さて毎度毎度SOS団絡みで、良くも悪くも巻き込まれてしまう俺だが、きっかけってのはいつも些細なものだ。  
誰かさんが願ったせいで、宇宙人や未来人や超能力者がふらっと一つの部室に集まったり、  
誰かさんが描いた絵のおかげで、異次元へ迷い込んだり、異界の虫なんかと戦ったり(俺は逃げてただけだけど)  
誰かさんがチラシ配ったせいで、お客が来たり、っとこれはまともだったな。すまん。  
と、まあそんなこんなな非日常生活を強制的に(もちろん嫌と言うわけじゃないぞ)送ってると……  
「げほっ、げほっっ!」  
体調が崩れるのも無理はない。俺の体は超合金じゃないんだ、人並みに風邪くらいひくさ。  
まあ、こんな日はゆっくり休んで、しまえば一日で治るものだと思っていたのだが。  
「起きれるなら学校に行きなさい」  
という落雷のようなお袋の一言で、今日も律儀に早朝ハイキングコースって訳だ。笑いたかったら笑え。  
一応、風邪薬とマスクはしてきてるが、これじゃあクラスの皆に蔓延させそうだ。困ったね。  
「よ、キョン、どうした?って風邪かよ」  
「あぁ、お袋に叩き出された」  
「解る、解るぞぉ、俺もそうだった。休ませてくれないんだよな」  
谷口が心配と同情の目を向けてくれた、ほんの少しだけ症状が軽くなる。同類を憐れむのは効果あんのかね?  
「ま、やばくなったら保健室で休めばいいんじゃね?気楽に構えとけばいつか治るさ」  
「そうだな、といってもキツイもんはきつい」  
「あははっ、違いない」  
こんなやり取りをしながら教室に入っていく。っとハルヒがこちらを見てにやり、しかし次に「??」となりこっちに来た。  
「キョン?どうしたの?」  
「見て解らないか?風邪引いたんだよ」  
「ふーん。あんたも風邪引くんだ」  
「そりゃどういう げほっぐっ」  
言い返そうとしてむせる。こりゃ本格的にまずいかもしれないな。  
ふと横に向けていた顔を元に戻すと、心配そうなハルヒの顔が見え、目が合ったと思いきや、  
すぐさま今度はハルヒが視線を逸らして、  
「ふ、ふん。言っとくけど、あたしに移さないでね」  
と言い残し自分の席に、といっても俺のすぐ後ろだが、戻っていった。しかしお前も風邪引くのか?  
病気になったの見たこと無いぞ。まあ風邪の病原菌もこいつにかかれば一瞬だな。なんせ古泉曰く神様だ。  
いっそ頼んでみるか、「この世から風邪と言う病気が無くなって欲しい」ってさ。無理か、なんせ俺の意見だし、  
こいつ意外と常識人(半分だけ)だから、などと考えた俺を誰が攻められよう。病人の苦労は病人しか解らんさ。  
 
じぃぃぃぃぃっ  
物凄い視線を感じる、今は授業中だ、俺の後ろには当然ハルヒしか居ない。  
しかしゆっくり後ろを向くと、レーザー砲のような視線は瞬時に消え、ハルヒはいつものように窓を眺めている。  
気のせいかな、なんて視線を前に戻すと、  
じぃぃぃぃぃぃぃぃぃ  
また始まる。偶然じゃないよな、これは。決して俺の被害妄想ではないはずだ。ハルヒはこっちを見ているに違いない。  
しかし、睨まれている時のような痛々しさは薄い、いやこれでも病人には致死レベルと思うが。  
こいつなりに心配してくれてるのか、はたまた、病人相手になにかしてやろうかと考えているのか……  
どちらにしても、この状況、勘弁してくれ。いつも解らない授業が余計に意味不明に聞こえる。  
俺は己の身の不幸と風邪になった自分の体を呪いながら、午前中の授業を消化していった。  
そして昼休み、ようやくあの剣山のような視線から開放されると、ふぅぅっと胸を撫で下ろしていると、  
じぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃ  
あのぉハルヒさん。貴方はいつも学食ですよね?今日に限ってお弁当ですか、そうですか。  
しかも口をむぐむぐさせながらもこっち見てるし、俺、なんか、罪人みたいじゃないか。保護観察の身かよ。  
こうなるかもしれないことを、当の俺よりも早く察知したのか、谷口と国木田は向こうで食べてる。  
こちらの視線に気付くと、正面に手を持ってきて「すまん」のポーズ、ちくしょうあんな奴ら友達じゃないやい。  
なんて戯言を考えててもしょうがない、ここは一時撤退だ。俺は食べかけの弁当を片付け後ろを向きながら、  
「ハルヒ」  
いきなり話しかけられたのが意外だったのか、ハルヒは食べていたものを喉に詰まらせていた。  
「むぐっ、、、んっ……何!?」  
「すまん、ちょっと限界みたいだ、保健室行ってくる。午後までに戻らなかったら先生に伝えておいてくれないか?」  
ハルヒはまた顔を窓に向けて少しだけむすっとしたが、  
「まぁ、仕方ないわね。先生にはあたしから説明しとくから」  
「すまん、助かる」  
俺は滅多に言わない感謝の言葉をハルヒに言って立ち上がり、教室を出ようと動き出すと  
「……理しないでよね……」  
ん?後ろから何か聞こえたような、しかし朦朧としている頭は保健室に向かうことを最優先にしているようだ。  
俺はなるべくふらつかないように教室を後にした。  
 
