かつて主(谷川流)は涼宮ハルヒを「核ミサイルの発射ボタンを持たせてはいけない女」と称した。  
 
主よ、私は今日ほど己が愚かで軽率であったか、身をもって知りました。  
悔い改めます、どうか私に救いの手を……  
 
 
その日も、朝比奈さんの美味しいお茶をいただきながら、古泉とボードゲームのウォーゲームを  
うだうだやっていた。  
 
遅れてやってきたハルヒが盤面をのぞき込んで  
「それって戦争ゲームでしょ、核ミサイルで終わりじゃん」  
「そうです、だから現存する兵器ですけど、通常戦力だけに限定して陣取りをやる訳です」  
 
「ふーん」と興味なさげに、ハルヒはネットサーフィンを始めた。  
しばらくして唐突に  
「核ミサイルの発射ボタンってどんな格好してるのかな?」  
どうしたんだ急に  
「小説やネットなんかに『核ミサイルの発射ボタン』という言葉は出てくるけど、画像はちっとも  
出てこないじゃん」  
まあ確かに、言葉はあっても画像は存在しないな  
「涼宮さん、『核ミサイルの発射ボタン』と言う物は存在しないんですよ」  
「どういう事よ」  
我々は愚かにも、それがどの様な結果を招くか知っていたはずだったのに、普段この手のネタで  
しゃべる相手の居なかった、俺と古泉は核弾頭ミサイルの発射がどの様な手続きを経て行われる  
かを語った。  
 
パタン  
長門が本を閉じる音が響き、今日のSOS団の活動は解散となった。  
 
 
次の朝、妹のダイブ攻撃で目を覚まし、学校に行くべく机の上の通学鞄を取ろうとした時、通学鞄の  
隣に黒のアタッシェケースがあるのに気付いた、いやな汗が背中を伝っていく。  
学校に持って行くのはあれだが、このまま家に置いておいてややこしいことになるのはもっとゴメンだ。  
 
学校に着くとハルヒはいつも通りであった。  
確かにこいつは命令を出すだけで、命令の伝達を実行するのは俺の役目だからな…  
 
放課後、部室に行くとハルヒは珍しく所用のため、SOS団に顔を出すことなく下校した旨を告げる。  
朝比奈さんは、事態を察してか着替えず椅子に呆然と座っていた。  
相変わらず無表情にハードカバーを読む長門の足下にはアタッシェケースが置いてある。  
長門よ、今回はさすがに落ち着いて本読んでる場合では無いと思うぞ。  
古泉の前にも、俺の持っているのと同じアタッシェケースが置いてある。  
顔色が悪いが大丈夫か?  
「そういうあなたも顔色が優れないようですが」  
黙って机の上にアタッシェケースを置き、俺もこういう物を持たされた。  
「中を見たのですか?」  
まだ見ていない、いや、見てしまうのが恐ろしくて開けられないというのが正しいかな。  
「あなたもですか、僕も恐ろしくてたまりません、かといってどこかに捨てしまうことはもっと怖くて  
持ち歩いています」  
まったくだ  
ハルヒが帰宅したことで聞かれる心配が無くなったと判断したのか長門が口を開いた。  
「合衆国大統領のブラックボックスとネブラスカ州オマハにある発射管制装置の機能が停止している」  
部室内の空気が一挙に氷点下まで下がった。  
 
「長門さん、やはりアタッシェケースの中身は、涼宮さんがイメージするブラックボックスと管制装置ですね」  
「そう」  
「HS危機、『禁則事項』年の情報公開にて明らかになった、合衆国の核弾頭ミサイルの発射管制が  
乗っ取られた事件」  
「一時的にせよ、何者かが自由に核弾頭ミサイルを発射できる状態となったこの事件は、その後の  
『禁則事項』を『禁則事項』に『禁則事項』するだけでなく、『禁則事項』が『禁則事項』で『禁則事項』の  
ため『禁則事項』のきっかけになったのです」  
朝比奈さん、『禁則事項』だらけで、何かすごいことが起きたということしか判りません、それに  
HS危機のHSって何の略ですか?  
「涼宮ハルヒ Haruhi Suzumiya イニシャルはHSですね」  
古泉が口を挟む  
国防総省の記録にハルヒのイニシャルが残っているんだったら、今この瞬間にもNSAの連中が  
飛び込んできそうなモンだが……  
「彼らは、この事態をHS危機と呼ぶのに疑問を持たない、HSとは何であるかも意識しない」  
どういう仕組みなのか聞いてみたい気もするが、聞くと確実に正気を失いそうな予感がする。  
古泉も同じ事を考えていた様で、  
「今はそのことはいいとして、この事態をどう収拾するかですね」  
「ははははは、あははははははは……」  
朝比奈さんの常軌を逸した笑い声が響く  
「朝比奈さんどうしたんですか?」  
俺と古泉が振り向き硬直した。  
スカートをまくり上げた朝比奈さんが笑いながら自慰していた。  
 
「見て見て、みくるのここ、気持ちいい」  
どの位、そうしていたのであろうか、硬直が解けた俺たちが見たものは、  
朝比奈さんは、長門に見せつける様にしてアナルオナニーの最中だった。  
無表情な長門の頬が僅かであるがピンク色なのは気のせいか?  
そんなに見ると穴が空くぞ、それとメモを取るな! メモを!  
「朝比奈みくるに見ろと要請された、穴は最初から空いてる」  
 
 
ヘタに声を掛けるとヒステリーの発作を起こすと思った俺たちは、食い入る様に見ている長門を  
引きはがし、なるべく見ない様にして善後策を検討した。  
 
「とにかく、アタッシェケースを開けてみましょう」  
古泉の提案で、全員アタッシェケースを開けた。  
長門が中のものを取り出す、アタッシェケースの中には『黒い色の箱』が入っており、振るとカラカラ音が  
する、開けてみると『赤い釦』が入っていた。  
 
「ははははは、あははははははは……」  
たっ助けてくれ!! 腹痛い!! 死ぬー!!  
俺達は、呼吸不全を起こしながら、床を転げ回っていた。  
 
ようやく、呼吸が正常になった俺達に長門は  
「一つを除いて問題は解決した」  
残された一つというのは?  
長門の視線の先には自慰のやりすぎで気を失った朝比奈さんの姿があった。  
 
長門に任せ俺と古泉は先に辞するのは気が引けたが、正気に返ったとき男性陣がいたのでは、  
再び錯乱する可能性があると言われれば従うしかない。  
 
俺たちにハルヒがイメージするブラックボックスの正体が明らかになった時点で、合衆国の  
発射管制システムが正常に戻り、このバカバカしくも恐ろしい事態はあっけなく幕切れとなった。  
 
 
主(谷川)よ、明日何事もなく朝を迎えられます様に……  
 
糸冬  

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