さて、自分が置かれている状況を整理してみよう。  
 俺はいま何をされているのか。  
 まず、鶴屋さんに羽交い絞めにされながら、朝比奈さんには劣るがそれでも十分豊かなふくらみを押し付けてられている。  
 次に、目の前にいる上目づかいの長門に腰に手を回され、がっちりロックされている。  
 そして、その二人からボディーソープを塗りたくった体を擦りつけられている。  
 前後からそれぞれ小ぶりなヘチマスポンジと豊満なヘチマスポンジに洗われている。  
 つまり、泡踊りというプレイじゃないのかこれは? しかも二人同時に。  
 なんだ天国じゃないか。  
 と、素直に喜びたいのだがそうもいかなかった。腰に巻いたタオルが二人の刺激でいまにもずれ落ちそうなのだ。  
 いま落ちたら確実に見られる。  
 誰に? 長門に。  
 何を? 直立しつつある俺の息子だ。  
 むしろ、さっき長門のてっぺんからつま先まで見てしまったからこちらもそうするほうがフェアなのか?  
 そうやって長門の裸体を思い出し、それが目の前で小刻みに上下に動いて擦りついてくるさまを見て  
 俺のモノの角度が最高潮に達してしまったときだ。  
「キョンくんだけ隠してるのはずるいなぁっ」  
 はい? そう言われて、首から上だけひねって後ろを見てみると、  
 鶴屋さんがここに入ってきたときに前にかけていたバスタオルは  
 頭の上に乗せられていた。頭から少しはみ出してますよ鶴屋さん。  
「とっちゃえっ!」  
 一瞬のうちに俺のタオルは剥ぎ取られ、ボディーシャンプーと同じ軌跡を描きながら  
 女湯の方へほうり投げられてしまった。あの質量の回収は現時点では不可能だ。  
 あわてて隠そうとするが、いかんせん俺の両手は鶴屋さんによって封じられている。  
 本気で振りほどこうと思えば不可能ではないがそんな失礼なことはできないだろう。前には長門もいるしな。  
 あらわになる俺の息子。  
 見られている。まじまじと見られている。  
 
 何か言ってくれ長門。こっちは顔から火が出そうなほど恥ずかしいんだ。  
 やがて、もの問い気な目で俺の顔を見上げてくる。  
 こんな状況下では男はこうなるのが自然だ。俺が変態だからではないぞ長門。  
 だが、その長門の次の行動は俺の考えなど超越していた。  
 へその辺りを俺のモノの先端に押しつけてきたのだ。  
「――っ! な、長門!?」  
 反射的に腰を引くが、すぐ後ろには鶴屋さんの下腹があり逃げ場はなかった。  
「じっとしてて」  
 長門にそう言われてしまったら、そうするしかない。  
 天然のスポンジによる洗浄はついに俺のモノにまで及んだ。  
 亀頭が軽い痛みを感じる程、へその周りに強くあたっている。  
「お客さんっ、どっかかゆいとこはあるかなぁっ?」  
 そう言いながら鶴屋さんは執拗に俺の胸板や腹筋を触ってくる。  
 股間のあたりがかゆいというよりも、うずいているのですが――。などとは言えるはずはない。  
 ああ、俺はこのまま極上のサンドウィッチの具として果てるのか、  
 またはこの二人の猛獣によって前後からかじり殺されるのか。  
 
 そこでふと、あることに気づいた。  
 二人ともさっきから俺に触りまくっている。当たり前だ。二人とも自分自身を使って洗っているんだからな。  
 ならその逆もありじゃないか? そう俺の中の欲望がささやいた。  
 ごくり、と唾を飲み込む。  
 自由になった右手を伸ばす。その先は長門の死角になっている部位だ。  
 およそ俺の体の中で一番器用に動き、かつ鋭敏な感覚を持つ指が長門の太ももの後ろ側に触れた。  
「んっ……」  
 わずかに長門の体が震えた。そのまま尻にかけてまでゆっくりと撫であげる。  
 まるで壊れないプリンに触っているような感じだ。指先からは触られているのとはまた違った快感が伝わってくる。  
 散々もてあそばれているんだ。こっちもこのままささやかな反撃をさせてもらおう。  
 
