-なんてことない後日談(仮)- 
 
 
ハルヒの突飛な行動に振り回されつつ、俺はとうとう高校3年生になった。 
それまでにいろいろな事がありすぎて全部覚えてなんかいられなかったが、 
これだけははっきりといえるだろう。 
 
非日常、非現実は全て終わった。 
 
「何考えてんの、キョン」 
「いや、なんでもない」 
今まで長かったなあ、なんて他愛も無い事を考えてただけだ。 
「ふうん。あんたもそんなメランコリーな表情をするのね」 
そりゃあ、憂鬱はお前の専売特許じゃないからな。 
なんて口が裂けたって言えないね。いや、今言ったって何も起きやしないさ。 
「惚れたか?」 
「な、いきなりそんなこと……言わないでよ」 
ハルヒの頬が朱く薄っすらと染まる。 
こんなこと言っても世界がピンク色に染まることはもうない。 
 
「有希ちゃん、今度の文芸誌の件で――」 
そのセリフの主はSOS団の後輩ではない。普通の文芸部員だ。 
「今、行くから待ってて」 
無口な少女は寡黙な文芸部部長へと変化を遂げた。 
全てが終わったときに長門は力を持たぬ存在である事を望み、俺たちと変わらぬ存在となる。 
「やっと、あなたたちと同じになれた」 
そう俺たちの前で話してくれた長門の表情はどこか恥ずかしげだった。 
「ずっと、ずっと憧れてた。このヒトという存在に」 
そして俺はその変化に心から喜んだ。前々から朝比奈さんがうらやましいと言ってたからな。 
ようこそ、人間へ。 
 
さらに長門の変化から数日たった後、文芸部に入部希望者が一人やってきた。 
せっかく入部希望者が来たんだ。とハルヒが『部にしちゃいましょう』との鶴の一声で 
長門以外のSOS団の面子3人も文芸部員を兼業中だ。 
 
で、だ。そのやってきた文芸部員、誰だと思う。 
「涼子。この文章見てくれる」 
長門の呼びかけに涼子、朝倉涼子がすかさず応えて席に向かう。 
 
俺はジェニファーなのか? 
シザーマンに見つかった様を例えながら、これにはビックリした。 
死んだかと思ってた朝倉が突然、何事も無かったかのように 
「カナダから来た朝倉涼子です。お久しぶり、みんな」 
と部室に来たときには界王様のギャグで大爆笑するような衝撃を受けた。 
その場にいたハルヒは懐かしさのあまりにすかさず朝倉へと飛び込んで、 
俺は腹の辺りを抑えて身構えた。そりゃあそうだろう、二回も修羅場に出くわして身構えない馬鹿はいない。 
けど、なんというかそのときの朝倉は憑き物が取れた表情だったのですぐさま俺は警戒を解いた。 
「大丈夫」 
と長門が言ってくれたのもその一因ではあったが、かく言う長門は今にも泣きそうだった。 
どうして、なんて言わなくてもいいだろう。 
「朝倉涼子……どうして」 
「ここにいる理由なんて、長門さんと同じでしょ」 
「でも、私は」 
「それ以上は言わなくてもいいから……」 
涙を止める術を知らない長門はそのまま朝倉の胸へと体を寄せていく。 
すすり泣く銀髪を柔らかく撫でていく朝倉。まさに生き別れた姉妹の再会の様相だった。 
後から聞いた事だが、出不精な長門にいろいろと教えたのが朝倉だという事。 
製造日が同じ故に、何かあるたびに長門とともに行動していたと言う。 
それゆえに朝倉が先走ってしまった事に長門はいつも後悔していたらしい。 
ずっとそのカルマを背負い続けていたというのか、長門。 
もしかしたらこの2人は派閥間の抗争が無かったら今のような関係を 
途絶えさせるようなことは無かったのかもしれないな。 
 
結局、宇宙人の派閥抗争の根幹は何だったのだろう。知る術は残ってない。 
どうでもいいか。長門が本を読める日常があるなら。 
 
 
そして時は戻りだす。 
ふと、朝倉が黒板横のハンガーに掛けられているものに目を引かれた。 
そのハンガーには数々のコスプレ衣装が飾られている。 
「あら、このメイド服は何?」 
「それはね……」 
「涼子、着てみる?」 
と長門が朝倉涼子inメイド服を薦めてみた瞬間に 
「それはだめ!絶対にだれにも着させない!」 
ハルヒの慌てたような怒ったような声が部室内に響いた。 
 
