〜 I want to be here 〜 4話  
 
……  
…………  
なななななにににににににいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!  
喋ってる!こいつが、また。しかもよりにもよって、ハルヒの前で!!!!  
まずくないか?いやまずいだろ!まずくないはずがない!!  
眠気なんか完全に飛んでしまった。つか、この状況、この場面で!  
俺はこちらの様子を窺っている様子のシャミセンを全力で睨み付けた、  
人間語をしゃべるな!しゃべるな!しゃべるな!という念を込めて。  
と俺の断腸の思いが、このくそ猫に通じたのか、次の瞬間  
「にゃぁ〜」  
元に戻ってた。そうだ。お前はそうでなくちゃいけないんだ。最低でもこいつの前では!!  
シャミセンは額を手でなでている。よし。これであとは事後処理だ、ハルヒには俺が腹話術でもしたことにすれば、  
とハルヒの方を向くと、???みたいな顔。やばい!急がないと。  
「ねぇ?」「なぁ」  
被った、しかしここは譲れない。強行突破だ。  
「あんたなんでシャミ睨んでんの?」「今の俺がした腹話術だ」  
 
あれ?今こいつなんて言った?  
 
俺は先ほどの音声から俺のだけ削除して、もう一度脳内に反響させてみた。  
あんたなんでシャミ睨んでんの?……だったか。間違いないな、確かにこう言ったはずだ。  
さあ、落ち着いて考えてみよう。俺はなぜシャミセンを睨んだのか、当然だ。人の言葉を話し出したからだ。うん正解。  
では次。じゃあなぜそれがハルヒにとって「疑問」になったのか?睨むこと自体が不思議じゃないとダメって事だ。  
とすると、こいつにとって「俺がシャミセンを睨むこと自体が謎の行為に見えたから訊いた」という図式が成立するな。  
では、それはなぜか、と考えたところで、ある推論が生まれた。ひょっとして……  
「なぁ、ハルヒ。つまらない質問だが、答えてくれるか?」  
「えっ?う、うん、で何?」  
俺の考えが正しいなら、この意見に同意してくれるはずなんだが、いかんせん自信が無い。が、試さないと。  
 
「いま、シャミセンの奴。「にゃぁ」って言ったよな?」  
「なにその質問?決まってるじゃない、それ以外にどう聞こえたって言うの?」  
 
……合っていた。間違いないな。シャミセンの声は俺には人間語に、ハルヒには猫語に聞こえたようだ。  
「いや、すまない。まだ頭痛があってな、変なこと訊いてすまなかった」  
俺はややオーバーに頭を抑えて痛そうにしてみた。  
「頭痛って、まだ痛むの?」  
心配そうに見つめてくるハルヒ。どうする?実際病状はもうほとんど回復しているようだが、  
もう少し病人のふりをしておくべきか?だな。目の前の猫とも話がしたいし。  
「すまないハルヒ、下の台所の戸棚に頭痛薬があると思うから、持ってきてくれないか?」  
「台所の戸棚ね。水は?」  
「それも頼む」  
「解ったわ!ちょっと待っててね」  
すすすっと部屋を出るハルヒ。ばたばたしないのは病人を気遣ってだろう。ああ見えてかなり気の利く女の子なんだ。  
 
っと今はこっちの問題が先だな。  
「おい、今なら会話できる。喋ってくれ」  
「む、いいのか」  
やはり聞こえた。ということは俺の幻聴説も却下だ。  
「お前、いつから話せるようになった」  
「その認識は正しくない。正確にはなぜ今主が私の言葉を理解できているのかと言うほうが、この場合適切だろう」  
猫の癖に言ってくれる。しかしそうだな。その方が解りやすいな。  
「じゃあ、今日は特別変わった事をしていない訳だな。お前は」  
「無論だ。私はただの猫だからな」  
「確かに、しかし今俺たちは、間違いなく意思の疎通が行われている。と認識して構わないか?」  
なぜ、こいつにこんな話し方をしないといけないのだろう?こいつの話し方が妙に高尚だからか?  
「で、あろう。私の抱いた質問に主は的確に答えているのだからな」  
「ところで、主って俺の事か?」  
「他に誰を指すのだ?」  
「いや、いい。とにかくハルヒの前ではとりあえずにゃぁとだけ言ってくれ」  
「しかし、私の側聞したところ、あの女人は私の言葉を理解していない様子だったが」  
「それでも、俺があいつの前でおまえの言葉に受け答えするわけにはいかないだろ」  
「確かに。一般的な常識では猫と会話できる人間など、変人と見られて然るべきだからな」  
「ということだ、俺もぼろは出さないよう勤めるが、お前も、二人の時以外はにゃぁで頼む」  
「善処しよう、他でもない主の頼みだからな」  
 
こんな時漫画みたいにテレパシーでも飛ばしてこいつと会話出来れば良いんだが、仕方ないか。  
しかし意外と、話してみるといい奴じゃないか、こいつ。少なくとも俺が持っていたイメージと違う。  
主従関係は結んでいないが、多少の恩義は感じているのか?  
「猫の中でも人間に恩義を感じるのは、特別な猫のみに限られる」  
そうか、まあ雄の三毛猫で謎の生命体入りだしな、お前。  
「むっさっきの女人がこちらに向かって来ている」  
気配を察知したのだろうか?俺には何も聞こえない。  
「犬ほどではないが、聴覚は人間のそれをはるかに上回っているのだ、気付かないほうが猫としておかしい」  
「……いちいち言い方に棘があるのは、この際置いておこう。手筈通り頼む」  
「了解した。にゃぁだな」  
「だな、はいらん」  
って言うか、始め眠いからここに来たとか言ってなかったっけ、こいつ?  
「うむ、しかし主と久々に意思の疎通が出来たもので興奮している」  
「だからしゃべるなって」  
「いやすまん、あい解った。にゃぁ、んっにゃぁぁ」  
シャミセンは何度かにゃぁっと発声練習していた、俺にも、にゃあとしか聞こえないならとりあえず安心か。  
 
