、自分がついてないもんだから、代用品を使って。  
 俺がそれに気づいたことを察したのか、安心させるような優しい笑みで、古泉が言う。  
「安心してください、こんなもので処女を奪おうなどと無粋な真似はしませんよ。少し、入り口で楽しんでもらう  
だけです」  
 古泉が、再び俺の秘部に指を伸ばした。今度はただ指を擦りつけるのではなく、内部を探るような動きだ。  
「ぴったり閉じて、可愛らしいですよね」  
「ひ、開くな……」  
 古泉によって、肉の壁がこじ開けられたのを感じる。普段は開かれることの無い場所に空気が直に当てられてい  
るのがわかる。  
 すでに潤ったそこに、指とは違う、硬い物が当てられるのを感じた。それは何かを探すように、割れ目の中を往  
復する。  
 中が擦られるたびに、俺の体が震え、奥から溢れる粘液がスティックを濡らしていく。  
「ひうっ……も、だめ……」  
「何を言ってるんですか、まだ扉をノックしてるだけですよ……っと」  
 硬い筒が、俺の何かを補足するのを感じた。今度は今までのように擦るだけではなく、俺の内部へと突き進んで  
くる。  
「あああっ!?」  
 実際は、最初に古泉が言ったとおり、入り口に少し潜った程度なのだろう。だが、今の俺には足先から脳天まで  
、一本の槍で貫かれたような感覚だった。俺の秘部に潜った筒がわずかに動くだけで、全身に衝撃が走るんだから  
な。  
「では、もっと動いてみましょうか」  
「だ、だめえっ!!」  
 リップクリームが上下する。俺の膣壁が、そいつに合わせるように掻き回されている。  
 そのたびに奥から粘液が溢れ、スティックを伝い、古泉の手へと零れていく。古泉は開いた手でそれを拭うと、  
俺の頬へ塗りつけた。  
「すごく、いいですよ。あなたの顔」  
 自分でつけた愛液を、舌で舐め取りながら古泉が言う。俺自身も、こいつの舌が頬を這い回る度に頭が熱くなる。  
 
俺の下半身を支配する快楽が、より鮮明に感じられていく。  
 俺は古泉に抱きしめられたまま、わずかに埋められただけのスティックの動きに翻弄されていた。既に膝はガク  
ガクと笑っているし、こいつの支えが無ければ立つこともできないだろう。  
 
 いや、そろそろ立つことさえ出来なくなるということがわかった。もうだめだ、なにかが来る、そんな感じが。  
 そして、俺よりそいつを敏感に感じ取ったらしい古泉が、俺の耳元で囁く。俺の脳を焦がす声で。  
「では、そろそろ達してもらいましょうか」  
 古泉の手が、今までとは違う動きを見せた。単に上下に動いていただけの筒が、俺の中でクルクルと回転しだし  
たのだ。  
 古泉が俺に挿入したのは、スティックの尻の方。そちらには、リップクリームを出すための円盤状のグリップが  
ついている。そしてそれは、指をひっかけやすいように刻みが入れられているわけだ。  
 つまり、グリップの円周上に存在する刻みが、俺の膣壁を抉る事になる。  
「あ、ああああっ!!」  
 反射的に力を入れてスティック締め付けるが、それは結果的に刻みの影響を強く受けるだけだ。グリップが俺の  
中を掻き回すたびに、今まで以上の衝撃がこみ上げてくる。俺の内部へ溜め込まれていく何かが、弾けそうな感覚  
を覚える。  
 こいつが弾けたら、どうなるんだろうか。俺はどうすればいいんだ。何もわからない。  
「こういうときは、イクって言うんですよ」  
 だから、俺は何の考えも無しに言う。古泉から与えられた、答えの言葉を。  
「イ……イクッ!!」  
 言ってしまった。言った瞬間、答えを与えられた快楽が、堰をきったようにあふれ出す。  
 俺の秘部から、全身へと響き渡るような快楽のパルス。それは電撃のように俺の全身を震わせ、狂わせていく。  
 男の射精とは全く違う、未知の快楽が俺を蹂躙する。  
 なんなんだこれは。どうなってしまうんだ、俺は。  
 怖い、誰か助けてくれ。  
 そう思った瞬間、体が柔らかい物に包まれたのを感じた。  
 この匂い、この感触、さっき全身で味合わされた、古泉の体だろう。俺を安心させるかのように、俺の体を抱き  
しめてくれているのだ。  
 俺はすがる思いで、古泉の体を抱き返した。こいつの豊満な体にしがみついたまま、襲い来る快楽の嵐に耐える。  
 コン、と床に何かが落ちた音が響く。下を見れば、さっきまで俺を抉っていたリップスティックが落ちていた。俺  
 
