生徒会との機関誌騒動も一応の決着をつけ、三学期も残すところ後僅かとなった春先。
SOS団の活動に休みというのはない、と言うのはずいぶん前から解りきっていたが、
今回ばかりは、休まない訳には行かない。あぁどうしたもんかね。正直憂鬱だよ、全く。
しかし、お世辞にも嘘や隠し事の類は上手じゃないんだ。……強硬手段に出るしかないな。
「おんまたせぇぇ!!」
来たか。言い忘れていたが、今日は金曜日、放課後の部室だ。いつものように朝比奈さん、長門、
古泉そして俺の四人は所定の位置で、やはりいつも通りまったりと時を過ごしている、いや「いた」
「それで明日の不思議探しなんだけど」
ハルヒ、最近は「暇か?暇よね!」の応酬が無いんだな。聞くだけ無駄な三人に、結局参加する俺だもんな。
でもよ、今回ばかりはすまん、と心の中で思いつつ
「その事なんだがハルヒ」
「今回はちょっと趣向を変えて、って何よ?今あたしが話してるでしょ。ちょっと黙ってなさい」
「すまん、明日は重要な用事があって。俺は参加できない」
「ふーん。重要な用事って何?説明しなさいよ。」
ほれみろ、俺、どうするんだ。と聞こえたような気がしたが事実を話すわけにはいかないので誤魔化す事にした。
「とにかく明日は都合が悪い、俺は行けない」
「だから、あたしは何で?って聞いてるんでしょ!」
「人に言えないことの一つや二つあるだろ?」
「ふーん、キョンは明日に「人に言えないこと」をするつもりなんだ。へぇぇ〜」
よし、ここだ、ここの機会を逃すなよ俺。
「じゃあ、そういうことにしておいてくれ」
「へ?」
あら珍しい、ハルヒの久々の驚き顔だ、というより唖然としているなこりゃ。
「今日の話はそれだけか?もうないのなら悪いが俺は帰らせてもらうから」
「えっ、あ、ちょっと」
「じゃあ、みんな。ごめんな」
俺は一気にハルヒを捲くし立て、おろおろしている朝比奈さん、相変わらずの長門、事の展開を見ていた古泉に、
すまないとだけ言って、部室を離れた。これでよかったんだ、きっと。
後ろ髪を引かれる思いだが、仕方ない。明日のハルヒのお守りは任せたぞ。
「あやしい」
あたしはあからさまな事を口にして、キョンの出て行ったドアを見ていた。
何かを隠している事は見れば解る。でも「何を」までは会話では推測できなかった。
「どうしたんでしょうね?彼はいつも暇そうなんですが」
古泉君も同じ考えだ。ということは古泉君も何でキョンが参加できないのか知らないみたいね。
あたしは、頭に???とついている様子のみくるちゃんを見る。知らないみたいね。となると、
有希はどうかしら?うーん表情はいつもと変わらないわね。
キョンは有希を信頼してるみたいだし、もしかしたら何か聞けるかも。一応聞いてみますか。
「ねぇ有希、貴方は明日キョンが何するか、聞いてない?」
有希は視線をこちらに向けて一言
「ない」
「本当に?」
「ない」
そうか有希も知らないのか、これは調べてみるっきゃないでしょ!
「じゃあ明日はキョンの行動を観察しましょう、いいわねみんな!」
あたしは高らかに宣言した。
「確かに今日の彼は少し様子が違いましたからね」
「えっと、うまく言えないんですけど、その、感情を押し殺してるような感じでした」
「……」
三人とも同調してくれた。よし、明日は朝から張り込みよ。わくわくするわ!
夜にキョンの携帯に電話を掛ける、明日は会わないつもりだから明後日に市内探索をするって伝えたら
「そうか、すまないな」
当然、キョンの奢りだからね、と付け加えておくのも忘れない。
「やれやれ、解ったよ」
こんなに申し訳なさそうなキョンは初めてだ。だとしたらどうしても理由が訊きたい。
「ねぇ、あたしにだけでもいいから、明日何するのか教えてくれない?」
少し甘えた声で訊いたみる。しばらく無言、またはぐらかす気かしら?などと考えて答えを待っていると
「頼むからその事について、これ以上詮索するな」
少し、キョンの口調が変わった。いつもの優しい口調じゃない、早く話を終わらせないと。
「わかったわ、じゃあ!」
あたしはいつもの様に一方的に会話を終了させた。
話していた携帯を充電器に差し込んで、考える。そういえばあたしキョンの事、よく知らない。
家族構成は妹ちゃんと母親は見たことあるけど、他に兄弟とかいるのかしら?
