エピローグ
家に帰った俺は、母親にこっぴどくしかられた。 岡部が今日の無断欠席に疑問を持ち、家に連絡を入れたそうだ。
しかも昨日の欠席の件もばれた様で、「このままじゃ進学するにしても…」などと説教された。
さすがに透明人間になってた…なんて言えやしないからな。 言ったところで精神科のドアをノックされそうだし。
妹は妹で、
「キョンくーん、誰とデートだったのー?」
などと聞いてくる。 本当にデートだったらどんなによかったか。
次の日、学校に行くと谷口がポーションでも飲んだかのように元気に復活していた。
国木田とセットで俺の机に集まる。
「よう、キョン。 何で2日も休んでたんだ?」
「あぁ、それはな…」
「嘘だな。」
いきなり否定かよ。 少しくらい話させろ。 まぁ、嘘を言うしかないんだがな。
「あ、そうそう例のアレ持ってきたんだけどな…」
と自分の鞄をあさり始める。 すまない、もう回収して使用済みだ。
「……スマン、キョン! 無くしたみたいだ」
そんな本気で謝るなよ。 俺が困るだろ。
「いや、別にいいって」
国木田は小動物のような目で谷口を見て、
「でも谷口も何で昨日休んでたの? 高熱とか言ってたけど」
それは俺も聞きたいな。
「あぁ、言うのも恥ずかしいんだがな… キョン、お前が長門と一緒に寝てる夢にうなされちまってな…」
「ははは、谷口らしいといえば谷口らしいね」
やっぱりか。 コイツも実は超能力者じゃねぇのか? やけにカンが鋭すぎる。 そのうち赤い球体になって古泉と出てくるとか…
そこで岡部が入ってきて談話は終了。 ホームルームの時に、俺は岡部から昼休みに職員室行きを義務付けられた。
授業が始まり、俺は訳の分からない数式をノートに写すのに躍起になってると、
「ねぇ、キョン」
シャーペンの先で背中を刺してくるな。 やめてくれ、地味に痛いんだぞ。
「昨日の事、きちんと説明してもらいたいんだけど…」
あぁ、あの事か。 とりあえず俺は昨日の晩のうちに考えておいた言い訳を実践することにした。
「あぁ、あの事はな…」
「嘘ね」
お前も言う前から否定しないでくれ。
「だってキョンが嘘をつく時、鼻の穴が広がるのよ」
思わず鼻を押さえたね。 失敗だったよ。
「本当か?」
「嘘よ。 でも馬鹿は見つかったわ。 さぁキョン、本当のことを言いなさい!」
俺の顔を持って180度まで曲げさせようとする。 痛い痛い、骨がきしむ。
「ま、前にも言ったが、今は落ち着け」
「何よ」
「授業中だ」
ハルヒは辺りを軽く見て、メガネの教師の視線を感じると、すぐさま授業を受ける体制に戻った。
放課後になって俺は部室棟に走った。 いや逃げた。 後ろからはハルヒが、
「待ちなさーい! 団長命令よ!」
などと追ってくる。 俺も本気で久々に走ったね。
文芸部室まで逃げ切ったところでハルヒにつかまり、チョークスリーパーで締め上げられる。
「ひえぇ、涼宮さん怖いですよぉ…」
朝比奈さんが部室の端でハムスターのように丸くなっておびえてる。
「さぁ、理由をいいなさい。 理由によっては丸焼きから焼き土下座にしてあげるわよ!」
首を絞められてるせいで喋れない。 まず手を離してくれ。 というかどっちにしても焼くのか。
「…」
長門も本を読んでないで助けてくれ。
「涼宮さん、ここは僕が説明しましょう。」
古泉がニヤケ面でドアから入ってきた。 ここはお前に任せよう。
「実は涼宮さんとケンカしたことで、学校に来辛くなってたんですよ。 そこで僕たちが便宜を図って、仲直りのチャンスを与えた。 という訳です。」
相変わらず口先三寸のうまい奴だ。 将来は討論家か、それともセールスマンか?
「でもそれじゃあ家に入ってきたことの理由にはならないわよ。」
古泉はこちらを見た。 さすがに予想外だったらしい。 そして苦笑を交えながら、
「それほど涼宮さんに会いたかったんでしょう。」
長門が本から目を離し、古泉を見ている。 心なしか睨んでる気がしなくもないがどうしたんだ?
「そ、そうなの?」
「そうです。」
古泉なんてこと言いやがる。 ってかハルヒも納得するな。
「ユニーク」
使いどころが違うだろ、長門。
「そ、それなら許してあげなくもないかな…」
顔を真っ赤にして言っても説得力がないぞ。
「うるさいわね、とにかく明日はアンタのオゴリよ。 分かった?」
分かったも何も、毎回俺が奢ってる気がするが。
「言い訳無用! 明日はまた9時に集合ね。 来なかったらアンタの家まで押しかけるからね!」
「はいはい、分かった分かった」
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの? アンタが来ないと始まんないんだから」
ん、どういう事だ? あぁ、そりゃ俺のおごりだからな。 まったく、俺には平穏というものがないのか? 少しでも持ってるなら分けて欲しいが…
俺は財布の諭吉と野口の数を確認して、諭吉スープレックスでもされたかのようなショックを受けるのだった。
やれやれ、俺の小遣いは無限じゃないんだからな。 勘弁して欲しいよ…
終わり