辺りを完全な静寂が支配して一呼吸 
「あーごめん。取り乱しちゃって」 
とハルヒが2人に謝った。長門もすぐさまハルヒに頭を下げる。 
俺もいきなりの事で何やらと思ったが即座に理解できた。 
「涼子はスタイルよさそうだから何を着ても似合うと思うけど 
 その服だけは駄目よ有希。メイド服はSOS団の永久欠番なんだから」 
ハルヒ、お前の気持ちは痛いほど解る。俺がお前の立場だったとしても同じことをしただろうな。 
その服を着ることが出来るのは銀河で唯一人、いや全ての時間平面を合わせてもあの人しかいないだろうよ。 
 
 
―あれは上級生の卒業式の日だった― 
 
「キョン君。これでお別れですね」 
朝比奈さんは俺と長門、古泉を呼び出して別れを告げた。 
何時も、この4人でハルヒワールドを乗り切ってきた。 
俺たちの結束が宇宙人、未来人、超能力者の垣根を越えたことへ俺は感動を覚えていた。 
「みんなに出会えて本当に、本当に……」 
「朝比奈さん、そんなに泣かないでください。俺まで泣いちまいそうです」 
「……寂しい」 
「会えなくなるのは寂しいですね。あなたはSOS団に無くてはならない人でした」 
俺と長門、古泉はそれぞれ思い思いの言葉を口にしたが、足りねえ、足りねえよ言葉が。 
言葉が見つからないっていうのはこういうことなのかよ。 
「僕たちの記憶は消さなくても良いのですか。 
 禁則事項とかどうとか、上の人に言われてるんじゃないんですか?」 
何感動に浸ってるときにブチ壊しな発言しやがる古泉。 
「はい、私はこのまま遠くの大学に進学ということになってますから。 
 それに、私と過ごした記憶を消さなくてもいいと判断が下ったんで」 
「それはよかった」 
それはよかった、ってこれは俺の発言ではない。 
なんとあんなに未来人を警戒していた古泉の口から出たものだ。 
「あなたが煎れてくれたお茶と艶かしいメイド服の記憶を消されたくないので。 
 あ、ついでに言っておきますが、あなたのコスプレはどれもが美しかった」 
それが隠していた本性なのか古泉。このムッツリスケベめ。なんて共感できる奴だったんだお前は。 
「これを涼宮さんの前で出すと、おそらく君以下のポジションになるので控えてました」 
したたかなのは地なのか。やっぱり油断できないなお前は。 
 
「ではそろそろ行きます」 
そう、朝比奈さんの口から聞こえると朝比奈さんにとってこの状況で 
一番会いたくなくて、一番逢いたい人が物陰から出てきた。 
朝比奈さんは長門に頼んで結界を張るようにお願いしていたが、 
もう長門はこの頃には普通の人間になっていたんですよ朝比奈さん。 
それに、いくらなんでもこの人にはちゃんと話すべきだ。さあ。 
 
「待ってよ、みくるっ!」 
鶴屋さんは朝比奈さんを探し回っていたのであろう。 
真っ赤な顔をして、息が絶え絶えで朝比奈さんの方へ向かって歩き出した。 
「鶴屋さん、私……」 
「行っちゃやだよ、みくるっ! 
 どうしてさ、どうして私の前から消えちゃうのよっ!」 
鶴屋さんの狼狽振りはすさまじかった。おもちゃ売り場で駄々こねる子どもなんて目じゃない。 
友達が、それも親友とまで言える人物が自分の前から姿を消す。 
しかも再会が許されない事実。生きているのに逢う事が許されない時間と言う壁。 
その二度と会えないという恐怖は鶴屋さんから思いもよらない事実を手繰り寄せた。 
 
「今だから話すけどあたしのこれは高校デビューなんだよっ! 
 中学の頃は親の仕事の所為(せい)で全然人が寄り付かなくて寂しかった、 
 あたしは自分を変えたかった、だから親戚の高校行かないで北高選んだのさっ! 
 そこでわたしは自分がなりたかった自分になれた、そこでみくるに出会ったっ! 
 みくるはそんなあたしを好きでいてくれた、初めての友達なんだよっ。 
 このまま逢えなくなるなんてイヤだよっ……」 
鶴屋さんはもちろんの事、朝比奈さんの涙もとどまる事を知らない。 
親愛なる友の両手を握り締めて区切った鶴屋さんの独白はこの場にいる全員を驚かせた。 
朝比奈さんは自分が未来人であるということを隠しながら、 
鶴屋さんは自分の消し去りたい過去を隠しながら、互いに付き合っていた。 
そんな事実があったなんて、俺達は当然知るはずが無い。長門ですら驚いていた。 
 
