この炎天下の中、毎度の不思議探しは今日も絶賛続行中だ。  
俺の耐熱性能を試すような太陽は心なしかクスクス笑っているようにも見える。  
畜生、とっとと地平線のマットに沈みやがれ。  
「まあまあ、今日は珍しい組み合わせですし気分転換にいいじゃないですか」  
と涼しげな古泉の声だが、こいつの声は妙に体内温度の上昇を煽る。  
黙ってろ、と言わんばかりの俺のオーラを察知したのか大げさに肩をすくめやがった。  
隣を歩く長門は相変わらず無表情でそんなやり取りを眺めているように見えた。  
「確率を調整している」  
俺の視線に気づいたのかぽつりと長門が漏らす。  
「この組み合わせは意図的に回避している、今日は例外」  
古泉はやっぱりそうでしたか、と水を得た魚のように、  
「朝比奈みくるではいざという時の対処に問題がある、違いますか?」  
「違わない」  
あれやこれやと長門と話を始めた。  
二人のやりとりを聞いている限り、こいつらは結構波長が合うんじゃなかろうかと思う。  
もし朝倉のような急進派宇宙人やら機関の過激派やらがハルヒに”アプローチ”した際、  
長門か古泉(というより機関だな)ができるだけ側にいるべきだろう、ということらしい。  
朝比奈さんには聞かせられん内容だが納得できる話ではある。  
しかしそうすると今日は例外、というのはどういうことなんだ。  
「おい長門、例外ってのは何なんだ」  
「話しておきたい事がある」  
それで一路マンションへと歩いていたのか。  
ひとりごちていると古泉が横槍を入れてくる。  
「これは僕も呼んで頂けた、と考えていいのでしょうか」  
「そう」  
即答で肯定した長門の言葉にあからさまにワクワクし始める古泉。  
いい歳こいて童心を振りまくな。  
 
そろそろマンションも見えてくるな、というところで事件の幕は開ける。  
──ばちん!  
目の前に風を感じた、と思ったら視界の下のほう、アスファルト上に火花が散っていた。  
無意識に仰け反っていたらしい、体勢を戻そうとして肩を掴む古泉の手に気がついた。  
いやこいつが引っ張ったのか。  
「おい、何す──」  
古泉の手がさらに強く俺の肩を引き、足は長門のソバットで掬われる。  
当然良い勢いで地面に転がされ、その際一瞬だけ見えた光景に唖然とした。  
倒れる瞬間の映像、青空とそこに見える黒くて長細いもの。  
記憶上で何度もコマ送りしてみるがその物体は1コマしか映っていない。  
高速で飛んでいるらしい。  
アスファルトにぶつかって火花を散らしたようだ。  
それって堅いんじゃないのか。  
しかも尖ってるっぽいし。  
下腹から心臓のあたりに冷えた圧迫感が駆け巡る。肝を冷やすとはこのことか。  
「て、鉄砲!?」  
一瞬の事のように思えたが俺はずいぶん長いこと動けないでいたらしい。  
気が付くと長門はかなり離れた場所にいて、古泉は険しい顔で辺りを睨んでいる。  
一体何なんだこれは。  
さっぱり理解不能だ。通行人が立ち止まってハテナ顔をしているのも頷ける。  
「狙いは長門さんのようです」  
待て古泉、それはどういうことだ。  
おい説明しろ、無理やり抱き起こすな、俺は自分で立てる手を離せ。  
ぎん、と高い音とを立てて目の前のガードレールに穴が空く。  
おおおおおお前いま長門狙ってるっててて言わなかったかおい。  
どこか隠れる場所は無いのか!  
右左と高速で確認すると森さんが右に、古泉が左にいて二人とも俺の腕を抱えている。  
なんで森さんがここに。お久しぶりです。  
この状況を誰か説明しやがれこんちくしょう、と叫ぶ間もなく。  
俺は目の前に停車した車の後部座席にぶちこまれた。  
 
