その日俺は違和感を感じながら目を覚ました  
「何かおかしくないか」  
いつものように安眠の妨害にやってきた妹に尋ねてみる  
「どうしたのキョン君」  
不思議そうな顔で妹が見ているがやはりどこもおかしいところはない  
俺の気のせいだろうかあるいは妹が気づいてないだけだろうか  
カーテンを開けて外を見てみるしかしそこにはUFOが浮かんでいるわけでも超能力者が空を飛んでいるわけでもなかった  
「シャミもご飯だよー」  
勿論突然猫がしゃべり出すことも  
どうやらありがたいことに俺の杞憂らしい  
またハルヒが訳の分からん世界改変を起こしたわけではないようだ  
 
 
 
多分な  
いやそう信じたい  
 
 
 
「よう谷口」  
「むキョンか」  
例によってエスカレーターでもつけてくれと思うような北高の坂道への途中  
谷口の姿を見つけた  
 
念には念を入れてみてもいいだろう  
「なあ朝倉って今何してるんだろうな」  
「朝倉ならカナダだろ連絡でも来ないもんかね」  
やはり俺は心配のし過ぎらしい不思議な出来事に巻きこまれ過ぎで疑い深くなったんだろう  
「なんで急にそんなこと聞くんだ涼宮の差し金か」  
ほらなちゃんとハルヒもこの世界に存在している  
「復活した朝倉」「俺を知らないSOS団の皆」「長門の微笑み」それらを思い出したがどうやら違うようだ  
 
 
 
 
 
世界は何も変わってない           
ように見えたのさ俺には  
 
 
教室に入るとそいつの姿はすぐに眼に入ってきた  
ほらなやっぱり勘違いなんだろ俺よ違和感なんて気のせいだ世界はそのままさ  
「隙ありぃ」  
「うぉあ」  
それは俺が着席する直前だった  
ハルヒがいきなり俺のわき腹を指でついてきて俺は情けない声をあげた  
「いきなり何しやがる」  
「遅いわよ」  
教室の隅の時計を見てみる予鈴すらまだ鳴っていない俺としては普通の時間のつもりだ  
「いいキョン時間は待ってくれないのよ今日は重大発表があるんだからね必ず放課後必ず部室に来なさい来なかったら死刑だからねそれに悔しかったら反撃してみなさいあたしは隙は見せないわよ」  
いつもの何かを企んでる表情でまくし立てるように喋るハルヒに俺の疑念のやつがまたもや頭をもたげてきやがった  
なあ違和感よいい加減にあきらめないかハルヒも楽しそうじゃないか世界改変なんてそうそう起こらないだろ  
 
念の為に他のSOS団のメンバーにも会っておこうと俺は休み時間に1年9組の教室を目指すことにした  
結論から言えばこの時点では俺はやはり異変に気付けなかった  
1年9組に向かう途中で教室移動らしい朝比奈さんと鶴屋さんに声をかけられたし  
古泉の奴の話を聞いてもあの忌々しい閉鎖空間の奴は2日前から発生していないらしい  
そういえばハルヒは2日前国語の小テストでつまらないことで担当の教師ともめていた  
「前回の閉鎖空間はそれが原因でしたかその教員は知らないんでしょうね自分のした事はひょっとしたら世界を終わらせていたかも知れない事を」  
古泉はいつもの如才なきスマイルで笑っているいっそ俺が見たことない表情でもしてたら面白いのだが  
「残念ですが僕の知る限りでは世界に異常はないようですあるとしたら我々が見逃すような小さな変化ではないでしょうか」  
小さな変化ね  
最後に最も頼れる我等が宇宙人に会いに行こうとしたところでチャイムが鳴り響き俺は教室に戻らざるをえなくなった  
まぁ昼休みでいいだろう  
 
 
昼休み  
すっかり通いなれた旧校舎の我等が部室のドアを叩く  
 
 
おかしいいつもの聞きなれた三点リーダが聞こえない  
まさか長門がいないのか  
「入って」  
中から聞こえたのは聞きなれた長門の声  
なんだいるならいつもの三点リーダで返事をしてくれても問題なかったんだが  
「それは無理」  
今日の長門は沈黙という三点リーダをあまり多用しないらしいすぐに答えてくれた  
やはり長門がおかしいのかいやこれは俺の知っている長門だ  
 
