閉鎖空間が発生したのを確認した俺は、目を閉じているハルヒをそのままに、長門によってこの部屋に張り巡らされている情報防壁に侵入する。  
 閉鎖空間によって長門と切り離されている防壁は、思ったとおり簡単に俺を受け入れた。  
 これでこの空間は俺の情報制御下に置かれることになる。ちょろいもんだ。  
 しかも、長門が作っただけのことはあってかなりの構成をしている。これなら暫くの間は閉鎖空間を保持させる事が出来るだろう。  
 折角ここまでやったのに、途中で閉鎖空間を消滅させられたら、元も子もないからな。  
    
 一仕事終えた俺は、未だに固まったままでいるハルヒから身体を離して、いつもの椅子に座り込んだ。  
 どうして自分にこんな事ができるのか、疑問に思わない事も無いが、そんな事は考えても仕方が無い。  
 今の俺には、やらなくてはならない事があるのだから。  
「……ど、どうしたの?」   
 いつまで経っても何も起きないのに気づいたのか、ハルヒは目を開けてキョロキョロと落ちつかなそうに周りを見渡している。  
 その内、自分の身体が動かない事にも気づいたようで、慌てて俺に声をかけてきた。  
「ちょ、ちょっと、何よこれ?身体が動かないわ!キョン、あんたなんか変な事したんじゃないでしょうね!!」  
 身体が動かないのは簡単な話さ。要するに、俺がかつて朝倉涼子にされたことと同じような事をハルヒにしている事になる。  
 しかし、そんなことを一々ハルヒに説明してもしかたない。何事か喚き続けるハルヒを無視したまま、俺は尋ねた。  
「なあ、ハルヒ。選んで欲しい事があるんだ」  
 それを聞くためにわざわざ首から上は自由なままにしてやってるんだぞ。  
「お前にとって、俺に傷つけられる事と、俺が傷つく事と、どっちの方がより大きく感情が揺さぶられる?」  
 俺は上着のポケットから、先日買ったばかりの、柄が赤い果物ナイフを取り出した。  
 
「……キョン、何言ってんの?」  
 ハルヒが正気を疑うように俺の顔をまじまじと見つめてくる。少し顔色が悪いな。当たり前だ、俺が怖がらせているんだから。  
「答えてくれ。でないと両方試さなくちゃならない」  
 出来れば楽そうな後者がいいな。しかし、作業の効率を考えると、無回答の場合は前者を先に行なわなければならないだろう。  
「どっちの方がより大きな情報爆発が起こるのか、俺には判断がつきかねてるんだ」  
 
 俺の言葉を聞いて、ハルヒの目線がますます訝しいものに変わる。  
「……あんた、本当にキョンよね?」   
 そうだよ、俺はキョンさ。お前の望んだ閉鎖空間はハルヒとキョンだけを閉じ込めるものだからな。  
 他の誰だって、そう、例え長門であっても、ここに存在する事はできない。  
 
 混乱しているのか、ハルヒは暫くじっと黙り込んでいたが、やがて目を吊り上げ、自分に言い聞かせるような大声でこう言った。  
「キョン!分かったわ!あんたは悪い宇宙人に洗脳されてるのね!」  
 凄いなハルヒ。大体あってるような気もするぞ。  
「待ってなさい、キョン。今助けてあげるからね!SOS団団長をなめるんじゃないわよ!」  
 何とか身体を動かそうとしているのだろう、ハルヒは首を上下左右にガクガクと揺さぶり始めた。ちょっと気持ち悪い。  
 しかし、こいつは放っておくと本当に何とかしてしまいそうだから怖いな。変に時間をかけるのは危ないかもしれん。  
 俺はナイフを握り締め、ゆっくりと立ち上がる。  
 まったく、何で俺がこんな事しないといけないんだ?誰でもいいから俺に教えてくれ。  
 