「あ、…だめ」  
 確認しておくと、俺たち三人は立ったままだ。  
 そして床はボディーソープによってスケートリンクより滑りやすくなっている。  
 昔からこういう大きな風呂場で走り回ったりすると怒られたものだが  
 水で濡れた床はただでさえ滑りやすい。  
 うかつだったな。もっと足元に気をつかうべきだった。  
 つい夢中になって長門の方へ寄りかかりすぎたのが原因か、  
 俺は足を滑らせ長門に倒れかかった。  
 事故に会った直前か直後の人間には自分の動きがスローに見えるというが、  
 いまの俺がまさにそうだった。  
 まずい、このままでは長門が床に後頭部をぶつけるかもしれん。  
 体中を串刺しにされても平然としているくらいだから  
 この程度はこんにゃくゼリーに頭をぶつけるのと同じなのかもしれないが、  
 だからといって何もしないわけにはいかないだろう。  
 とっさに左手で長門の後頭部をかばい、さっきまで尻を撫で上げていた右手は背中の辺りに回す。  
 ごんっ、という音が響く。当然のごとく両肘を強打した音だ。痛ぇ。  
 先に手を床に付けばよかったな。  
「ぐっ…。大丈夫か長門」  
 鼻先からわずか数センチの距離にある長門の顔は、やはり平然とうなずく。  
 まずいなこれは近すぎる。首をちょっとでも傾ければキスをしてしまいそうな距離だ。  
 できればしたいさ。だがこんな状況ではな。  
「わっととっ、怪我はないかな二人ともっ」  
 ええ、大丈夫です。  
 しまった、鶴屋さんまで巻き込んで転倒してしまった。  
 もしこれでどちらか一方にでも怪我をさせていたら  
 俺は責任を取って婿養子にならねばならんとこだった。  
 
 さて鶴屋さん。全員無事だったところでそろそろ解放してくれませんか?  
 もう十分きれいになりましたし、長門の刺激で俺のモノが限界に近づいているので  
 一歩間違えば暴発してしまいそうなんです。  
「んーん。まだだよっ」  
「だめ」  
 長門までそんな殺生な。  
 鶴屋さんは俺を間に挟んだまま長門を抱きしめ、ますます三人の体は密着した。  
 俺は両肘で腕立て伏せをするような体勢で耐える。  
 さっきから両肘がズキズキと痛むが、ここで長門に倒れこむと  
 俺と鶴屋さんの二人分の体重のいくらかでのしかかってしまうことになるからな。  
「くふっ」  
 この笑い声は…。また何かするつもりなんですか?  
 これ以上どうやって俺で遊ぶつもりなんですか?  
 いくら先輩とはいえ、されるがままでいいのかと思案に耽る。  
 だが、この状況では思考なんて無意味だとさすがの俺も気づいたね。  
「そりゃっ」  
 威勢のいいかけ声とともに、鶴屋さんはその広いおでこで俺の後頭部を軽く押した。  
 するとドミノ倒しの要領で俺の顔は前に傾く。その先は――  
「! んむっ、うぅっ!?」  
 長門の小さめな唇だった。前歯がこすれ合う音が頭に直接響いてくる。  
「ぷはっ!!」  
 ファーストキス、なのか? これは。どう、なんだ? …長門。  
 さっきよりもさらに近くに見える長門の瞳は潤んでいるように見えた。  
「んじゃっ、最後の仕上げだね。ここは念入りに洗ったげないとさっ」  
 わずか二秒程度の出来事が心に強く残り、鶴屋さんの声なんて全く聞こえなかった。  
 だがその間に鶴屋さんの手が長門の手首を握って、ある場所へ導く。  
 そこは長門の下腹と俺の下腹に挟まれて体とほぼ平行なって屹立したモノだった。  
「え? おい! なにを…」  
 体の間には隙間なんてないのに、その細い手を無理やり滑り込ませてくる。  
 長門が直接俺のモノに手を添えている。やがてもう片方の手も添えられ、そのまま擦りあげた。  
 
