少しして長門が戻ってきた。  
無言でお茶を渡され、徹にも同じように渡される。  
「……………」  
 お茶を飲む。朝比奈さんほどではないが上手い。  
しかしこの空気では話せない。あまりに静かだ。  
外を走る車がどのようなルートを走っているのか想像できるほどだ。  
無言が続く。常人なら絶えられない程度にまで来ている。  
そして俺もその常人であるため、話題を切り込ませるしかない。  
「な、なあ長門、お前は何かないのか?」  
 は?  
「なにが?」  
 何をやっている、俺。徹以上の無口少女、長門に話を振るとは。  
何故話のある徹を無視して長門に話を振ったんだ。  
「いや、話しておくこととか、話したいこととか」  
「特にない」  
 ほら見たことか。このMs.無口に話振った俺が悪い。  
ああ、ほめ言葉だからな。  
「ただ、あなたにあまり関係の無いことならある」  
「ならそれを頼む」  
 話があるのなら何でも良くなっていたので、つい了承してしまう。  
俺はあまりの静けさにおかしくなってしまったのだろうか、いまだに何故話しかけたのか分からない。  
 
「情報統合思念体が伊藤徹に対して緊急態勢をとっている」  
 また徹の話か。前はハルヒが引っ張りだこだったが、今度はこいつなのか。  
「情報統合思念体は伊藤徹の出現を予測しえなかった。  
 あなたの出現はほぼ確実に無きものとされていた。  
 しかし事実としてあなたは現れた」  
 長門は徹を見つめながら話している。徹は黙って聞いている。  
「あなたの出現は涼宮ハルヒの進化の可能性を止めた。  
 彼女はあなたが、つまり異次元人が発見できたことで舞い上がっている。  
 でも、その間の彼女からは何も観測されていない」  
「観測?」  
 徹が問う。  
「涼宮ハルヒは常に爆発的な情報量を生み出す。  
 それが世界を変える力。進化の可能性。  
 しかし、あなたが自分の正体を明かしてからそれが止まった。  
 彼女はもう、世界を変える必要などないと思い始めている」  
 それは俺にとってはいいことだ。  
何しろ、これからはハルヒの無茶に付き合わなくてすむことになる。  
「…なるほど、そういうことか」  
 何か理解したらしく、徹はわざとらしく頷く。  
「俺はやつらにとって価値がある。しかしハルヒもまたしかりだ。  
 どちらかというとハルヒのほうがお気に入りで、  
 俺はその進化を止めてしまった」  
「そう」  
「それをその情報統合思念体だかいうやつらは気に入らない。  
 そういうことだろ?」  
「そう」  
 長門はうんうんと頷く。(ホントはそんなでもないし、微妙な角度だけどな)  
「そいで、一番手っ取り早い方法にでた。それが」  
「伊藤徹の抹殺」  
 俺は息が止まった。ついでに茶でむせた。  
まさか長門、お前徹を殺そうなんて思ってないよな。  
「ない」  
 横に首を振り、否定する。  
「情報統合思念体の中でも意見は割れている。  
 先ほど言ったように、彼を抹殺しようとする党派、  
 涼宮ハルヒに新たな可能性を見出そうとする党派、  
 そして、涼宮ハルヒをこのまま放置しておけば、  
 また飽きて新しいものを探そうとするだろうと考える党派」  
 ずいぶん物分りがいい党派があるものだ。  
「3番目に提示した党派は、涼宮ハルヒと多くのことをともに経験し、  
 現在までで一番の信頼関係を得ているあなたから導き出された答えを基にしている」  
 俺から?俺はお前の親玉に協力していないぞ。  
「情報統合思念体は、涼宮ハルヒ、伊藤徹だけではなく、あなたにも注目している」  
「なぜだ?俺は特殊な力なんて持っていない、いたって平凡な高校生だ」  
 と思うが。  
「あなたは涼宮ハルヒの感情をコントロールする力がある、唯一の存在。  
 私たちにとってはそちらのほうが不可思議」  
 そうかい。まさか長門に俺が不思議なんていわれるとは思わなかった。  
 