「なあ、ハルヒ。正直俺は、こんなに上手くいくとは思っていなかったよ」  
 一歩一歩ゆっくりとハルヒに近づいていく。  
「この時点でお前が俺の告白を受け入れるかどうか。はっきりいってあんまり自信が無かったんだ」  
 ハルヒは必死で身体を動かそうとしているようだ。  
 多分、俺を助けるために。  
「仮に俺の告白が受け入れられたとしても、その後でお前が閉鎖空間を発生させる確証も無かった。いくら二人で歩く帰り道が楽しかったからって、世界から切り離されてまで二人でいたいなんて思ってくれるとは限らないだろ?」  
 無駄だよハルヒ。動かそうと思って動かせるもんじゃない。経験者の俺が言うんだから間違いないぜ。  
「大体、俺とお前は団長と団員その一ぐらいの関係だったんじゃないのか?少なくとも俺はそう思ってるはずなんだ。お前だってそうだろう?」  
 ハルヒの目の前で立ち止まり、ナイフを逆手に持ち替えた。何故か身体が重くなってきたような気がする。  
「なあ、ハルヒ、教えてくれよ。どうして」  
 ナイフを持った右手を振り上げようとするが、なかなか上手くいかない。どうしてだ?俺の身体なのに。  
「どうして、俺を受け入れた?」  
 身体がかすかに痙攣する。歯の根があっていないのか、カチカチという音が頭蓋骨の中に響いている。  
「どうして、俺は」  
 そこまで言うと、口も思うように動かなくなった。  
 
 それでも俺は、震える右手を、何とか無理やり肩の高さまで持ち上げる。  
 後はこれを下ろすだけだ。一度下ろしてしまえば、俺の身体も抵抗をやめるだろう。  
 最初はどこにしようかな。腕か、足か、腹か。死ななければどこでもいいさ。  
 噴き出す血の赤色は、コイツに良く似合うだろう。  
 
 最後に、ハルヒの顔を見つめた俺は、少し驚いていた。  
 少し青い顔をしているものの、ハルヒはいつものように無駄に大きな目を爛々と輝かせ、不敵に笑っている。  
「大丈夫よ、キョン」  
 大丈夫。何が大丈夫なのかはさっぱりわからんが、こいつが大丈夫だというのなら大丈夫なのだろう。  
 そうさ、SOS団団長のコイツはどんなピンチの時だって、きっと力づくで何とかしてしまうに違いない。  
 その度に、長門は黙々と皆を守り、朝比奈さんは泣き出して、古泉はニヤけた顔で暗躍し、俺はため息をつきながら走り回るのさ。  
「私を信じなさい」  
 ハルヒは笑う。俺も笑った。  
   
 
 
 そして俺は、右手をハルヒに向かって振り下ろし、左手で俺の頬を殴りとばした。  
 
 
 
 そいつが自分の左手に吹っ飛ばされたのを確認して、俺は30分近く入っていた窮屈で汚くて暗いの3Kが揃った掃除用具入れから飛び出した。  
 右手に持った銃を構え、呆然として倒れこんでいるそいつに狙いを定める。  
 ちなみに、肩には雑巾を乗っかっており、右足はバケツに突っ込んだままである。  
 
 不意に、いつかの長門の顔が胸をよぎった。  
 今回はあの時に比べたら大分マシだ。なんたって、銃を向けるのは泣きそうな顔の長門ではなく、アホ面下げた俺だからな。むしろ嬉しいぐらいさ。  
 躊躇することもなく、俺はそいつの身体に向けて引き金を引く。  
 季節外れの花火のような音が部屋に響き、そいつはぐったりと床に倒れて動かなくなった。どうやら気を失ったらしい。  
 自分の脇腹がうずくような感じがしたが、とりあえず無視しておくことにする。  
 
「終わった……」  
 俺は大きく息をついて肩の力を抜いた。  
 まったく、まさか掃除用具入れの中から自分の告白を覗く羽目になるとはね。長生きってのはしてみるもんさ。  
 まあ、その後俺がハルヒを抱きしめたときなんて、危うく飛び出して俺を半殺しにするところだったけどな。  
 ハルヒと出会ってからずいぶんと忍耐力がついていたからこそ、何とか我慢できたんだろう。  
 俺が頷きながら自分の忍耐力を賞賛していると、横から不意にハルヒが飛び掛ってきた。こいつ、もう復活したのかよ!  
「痛え!」  
 押し倒された拍子に、頭が床に打ち付けられたと思ったら、次の瞬間にはネクタイを締め上げられ、無理やり顔を引き上げられていた。  
 この馬鹿力め!  
「ちょっと、キョンになんて事すんのよ………って、あんたもキョンじゃない!!」  
 かなり混乱しているのか、どうなってんのよ!と叫びながら俺の頭をガクガクゆすってくる。やめろバカ首が折れるだろ。  
 俺が咄嗟に左手に持ったスプレーを目の前まで持ち上げると、ハルヒはそれを怪訝そうに見つめた。  
 