が垂れ流した粘液にまみれた状態で。  
 それに気がついた瞬間、全身の力が抜けた。ペタンと床に、文字通りの尻餅をつく。  
「は、う………」  
 体を脱力させたまま、俺は大きく息をついた。荒い呼吸を繰り返し、酸素を吸収していく度に、快楽に惚けた俺  
の頭もクリアになっていく。  
 目の前には二本の脚。顔を挙げれば、いつものニヤケ面で俺を見下ろす古泉。  
 そのニヤケ面を見た瞬間、今まで良い様に弄ばれたという屈辱、それからなる羞恥心で、自分の頭に血が上って  
いくのがわかった。  
「てめえっ!!」  
 俺は立ち上がり、古泉の胸倉を掴み、渾身の一撃でそのニヤケ面を黙らせる―――つもりだった。  
 バタン、と何か大きな物が倒れた音がする。そう、丁度人間一人が転んだような音が。  
 音のした方に顔を向ければ、部室のドアが開かれていた。そして出入り口前の床には、小さな姿が床に突っ伏し  
ている。  
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーっ!!」  
 顔を真っ赤にして謝罪の言葉を連呼するのは、一人のショタっ子。今は美少年の姿に変わってしまった朝比奈さん  
だ。  
 
 この反応からすると、思いっきり見られてたってことだ。俺が古泉の腕の中で、アンアン悶えてイカされた姿を。  
「―――――っ!!」  
 俺のエンジェルになんて姿を。古泉を殺して、俺も死んでやる。  
 この場に自爆装置があれば迷わず押していただろう。かって、ハルヒと同じ夢を見たときのアレと同じくらい屈  
辱的だ。  
「これは盲点だった」  
 そんな俺の思考をクールダウンさせる、無機質な声。  
 元々が貧相な体格だったため、男になってもセーラー服が学生服に変わったくらいの違いしか無い様に見える、  
長門だ。  
「あの夏の現象のように、特定の目的を果たさない限り、情報修正は行われない可能性がある。今回の場合におい  
ては、その目的とは異性の肉体でしか実現できないことだと思われる」  
 長門が言う。  
 上半身がスポーツブラ一枚、下半身はスカートで隠されているものの、スパッツとショーツが膝までずり下ろさ  
れた状態の俺に向かって。  
「この場合、性を転換させた状態での性行為が、その目的として挙げられる可能性は高い。つまり涼宮ハルヒと性  
行為を行う必要がある」  
 いつも通りの無感情ボイスで、長門はそんなことを言いやがった。そのぶっとんだ理屈はともかくとして、この  
時点ですでに嫌な予感がするぜ。  
「その相手として適任なのは、あなただと思う。ゆえに、あなたにはその準備をしてもらう必要がある」  
 ちょっと待て、さっき古泉にやられたような目にもう一度あえってのか。しかも童貞の俺に、先に処女を失えっ  
てのか。  
 しかも相手は男に変わったハルヒ。  
 それは発情期のドーベルマン相手にすんのとなにが違うんだ。俺がトップブリーダーならドーベルマンを選ぶだ  
ろうね。  
「よって、私があなたを『開発』する」  
 と、長門は言った。  
 トンデモ理論だと思うが、こいつの言ってることは理解できる。トンデモなのはハルヒの頭も同じなんだろうし  
、納得できる部分もある。  
 
 
 でもな長門。  
 ズボンに思いっきりテント建てた状態で言っても説得力無いと思うんだが。  
 
 
 続  
 

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