「ほら、キョン。さっさとストーブの電気を消しなさい」
俺はお前の召使いじゃないんだが。そもそもハルヒからが一番近い。
「気持ち良さそうにうつらうつらしてた分際で四の五の言わないで早くやんなさい。
あーあ、あんたのアホ面をデジカメに記録しておけばよかったわ」
くわばらくわばら。こいつに弱味を握られたらと思うと考えただけで恐ろしい。
ボーっとする頭を抱えながらも俺はなんとか立ち上がって、
ハルヒの側に鎮座している真新しいストーブのスイッチを切った。
「コンセントもちゃんと抜きなさい。小さな気の緩みが火事を招くのよ」
はいはい。
「よーっし。それじゃあみくるちゃんが着替えるからあんたたちは退場!」
どうして俺だけ背中を押して強制的に放り出そうとするんだ。古泉も男だぞ。
「古泉君はいいのよ。あんたは危険。文句ある?」
大いにある。と言いたいところだが抵抗するのも馬鹿らしいので好きにしてくれ。
「あら?」
何だ、急に手を止めて。お着替えを見てもいいのか?
「有希がいないのよ。いつのまに帰っちゃったのかしら。
・・・・・・あと、冗談でもそんなこと言うのはやめなさい」
すみません。と、朝比奈さんに謝りつつ振り向くと確かに長門の姿が無い。
「急な用事でもあったのかしら? カーディガンまで置きっ放しだわ」
長門が座っていた椅子の背もたれには、見慣れたカーディガンが掛かっていた。
そういや、今日は俺が来た時からずっと着てなかったな。暑かったんだろうか。
「キョン。あんた、今すぐ有希を追いかけて渡してきなさい。
このままだとあの子、きっと寒い思いをするだろうから」
「おう」
俺は椅子からカーディガンを引っぺがして走り出したが、下駄箱まで行っても
長門の姿を見つけることは出来ず、結局部室まで引き返してきた。
ハルヒの文句を聞き流しつつ、俺は再びカーディガンを椅子に掛け直した。
次の日、長門はいつもと同じく椅子に座って本を読んでいた。
まるで何事も無かったかのようにカーディガンを羽織って。