 さて、こいつに一つ伝えておかなくてはならん。  
「ハルヒ。さっきの俺の発言には一部訂正しなくてはならない箇所がある」  
 そう、出来ればここ一週間の俺の発言は全て訂正したいところだが、時間も無いことだしな。  
 それに、こいつにとっては、どうせ今日の事なんて夢の中の話さ。  
「いつからかはよくわからんが、俺はお前に惚れている、というのは実は嘘だ」  
 ハルヒの目が俺の目を捉える。ハルヒの大きな瞳に俺の顔が映っている。そして俺の瞳の奥にハルヒの顔が映っている。  
 その奥は、もうよく見えなかった。  
「俺は、初めて見た時からお前に……」  
 あ、しまった。  
 俺の身体がそれ以上口を開く事に拒否反応を起こしたらしく、スプレーからは既に霧状の液体が発射されていた。  
 それをもろに正面から顔に浴びせられたハルヒは、一瞬ねこじゃらしを口の中に突っ込まれた猫のような顔をした後、すぐに俺の身体の上に倒れこんでくる。  
 おい、このスプレー大丈夫なんだろうな長門。  
 
 いつの間にか、部室の窓には少し赤い色の景色が映り、学校の喧騒も戻ってきている。  
 さっきまですぐそこにいたはずの朝比奈さんと鶴屋さんは、もういないようだ。長門がどうにかしてくれたのだろう。  
 俺は、朝比奈さん(俺と一緒に来た方だ)と長門が部室に飛び込んでくるまでの間、ハルヒの身体を抱きとめたまま窓の向こうの夕暮れを眺めていた。  
 
 
 
「結局なんだったんだ?今回の騒ぎは」  
 一時間前までの時間旅行から戻ってきた俺は、俺を見送ったままの姿勢で突っ立っている長門に尋ねた。  
「あなたの中には、何らかの情報生命体が寄生していた」  
 涼しい顔で恐ろしい事を言う奴だな。  
 
「その生命体はあなたに寄生し、時間をかけてあなたの精神とほぼ一体化することで、私たちの目を欺いていたと思われる。  
あなたのここ数日間の行動は、その生命体が涼宮ハルヒとあなたを近づけようとして、あなたの精神に表出化したのが原因。  
寄生生命体はあなたの精神と一体化しているため、あなた本人にさえ自覚するのは不可能だった」  
 
 要するに、俺の心は俺の知らない間に乗っ取られてたってわけか。  
 確かに、ここ数日も俺は普段どおりにしていたつもりだった。 最初に違和感を感じていたことだって、その内気にならなくなってたしな。  
 ハルヒにナイフを向けた時でさえ、全部自分の意志でやっているつもりだったんだ。  
 今考えてみると、何でそんな事をしたのかさっぱりわからなくなっていた。  
 
「何でまたそんな奴らが俺とハルヒを近づけたがるんだよ」  
 古泉は俺とハルヒが仲良くなれば、ハルヒの力は無くなると言っていたが、それが目的だったのか?  
「違う。あなたと涼宮ハルヒを一旦近づけ、あらためてその関係を壊す事で、涼宮ハルヒに大きな情報爆発を起こさせることが目的」  
 なるほど。ハルヒと俺をくっつけて、それを最悪の形で壊したかったわけか。  
 椅子の上で眠り続けているハルヒに目を向ける。胸糞悪い話だぜ。俺にとっても、ハルヒにとってもな。  
「それで急にあなた、というか、何者かに寄生されたあなたは、涼宮さんとの距離を縮めようとしていたわけですね」  
 古泉が真剣な調子で口を挟んでくる。  
「しかし、長門さんの目を盗んであなたに寄生することができるような輩もいるのですね」  
「おそらく、冬に行った雪山で寄生されたと思われる」  
 長門が、俺の目を見つめながらそれに答えた。  
 雪山って言うと、ああ、あのおかしな洋館の事か。  
 確かにあの時の長門は弱っていたが、まさかそんな前から俺の中に得体の知れないものが潜んでたのか?  
 やばい、今更鳥肌が立ってきたぞ。  
「ですが、そんなに以前から寄生していたのなら、どうして今頃になって行動を起こし始めたのですか?」    
「それは…」  
 長門は、何故か少しだけ言いにくそうにしている。  
 