「うあ…」  
 そして両手を根元までおろす。ゆっくりとした速さで上下運動を繰り返す。  
 単純な動きだがもうそれだけでイってしまいそうな快感が伝わってきた。  
「気持ち、いい?」  
 耳元で長門が聞いてきた。  
「あ、あぁ。とても、な」  
「そう」  
 じょじょに長門は手の動きを早めてくる。まずい、このままでは。  
「や、やめろ。もう限界で、その…出そうなんだ。お前にかかっちまう」  
 だがそんなことはおかまいなしに長門は尿道の部分を親指の腹でこすっている。  
「く…、やめろって」  
「いや」  
 どうしてこんなときだけ聞き分けが悪いんだこいつは。  
「キョンくん、長門ちゃんに言われたとおりおとなしくしてなよっ」  
 だが、こいつに対してそんなことはできない。  
「お前を汚しちまう」  
 長門はまっすぐに俺の目を見た。  
「いい」  
 なにがいいんだよ?  
「あなたなら、いい」  
 もう、何も言えなかった。全てを長門に委ねる。  
 長門は亀頭の付け根をぎゅっと握り締めた。  
 それがスイッチだった。ビクン! と全身が震え、目の前が白くなる。  
 堰を切ったように白濁があふれ出した。長門のへそから胸、さらには頬あたりまで汚していく。  
「あ……」  
 長門はそれを指ですくい取るとぼんやりと眺めている。  
 俺は長門を汚してしまった罪悪感と同時に、何か言葉では言い表せない気持ちの高ぶりを感じていた。  
 やがて視界がぼやける。そういえば忘れていたが俺はさっきまで風呂でのぼせていたんだった。  
 この出来事が夢ではないことを祈りつつ意識は闇に沈み、俺は長門の上に倒れこんだ。  
 
 …  
 ……  
 ………  
 ぼやけた暖かい光がまぶたの裏を照らしてる。  
 ここはどこだ? 俺は何をしていたんだ?  
 頭がまだ3分の2ほど寝ている。こんな状態じゃまともな思考ができんな。  
 いまの俺は何も身につけていない。つまり裸だ。裸のまま仰向けに寝ている。  
 ということは風呂でのぼせて気を失ったのか。それ以外の理由でスッパで寝ていることそうそうないからな。  
 だが待て。  
 家の風呂場はこんなに天井は高くないはずだ。それにこんなでかい照明も取り付けられてなかった。  
 しかし……、よく眺めてみると知らない天井というわけでもないな。  
 この照明器具の明かりには見覚えがある。  
 だんだん意識がはっきりしてきた。  
 そうだ。ここは鶴屋さんの別荘の大浴場だ。たしか湯船に入ったまま寝ちまったんだ。  
 そして、起きたら長門と鶴屋さんが裸で現れて…。  
「んなアホな」  
 冷静に考えて一介の高校生である俺にそんなエロゲー的な出来事が起こるはずはない。  
 はずはないが…、一抹の希望を込めて脚を伸ばしている先にある湯船を目だけ動かして見てみた。  
 誰もいない。  
 まあ、そりゃそうだろ。俺もだいぶ欲求不満らしいな。  
 最近になってこんな風にリアルな夢を頻繁に見るようになった。中一の頃、夢精してた頃の再現のようだ。  
 あくまで夢なのでどれもこれも「ありえねー」と叫びたくなる代物ばかりなんだが。  
 朝起きたら、隣に長門がシャミと一緒に裸で寝てた、とかな。  
「やれやれ」  
 いつだったかハルヒに対してタブー指定した言葉も、ひとり言でつぶやくならかまわんだろう。  
 
 どのくらい寝てたか知らんが、あまり長湯しすぎるとハルヒがこの女子禁制の湯殿に乱入してこないとは言い切れないので  
 さっさと起き上がろうとするがなぜか首から上がびくとも動かない。  
 なんだ、これは?それに床だと?たしか俺が居眠りしていたであろう場所は湯船だったはずだ。  
 一歩間違えて沈んでしまえば二度と浮き上がってこなくなることもあるから誰かが引き上げてくれたのか?  
 おまけに頭の下には何かやわらかい物がある。枕なんぞ持ち込んだ覚えはない。風呂場に枕なんて持ち込むのは  
 秋葉原に熊避けの鈴を付けていくのと同じくらいナンセンスだ。  
「まだ、動かないほうがいい」  
 目の前に長門の上下逆さまの顔が現れた。いつもどおりのあまり抑揚のない声で。  
 つまりは長門に膝枕された状態で、頭を両手で固定されてるから起き上がれなかったわけだ。  
「長……門? なんでここにいるんだ?」  
 そっちから見ても逆さまになっているだろう俺の顔を覗き込んでいる長門に、半ば自分で理解しつつある状況を問いかけてみる。  
 ようするにあれは夢ではなかったってことになるのか?  
「あっ、キョンくん気づいたっ!?」  
 長門の後ろからいつものマイルドかつフレッシュなハイテンションボイスが響く。  
 普段、寝ているときに見る夢は、目覚まし時計の安息の終わりを告げる慈悲のかけらもない音や  
 妹のソプラノリコーダーに思いっきり息を吹き込んだような声によってその形を失い、  
 砂粒ほどの断片しか記憶に残らない。  
 しかしこれは全くの逆だ。  
 二人の声で意識がはっきりする程、気絶する前の出来事を鮮明に思い出し、やがて色彩を帯びてくる。  
「いやぁ、ごめんねっ。ちょっとやりすぎちゃったかなっ?」  
 サービスも度が過ぎれば毒になりますよ鶴屋さん。むしろ麻薬と言うべきか。  
「で、あたしたちの具合はどう?良かった?」  
 どう答えたものだろうか…。悪かったなどと失礼な事は言えないし、だいたいそんなことは毛頭思ってない。  
 しかし、正直に良かったと答えるのもアレなので答えに詰まってしまう。  
 
