ある晴れた日のこと。  
俺は、その光景を目の当たりにした。  
「ううっ…ぎもちわるい……ギョン、助げて」  
と呻きながら、あのハルヒが倒れている。  
すぐさま救急車を呼び、病院へ担ぎ込まれた。  
まあ大事には至らなかったというかなんつうかな、それが約8ヶ月前。  
 
そして今日もハルヒは病院にいる。原因は前と同じ、いや微妙に違うのか。  
とりあえずそんなことはいい。とにかくハルヒの元へ急ごう。  
 
ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-  
 
ハルヒのとんでも能力が、ある時を境にきれいさっぱりなくなった。  
古泉の超能力とやらも同時に消え、朝比奈さんもほのめかす事を言っていたので間違いないだろう。  
その事を語ると長くなるので、どうか本編でじっくり読んでいただきたい。  
 
それからすこしたった頃、ハルヒのオーラに違和感を感じた。  
いつだかの、らしくないアンニュイハルヒに似た雰囲気を出している。  
また悪巧みでも考えているのかと思ったが、近くイベントはないはずだ。  
あったらあったでハルヒを止めることなんざ俺にはできんので  
ここは開き直り、つかの間の安息を過ごさせてもらうことにした。  
 
そしていつもの放課後、部室に入ろうとドアの前で足を止める。  
ドアは半開きだった、中の会話がはっきり聞こえる。  
ちょっとした好奇心から、悪趣味だと思いつつも耳を傾けた。  
 
「有希、ちょっといい?」  
「いい」  
ハルヒと長門か、珍しい組み合わせだな。  
「私はキョンが好き」  
「あなたはキョンのこと、どう思ってるの?」  
「…………同じ」  
今ハルヒは何つった、同じって長門?  
「! やっぱりそうなのね」  
「……」  
「キョンは『待って』」  
「彼は扉の外にいる」  
 
げっ、ばれてる。いや長門がいるんだ、ばれてないはずがないか。しかし何故このタイミングで。  
長門は、もしかして俺にこの会話を聞かせるつもりだったのか?  
「入りなさいキョン」  
こころなし怒気をはらんだ声。俺はおそるおそる中に入る。  
「どこから聞いてたのかしら?」  
ー質問しても…ー あたりからだよな確か。  
「じゃあ私の言わんとしてることは、だいたい予想つくわね?」  
そんな目で俺を見ないでくれ。言えるかよ、そんなの。  
ふぅ、とハルヒはため息のように言葉を吐いた。  
「どっちを選ぶのか、よ」  
「返事は明日でいいわ……逃げたら死刑よ」  
その聞き飽きた台詞にも力がこもってない。  
「……わかった」  
しばらく沈黙が続く、空気が重い。指先すら動かせる気がしない。  
不意にハルヒが身を翻し窓の外を睨むと、金縛りが解ける。  
しかし俺は、やはり無言のまま部室をあとにすることしか出来なかった。  
 
好意を寄せられてるなんて思いもしなかった。いや疑ったことはある。  
しかしそれは自惚れで、俺なんかが対象になるはずがないと思ってた。  
同時にそれが微かに悔しかったような気がするな。  
きっと俺も、この非日常をあいつらと歩いているうちに、惹かれていたんだ。  
だから正直嬉しい。こんな状況じゃなけりゃあな。  
どちらかを選ぶってことは、選ばれないもう一方がいるってことだ。  
でも俺は、どっちも傷つけたくない、どっちも幸せにしてやりたい。  
こう思ってしまうことは、いけないことだろうか?  
結局思考はいつもそこでループして、答えに辿り着けることはなかった。  
 
そして、いつのまにか放課後になっていた。  
どうせ逃げる場所なんてないんだ。もう少し時間をくれるよう頼むか。  
そして掃除当番を終え、部室に向かった。  
部室には、やはりというか、あたりまえだが長門とハルヒがいた。  
しかし昨日とは違い空気が軽い。こころなし2人の表情も柔らかい感じがする。  
でも今の俺のにとっては、かえって不気味に感じた。  
 
「キョン!」  
ビクッと体が強張る。どうする、正直に言うか。  
「あんたは私達2人と付き合いなさい、命令よ」  
はい? まさかハルヒの力が俺に移ったとか、そーゆうわけじゃないよな。  
「なんか文句あんの?」  
いや俺はいいとしても、おまえらはそれでいいのかよ?  
「私も有希も全然オッケー、だから安心しなさい!」  
「………」  
長門の方を見ると、なんだか恥ずかしそうにもじもじしていた。  
そんなこんなで俺達3人は付き合い始めることになった。  
 