「有機生命体の異性間の問題については、私には上手く言及できない。あえて言うなら、寄生した生命体は、あなたがもっと早く涼宮ハルヒと親密な関係を築く事になると予想していたと思われる。  
しかし、あなたと涼宮ハルヒがそのような関係を築く様子が無かったため、気づかれる危険を冒してあなたの意識に表出し、アクションを起こさせたのだろう。あるいは、寄生した生命体の活動期間が限られていたのかもしれない」  
 
 それを聞くと、古泉はからかうような顔で俺に目を向けてくる。  
 
「それで涼宮さんに一緒に帰ろうなどと言い出したわけですか。なるほど、たしかに普段のあなたは決してそんな事を口に出しそうにはありませんが、頑張ればそのぐらいの事なら言えそうな気もします。かなり微妙なラインですね。実際僕も判断がつきかねましたし」  
 やかましいぞエセスマイル。朝比奈さんも頷かないでください。  
 
「寄生されたあなたは」  
 長門は、覗き込むような目で俺を見ている。ん?ひょっとして、少し怒っているのか?  
「私に特に注意していた。私が寄生生命体に気づいて排除しようとすれば、あなたもろとも自滅するつもりだっただろう。そのため、私はあなたの異常に気づいていながら、対処しかねていた。  
そのような私の様子を感じたため、寄生生命体は判断を逸らせ、涼宮ハルヒを利用して限定空間を作り、私の干渉を排した後、強引な手段に出たものと思われる」  
 どうやら、長門は自分を責めているようだった。  
 やれやれ、困った娘だなこいつも。  
「何言ってんだ、長門。結局お前がくれた銃のおかげで俺は元通りになったし、ハルヒもグースカ寝てられる。それに、対処できなかったって、俺が人質に取られてたからだろ。寄生されても気づかずに何ヶ月も過ごしてたのも俺だ」  
 考えれば考えるほど自分がアホに思えてくる。これじゃハルヒの事も馬鹿に出来んな。  
「だから、ありがとうな。長門」  
 俺が言うと、長門は「わかった」とだけ呟いて、ようやく椅子に腰を下ろした。本当に、ありがとうな。  
 
「あ、あの〜?」  
 朝比奈さんがおずおずといった様子で声をあげた。人間の街に迷い込んだ子ウサギのようにキュートだ。  
「涼宮さんに、どう説明するんですか?……そ、その、キョン君の事とかは」   
 そうだ。座り込んでいる場合じゃなかった。面倒はまだ終わっていない。というか、これからがある意味本番の様な気もする。  
「長門、あのスプレーは……」  
「眠らせるだけ。記憶の改変は行なっていない。あなたが推奨しないと思った」  
 そうさ、人の記憶なんてむやみにいじっていいもんじゃないからな。  
 しかし、どうしたもんかね?俺が実は双子で、それを利用した壮大なドッキリ企画だったってことにするか?  
 
 俺が頭を悩ませていると、古泉がいきなり立ち上がった。どこ行くんだよこの野郎。  
「いえ、もうそろそろ下校時刻ですし、何より今回僕は全くの部外者でしたからね。残念ながら涼宮さんには何とも申し上げる事が出来ません。いやはや、お役に立てなくて本当に申し訳ないです。では、また明日」  
 いやらしい笑顔で俺を見た後、さっさと部室を出て行ってしまった。除け者にされた事を根に持ってやがるな。  
 続いて長門が音もなく立ち上がる。  
「お、おい長門、ひょっとしてお前も帰るつもりか?」  
 長門は、いつものように一ミリほど顔を縦に動かすと、音もなく部室から出て行った。  
 何てこった、こうなったら俺と朝比奈さんの二人で妙案を……  
「ご、ごめんなさい、キョン君」  
 朝比奈さんはもう既に鞄を持ってドアの向こう側に立っていた。マジかよ。  
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ朝比奈さん。あなたも帰るんですか?」  
「ごめんなさい。大事な用事があるんです」  
「な、何の用事ですか?」  
 まさか、また何か面倒な事でも起こってるんじゃないだろうな。  
 朝比奈さんは振り返り、いつもどおり可憐な、しかし少しばかり意地悪そうな笑顔で  
「禁則事項です」  
 と言って、ドアを閉めた。  
「嘘だろ」  
 