「なぁ長門世界はやっぱり異常があるのか」  
「ある」  
「どんなだ」  
「涼宮ハルヒはこの世界を形成する句読点及び論述に用いる「」を除く記号を奪った」  
「はぁ」  
俺は素っ頓狂な声を上げた  
「例えるならば点や丸あるいはクエスチョンマークやエクスクラメーションマーク」  
「ひょっとすると三点リーダもか」  
「そう」  
そうかそれで長門は三点リーダを使っていないのか  
しかしなんでそんな突飛なことが起こりやがったんだ  
「おそらく2日前の閉鎖空間の発生の際古泉一樹の属する“機関”すら気付かない程の小規模な世界改変が行われた」  
待てよ  
確か2日前ハルヒは小テストの句読点について減点されハルヒにしては低いといっても俺よりもずっといい点数を取り「あぁもう句読点なんかこの世からなくなればいいのよ」と言っていた気がする  
まさかそれが原因か  
「おそらくそう」  
 
三点リーダ三点リーダやれやれ点今残念ながら俺の違和感は正しかったらしい丸伊達に巻きこまれ慣れてないね丸  
あぁ本当だどうやらこの世界には句読点が存在していないらしい  
しかしこれは少し不便だな  
 
 
 
 
「なぁ長門対策はあるのか」  
「方法はある貴方が涼宮ハルヒに句読点がある世界の方が好ましいと思わせること」  
よし任せろ句読点がある世界の方が好ましいと思わせることだな  
ってどうしろっていうんだ句読点があったほうがいいってどんなだよ  
「私には分からない」  
 
 
やれやれ三点リーダ三点リーダ  
 
 
少し反則かも知れない  
しかし俺にはこれしか思い浮かばなかったんだ  
すまんなハルヒ  
 
放課後の部室  
 
いつもと同じように朝比奈さんの淹れてくれたお茶を飲みながら俺は古泉とボードゲームをし長門は本を読み朝比奈さんは編み物をしてハルヒは俺にとっては重大でもない重大発表とやらをホワイトボードに書き綴っていた  
「ちょっとキョン聞いてるの」  
ハルヒは軽く怒った表情を浮かべ俺の近くによってくる  
「ああ聞いてるさ」  
適当に返事をして受け流しておく  
「古泉君もキョンに言ってあげてよ団員はもっと真面目に団長の話を聞くべきだって」  
「まあまあ彼も何か考え事でも  
 
 
 
 
 
 
「ハルヒ すきだ  
 
 
 
 
「なななn」  
 
ハルヒは顔を真っ赤にして狼狽している  
可愛いじゃないかハルヒもやはり普通の高校生なんだな  
 
 
らけだぞ」  
 
俺はハルヒのわき腹を軽くつついてやる  
勿論セクハラにならない程度だ  
 
「ふわぁxsw」  
おもいきり慌てるハルヒまるで朝比奈さんのようだ  
少しバランスを崩したところを建て直しこちらにくるっと振り向くとわなわなと怒りをあらわにする  
「この馬鹿キョン覚えてなさいよ」  
ハルヒは鞄をひっつかむと駆け足で部室を出ていった  
 
 
 
残された面々はというと  
長門はいつもの瞳でじっとこっちを見ていた  
古泉は微苦笑に驚きを足したような表情を浮かべている  
朝比奈さんは何が起こったのか分からないらしく不思議そうにしている  
 
 
 
翌日  
 
「キョンくーん、朝だよー」  
前日と同じように、俺は妹の攻撃で目を覚ます。  
 
…どうやら俺の作戦は上手く働いてくれたらしい。  
いきなり「好きだ」なんて言われたら、多分誰だって慌てるだろう。それを利用してハルヒを悔しがらせる作戦だったが、どうやら上手く運んでくれたらしい。  
ああ、句読点や“…”を使えるのって素晴らしいものだ。  
 
 
しかし、「好きだ」と言われてそんなに狼狽するものなのだろうか?  
 
 
 
なぁ、ハルヒ…まさかな…?  
 

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