「涼宮さんの確保を」  
ハルヒが朝比奈さんと歩いているはずの駅西側へと車は爆走する。  
運転は森さんだ。  
車中にてやっと少し落ち着いた俺は古泉の(推測交じりの)説明を聞いた。  
どうやら敵対的で過激な何者かの襲撃を受けてしまったようだ。  
降り注ぐライフルの雨の中なんとか森さんの到着まで持ち堪えた。  
長門がかなり頑張って防御してくれていたらしい。  
「どうやら狙いは長門さんのようです」  
俺を狙ってる弾もあったぞ。  
「おそらく貴方を狙う事で長門さんを牽制していた、と考えています」  
長門が攻勢に出ようとする度俺を狙い、防御させていたらしい。  
「TFEI端末との戦い方を知っている者の犯行には間違いありません」  
古泉曰くTFEI端末、つまり宇宙人が本気を出すと地球上全域を即時攻撃できるらしい。  
まともに戦うと勝ち目は無いため攻撃よりも防御を優先させるように仕向ける。  
この場合は俺を狙う事で攻撃より守る事の優先順位を引き上げた、ということか。  
自分のお荷物さ加減に落ち込みそうになっていたその時。  
「ハルヒさんを見つけました」  
森さんの声とあわせるように、全く脈絡無く俺の体が物理的に沈んだ。  
俺ってこんな落ち込んでいたのか。  
いや違う。  
「──さんッ!!」  
おお古泉、俺を本名で呼んでくれるのか。  
車床に引きずり込まれる俺に手を伸ばしているが届かない。  
超能力でもっと手を伸ばせ、使えない奴だ。  
 
さすがに見慣れた、という程悟りを開いてはいないが多少は慣れた。  
あの感覚の行き着く先と言えば兎に角まともな場所だった試しが無い。  
今もそうだ。周りを見渡せども幾何学模様の壁ばかり。  
床も複雑な模様が蠢いていて、ともすれば平行感覚すら怪しくなってくる。  
先程までの車内の様子はもちろん、町並みも何もありはしない。  
ただそこには──  
「あーあ、最後の力だったのに。この子何考えてるんだろ?」  
やけにフランクな長門がいた。  
 
制服、カーディガン、小柄で華奢な体型。どれを取っても長門だ。眼鏡もかけていない。  
しかし表情が違う。愉悦の顔なんぞあいつは浮かべたりしない。  
話し方も違う。ぶっきらぼうにも取られがちだが不快感を与えたりしない。  
「クエリ使い切ってまで引っ張ってきたのがただの人間って、判断バグってるんじゃない?」  
どす、と無造作に足元の何かを蹴り飛ばす。  
人の形をした何かがごろりと転がった。  
「長門!」  
俺の視力が落ちてなければ、それはいつも知っているほうの長門だ。  
あちこちに銃で撃たれた傷がありべっとりと血がついている。  
湧き上がった自分の殺意に眩暈を覚える。  
「てめぇ、何を……」  
何をしてやがる。何者だ。  
人生2度目の金縛りのせいで最後まで言えなかった。  
と同時に大体の事情がわかった気がしてくる。  
長門とそっくりなのは理由がわからないが、宇宙人なのは間違いない。  
「ま、早い話が当番交代ってやつ?」  
うつ伏せに倒れる長門の頭を踏みにじりながら偽長門が講釈を垂れる。  
てめぇぶっ殺すぞ! と気迫だけは溢れる俺だがどうしても体は動かない。  
動けよヘタレ俺!  
「人間なんて70万時間で腐っちゃうのにこの子ったら遊んでばっかり」  
偽長門が長門の髪を掴んで引きずり起こす。  
「しかも身内殺しの犯罪者。お目付け役が居たんじゃ煩くて遊べないから  
 3年も尽くしてくれた自分のバックアップを殺しちゃったんだよ? 悪い子でしょ」  
偽長門は俺を見てにやりと笑う。  
「貴方を殺せばこの子も一寸は反省してくれるかな?」  
ぎょっとした。朝倉と同じパターンかよ!  
逃げないと、と動かない体で危機感だけが空ぶる。  
「と思ってたんだけどね」  
にやにや笑いがさらに陰湿さを帯びる。やめろ、長門の顔でそんな笑い方をするな。  
「貴方を殺すと涼宮ハルヒがどう動くがわかんないしねぇ」  
私あの子みたいに無謀じゃないもん、と小さく付け加える。  
くそ、おい長門、なんで動かないんだよ。  
そんな撃たれた程度でくたばるようなお前じゃないだろ。  
飛び起きてこの偽者をぶん殴れ、いや動けるようにさえしてくれりゃ俺が殴る!  
 