   
 かくして、部室に残されたのは俺とハルヒの二人だけである。  
 つまり、もうすぐ目を覚ますであろうコイツに対して、今日を含めたここ数日の出来事を、現実に受け入れられそうな形にアレンジしてこいつにお届けすることができるのは、俺しかいないということだ。  
 念のため掃除用具入れを覗いてみても、未来の俺がいて妙案を授けてくれるわけでもなく、当面はただ座ってハルヒの寝顔を見ながらあれこれと考えるぐらいしかやることがないのであった。  
 
 考えてみると、今回はかなり危なかったんじゃないのか。  
 さっきまでナイフを握っていた自分の右手を握り締める。危うくこの手でハルヒを刺しちまう所だったなんて、信じられん。  
 実際、あの時左手が俺を殴らなかったらどうなっていたことやら。想像するだけで死にたくなってくるな、本気で。  
 ……そういえば、どうしてあの時左手が動いたんだ?あの時の俺ときたらまるでハルヒを傷つける事しか考えてなかった筈なのに。  
 またハルヒのミラクルパワーが炸裂したのか?  
 いや、もしかしたら俺の身体に染み付いた雑用係根性が、上司であるこいつを殴ることを拒否したのかもしれん。  
 ま、考えても仕方ないか。  
 左手を見てみると、拳がかなり腫上がっている。というか折れてないかこれ?感覚が無いんですけど。道理で奥歯がまとめて取れかかってるわけだよ。  
 俺がナイフを掲げた時の、ハルヒの笑顔を思い出す。まったく、怖いくせに強がりやがって。微妙に唇震えてたしな。  
 当のハルヒは、今じゃ涎をだらしそうな口元をして暢気に眠ってやがる。  
 こいつが起きたら、今度ばかりはきちんと謝らないといけないな、と思った。  
 
 しかしまあ、やっぱり俺にとっては、やかましいばかりのハルヒと二人きりの閉鎖空間なんかより、SOS団の皆で過ごす、少しだけ変なただの日常の方が大分落ち着くらしい。  
 それに、別に閉鎖空間じゃなくったって、たまには今みたいに不可抗力で二人っきりになることだってあるもんさ。そうなれば俺もあきらめて、少しぐらいならハルヒと一緒にいてやらん事も無い。  
 気づけば、窓の外はもう真っ暗だ。部活の連中も帰ってしまったのか、遠くでかすかにざわめきが聞こえてくる以外は、音もしない。  
 俺は、ハルヒの横に椅子を移動させ、いつもの傍若無人っぷりが鳴りを潜めた寝顔を見つめる。  
 相変わらず落書きしがいのありそうなマヌケ面だ。  
 ま、落書きするのは勘弁しといてやるさ。  
 そのかわり、別の悪戯をしてやろうと思った俺は、ハルヒの寝顔に顔を近づけていった。   
 
 
 
 その3分後、俺のヘッドバッドで飛び起きたハルヒは、「悪い宇宙人め!覚悟しなさい!」というセリフと共に流星のような右ストレートを繰り出して俺の左奥歯を根こそぎ奪いさった。  
 かくして、俺は我ながら嘘臭い今考えました的な説明を、口の中の痛みをこらえ、正座しながらハルヒが納得するまで続けさせられることとなったのである。  
 ああ、まったくもって、今日は最悪の日だったね。  
 
 
 
 
 
 その後変わった事と言えば、俺とハルヒが偶然一緒に帰る日が、少しばかり増えたぐらいのもんさ。  
 
 

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