自宅は探索ついでにお茶しましょうって強引に調べた。至って普通の二階建て一軒家。
他は?趣味、知らない。よく部室で古泉君とボードゲームしてるし、遊ぶことは好きみたい。
交友関係は割りと少なめ。でも男友達は少ないながら、きちんと友情みたいなものがあるのは見て取れる。
異性の交友関係はっと、ここよね。クラスの女子には「普通の男の子」と評価、節穴ね。
でも、阪中さんと転校しちゃったけど朝倉はキョンに少なからず関心がある(あった)様に見える。
あと妹ちゃんの友達の吉村美代子だっけ「ミヨキチ」ってあだなの子。キョンが「恋愛小説」のヒロイン役にした子。
彼女は要注意ね、まだ見たことは無いけど、キョンの自宅に容易に入れる仲ってのは大きいわ。
あとは、過去。キョンは自分の過去を滅多に話さない。「面白くないぞ」って言ってすぐ話題そらしちゃう。
あたしもあんまり人のこと言えないけど、自分の過去話ってよほど信頼してる相手にしか話さないものよね、きっと。
じゃあ、あたしはキョンに信頼されてないのかな……軽く落ち込む。
やっぱり知りたい。キョンのこと。明日は新しいキョンの一面が見れるかも。
他の三人には悪いけど、途中で「面白くないから今日は解散!」って言って撤収したふりをしましょう。
そして用事が終わるまで尾行して、終わったキョンが暇そうなら遊ぼう!うんこれだ!
あたしは天才軍師さんの真似で手を扇のようにはためかせながら、明日の朝に備えるために、眠りについた。
…………
「なんか、つまんないわねぇ」
「シャミちゃんと妹ちゃんの相手をしてますねぇ」
「母親はさっき出て行ったわ、つまり家にはキョンと妹ちゃんとシャミだけって事かしら?」
「あたしはてっきり、家族でどこかにお出かけかもと思ったんですけどぉ」
「現時点での外出は無いと思われる」
「確かに、どこかに向かいそうな気配は今のところありませんね、服装もラフな格好をしていますし」
「でもぅ、心なしかキョン君、無理してそうな印象を受けます。気のせいかもしれませんが」
「みくるちゃんもそお思う?なんかいつもと違うみたい、今日のキョンは」
「涼宮さん達もですか。実は僕も同感です。今日の彼からは余裕を感じません」
「とにかく観察を続けましょう」
……
「これなら市内探索を欠席しなくても良かったんじゃない!?なんか腹立ってくるわね」
「午後から、という線も捨て切れませんが、こうも彼に動きがないと」
「……」
「確かに、うむぅ。ねぇみんな、ここは一旦撤収して、明日の朝に問い詰めるってのは?」
「じゃあ、ここで解散するんですかぁ?」
「そ。どうせキョンの事だもの、たいした用事じゃないわ、それに明日もきっとキョンが一番最後だから」
「なるほど、喫茶店で事の顛末を彼から聞きだす、とお考えですね」
「解ってるじゃない古泉君。みくるちゃんと有希は?」
「あたしは別にいいですけど」
「構わない」
「じゃあこの場はひとまず解散ね、明日はいつもどおり朝九時に駅前に集合で!」
三人は頷いて、それからキョンの家のはすむかいにあるアパートの屋上を後にした。
一人で昼食をとった後、再びアパートの屋上に来たあたし。さてここからは一人で観察再開。
話し相手が居ないのはちょっと寂しいけど、仕方ないわ。他のみんなに知られたくないもの。
ごめんねみくるちゃんと有希と古泉君、昨日の電話からはとても重要な事と思う。
それとも知られたらあたしたちに迷惑が掛かる事。色々と疑念が尽きない。
もしどうでも良い用事なら、明日の分はあたしが奢るわ。
なんてことを考えていると、キョンに動きがあった。着替えている、、、カーテン位しなさいよ全く。
それにしても半裸のキョン……はっダメダメ、何考えてんのよ!涼宮ハルヒ!しっかりしなさい!
