部室に入ってみると、そこはまるで冷凍庫だった。
「な、長門。何やってんだ!」
部屋には長門一人だけで、おまけに窓を全開にして身を乗り出していた。
「そんなことしてると風邪引くぞ。早く閉めろって」
長門が風邪を引くのかどうかは知らないが、心配ではある。大体俺が寒い。
言ってはみたが一向に動く気配が無いので、俺は近付いて長門を引っ込め
窓を全て閉めた。ううむ、やっぱりカーテンが欲しいな。お年玉に期待するか。
冷凍庫から冷蔵庫程度にはなったものの、やはりまだ人間の住む環境じゃない。
俺はストーブを点けようとコンセントを差し込み、スイッチを入れて立ち上がると
いつのまにか長門が背後に立っていたので思わず間抜けな声を上げてしまった。
頼むからプロの殺し屋のような近付き方はやめてくれ。俺はただの一般人なんだ。
「これ」
そう言って長門は右手を差し出してきた。が、俺には小さな掌しか見えない。
「・・・・・・・・・・・・」
長門の目は冗談を言っているようには思えないのだが、何がしたいんだ?
手と顔を交互に見比べてみる。やっぱり何も・・・・・・ん。水滴?
「ごめんなさい。遅くなっちゃいました」
扉が開いて朝比奈さんが入ってきた。なぜか俺は慌てて思わず回れ右。
「わっ。あ、朝比奈さん。どうも」
「・・・・・・・・・・・・」
「??」
手を引っ込めた長門は、その場でしばらく右手を握っていたが
やがていつもの指定席へ歩いていき、いつものように本を読み始めた。
それから朝比奈さんの着替えの為に俺は部室の外へ出ることとなり、結局
さっきの長門の行動は完全に頭から追いやられてしまった。
下校時、校舎の外は一面銀世界になっていた。