十二月十七日  
 寝ている彼にカーディガンをかけた後、私は本を読むのも忘れてその寝顔に見入っていた。  
 ――エラー。無視。  
 思えば――エラー――このインターフェイスとして待機を始めてから三年、そのほとんどは本を読むか、  
彼の事を考えて――エラー――すごしてきた。  
 三年前のあの日。涼宮ハルヒが情報爆発を発生させた時からしばし後、彼が私の元にやってきて、  
「待っててくれよな」と言ってから、――エラー――実際に彼と会うまでは、実を言えば、ないに等しい待ち時間だった。  
 私はそれとは比較にならない間、何かを……今は思い出す気もない、もろもろの事を看視してきたから。何の苦でもなかった。  
 しかし今、こうして彼と二人、――エラー――寝顔を眺める時間の少ないことを、――エラー――私は憂えている。  
 SOS団は、彼の――エラー――居るSOS団での時間は、私にとって――エラー――初めて、有意義な――エラー――ものとなった。  
それ以前の看視記録と――エラー――等価とすら思える、陽だまりのように――エラー――温かい時間だった。  
 今にして思えば――エラー――朝倉涼子は、存在を消滅させるべきでは――エラー――なかったかもしれない。SOS団の仮部員として、  
いろいろな事に付き合ってもらっても良かったかもしれない。  
 そうしなかったのは――エラー――私が、自分の――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――に自覚的でなかったからで、  
彼女はそれを十分に知っていた。あの時私は、図星を指されて、戸惑った。当時はその自覚すらなかった。  
 結果……私だけが残った。  
 
「あれ? キョン寝てるの?」  
 ――エラー――涼宮ハルヒ。――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
「そう。……有希。キョンは私が見ておくから、先帰っちゃっていいわよ」――エラー――  
――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
 
――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
 
――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
 
 自宅へ向かう途中、私は――エラー――戯れに――エラー――彼の居場所を探ってみた。今頃は目を覚ましているだろう。  
彼の横に、――エラー――すぐ近くに、――エラー――涼宮ハルヒの生体反応が――エラー――――エラー――――エラー――  
 だめだ。やはり、防げなかった。原因不明。エラーコード多発。リジェクトでは限界。  
 私は、いつからこうなってしまったんだろう。解らない。記憶領域は正常。何度となく点検した。――エラー――彼との会話も。――エラー――  
記憶は正常。ならば。エラーの原因はインターフェイスの主能力に関係する事か。自分ではチェックの出来ない箇所がある。統合情報誌念体でなくば。  
しかし、点検の申請は受理され、結果「能力に異常なし」と申し渡された。原因は不明のまま。  
 
 彼と涼宮ハルヒが別れる。これで、――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――――エラー――  
 私はまた学校へと向かう。そして、事を成した。彼に託すために。  
 
 
 ここから先は記憶があいまいで、私は少しのことしかおぼえていない。  
 十二月十八日のこと。彼が現れて、私に詰め寄った。うろたえて、でも胸が高鳴った。  
 翌日。彼を自宅に誘って、話をした。いつかと同じように、私が一方的にしゃべって、彼が黙り込むという図式。  
 彼の袖をつまんで、引き止めた。彼は、困った顔をしながら、留まってくれた。玄関で見送ったときの、私を見る目が忘れられない。  
あんな顔をした彼は、始めて見た。  
 さらに翌日。彼は、結局あちらを選ばなかった。ある意味で、私の思ったとおりの結論を出した。  
 彼女は結局、消滅した。  
 
 
 
 今、実時間で二十一時間後に目覚める事になっている彼を見ながら、記憶の断片を拾い上げている。  
 彼女は確かに消滅した。しかし、今私の中に『還ってきた』。これから先……彼女とは、必ずあう事になるだろう。  
今もこうして、私と同じく鼓動を打つ彼女を感じる。私は彼女が……彼女が彼にとった行動がうらやましかったし、  
彼女は私と彼の関係がうらやましいだろう。私は彼女を呼び、彼女は私を呼ぶ。次に呼ぶときは、その呼び声が  
悲鳴でない事を願う。  
 いつか、呼ぶ必要のなくなるときが、私たちが私になるときが、くるだろうか。今処分を待つこの身に。  
 月明かりに照らされる彼の顔に、本を読むのも忘れて見入っていた。  
 その奥の床には、涼宮ハルヒが寝袋で寝転がっている。  
 

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