「…………ばか……」  
 
さてほとんどの高校の保健室が何階にあるか知ってるか?そう1階だ。  
つまり俺は最上階の教室から最も低い所まで降りなければならない、くそ。エレベーターとか無いのか、ないね。  
それでも力を振り絞り、ようやく、俺から視線地獄の開放と安息のベットを用意してくれている保健室に着くと。  
「おや?こんなところでお会いするとは、奇遇ですね、風邪ですか?」  
会いたくも無い古泉がそこにいた。どいてくれ、俺のパラダイスがそこにあるんだ。  
「ひょっとして、昨日の不思議探しのとき、風邪を引くようなことをされていたとか?」  
非常に誤解を招きそうな言い方だが、もはやつっこむ気にすらならん。しかし読者には説明しておくべきかな。  
古泉の発言は半分正解だ。昨日の探検中、俺はハルヒの悪戯で服をびしょ濡れにされた。  
公園の水道で喉を潤していると横からいきなり蛇口捻りやがって。  
「重症ですね。しかし誠に残念ですが、保健室は満室です」  
何!冗談では済まされないぞ、それ。  
「こんな時に冗談は言いません。ここは素直に教室か部室に避難されては?」  
「はぁ、解ったよ……やれやれ」  
こうして、俺は天国への扉を開けなくなった天使のように憂鬱オーラ全開で部室棟に向かった。  
……  
やはりというか部室には長門がいた、いつものように本を読んでいる。  
「すまん、長門、少し休ませてもらっていいか?」  
「……いい」  
「すまないな」  
「別に」  
俺は椅子を四つほど縦に並べて即席のベットを作った。居心地はあんまり良くは無いが、机に伏すよりましだ。  
そんな動きを不思議そうに見つめていた長門は、  
「流行性感冒?」  
確かに正式な呼び方はそれで間違いないのだが、どうして風邪と言わないのか疑問だ。  
「大丈夫?」  
顔を少し、ほんの少しだけ傾け聞いてくる長門。くそっ可愛い、いや、それよりもまた心配かけてしまった。  
「心配しなくても平気dげほっごほっ」  
無事をアピールしようと空元気は風邪には通用しなかったらしい、俺は思い切り咳き込んだ。  
「無理しないで」  
長門の言葉がやけに響いて聞こえる。もう限界らしいな。  
「悪いな、しばらく休むから」  
「そう」  
俺は即席ベットに腰掛けて、深い眠りについた。  
 
 
…………パタン……  
 
……ィィィン、……カァァァンコォォォォン……  
俺の体が反応する。これはきっと予鈴だ、とりあえず起きて、それからどうするか決めよう。  
なんて考えながら目を開けると、そこには上下反対の長門の顔があttっておい!!  
なんでこんな近くに長門が居るんだ?はっ後頭部にやわらかい感触。これはもしかしてもしかするとですね。  
日本男児10の憧れシチュエーションの一つ「膝枕」という状態じゃありませんか、旦那!  
ちなみに残りの九つは、ここでは伏せておこう、夢は大事にしたいじゃあないか、同士ってそんなことよりもだ。  
「長門、どうしておm、うわっ」  
起き上がりながら、話しかけると、物凄いスピードで両手を俺の耳に押し当てて膝に戻す長門、  
ふにゅっという女の子特有のふともものやわらかさが再び後頭部に感じられる。  
「貴方は動かなくていい」  
そういって見つめてくる長門、いや、近いんですけど、それに今さっきの予鈴だろ?  
「平気」  
いやぁ、この会話の流れはおかしくないか?長門が言う台詞じゃないだろ。それ。どこかで聞いた気もするが。  
しかし長門よ、俺は確かにパイプ椅子に頭を置いていたはずだが?  
「一つ一つの体勢が甘い」  
あまい?なにがあまいんだ?そりゃベットよりも狭苦しいが、  
「側面部の領地配分も、縦方向の空間配置も甘い、だから私に気付かれる。侵入を許す」  
許すもなにも、長門は疲れない……な。っと気を許したのがまずかったのか、  
「なぁ、、ぅっ……」  
「…………」  
長門にキスされていた。ご丁寧に両手を耳に添えられて、身動きが取れない。  
耳に長門の少しひんやりした感触がある、首元にさらさらと触れる長門の髪、唇のとろける様な感触。  
「……っっぷはっ、長門これはどういう事だ?」  
俺は顔を真っ赤にしながらも、かろうじて残った理性を総動員して訊いてみた。  
「治療」  
「治療?」  
「貴方の病気を治すために必要なこと」  
「本当か?」  
「……」  
「……」  
あっ、今視線外した!おい長門、嘘だろさっきのは!  
「ヒューマノイドインターフェイズは嘘は言わない」  
いぃや、向こう向きながらそう言っても説得力がありませんよ長門さん。  
「じゃあさっきのは?正直に言いなさい。怒らないから」  
長門は視線を固定させたまま、こっちを向かずにしばらく黙っていたが、ようやく一言  
 
「……さっきのは、冗談」  
 
とだけいってこちらを向き、「微笑んだ」。……正直、堪りません。  
 
 
 
そして次の日、あまりに興奮していたのか、ほとんど睡眠がとれず、俺は学校を休んだ。  
 

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