「まあとにかく、俺は命を狙われてるって事か」  
 徹がため息混じりで話す。  
「まったく、何で俺は命を狙われやすいんだ」  
 狙われやすい?  
「ああ。最強の魔術師という職業柄、嫌いなやつにはすぐ消されそうになる」  
 職業だったのかよ、それ。しかも正義の味方みたいな言い方だ。  
「悪かもよ?」  
 冗談っぽく徹が言う。  
「そうは思えんが」  
「そうだな」  
 自分で言っといて他人の答えに納得すんな。  
「まあ今日読んだのもこのことについてだ。俺について、話しとこうとね」  
 どうやら自分の正体をはっきりさせて、怪しくないということを証明したいようだ。  
 別にそんなことしなくてもいいと思うのだが。  
「必要なんだ。そこにいる有希も、お前にすぐ正体を明かしたろ?  
 一樹やみくるちゃんもそうだ」  
 いつからお前はSOS団のメンバーを名前で呼べるほどフレンドリーになったんだ。  
「いちいち突っかかるな。話が進まん」  
 じゃあ、手っ取り早く頼む。  
「…わかった」  
 
 
 それでも話が長くなったので省略して解説しよう。  
どうやらこいつは別の世界の日本の東京から来たらしい。  
でも生まれたのはまた別の世界で、その別の東京は兄弟がいるから住んでいるそうだ。  
生まれた世界では国王らしい。どうも疑わしいが。  
この世界に来たのは傷心旅行として。だから朝比奈さんや古泉や長門のように目的があってきたわけではないそうだ。  
 
「そういうことだ」  
 俺の省略解説の約30倍近くのだらだら説明だった。  
「めちゃくちゃな設定だろ?俺も今更ながらふざけてると思えてきた。  
 まあ悪いというわけじゃないし、自分の生まれを嘆いてもしょうがない」  
 そういいながら徹は大きくため息をついた。  
「まだとんでも設定はある。でも今は必要ない」  
 そうしてくれ。これ以上はいくら俺でもたるくなる。  
「ああ、ちなみにハルヒにこのことは全部話しておいたから」  
 …なんだって?  
「心配するな。俺のせいで世界がどうこうなる可能性もない。  
 あいつは俺のことさらに知りたがってたから。  
 しかし面白いやつ。おかげで少しずつ俺も元に戻ってきている」  
 元に戻る、というのは元の性格に戻る、ということらしい。  
長門は俺と徹が話している間ずっと読書をしていた。多分既に分かっていることをいちいち聞くのが面倒なのだろう。  
 
 徹はもう話し終えたらしく、再び黙りこくった。  
そのまますることもなく時間は過ぎ、いい加減帰らないとおふくろがどこからともなく乗り込んできそうなので、帰ることにした。  
「長門」  
「……」  
「帰るからな」  
「…気をつけて」  
 珍しく気の利いた返事だった。  
「ああ」  
 そっけない返事で俺は部屋を立ち去った。  
そういえば徹はこのあとどうするのだろう。長門のうちにでも泊まるのだろうか。  
…そう考えると妙にうらやましくなった。  
 
 
 無事家まで辿り着いた俺は、飯も食わずにベッドに倒れこんでしまった。  
相当疲労が溜まっていたらしく、目を開けていられない。  
俺はまもなく眠りについた。  
 
 
 俺は夢を見た。嫌にはっきりとした夢。  
思い出したくもない場面だ。あの朝倉涼子に笑顔で刺されそうになった時。  
多分その夢だろう、朝倉が近づいてくる。  
「目が覚めた?」  
 目が覚めた?  
夢の中でその問いはないんじゃないか、俺。  
この朝倉はいわば俺の記憶の中にあるメモリー朝倉な訳で、つまりこの朝倉が言うことは俺が考えてることにもなるわけで・・・  
「まだ覚めないの?そんなことじゃ、もう一度私に殺されるかもよ?」  
 朝倉にでこを触られた。すると、一気に意識がはっきりした。  
「ここは夢じゃないの。そして私も」  
 辺りを見回した。まったくあの時と同じ空間。  
コンクリ壁で一面が覆われている、机や黒板しかない殺風景な部屋。  
俺もいつの間にか制服に着替えていた。  
「久しぶりね」  
 朝倉涼子。俺にとっては魔性の美少女が現れた。  
「…俺に何のようだ」  
 少し強気で対応する。もしもの時は長門が来てくれるだろう、そう思ったからだ。  
朝倉はくすくすと笑う。  
「違うわ。今用があるのは貴方じゃない、彼の方」  
 何もない壁を朝倉が指差した。  
するといきなり朝倉の指差す方向の空間が歪んだ。  
いや、俺は歪むとかそういった確かな表現はできないのだが、その言い方が一番近い。  
朝倉が指差すそこだけがねじれ、大きくねじれたかと思うと急に元に戻った。  
そしてそこに、ねじれる前にはいなかった二人が立っていた。  
「・・・・・・」  
 長門と徹は、何事もなかったかのように立ち尽くしていた。  
 
 

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