「ギャラリーがいるっていうのも悪くないわねぇ」  
引きずり起こした長門を偽長門が膝立ちになって後ろから抱え、服の前を引き裂いて脱がせていく。  
「ねね、この子とHした? 可愛いからレイプしちゃった?」  
してねぇよくそ野郎!  
「黙ってるって事は図星なのかなー」  
お前が黙らせてるんだろうが。殺意は山ほど降り積もるがそれでも呪縛は解けない。  
アニメみたく強い精神力で打ち破れたりしないのかよ、この金縛りは。  
裂かれた制服からあらわになった長門の肢体には銃痕が痛々しく咲いている。  
長門が気を失っているのを良い事に、わざわざ俺に向けて足を開かせゆっくり下着を剥いでいく。  
見ちゃいかん、とは思うのだがぴったり閉じたスリットに目線は釘付けになる。  
「せっかく可愛く作ってあるんだし、すぐ分解しちゃもったいないでしょ」  
スリットを指でなぞりながら首筋に舌を這わせる。  
ぴくり、と長門が動いた。  
やっと起きたか、と期待したのだが。  
「目を覚まそうと頑張ってるみたい、かわいいと思わない?」  
でも無理なんだよね、と偽長門は言葉を繋ぐ。  
「フリーズさせるのに苦労したんだもん。まだまだ眠っててもらわないと」  
ぐにっと広げられたスリットは空間の幾何学模様が発する光を少し反射していた。  
その深い部分に細い人差し指がそっと差し入れられる。  
「やっぱりもっと濡らさないと指一本でもキッツいね」  
ぐぐっと根元まで指が納まろうとした時、長門の苦悶の顔を始めて目撃してしまった。  
全身を串刺しにされても平然としていた奴なのに。  
「あっはっは。やっぱりフリーズしてるとモロに顔に出ちゃうのね。  
 普段のやせ我慢っぷりはすごいからねぇ」  
そのセリフに愕然となる俺。  
目の前で長門が串刺しになっているあの光景がフラッシュバックした。  
そうだよな、やっぱり痛いよなアレは。  
「うーん、なかなか濡れてこないなぁ」  
面倒になってきたのか偽長門の手つきがだんだんと粗くなってくる。  
膣内の指が暴れる痛みに、長門はじっと耐えているようにも見えた。  
「面倒くさい」  
ぽつりとそう呟くと容赦なく中指も突き入れ膣内をかき乱す。  
「ぃ、ああっ!」  
びくん、と仰け反った長門の股間から血が噴き偽長門の腕を伝った。  
痛みに収縮した肺の押し出した空気が悲鳴になって漏れ出る。  
激しく痙攣する長門の体を体重をかけて押さえ込み、指を曲げてさらに膣内を責め立てる。  
ぐちぐちと嫌な音が響き血が泡だって飛び散り偽長門の服に赤い水玉ができていく。  
こいつ、まさか中で爪を立てて……!  
「ああ、痛がるこのレアな表情がたまらないわっ」  
泡を吹く長門の口元を恍惚とした顔で舐め取る。  
「死ぬ前にロストバージンできてよかったね。あっちの男の子じゃ期待できそうにないしね」  
どういう意味だそれは。  
「ついでに2穴責めも体験させてあげる。幸せに昇天してね」  
そういって空いていた左手をもう一つの穴へと向かわせ──  
 
やめろド畜生!  
と叫んでやりたかったが、やっぱりどうにもできないんだよ。  
今数トンのトラックが俺の上に乗っかっていても跳ね除けて長門に駆け寄る自信がある。  
しかし指一本動かせない。この呪縛は力の問題では無いんだろう。  
「こっちは濡れ濡れだもん、簡単に入るよね」  
そう言って偽長門は胸の銃痕に左手の中指を突き込んだ。  
「……!!」  
全身がかくりと一度大きく痙攣し固まる長門、大きく開いた口からは悲鳴すら漏れない。  
いや悲鳴の代わりに、一瞬遅れてゴボゴボという音と鮮血が溢れた。  
「ねね、イキそう? イキそうなんでしょ?」  
こいつは完全に狂ってる。朝倉みたいに目的意識の結果という感じではない気がする。  
子供が玩具を見る目で、胸に突き立てた指を一本、また一本と増やしていく。  
盛大に噴く鮮血とどす黒い動脈の血が俺の足元まで飛び散ってきた。  
偽長門は右手を膣から胸に移すと、傷痕をこじ開けるように力を混める。  
肉の断裂する音、皮膚の避ける音。そしてごきり、という鈍い音。  
「ね、見てよこれ、こんだけ体が細いと肋骨もすごく細いでしょ!  
 でも圧縮テクタイト並に堅いんだよ、これと比べたらダイヤモンドもお豆腐だもん」  
赤い線のまとわりついた白くて細いものをぷらぷらと見せびらかす。  
そんなものを折ったのか、おまえすごい怪力だな。  
違う。  
じゃあ長門はどうやっても骨折はしそうに無いな、安心したよ。  
違う。  
テクタイトって何?  
違う。  
思考が空回りしている。目の前の光景を理解できていない。  
しっかりしろ俺。まだ致命傷じゃないはずだ、今のうちに自分にできることを考え直せ。  
長門を助けるにはどうすればいい、どうすれば。  
ハルヒの変態パワーの0.001%でもいい、あんな特殊能力が俺にもあれば。  
「あんまり遊びすぎてひょっこり起きちゃうと面倒だし、そろそろ分解しちゃおうかな。  
 あの男の子も情報化して一緒に送信してあげるから安心してね。  
 私ってばまさに恋のキューピッドよねぇ」  
くそ、ハルヒ! 団員が危機なんだぞ、団長様だろうが! 助けにこいよ!  
 