ここから長門の三人称は有希と言わせてもらう。  
なんでかっつーと、付き合いだして少しした頃にハルヒの奴が  
「あんたいつまで有希のことを長門なんて他人行儀な呼びかたしてんのよ」  
とか言い出したからで、まあ俺もいつかはそう呼んでみたい気がしてたんだがな。  
試しに呼んでみたら、ちょっと俯むきかげんで上目遣いに  
「なに?」  
なんて嬉しそうに言うもんだから、破壊力はもうしぶんない。  
それ以来、俺は長門ではなく有希と呼ぶようになった。  
 
あいかわらず有希は無表情を貫いていたが、感情の揺らぎは殆どわかるようになった。  
ハルヒも初めのうちは、わからなかったみたいだが今ではすっかりマスターしている。  
それに無表情とはいったが俺達の前では、ほんの少しだけ見せてくれた。  
おそらく無自覚だろうが、それでも俺は嬉しく思った。  
もちろん常人では見破れないミリやナノ単位でのはなしだがね。  
 
俺達は高校卒業後、3人揃って同じ大学へ進学。ついでに同棲生活をおくり始めた。  
SOS団も存続していて、まあ今はただのバカ騒ぎサークルになってるが、みんな相変わらずだ。  
 
あれから5年あまり、そりゃあもう夢のように楽しくて、  
高校T年の夏休みのようにエンドレスしてくれてもかまわないとさえ思える。  
そうずっと、ずっとこんな日々が続けばいいと。  
 
今日もいつものように、そんな時間が流れるはずだった。  
すっかり遅くなっちまったな。教授の野郎、俺に雑用ばっか押し付けやがって。  
すまんなハルヒ、待っててくれたのか。あれっ、有希はどうした?  
ハルヒは俺の問いには答えず、重々しく言葉をはいた。  
「いい? 大切な話があるの、良く聞いて」  
そして返答をまたずに、再現VTRを流し始めた。  
 
5年前、俺が告白を受けて部室から帰ったあとの話か。  
「………凉宮ハルヒ、あなたに話がある」  
「なによ、そんなあらたまって」  
「………わたしは、あなた達の概念でいうところの宇宙人」  
「…はぁ?…有希、こんな時になんの冗談?」  
「冗談ではない」  
 
そして今までの出来事を全て話したらしい。  
ハルヒも初めは疑っていたみたいだが、ジョン・スミスや閉鎖空間での夢など  
有希が知り得るはずのない事を知ってたことで、どうやら信じることが出来たようだ。  
まあ元々頭がいいし、それを望んでたわけだから理解するのも早かったんだろうな。  
 
「わたしの役目はあなたの観察、現在は能力消失後の経過の確認」  
「残り時間1847日で自律行動を終了」  
「そして存在も痕跡も全て抹消する」  
「! 嘘でしょ?」  
「真実」  
1847か、365で割って余り、ーーーああ、それで…か。  
 
「あなたに1つだけお願いがある」  
「なに?」  
「………彼を……キョンを……共有させて欲しい」  
「…………」  
「ごめんなさい、今のは忘れて……わたしは『いいわ!』」  
「有希も私もキョンを好きな気持ちに変わりはないし、アイツの代わりなんていない」  
「それにキョンもこんな美少女2人と同時につき合えるなんて幸せ者だわ!」  
なるほどね、そうゆう事の顛末だったわけか。  
しかしなんともハルヒらしい清々しい台詞だな。  
それにまったくもって正しい、俺は本当に幸せ者だからな。  
 
「………ありがとう」  
この時の有希の様子は、もう絶対に忘れられないとゆう。  
なんたってあの有希が泣いてたらしい。  
 
と、ここらへんでハルヒは回想シーンを止め、俺に話しかけた。  
 
「あんまり驚かないのね」  
ああ、おまえの力が消えたら、こうなるだろうことも頭のどこかにはあった。  
でもなんで教えてくれなかったんだ! おまえも有希も。  
「有希はあんたに気を遣って欲しくなかったのよ、キョン優しいから」  
それにしてもいきなり過ぎるぜ。今日なんだろ?  
「そうよ、だから早く行ってあげなさい」  
「おまえはいいのか?」  
「私はもうお別れを言ったから、それに有希は……キョンに居て欲しいはずだわ」  
? と俺。  
「もう、いつになってもあんたは、ほらっ」  
背中を引っぱたかれる、痛い。  
早く行けってことなんだろうな、俺は有希の居る場所に急いだ。  
 
