〜 I want to be here 〜 5話  
 
 
「……俺が原因だって?」  
まさか?馬鹿な、ただの高校生だぞ俺は。  
「正確に言うと、涼宮ハルヒの力が全て貴方に移っている」  
それじゃあ、今の俺は、ハルヒのへんてこな力を使えるって事か?  
「そう」  
閉鎖空間を生み出すことも?  
「可能」  
は、ははっ。笑うしかない、なんだこの状況は。  
「均衡が破られた。貴方が涼宮ハルヒにとっての鍵ではなく、涼宮ハルヒが貴方にとっての鍵になった」  
長門が冷静に続けて話してくる。  
「涼宮ハルヒは無自覚に力を発動させていた。結果、彼女の願いは我々の努力のせいもあるが、  
彼女自身には影響を及ぼさない不完全な能力だった。しかし貴方は違う。  
貴方はこれまで、巻き込まれるという形でありながらも、非現実的、超常的、時空的な現象に多いに関与している」  
不本意だがな、嫌じゃないんだぜ。これが俺の望みでもあったからな。  
「このため、貴方がこの猫が喋るもの、かつ涼宮ハルヒにはその事実を知られてはならない事であると、  
明確に意識しているために起こった現象。これは情報操作などでは不可能なレベル」  
そうなのか?確かに毛色は違うが、いつもハルヒの力を見てるんだ。このくらいあるだろ。  
「ない」  
あれ、なぜか長門を怒らせたみたいだ。  
「今の貴方は涼宮ハルヒはおろか、統合思念体をも超越した存在になっている」  
お前の親玉以上かよ!  
「そう、我々は涼宮ハルヒに「自律進化の可能性」を秘めていると認識し、観察を続けていた。今の貴方はその先  
自律進化した生命体。貴方が望めば、どんなことでも実現可能」  
しかし、いまいちピンと来ないな。話が飛躍しすぎだ。  
「今の貴方は宇宙的に見ても、絶対無比の力の持ち主、あらゆる制約を受けずに能力を行使できる」  
「つまり、貴方は文字通り「神」になったのですよ」  
そう言われてもな。つまり俺はハルヒと違い、意識的に力が出せるらしい。  
 
「しかし、なぜなんだ?今になって、しかも俺が」  
「恐らく、涼宮ハルヒから何かしらのエネルギーを注入されたと推測できる」  
エネルギーねぇ、エネルギー……っておい!まさか。  
 
じぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃっぃ  
 
あれか!?あれなのか?あんなことで、あいつの力を使えるようになったのか!?  
「よほど真剣に思ったのでしょう、自分の力を貴方に差し上げても元気になって欲しいと」  
はぁ、全くどうにかしてるぜ。分不相応だ。  
「僕は賛成ですよ、貴方ならほとんど閉鎖空間を発生させないで貰えそうですし」  
お前はいいだろうが……と待てよ。  
「じゃあ、今までハルヒを監視していた人間は、これからどうなる?」  
「貴方の好きに出来る、居て欲しくないと思えば、瞬時に消滅するだろう。私も……」  
「そんなことはしないさ」  
暗い表情になる長門に断言する。  
「世界はいままで通りさ、何も変えない、変わらない」  
「助かります、機関を消滅させられるのは、正直困りますので」  
「長門も今のままでいいんだ、それともお前が望むなら、あの時の、改変された長門になりたいのなら、協力する」  
「今の方がいい」  
「そっか」  
「そう」  
じゃあ結局何も変わらないじゃないのか?  
「涼宮さんは、どうなされるおつもりですか?」  
俺はしばらく考えたが、  
 
「正直に全部話そう。この世にはいろんな不思議があるんだってな」  
 
 
それから、なんやかんやで結構苦労した。  
あの統合思念体にだって意識飛ばして説教したんだ、俺一人で。三日は掛かったよ。  
まあそれは置いておこう、今じゃ平和な毎日が続いてるんだ。  
「キョン!ちょっと聞いてるの?」  
「ん?聞いてるさ、明日の不思議探検の話だろ」  
「そうなんだけど、雨なのよ予報では」  
「それじゃあ、仕方ないな」  
「ねぇ?明日、晴れにしてくれない?」  
「出来なくは無いが、お勧めしないな」  
「なんで!?いいじゃない!この辺だけでいいから」  
「お前なぁ、局地的な環境情報の変化は惑星の生態系に多大な影響を及ぼすんだぞ」  
「影響って、どのくらい?」  
「数百年から、一万年だ」  
「うっ、スケールがでかいわね」  
「そうだ、諦めろ」  
「うぅぅ」  
「まぁ、俺の部屋でのんびり過ごすのも、たまにはいいだろ?」  
そういって歩き出す、いつもの放課後だ。  
 
……  
…………  
ふと背中に暖かさを感じる。ハルヒが抱きついてきたようだ  
「ねぇ、この前みたいに、……その、突然消えたり、しないでよね」  
「あれは時間移動の必要性があったからだ」  
「みくるちゃんがいるじゃない」  
「ドジ踏まれるとまずいからな。あれは特別だった」  
「ふぇぇぇん、キョンくん酷いです」  
「朝比奈さんも自覚があるんだったら、しっかりしてくださいね」  
「へっ?それって、もしかして、告白ですか?」  
「ちょ、ちょっとみくるちゃん!キョンはね、あたしの彼氏なの!」  
「違う」  
「ふぇぇ、ごめんなさい」  
「まったく、……ところで有希。今のはみくるちゃんに対しての発言よね」  
「……」  
「長門さん、ここは、一時撤退しましょうか?」  
「珍しく意見が一致した、私達は先に行く」  
「うひゃぁぁぁ、はぁやぁいぃでぇすぅぅぅぅぅぅ」  
「ちょっとちょっと、待ちなさぁい!!」  
「やれやれ」  
「では僕も、お先に向かっておきます、お二人はゆっくりと」  
「すまないな、古泉」  
「……いえいえ、貴方からお礼なんて、これでも、精一杯からかったつもりですよ」  
「それも解ってるさ」  
そう言われて走り出す古泉。SOS団もいつも通りだ。  
 
二人でゆっくり歩きながら向かう、横のハルヒがこちらを見詰めていた。  
震える目で、何かを訴えている。  
「あたしね、ふと気付くと、あんたの存在が、この世から、消えてしまいそうで……怖い」  
俺は、ハルヒを抱き寄せながら、はっきりと答えた。  
 
「どこに行ったって俺は必ず帰ってくる。これまでも。これからも。」  
「あたしは無力だけど、あんたとなら、どこにだって付いて行くから……」  
「安心しろ」  
 
 
「俺はここに居る。そして、ここに居たい……」  
 
 
〜 I want to be here 〜    完  
 

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