「キョン、これでいいの?頭痛薬って?」  
「あ、あぁ助かる」  
ハルヒは妹用の風邪薬、水に溶かして飲むタイプを持ってきた。まあ一応頭痛にも効くらしいと書いてあるし。  
俺は普通の錠剤、半分が優しさのやつな、あれかなと思ってた。パッケージを眺めながら、少し思い出す。  
「お薬いやぁぁ!」っと駄々をこねた妹のために隣町まで行って、買ったやつだ。甘くて飲みやすいらしい。  
俺は何気なく薬を水の入ったコップにさらさらぁと流し込むと、  
「ちょ、ちょっと何やってんの!?」  
「これは、こうして飲むんだよ。甘い薬だ」  
「へぇ、知らなかった。あ、あのさ、ちょっとだけ飲ませてくれない?」  
お前は風邪じゃないだろ!  
「で、でも。そうよ!キョンの風邪移ったかもしれないなぁなんて」  
「はぁ、結局味見がしたいんだろ?別にいいよ」  
「ホント!!じゃあ」  
くぴっくぴっと控えめに飲むハルヒ。よかった、喫茶店のジュースのように飲まれなくて。  
「……甘いわね」  
「言ったろ、甘い薬なんだ」  
俺はハルヒからカップを受け取り薬を飲もうとする。正直甘いのは苦手な部類なので一気に飲み干す。  
「……あっ」  
「ん?なんだ?」  
「へ?いや、その、別に……」  
なんだその妙案を思いついたけど、機を逃した兵法家のような顔は?  
 
沈黙が俺の部屋を駆け巡る。なんか、とても気まずい。  
「にゃぁぁん」  
不意にシャミセンが声を出した。向くと、こちらを一瞥して窓の外を眺めている。どうした?  
「あ、みんな来たみたいよ」  
あぁそうだったな、放課後にはSOS団のみんなが来てくれるんだったっけ。  
当然長門と古泉も一緒だろう、とりあえずこの状況をなんとかしないとな。  
「すまんハルヒ。呼んで来てくれないか?」  
「ぅぅっ……解ったわ」  
ハルヒはほんの少しだけ文句を言いたそうな顔をしたが、諦めた様子で部屋を出て行った。  
 
「お邪魔しまぁぁす、ここがキョンくんのお部屋ですか」  
「なかなか綺麗じゃないですか。清潔感が漂ってます」  
「……シンプル」  
めいめい、俺の部屋に入るなり感想を述べた。しかし長門よ、お前の部屋に比べたらシンプルでもないぞ。  
「さてメンバーも揃ったし、ここが臨時SOS団支部ってことで……」  
何をする気だ、予想はしていたが。  
「キョンの部屋を探索しましょう!」  
「あ、それいいですねぇ」  
朝比奈さん、そんなに嬉しそうにしないでください。何も無い部屋なんですから。  
「僕もその意見に賛成です、彼の部屋には非常に興味があります」  
おい、古泉。その非常に気持ち悪い言い方は、裏があるのか?  
「いえ、別に」  
「はぁ、まあいいが、その前に、ハルヒ。喉渇いてないか?」  
「そういえばそうね、みくるちゃん!お茶!」  
「はぁぁい、キョンくんお台所、借りていいですか?」  
「どうぞ、そうだハルヒ、お前も手伝ってやってくれないか?」  
「あたしも?」  
「さっき台所にいったろ、朝比奈さんはここは初めてなんだ」  
「なるほどね。じゃあいくわよ!みくるちゃん!それからナース服に着替えるの」  
「ふぇぇぇん、やっぱり着ないとダメですかか?」  
「当たり前じゃない!ほら行くわよ」  
「それと、少し食欲が出てきたから……」  
「お粥ね!あたしにまかせなさい!とびっきり美味しいの持って来てあげるから!」  
そう言ってハルヒと朝比奈さんが退出した。  
 
「さて、お前らに言っておくことがある」  
「なんでしょう?部屋の探索はこのままですと回避不能ですよ」  
「その事じゃない、こいつだ」  
俺は首をつまんで膝元に持ってくる。にゃぁっと声がする。  
「シャミセンが何か?」  
「おい、許可する。喋っていいぞ」  
「む、いいのか」  
「これはこれは、またシャミセンが人間語を」  
「君は確か異端の能力者だったな」  
「……確かに僕にも聞こえます。この現象も涼宮さんのせい、なのでしょうか?」  
「それがな、ハルヒにはこいつの声が普通ににゃぁと聞こえるらしいんだ」  
「それは、非常に興味深い現象ですね」  
古泉は人差し指で髪を撫でながら、ゆっくり考えている。超常現象の専門家よ頼む。  
「いくつかの推察が出来ますが、確証がありません。情報不足の感は否めません」  
「そうか」  
「すみません、お役に立てなくて」  
「長門は?何か解るか?」  
長門はしばらくシャミセンと俺を見詰めていた。そしてしばらくして一言  
 
「これは、貴方が、原因」  
 
……始めて見た。長門の、その瞳が、震えていた。  
 
 
続く  
 
 
 

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