っと呆けている場合じゃないわね、キョンが家から出たわ。
キョンは自転車を移動手段に良く使うから、あたしは自分の自転車を用意してってあれ?歩きなの?
キョンは歩いて駅とは反対方向に向かっていった。これなら見失う可能性が無くていいけど、
「まぁ、いっか」
あたしもその場に自転車を置き、007のように尾行行動を開始した。
「小学校?」
キョンは歩いて数分のところにある小学校に入っていった。妹ちゃん関係かしら?
でも妹ちゃんは家に居るし、と考えたところで理解した。なるほど。
「キョン君!ナイスレシーブ!」
「ほらほらぁ、若いんだから、お母さんの替わりに動きなさい」
キョンはママさんバレーの輪の中に居た。あたしはわなわなとなる気持ちを抑えながら、笑顔を創って話しかけた。
「キョン君、楽しそうね」
「そう見えます?なんで俺が……って涼宮!」
「キョンこれはどういうこと!って見れば解るわね」
「そうだ見たまんまだ、ただ少し背が高いと言うだけでお袋に参加を命じられていたんだ」
「みんなに言いたくなかったのは」
「恥ずかしいだろ、どう見たって」
「そお?別に気にしないわ。スポーツは健康に良いんだから。しかしあんたもバカね」
「何がだ?断りの文句は全て却下されたぞ」
「違うわよ、事情を説明してくれてたら他のみんなも呼んだのに」
「俺の都合でみんなを巻き込みたくなかったんだ」
そうだ、こういう奴なんだキョンは、あたしたちは別に気にしないことも一々気を遣って動く。
そんないつものキョンでいてくれたのが、なぜか嬉しかった。
「あの、よかったら、一緒にバレーやる?」
しらないおばさんが話しかけてくれた。よし!ひとつ暴れますか!
あたしは「いいの!」と目を輝かせてコートに入っていった。
さて余談だが少し書いておこうか。
まぁ大方予想済みかと思うが、小学校でのハルヒの活躍は、皆の予想通りだ。
もともとスポーツ万能だからな。そういえば近々俺たちの高校でも球技大会があるらしい。
男子はサッカー、女子はバレーだっけ?でも使用するボールが違うだろ。……関係ないか、こいつには。
そして、たっぷり汗を流した(流させられた)俺たちは、お袋の薦めもあり、俺の家で飯を食った。
ハルヒは始めこそ遠慮していたが、お袋には勝てなかったようだ。しかし妙に嬉しそうだったな。
それで遅くなったから「泊まっていけば?」なんていいだすお袋、勘弁してくれ、妹は喜んだが。
これは俺がきちんと自宅まで送ることで何とか阻止できた。ちょっとハルヒが不機嫌そうにも見えたが、
「ほら乗せていくから」
と自転車を用意して言うと
「えっ、あ……解った」
と不思議な顔をした。なんだ?お前俺の家まで歩いてきたんだろ?
「そ、そうよ……しっかり家まで乗せていきなさい!命令よ!」
言われなくてもそのつもりさ。
俺は、いつものスピードよりもほんの少しだけゆっくり自転車を走らせながら、
「ハルヒ」
「何よ」
「今日は……ありがとな」
「別にあんたのためじゃないわよ、それにあたしも楽しかったから、気にしないの」
「そうかい」
「それと次こういったことがあったら、きちんと説明しなさい。あたしは別にまた参加してもいいから……」
「解ったよ」
「それから明日は、きちんとみんなに説明しなさい。もちろんあんたの奢りで」
「へいへい」
「まあ今日は楽しめたし、明日の奢りの半分は出してあげるわ」
「ん?いいのか?きっと最後に来るぞ俺は」
「あたしが良いって言ってるんだからいいの」
「わかったよ」
「そ、それじゃあ、あんたも疲れてるんだし、もう少しゆっくり走っていいわよ」
完