<<そのまま涼宮さんへのイメージを固定して下さい>>  
 
顔が違いなんてレベルじゃない。  
網膜に顔、鼓膜に声。古泉、ちょっと離れろ。  
<<涼宮さんにもう一度呼びかけて>>  
幻聴かもしれないが、この不快感は間違いなく古泉の声と顔だ。  
ならばやってみる価値あるのかもしれない。  
やってやるから離れろ。  
息を吸い込む。どうせ金縛りで声なんて出ないさ。  
それでもいい。聞け。聞こえろ。いや聞き取れ。  
 
「   ハ   ル   ヒ   !   」  
 
声が。  
 
出た。  
 
突如空間の一部に巨大な裂け目ができる。  
模様で掴み取れなかったが、裂け目のおかげで壁の高さが数百キロあったことが解かった。  
「マジで!? 強制アクセスなんて不可能なはずよ!」  
驚いた顔で、すぐさま長門を投げ出して身構える偽長門。  
この空間に誰かが裂け目を作って侵入してくるなんざ予想外だったんだろう。  
裂け目の奥で赤い光がぎらりと光る。  
<<TFEI端末と戦えるなんて光栄ですよ>>  
空間に響く古泉の声を尻目に俺は長門に駆け寄る。  
痛々しいその体を抱き起こそうとした時、頬に強い風を感じた。  
偽長門のほうを見ると、朝倉が武器にしていたような白い槍状のものが生み出されている。  
その数は尋常ではない。強い風を伴いながら視界を埋め尽くす程、数千本が次々と出現した。  
「あと一言だけ格好つけさせてあげるよ、イケメン特異体さん」  
<<ありがとうございます>>  
まさに古泉の一言が途切れた瞬間、その数千本の槍が空間の裂け目に飛び込んだ。  
どむ、と重い破裂音がして空気が震える。可聴域を越えた爆音がびりびりと鼓膜を振るわせる。  
 
刹那、首から下を分解された偽長門の生首がごろりと転がった。  
空間の裂け目とは全く無関係な場所から飛び出してきた火の玉古泉の体当たり。  
それが見事なまでに直撃した。  
そんなバカな、という形に生首の唇が動く。そこだけはお前に同意してやってもいい。  
間髪いれずの2度目の火の玉特攻で偽長門は光の塵となった。  
 
暑い。  
気が付くと全身汗だくで俺はビルとビルの間、路地裏に寝込んでいた。  
これじゃ浮浪者じゃないか。  
さっきまでのあの状況はどうなったんだ。  
早く長門を起こして再構成とやらをさせてやらないと死んじまうぞ。  
「もうへいき」  
「おわっ」  
いきなり近い所から声がかかって息が止まりそうになる。  
寝転がった俺を膝立ちになった長門が覗き込んでいた。  
「ちょっとキョンを見つけたってどこなのよ!」  
「キョンくーん!」  
遠くからハルヒと朝比奈さんの声が近づいてきた。  
路地から大通りのほうを見ると古泉と森さんが手を振っている。  
「こちらですよー!」  
森さんはハルヒ達に。  
古泉は俺達に。キモい。  
 
「もう、自分の住んでる街で迷子なんて信じられないわ!  
 成績が悪いのは知ってたけどアホとバカは違うんだからねっ!!  
 こんど団長及び団員に迷惑やら心配をかけたら死刑よ死刑!」  
 
