季節は春、もうすぐ俺たちも2年生になるのかと、少し感慨にふけっていたものも束の間なある日の放課後だった。  
「みんな!きいてぇ!!」  
はいはい、言われなくても聞きますよ。だから一々大きな声を出すな。  
「何よ?あたしの美声に不満あるわけ?」  
論点が違う、俺は大きさを言ったのだ、声の質に関しては……ノーコメントだ。  
「まあ、いいわ。これ見なさい」  
といって渡された紙に目をやる、こうやって俺の日常は崩されるんだ、まあ正直、悪い気はしないがね。  
『異世界人との一般人との恋(仮)』  
なんだこりゃ?という顔を見逃さなかったらしい、  
「次の映画の主題よ!」  
高らかに宣言した。しかし、まあ、何と言うか、なんで普通の恋愛物にしないんだ?  
「そんなの面白くないじゃない!」  
当たり前でしょ、みたいな顔で返されても、みると朝比奈さんと古泉は少しだけ困惑している。  
「あのぉ、やっぱり私が主演するんですかぁ?」  
「また僕が相手役なんですか?」  
似たような視線をハルヒに向けている。そりゃそうだ、あんなのをまた衆目に晒すつもりなのか?  
「いえ!今回は貴方達の出番はほとんど無いわ」  
「と、いいますと?」  
良い質問だが古泉、あんまり深く聞くとまたへんてこな役を押し付けられるぞ。  
お前には過去を振り返る力はないのか?という疑念をよそにハルヒは仁王立ちで話を進めた。  
 
「前にも言ったと思うけど、あたしの映画は三部構成なの!」  
ちょっとまて、いつ言った?まあ確かにエピソード00なんだからエピソード01とか続きそうな気配はあったが、  
「前回の分で、宇宙人、未来人、超能力者は出てきたけど今回は異世界人を出すの!」  
出すの!なんて言わないでくれ。只でさえお前の力をもってすれば異世界人の一人や二人呼びそうで怖い、マジデ。  
「で!すべてのキャラが出てきたところで、堂々のフィナーレ、最終章に向かうわけ、どう古泉君!」  
「大変にすばらしいアイデアかと、今回の映画は前回超能力者役の僕、宇宙人役の長門さん、  
そして未来人役の朝比奈さんは、話の主観には絡まないと言うわけですね。」  
「その通り!解ってるじゃない」  
なるほど、古泉と朝比奈さんがほっとした表情を浮かべるわけだ。あんな役をとりあえずだがしなくて良い。  
これは精神的にも非常に楽だ、長門は相変わらずの無表情だが、長門の苦労は俺が少しは理解しているつもりだ、  
今回は裏方で良いとなると宇宙人的パワーも使わなくて済むだろう。ん?しかし、と言うことになると。  
「じゃあ三人は何をさせるんだ?」  
「決まってるじゃない、裏方よ。古泉君は照明係ね、有希は撮影係、みくるちゃんは、他の団員の給仕係!」  
なるほど、ハルヒにしてはまともな振り分けだ。というか理想的な配置じゃないか?  
俺の考えは皆に伝わっているのか、古泉と朝比奈さんはうんうんうんうんと頷いている。ちょっと露骨で怖い。  
「で、主演の事なんだけど、」  
はぁ〜〜っと溜息をつきながら訊いた。  
「俺はどっちの役を演じればいいんだ?異世界人か?それとも一般人か?」  
「話が解るじゃないキョン。でもそこはまだ決めてないけど、あんたはどっちがいい?」  
「それよりも、もう一人の相手役を探すのが先だろ」  
「えっ!?」  
……何だ?俺はおかしなことを言ったつもりは無いが、はとが豆鉄砲喰らったような顔をしている皆。  
そういや、前の撮影のとき見たな。ありゃ言葉通りと思ったね。っとなんだこの沈黙は。  
「えっ、じゃない相手役だ。役者が足りないだろ」  
「えっ、いやっ、だから」  
「相手役は俺が決める。そのくらいは問題ないだろ。それからどちらが異世界人役でどちらが一般人役か決めてから  
台本作り、そして撮影に入る、これでいいな」  
「あの、だからっ、その相手役は……」  
「カメラ役の長門、レフ板係の古泉、給仕の朝比奈さん、出演の俺、それに監督のお前、  
SOS団の5人はもう配置が決まってるだろ。じゃあ他のところから出演を頼むしかないじゃないか?」  
「!!っぅ、、、……」  
どうしたんだ一体?なんか睨まれてます俺。ふと視線を逸らすと、あれ?なんで皆も睨んでんの?  
 
