涼宮ハルヒの宇宙  
 
 冬の寒さも和らいで、縁側でのんびり昼寝するシャミセンが似合う。  
となりに朝比奈さんを配置して眺めていたいくらいぽわわ〜んとした日々が続いていた。  
 昨日と変わらない放課後、俺は部室にいた。  
 たしか昨日、部室で小泉が言っていた。  
「非常に興味深い内容でしたよ」  
 頭の中で再生した声と目の前の小泉が発した声が重なる。  
 今のリフレイン以外、何が興味深いというのだろう。  
 
 ただのデジャヴュであることを期待しつつも心のどこかでああ、またかという気がする。  
 夏にも同じ事があったな。夏休みフォーエヴァー。  
 あの時と違うのは記憶を持ち越しって事か。  
 まるでX Filesの月曜日の朝かトゥルー・コーリングだな。  
 今回やり残したことはなんだ?  
 こんなことが起こるたびにいちいち驚いてたんじゃ身が持たない。  
 逆に王様から言い渡される無理難題をクリアしていくような気分でいるのはなんだろうね。  
 朝比奈さんごめんなさい、あの頃のピュアな俺はもういません。  
「そう」  
 長門の視線がビームのように俺に刺さる、はずが長門がいない。  
 昨日はそこでハードカバーを読んでいたのに。  
 長門無しとなると今回の攻略は大変そうだ。いちおう小泉の台詞に耳を澄ます。  
 なにかヒントがあるかもしれないしな。  
「宇宙を説明できる理論にスーパーストリング理論というのがあると…」  
 昨日と同じ気がする。同じ番組の話題が出ていた。  
 そう、昨日は……  
 
「非常に興味深い内容でしたよ」  
 小泉が昨日のテレビの内容を説明していた。NHK-BSでやっていた宇宙を説明する理論の特集だ。  
「俺も見た。途中で寝たけど結構面白かったな」  
「ちょっと、そんな面白そうな番組やってるならなんで私に連絡しないのよ」  
 まったく無茶を言う。10時過ぎだったし、俺だってチャンネルを変えてて見つけたんだ。  
 俺はハルヒのテレビ係ではない。  
「NHKは即刻再放送するべきよ。それまでこの話題禁止」  
 ハルヒの言動は俺の想像の斜め上を飛んでいく。少しは協調性ってモノを持って欲しい。  
「いいじゃないですか、それが涼宮さんの特性ですよ」  
 朝比奈さんが淹れてくれたお茶をすすりながら聞き流す。相変わらずうまいですな、お茶。  
「ありがとうございます」  
 いつものメイド服でお盆を胸の前にもって朝比奈さんがほほえむ。  
「あたしにもお茶ちょうだい」  
 ハルヒに呼ばれ、とてててというSEが似合いそうな小走りで戻っていった。  
 その日は特に何も無く解散となる。  
 俺は部室を出て行く長門に声をかけた。  
 
 帰り道、長門に切り出す。  
 なぁ長門、宇宙の理論についていくつか質問があるんだがいいか?  
 こく、長門がうなずく。  
 さっき部室で話してた宇宙ヒモ理論ってのは本当か?  
「人類の構築した論理はいいところまできてる。でも少し足りない」  
 ハルヒの落ち着き以外、なにが足りないんだ?  
「極微小粒子の挙動と多重的な世界構造の関数が3つ。  
 無くても物理的な存在はおよそ説明できるけれどラプラスの魔は実現できない」  
 朝比奈さんに聞いたら禁止事項とか言われそうだな。  
 現在の人類では知りえない情報とかなんとか。  
 朝比奈さんのことだから理解できてない可能性のほうが高いか。  
 まぁいいや、んでそれは何?  
 
「人、この世界では涼宮ハルヒの意思が世界に影響を与える。  
 それを説明する関数。説明してもあなたでは理解できない」  
 なんてこった。いまさらだけど長門の口から聞かされるとな。  
 んじゃもうひとつ質問、ヒモ理論のヴァージョンが5つもあるのはなぜ?  
「この世界を説明しているのは一つ。のこりは平行世界の論理。本当はもっとある。  
 平行世界はほとんど同じだからどの説を利用しても有為な差は観測できない」  
 ほほう、同時進行で同じような世界があると。  
「平行世界以外にも、上下位にあたる世界がある。これも説明しない。  
 この4次元世界なら下位次元の概念の理解は容易。でも上位の世界は理解するのは困難。  
 人類は仮説を構築したけれど、まだ明確な論理は証明できていない」  
 パラレルワールドとレイヤードワールドか。リングワールドはないのかね。  
 しかし、まるでSFだね。  
「直感的に気づきかけている人もいる。この世界ではないけれど。宮野秀策、岩田裕、他にもいるかも。  
 だから小説にもつかわれる。現実は小説より奇なり、しかし真実は思考にあり」  
 俺はハルヒまかせでいいかげんな世界の深遠について考えるのを止めた。  
 
 回想シーンを終えてパソコンの前に座る。ヒント探しの第二段を開始っと。  
 お茶をすすりながら電源を入れてモニターを眺める。  
 OS起動画面が現れる。OversSystem Ver.0.89 sp2ってなんだ、何かの冗談か?  
 見慣れたデスクトップが現れるが変わったところは何も無い。  
 MIKURUフォルダの中身も変わっていない。  
   
「あら、有希。今日は遅かったわね。理由無き遅刻は懲罰対象よ」  
「クラスの仕事」  
 長門が部室に現れた。  
 長門に声をかける。  
「なにか変なことなかったか?」  
 
 
 介入する。  
 実行。  
 
 終了。  
 
 
「なにも。安心していい」  
 長門がほほえんだ、気がした。  
 
 
 涼宮ハルヒの宇宙 終わり  
 

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