そして朝比奈さんも堰を切ったように 
「私も、私もこのまま離れるなんて嫌です! 
 未来で頑張るから……今は無理でもいつかきっと戻ってくるから。 
 だから……だからいつもの笑顔でいてください」 
「!」 
と鶴屋さんにお願いした。そしてガラガラ声になりながら 
「わかったよっ。みくる……。これでいいかいっ!」 
と涙を流しながら鶴屋スマイルを満開させた。 
雨上がりの雫を残したヒマワリは不思議と悲壮感が漂わず、なんとも晴れやかな笑顔とこの上なかった。 
俺は涙を垂れ流しながらその光景を見ていた。 
 
そして一つの友情物語は区切りを付けて、新たな展開へと向かったのだ。この2人に幸あれ。 
 
 
 
で、うちの団長様はその時、何してたって? 
意地張っちゃって「何処へでも行っちゃいなさい」とか言ってさっさと帰りやがった。 
長門が止めようとしてたが、ハルヒのことだから奴のやりたいようにさせろと俺はそのままにした。 
 
 
 
で、ほーら俺んちの前に居やがりましたよ。 
「……とりあえず家にあがってから話を聞こうか」 
ハルヒが首を縦に振ったのを確認すると俺はハルヒを部屋まで招いた。 
 
家は幸いというべきか誰もいなかった。 
とりあえずスティック菓子とマシュマロ、お茶を出す。 
その様子だと昼から何も食ってないだろうからな。 
「とりあえず食え。話はそれからだ」 
「………」 
「マシュマロの口移し、お前好きか」 
「ん……!」 
我ながらいつもの我ではないなと思った。こんなタチなキョン君はじめて。 
「わかったわよ、ポッ○ー頂戴」 
観念したのかハルヒは俺が出した茶菓子を黙々と食べ始めた。 
 
 
では本題に移ろうか。 
「どうしてあんな態度を取ったんだ」 
「………」 
「朝比奈さん、卒業したら海外にいる親元へ行くんだぞ。 
 めったに会えなくなるんだから挨拶くらいしっかりしとくのが礼儀ってもんだ」 
「……そんなの意味ないじゃない。結局、会えなくなることに変わりは無いんだし。 
 私は無駄な事はしない主義なの。だいたいあれはみくるちゃんが悪いのよ。 
 急に海外に行くって言うもんだから準備も何もあったもんじゃないし」 
 
やれやれ、素直じゃないなあ、お前は。ま、それもコイツの魅力か。 
だがな、おまえにとって無駄な事かもしれないそれは、 
だれかにとっては重要だったかもしれない事なんだ。 
さあて覚悟はいいかハルヒ。俺は今からお前の考えてる事の核心を突いてやる。 
竹刀の突きではすまさんぞ。おまえにとってこの言葉はゲイ・ボルグだ。 
「な、なによ、一体。物騒よその言葉」 
「ああ、簡単なことだよハルヒ。 
 お前は朝比奈さんにサヨナラ言うのが嫌だったんだろ」 
その言葉にハルヒはビクッと反応する。なんてわかりやすい子なんでしょう。 
「ええ、そうよ。だからどうしたの!」 
その開き直りは感心しないな。照れ隠しもいい加減にしろ。 
「嫌じゃない。あんなに一緒にいたのに別れるなんて。 
 きっと鶴屋さんだってそう言うに決まってるわ」 
ああ、たしかにそうだったよ。そりゃあ、子どものように駄々こねたよ。 
「そうでしょう」 
「けどな、今の鶴屋さんにそれ言ってみろ。 
 間違いなくお前は古武道のメテオスマッシュ決められるぞ」 
「え……」 
「鶴屋さんはしっかりと受け止めたんだ。その事実を。 
 そして最高の笑顔で朝比奈さんを送ってやったんだ。 
 おまえにその気持ちがわかるか。泣きながら最高の笑顔で送り出した彼女の気持ちが」 
そこまで言ってハルヒは目に溜まってたものを抑えられなくなっていた。 
それでいいんだよお前は。もっと自分に素直になりなさい。 
「そんなの、あたしにだってわかるわ! 
 あたしだって……あたしだってサヨナラを言いたかった。 
 けど、言えなかった、怖かった、二度と会えないってのが怖かったのよ」 
それを言い切ってハルヒは我慢し切れなくて泣き出してしまった。 
「キョンン……うぇっ……えっ……」 
しょうがない奴だな、と俺はハルヒを抱きしめて頭を撫でてやることにする。 
いっぱい泣けハルヒ。鼻水垂らしてもいい。今日は許す。 
「ありがと、ありがと、キョン」 
 
 
さて、そろそろいじめるのを止めようか。 
もはやメランコリーになろうとも神人なんぞは出ないんだが、俺の趣味じゃない。 
ハルヒから一旦手を離して、もう一度両肩を掴んで目を合わせる。 
「お前は言えなかった事に後悔してるんだな」 
「……うん」 
「それじゃあ今回は俺がチャンスをやるよ」 
えっ、という表情をスルーして、俺の言葉を合図に俺の部屋へもう一人のゲストがやってきた。 
その時のハルヒの表情ったらなんて泣き笑顔を見せやがる。こっちは日の出の太陽とでも言っとこう。 
 
