「……」
「お待ちしておりましたよ長門さん。
今夜はいらっしゃらないのかと思っていたところです」
「……現時刻より8時間の同期を申請する」
小雨降る平日の夜11時。
家具のほとんど無い、殺風景なマンションに長門有希の声が響く。
「準備は……出来ていますね?」
「出来ている」
「では、同期を許可しましょう」
一瞬にして周囲の感覚が切り替わる。
男の体臭のする一室の、ベッドの上。
「では早速」と、いきなり右手の人差し指が第二関節まで差し込まれ、
ゆっくりとかき混ぜるように円を描く。
慣れない感覚に体が硬直する。 が、現在長門の体の主導権は相手に有る。
「あなたが望んだことですよ」
「そう。 わたしが望んだ」
相手はゆっくりと指を引き抜き、そのまま口に含む。
「とろとろで暖かい。 すばらしい味ですよ長門さん。
私に体を明け渡してまでも彼との時間を望む。 だが彼はあなたのことに気付かない。
いつも通りの夜、としか思っていませんよ」
「それでもかまわない」
「いいでしょう。 おかげで私は毎晩肉の味を楽しんでいるのですから
ビーフカレーの味を、ね」
「……」
そう、ここは彼の部屋。 キョン君といっしょに寝る(猫の体でだが)ことと引き替えに、
シャミセンに人間の体でカレーを食べることを許しているのだ!
明日の朝元に戻ったらまた顔と髪と両手と服がカレーでべとべとなんだろうなと
思いながらも、彼の隣にいられる幸せに包まれていた。