事情がよくわからんままハルヒにこっ酷く怒られてしまった。  
「キョンくん、私の家に地図があるから今度部室に置いておきますね」  
ああ朝比奈さん、貴方の気遣いが今日は恨めしく思えます。  
「童心に返るのも結構ですが迷子には注意してくださいね」  
てめぇ古泉、今回はなんとなく命の恩人っぽい気もするがやはり許せん。  
 
「説明しろ」  
翌日。部室に俺の不機嫌な声が響く。  
タイミング良くハルヒも朝比奈さんも掃除当番だ。長門の仕業で間違いない。  
「過激派の一派が私と同じ形態の端末を作成、監視役の交代を図ったのが原因」  
街中でわざわざ狙撃なんてややこしい手段を採ったのは、ひとえに長門を封じるためだったらしい。  
「一般の人には知覚できないように環境情報を操作しないといけません。  
 騒ぎにでもなれば涼宮さんが放っておきませんからね、非常に面倒になります。  
 そのため我々を守りながら周囲を操作し……」  
手振りで長門に話を振る。  
「狙撃自体に攻撃的な意味は無い。私の処理分散が目的。  
 攻撃の主体はあの最中、攻勢情報として直接行使されていた」  
その後よくわからん二人の説明が延々と続いて、最後のほうのまとめでやっと理解に至った。  
「つまりかく乱した後、その隙を突いた強力な攻撃で長門さんを停止させてしまった訳です」  
そして停止する瞬間、俺を探し出して空間に引きずり込んだという事か。  
なんで俺だったんだとは聞かないでおこう。  
たぶん一番近かった、とか何かだろうからな。  
「いや、あの時は焦りましたよ。  
 ちょうどハルヒさんを見つけた所だったのが救いでした」  
「なんでハルヒを見つけると救われるんだ。あのハルヒを呼べってのは何だったんだ」  
長門がすこし複雑な顔をして説明を始める。  
いや、いつもの無表情にも見える、気のせいか。  
「古泉一樹は涼宮ハルヒに貴方が迷子になったと伝えた。  
 その結果貴方を探そうとする強力な意思が働き、彼女の無意識が空間を繋いだ」  
「ただハルヒさんとしては『あっちにいるかもしれない』という程度の認識でしょうから。  
 貴方を閉じ込めた空間を見つけながらも、自信が無いため扉を開くには至りませんでした」  
しかし、と古泉が大仰な手振りをする。  
「貴方が涼宮さんを呼べば彼女のなんとなく、という気持ちが確信に変わる。  
 そう思ったんですよ、根拠も何もありませんがね」  
「涼宮ハルヒに論的、物理的、情報的、他一切の根拠は通用しない」  
その結果空間は繋がり、入り口以外の所から華麗に奇襲した古泉の作戦勝ちで勝利となったらしい。  
そうだよ、あの裂け目が唯一繋がった入り口じゃなかったのか。  
「空間に置いて入り口出口というのは概念的なものでしか無いんですよ」  
さっぱりわからん。というよりはぐらかしてないか?  
 
ただ──長門がちょっと驚いたような表情をしていたように見えた。  
 
TFEI端末に勝ったのがよほど嬉しかったんだろう。  
古泉特有の笑顔な鉄火面の下からは嬉しさがにじみ出てるのがよく判ったし、  
実際数日たった今でも上機嫌のように思える。  
そんなだから、余計に長門の元気が、あれから無いような気がしてならない。  
気にするな、俺は何とも思っちゃいないさ。  
今頑張って忘れている真っ最中だし、何なら記憶を消してくれても構わない。  
あんな姿を見られちゃそりゃ落ち込むのもわかる。  
「違う」  
視界の端で古泉がやれやれ、と首を振っているのが見えた。  
何か言いたいことでもあるのかお前は。  
幾ばくかの沈黙の後、長門は視線を本に向けたままで答えた。  
「あのとき、私の名前も呼んで欲しかった」  
 
「僕もお願いしたかったですね」  
ナイスフォローかもしれんが軽く殺意を覚える。  
 
〜終〜  
 
 
 
 
 
 
「そういえば俺はなんであの時声を出せたんだ?」  
「愛の力、ですよ」  
埋めて欲しい山か沈めて欲しい湾の名を揚げろ。  
 
〜おわり〜  
 

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