「ま、いいやっ! それより体拭いたげるからおとなしくしててねっ」  
 鶴屋さんは冷水を浸したタオルで俺の額や首筋を、でかい屋敷のメイドがご主人様の大切にしている高価な壷を  
 磨くような手つきで拭いてくれた。火照った体に濡れタオルは絶妙に気持ちがいい。  
 もしかして俺の意識が戻るまでずっと介抱していてくれたのか。  
 なんとなく気恥ずかしくなり視線を下に向けると、そこには俺のスッパの下半身が見えた。  
 反射的にタオルか何かないか周りを探そうとしたが、やめた。  
 もう今さらだ。尻の穴以外は余すところなく見られてしまっているだろう。  
 それに長門のただ添えられているだけの両手は、俺が動こうとしても1マイクロメートルのズレも許さない精密機械のように  
 頭を固定し続けているからな。  
 なんとなく、これを至福の時と言うのではないだろうか。二人がかりの泡踊りは言うまでもないが、  
 こうゆったりとしたのも日々、平穏を求め続ける俺にとってはアルカディアに等しい。  
 何よりも長門の膝枕だ。朝比奈さんのが優しく包み込むようなら長門のはひしと強く抱き締められるような感じだ。  
 昔まだいたいけな少年だった俺は、デパートのベテラン店員の売り言葉に騙されてクリスマスと誕生日の  
 プレゼントを統一する代わりに前倒ししてもらい、横から見るとひょうたん島の形をした安眠枕を購入した事があるが  
 そんなもん修学旅行の夜の物資として寄贈したい。もしくはシャミセン用の座布団かな。  
 このまま眠りにつくと上位世界に到達できそうだがそうも言ってられないな。  
 海ガメを助けた好青年にならって楽園に長居しすぎると法外なツケが回ってくるものさ。  
 こんなとこをハルヒに見られでもしたらこの姿のまま外にほっぽり出されるかもしれん。  
 そうなれば自力下山して警察のお世話になるか雪男の養子になってお世話になるかしか生き延びる道がなくなる。  
「あの鶴屋さん、もう大丈夫ですから。起き上がれますよ。長門も、もういいから」  
 鶴屋さんは少し渋った顔で、  
「んんっ!ほんとにっ?これ何に見える?」  
 細くぴんと伸びた指で形作ったのは影絵で狐を表すときのものだ。  
 こういうときは普通指が何本見える?と聞くのではないでしょうか。  
 
「うん。じゃあもういいかなっ。のど乾いた?水持ってこよっか?」  
 長門が固定を解いたので、起き上がりながらあまりに甲斐甲斐しい鶴屋さんの気遣いを  
 どう丁重にお断りしようと考えていたところで、再び長門の両手によって至高の枕へ引き戻された。  
 後頭部をコンクリートに打ち付けたのとは真逆の衝撃が全身に走り、あやうくまた昏倒しそうになる。  
「な、長門。もう大丈夫だった言ったろ?」  
 目の前の上下逆の顔はどことなく拗ねた表情をしている気がした。  
「あ、そだっ。今度はキョンくんが長門ちゃんを洗ったげる番だよ。  
 ほら、キョンくんのヌルヌルまだ付いてるかもしんないからっ」  
 ヌルヌルとはおそらく俺のアレのことだろう。よく考えれば目の前で長門に、その……イかされたとこを  
 見られたのってとんでもなく恥ずかしいことなんじゃないか?今さらながら顔が赤くなってくるのがわかる。  
 ぱっと見では長門の体は既に洗い流されていて白いものは付いていない。最初から一糸纏っていない姿もそのままだ。  
 それを見てさっきまでのぼせていたが徐々に本調子に戻りつつある俺のが、ぴくりと反応したのを鶴屋さんが見逃すはずもなく  
 くけけ、と気味が悪いがなぜか心地よく聞こえる笑い声を密やかにあげ、俺はまた赤面するほかなかった。  
 

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