有希は人気のない河川敷に、ぽつんと立っていた。急ぎ駆け寄る。  
「だいたいの事はハルヒから聞いた」  
「そう」  
ひとつ返事をすると、懺悔をするような沈んだ声で続けざまに言葉を紡いだ。  
「わたしは卑怯」  
「凉宮ハルヒとあなたが結ばれることは、数ある可能性の中で最も確率の高い未来」  
「でもあの時、凉宮ハルヒから同情をひいてあなたを半分奪った」  
「違う、違うだろ有希!」  
結局あの日、俺は選べなかった。多分人生で一番考えたし、悩んだ。それでも答えは出なかったんだ。  
ハルヒだって同情なんかで言ったんじゃない、あいつはとことん真っ直ぐな奴なんだ。  
だからそんなこと言わないでくれ、俺もハルヒも今が最高だって思ってる。おまえだってそうだろ?  
 
「ありがとう」  
と呟いた有希は、ポロポロと涙を流していた。  
なるほどハルヒが忘れられないわけだ、有希が泣いてる姿を見ていると心が痛む。  
その涙をどうにかしてとめてやりたいと思わせる、ひどく庇護欲を掻き立てられる姿。  
俺は有希が落ち着くまで、腕の中に抱いて頭を撫で続けていた。  
 
ハルヒの力という切り札を失った今、情報統合思念体に対抗する術はない。  
それでも聞かずにはいられなかった、俺は有希を失いたくないんだ。  
「有希、それはおまえの親玉の指示か?」  
「わたしの意思でもある」  
「なんでだ、なんでおまえが消滅を望む?」  
「わたしの存在したことによる影響は、大きな負担であり異質なもの、いずれ世界に歪みをもたらす」  
「あなたといた、この世界を壊したくない」  
「でも、消えちまったらそれでおしまいじゃないか! ましてや誰の記憶にも残らないんじゃ」  
「大丈夫、わたしはあなたに……あなた達にたくさん幸せをもらった」  
「わたしは消えてしまうけど、悲しくない、寂しくない」  
有希は、どこかで見たことのある微笑みを浮かべていた。いつかのように俺はまた目眩がした。  
ああそうか、あの改変された世界の、なりたかった自分になれたのか。ただの少女としての長門有希に。  
 
「もう時間、最後に」  
すこし俯いたまま、俺の上着の裾をつまんで2回、チョンチョンとひっぱる。  
有希がキスをねだる時の仕草。たまらなく愛おしい。  
俺は屈んでそっと唇をあわせる。  
数えきれないくらいした行為だが、この時ほど終えるのが惜しいと思ったことはなかった。  
どのくらいそうしてたかわからない、数秒だったかもしれないし数時間だったかもしれない。  
ふいに有希が少し苦しそうに息をしたので、唇を離す。  
ぼやけたピントを合わせると、すでに輪郭が薄くなり始めていた。  
「消えるな有希っ、有希ぃぃーーー!」  
俺は柄にもなく喚き、きっとなさけない顔をしていたんだろう。  
しかし有希は笑っていた。……やっぱり笑った顔のほうが可愛いと思うぞ。  
「ばいばい、キョン」  
 
ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー-ー--  
 
「…っはぁ……っはぁ……っはぁ…」  
病院の薄暗い廊下をほぼ全力で走る。  
そして突き当たりまで行くと、病室のドアを乱暴に開けた。  
「ハルヒ!」  
「騒々しいわよキョン、ここは病院なんだから」  
「す、すまん…でも」  
「ふふっ、わかってるわ」  
よこにいる看護婦さんが元気な女の子ですよと俺に告げてくる。  
そうすると心底嬉しそうな顔をしているハルヒは赤ん坊を抱きながら口を開いた。  
「ふふーん、実はもう名前は考えてあるのよねー」  
俺は娘に目をやると、そいつも俺をその澄んだ深い深い黒の瞳で見つめていた。  
「そいつは奇遇だな、俺も閃いた」  
「じゃあ、せーので言いっこしましょ」  
「おう」  
「せーのっ『有希』!」  
 
 
(fin)  
 
 
 
 

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