「涼宮さんが出演されては如何でしょう?」  
ぱぁぁぁ!!っと明るい表情になるハルヒ、だが視線を逸らしていた俺が気付くはずも無く。  
「無理だ、前回も同じ事を俺が聞いたが、何だっけ「二兎を追うと切り株に」とか言って断られた」  
はっと思い出した表情になり、どよ〜んと暗くなるハルヒ、しかし俺は気付かなかった。  
「しかし、今回は出演者が足りない事態ですので、多少苦労はあるかと思いますが……監督と兼任というのは?」  
うんうんうん、と頷くハルヒ、しかしまたしても目を瞑って考えていた俺には見えない。  
「そうだ、鶴屋さんなんてどうだろう、あの人なら、参加してくれるに違いない」  
「!!!、、、#”$”#」  
「ん?どうしたハルヒ?」  
「へ?あっそうそう、鶴屋さんは、えっと、、最近は忙しいって言ってた」  
確かに、なんといってもあんな大きな家の一人娘だ。こんな団に関わっている余裕はおのずと限られるだろう。  
「じゃあ、阪中さんとかどうだ?」  
「彼女は……えっと、犬のお世話が大変そうだから」  
あの溺愛っぷりから見て解るな。時間は割けそうに無いか。  
「じゃあ、ミヨキチに頼むk」  
「それはだめ!!!」  
なぜだ?異世界人役は無理でも一般人役くらいこなせそうだぞ。そもそも一般人役というのがどんな役なのか解らないが。  
「あんたは、いいかもしれないけど、あたし達は初対面じゃない!そんなの絶対ダメ」  
「だれだって始めは初対面だろ」  
「むぅぅぅ、とにかくダメなものはダメ!!」  
今回のハルヒはかなり強引だ。選考にあんまり時間を掛けたくないんだがな。  
 
「となると、ん?長門、どうした?誰か適任者がいるのか?」  
こちらをじぃっと見つめている長門に聞いてみる、こいつの紹介なら被害は小さくて済むだろう、多分。  
「……私」  
えっ!?これには周りに居た4人が口を揃えて言った。  
「私は前回の撮影のラスト、最後の先頭シーンで宇宙の彼方へ飛ばされていったことになっている」  
そうだったな、シャミと一緒に、それで地球に平和が戻ったって所で終ったしな。  
「そこで、飛ばされていった先は別次元の地球に設定する。こうすると私と言う存在は飛ばされていった先の世界では  
異世界からの訪問者という設定が生まれる」  
ふむ、つまり異世界人の長門という設定になる訳か、  
「しかもこの場合、前回の続きとして視聴者にこの作品が一連の流れを持つものと認識させることが可能」  
なるほど、前回の続き物だという、話の繋ぎ効果も十分にあるな。  
「更に、前回の最後、覚醒した古泉イツキによって私は相当なダメージを受け、その状態を一般人役である貴方が  
見つけて、という冒頭のシーンから話を始めると。恋愛物の最大の難所である出会いのシーンもクリア」  
十分に自分の意見を出し切ったのか、長門は満足そうだ、少し顔が赤く見えるのは気のせいだろうか?  
しかし、こんなに力説している長門は、初めて部屋に呼ばれた時以来だ。そんなにヒロイン役になりたいのか?  
「ちょっと待って!」  
いままで黙っていたハルヒが口を挟んできた。なぜだ?長門の案はいい事尽くめじゃないか?  
「キョンってばか?じゃあどうやって撮影すんのよ」  
えへんと腕を組むハルヒ、そういえば長門は撮影係だっけ、同時には……無理だな、と思っていると。  
「貴方」  
長門が即答してきた。  
「あたし?」  
「貴方が監督兼任の撮影係、こうする事により、より貴方の意思に近い映像撮影が可能になる」  
そりゃ監督がその場で映像の出来をチェック出来る点は大きいよな。  
それに俺なんかに「異世界人」の役をしろってのも無理がある。俺は只の一高校生だし、一般人役というか一般人だ  
「いいんじゃないか?お前も長門なら文句無いだろ?」  
 
といってハルヒの方向を向いたとき、異変にやっと気付いた。……あのハルヒが目に涙を浮かべてる。  
「……ぅぅぇぇっっ、、、、っっ……ふぇぇぇぇん、……zzずぅぅ」  
困った、まさか泣き出すとは思ってなかった、ちょっとふざけ過ぎたな。気付いてないとかのは、ありゃ嘘だ。  
えっ、嘘付けこの野郎?甘いな、俺は文章読んでるお前らと違って、最初から気付いていて芝居をしてたのさ。  
なんせこの空間の空気は俺たちにしか直接感じ取れないからな。いくら俺が鈍くても気付くっての。  
俺はすまん古泉、長門それに朝比奈さん少しだけ席を外して貰えませんかの目配せを・・・ってあれっ!!  
いない。くそ逃げられたか。というか好都合なんだがな。  
「なあ、ハルヒ」  
「……」  
無言で俯いたまま動かないハルヒに近づき俺は続けた。  
「長門の案には致命的な欠点があるんだ、お前は始め三部構成って言ったな」  
「……ぐすっ、、それが」  
「じゃあ、きっと次の次の作品内では宇宙人役は必要になる訳だ、長門は一人しか居ないのにな」  
はっとなるハルヒ。  
「そうよ!あたしの中で有希は宇宙人役で決まりなの」  
「あと、それからこれは、一度しか言わないぞ」  
「何?」  
「俺は、お前と映画に出演したい。もちろん嫌なら断ってくれ、どうにかして相手役をさが・」  
「キョン!!」  
おわっと、抱き付かれた。泣いた後特有の赤みを帯びた瞳がこちらを見つめる。  
「キョン……いいの?」  
俺は顔が熱くなるのを感じ、きっと赤面してるであろう顔を横に向けて、こう答えた。  
 
 
 
「言ったろ、二度は言わないぞ、後は返事を待つだけだ」  
 
 
 
 
えっ、で結局どうなったかって?それは来年の文化祭のお楽しみにしとこうか。  
「キョ〜〜〜ン、何してんのよ、はやく来なさぁぁい」  
どうやら、あいつに呼ばれているから、もう行くぞ、じゃあな  
 
完  
 
 

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