「涼宮さん……」 
「うそ、みくるちゃんなの……」 
あまりにもベタベタすぎる展開だが、ハルヒはそんなの疑わない。 
あの後、朝比奈さんには未来へ帰るのをちょっと待ってもらった。 
俺の考えを伝えると、快く承諾してくださった朝比奈さんにはハルヒに気づかれないように家に来てもらう寸法だ。 
「涼宮さんの話をドア越しから聞かせてもらいました」 
「あ、あうあ……」 
「私のことをそこまで思ってくれてたなんて。私、すごいうれしいです。」 
「みくるちゃん……今までごめんね。 
 散々つれまわして、散々脱がしてコスプレさせて。 
 一番ひどく当たっちゃったかもしれないのに」 
「そ、そんな事ありませんっ。すごい楽しかったですよ」 
「……ほんと?」 
「ええ、本当に楽しかったです。 
 もう涼宮さんの用意してくれた衣装に着替えられないのが心残りですが」 
その言葉が引き金になったのか、俺達はこのあと学校へと向かった。 
長門、古泉とも合流して朝比奈さんの着せ替えショーとSOS団卒業式は無事、執り行われた。 
俺はその後、朝比奈さんが努力の甲斐あって俺たちと再会するのを知ってるのは周知の通りだ。 
過去の俺は朝倉さんの成長した姿を見てどう思うだろう、って考えたりもする。 
もうここにいる俺たちとは再会しないかもしれないと思うと寂しいけど、悲しいとは思わない。 
朝比奈さんが俺たちとであってSOS団に居た事は変わりようの無い事実なんだから。 
 
 
さて、現在の部室に戻ろうか。 
「それじゃあ、涼子。これ着てみようか?」 
そういって晴れやかな笑顔のハルヒは朝倉を見事な追剥ぎ術で制服をひっぺ換えす。 
熟練されたその技術にはいくら優等生の朝倉といえど逃げる術は持ってなかった。 
よかったなハルヒ、お前のコーディネート能力を持ち腐れにしなくていいんだからな。 
ハルヒの手には紫色のバニースーツが用意されてたのには驚かされたが。なあに、もう免疫がある。 
朝倉のバニーガールを楽しみにしつつ、俺と古泉はいつものように廊下へと退散した。ゴチになります。 
 
「で、僕の話は無いんですか」 
と言われてもなあ、お前は普通の高校生に戻っただけだし。 
未だに森さんや新川さん達と親交があるんだろう。 
「がっかりですね。キョン君なら饒舌な中二語りで僕の事を話してくれるものだと思ってたのに」 
そこ、中二語りとか言うな。 
「では僕が話しましょう。超能力少年だった古泉一樹は――――」 
何処に向かって話しているやら。とりあえず説明しとこうか。 
古泉自身、もう演技をしなくていいと思ったのか結構おおっぴろげな性格に戻ったらしい。 
俺にエロ本とか薦めてくるし、どうでもいいオヤジギャグを言ってくる。 
けど『涼宮さんが好きでした』と聞いたときは焦ったね。うんマジで殴りかかる5秒前。 
まあ俺はハルヒを譲る気も、古泉自身も俺から奪い取ろうなんて思ってない。 
むしろ聞けてよかったよ。まじでそっちの人かと思った事もあったし。 
親友とまでは行かない、いやむしろ悪友という言葉がぴったりだろうな俺達は。 
 
みんな変わった。けど、すこしその光景を見て不安を覚える。 
「なあ、古泉よ。俺は変わったんだろうか」 
「何、世迷いごとを言っているんですか。僕達から見たら一番変わったのはアナタですよ」 
 
ああ、そうだろうな。それもやつのおかげだろう。 
「2人とも、入っていいわよ」 
部室からハルヒの声がしたんで中へ入るとする。 
お前は変わったというよりも、無くした物を取り戻したんだろうな。 
俺はハルヒからいっぱい力を貰ったよ。そして俺は変わることが出来た。 
座り込んだ人生の上り坂で空を飛べたらいいなと考えた俺に、 
夢を捨てた俺にもう一度夢を見させてくれたことには感謝しきれん。 
 
さて、かしまし娘たちの姿でも拝むとしますか。 
俺の高校生活はまだ終わらない。ハルヒが俺の心を掴んで放そうとしないから。 
太陽の真ん中で今、俺は飛んでいる。 
 
「こらァ、キョンッ、目がエロい!」 
ごめんなさい。その、すごくたまりません。 

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