ダブルパロネタ「逢いたい気持ち、それぞれに」
冬の合宿、鶴屋さんの別荘で行われた、古泉主催の推理ゲームも無事終わり、俺たちは賑やかな夜を過ごしていた。
当然一番テンションが高いハルヒ。まあ今回の立役者だしな。鶴屋さんと同着だがその推理力は凄いと思う。
なんでその洞察力でSOS団の身の回りを見ないのかね?灯台下暗し?どうだろ。
もしかしたら既に気がついているのか。俺たちにそれを悟られないと隠して……なわけないか。
この非日常を切望してやまないハルヒが、「ここですよ」って言ってるのに入らないはずがない。
といって無いからなんでもかんでも作り出す(無自覚に)のも、なんだかね……
と夜のトランプゲームの合間にトイレに向かっていると、
「……」
ハルヒが窓の外を眺めてる、雰囲気からして憂鬱そうでも不機嫌そうでもない。
「どうした?なにか見つけたのか」
夏の孤島の時みたいに、変なもの生み出してないといいが、俺は嵐の中でのハルヒを思い出す。
あれはハルヒしか見てないし、幻覚かもしれないが用心に越したことは無い。
「キョン、あんた、あれどう思う?」
「あれ?俺には雪山にしか見えないが」
「そうよね、でも何かがひっかかるのよ、なんだろ?」
ハルヒには思うところがあるらしい。俺には、本当にただの雪山にしか見えない。
そうして二人で窓の外を眺めていると、お風呂上りなのだろう、長門と鶴屋さんが来た。
「あれれぇ?キョンくんにはるにゃん、どしたの?」
「鶴屋さん、実はこいつが、あの雪山を気にしていまして」
「ふぇぇぇ。はるにゃんよく気付いたね、あの山は雪崩が頻繁に起きてるんだよ」
「そうなんですか!?」
「うん、だからあそこには、もう人が住んでないさぁ!」
「もうってことは、昔は住んでいた人がいたわけね……」
ハルヒは暗い表情を見せた、恐らくその雪崩に巻き込まれた人のことを思っているのだろう。
そんな表情を感じ取ったのだろうか、鶴屋さんはにこっと笑いながら。
「みんな、あの山には面白い逸話があるのさぁ!」
といって、その昔、とても大きな雪崩が起きた時、如来様がその身を犠牲にして山の神様を呼び、
現れた山神様の力によって、雪崩が一瞬で止まり、村の人は無事に避難できた、というものだった。
「山神様ねぇ」
まぁ、こいつも秋に桜を咲かす神様なんだし、といっても意識的に止めた向こうの方が少し上かもしれないな。
「その山神様は、雪崩からみんなを守った後、どうなったの?」
ハルヒが訊く、確かに超常現象好きには堪らないネタだしな。
「んとね、村の人に避難しなさいって言い残して、山に帰っていったってきいてるにょ」
「じゃあ、もしかして今も……」
「いくらはるにゃんでもあそこには行かせられないな。危ないもん」
「あっ、ごめん鶴屋さん」
「まあ、そんな山の伝説を聞けただけでも、収穫じゃないか。お前の感じた違和感もきっとそれだろう」
「あのぉ、みなさぁん、お茶入りましたよぉぉ」
向こうで朝比奈さんが呼んでいる。ハルヒは元の笑顔に戻って
「うん!今行くわ!さぁゲームの再開よ。負けた人は当然罰ゲームね!」
「面白いねそれ、受けてたつよ!」
といって朝比奈さんに突貫していく二人、やれやれだ。
しかし、ハルヒ以外にもそんな力を持っている存在なんて、と視線を落とすと長門が居た。
こいつなら雪崩の一つや二つ止めれなくないか?出来そうだな、なんたって宇宙的存在だし。
「出来ない」
はい!?なぜだ?
「私の能力では処理しきれないレベルの雪崩であったと推測される。教室クラスの物質操作に数秒掛かる
私の処理レベルでは、発生した雪崩を完全に停止させることは、不可能」
確かに、村を覆うくらいの雪の塊なんだ、ちょっとやそっとでは意味無いだろう。
……するとハルヒが言いかけたように、まだあの山には山神様と言う存在が居るんじゃないのか?
面白いじゃないか、あの長門が「不可能」と言い切ったことをやってのけた存在が居るなんて、空想のなかでも、魅力的だ。
「居ない」
長門が言い切った、おうロマンを打ち消すようなこと言い切らないでくれよ。
「そうじゃない」
どういうことだ?
「恐らく、雪崩を止めたのは、門番型自動石像式氷雪加重冷却粒子光線によるもの」
また適当に辞書引いて並べた単語で説明されても、俺には理解できない。えっとなんだっけ門番型……
「通則的に言えば、氷のレーザー」
凄く解りやすい。ありがとう長門さん、でも貴方石像とか言いませんでしたか?
「明治時代に設計された、自動石像の一種と思われる」
「その山神様がか?」
「そう」
「そいつは今どこに居るんだ?」
「今、索敵している、見つけた。五色町三丁目一の十一、吉永という家の門番をしている」
「神様クラスの力を持って、門番なんかしてんのかそいつは、随分謙虚な神様だ」
「もともと門番」
「……それもそうだったな」
しかし、その吉永って家の人も大変だろうな。なんてったって神様に守られてんだぜ。
きっと苦労してるに違いない、ん。なんで解るのかって。そりゃ簡単さ。
「俺たちも苦労してるもんな、なあ長門?」
長門は少しだけ頷き、しばらく窓の外を見ていた、やっぱり気になるのか?
長門はこちらを向きなおし、首肯した後に、一言だけ言った。
…………
「ぶぅえっくしゅうん!!」
目の前の少女が咳をする。我の主だ。
「双葉、風邪か?」
「いや、きっとだれか噂してんだろうさ」
「双葉ちゃんは病気掛からないからね」
「さも、ありなん。元来なんとかとなんとかは風邪は引かぬからな」
「何とかってなんだぁぁっぁっぁぁっぁ」
どごっっぅっっぅっっぅ
「まあまあ双葉ちゃん、風邪引かないって良い事だよ、きっとね」
「ふん、兄貴が貧弱すぎんだよ、この、おかま!」
「おかまって言わないでよぉ」
瞬間、何かに絡めとられる様な感覚を覚える。
「……むぅ!!」
「???どうしたのガーくん?」
「今、誰かに我を探知されたような気配を感じたのだが」
「うーん、誰も居ないぞ、石っころ!」
「我の捕捉範囲外からのようだ、むぅ、このような存在が居るとは」
「まあ、いいんじゃねぇの。遠いんだろ?」
「いや、まあ、それはそうだが」
しかし、錬金術で出来た我に対抗できる存在か……
「会って見たい(ものだ)」
次回、ついに長門とガーくんの頂上決戦か!?「五色に咲く華、散り逝く花」お楽しみに!
♪あ〜い〜に、お〜いで、あいに、お〜いで、ここにいるぅぅよ〜
完