プロローグ 
 
 2月21日。今日は良く晴れていてそろそろ春が来るのか、などとまるで季節感もない俺にそんなことを思わせるような 
寒さも少し和らいできたそんな日の放課後、SOS団は毎度のようにハルヒに引きずりまわされもはやただのグループ行動 
での遊びとしか言えないようになっている街の不思議探しに出かけていた。もっとも、平日にするのは初めてだが。案の定 
何事もなく一日は終わり部屋に帰ってきた。 
 「たまには放課後にやると何か変わったことがあるかもしれないと思ったのに」 
 などとハルヒがいつものように愚痴をこぼし、これまたいつものように古泉があいづちを打っている後景を尻目に俺は 
さっさと帰り支度をしている。いい加減何もないと気付けよと普通の奴らならとっくにぶち切れているところだろうが今の 
俺にはそうも言い切れない。何しろ俺がSOS団のメンバーとこの1年足らずにあった出来事を思えばな…。一口に1年と 
言っても本当にいろいろあった。わけの分からない閉鎖空間とやらにハルヒと閉じ込められたり過去に行ったりカマドウマ 
退治をしたり。 
 
 思えば貴重な体験をしているなあと5人でぞろぞろと並んで歩いているいつもの帰り道で今さらながらに思った。出来れば 
何も起こって欲しくはないが、そうは思ってもやはり心のどこかでほんの少しだが何か起こらないかと期待している自分がいる。 
何度も言っている気がするが俺は今の状況が気に入っている。このポジションを他の誰かに譲るつもりは全くない。それは断言できる。 
 
 この後俺は家に帰り飯を食って風呂に入りそろそろ受験勉強しないとなあなどと考えながらももちろん何の勉強をするでも 
なくテレビを見て、もうこんな時間かといつものように床に就いた。 
 
 
 真っ暗だ。これは夢か?いやに意識がはっきりしている。よく見ると何かが見える。いや、何かではない。人だ。誰だ?暗闇の中 
どんどん人物の影がはっきりしていく。よく見慣れた人物だ。いつも部室で一人黙ってカーテンのそばに座ってただ本を読んでいる。 
長門だ。こんなことは初めてだ。夢で長門を見るなんて。俺に何か伝えたいことがあるのか?いや、それなら今日直接俺に言ったはずだ。 
そんなまわりくどいことをするやつじゃない。まさか俺は知らないうちに長門のことが好きになっていたのか?そんなことを 
いろいろと考えていると突然夢の中の長門と目が合った。 
 普通の、特に長門との付き合いが長くないやつならまずわからないだろうがわずかに何か言いたそうな顔をしている。 
そしてここまで何か言いたそうな顔を見るのは初めてだ。どうしたんだ?と声をかけようとするが声が出ない。俺は何か 
無性に不安になってきて、必死に声を出そうとしてもがいている。自分でもわけが分からない。すると長門はこちらに 
向けた顔の表情を変えた。相変わらずの表情の変化がわかりづらいが、俺にはわかる。何を思ったのかは分からないが 
それは笑顔だった。それも長門が以前誤作動で作り出した世界にいた長門のそれとは違っているように見えた。こんな顔は初めて見た。 
「長門!」 
そう声をかけようとして目が覚めた。 
 
 
 
 
第一章 
 
 結局昨日の夢は何だったんだ?俺はすっかり冴え切った頭で通学路を歩いていた。本当に何かのメッセージだったのか? 
それとも俺には実は予知夢を見る能力でもあったのか?今日長門に訊いてみるかな。そんなことを考えているといつもは 
長く感じられていた、実際にとてつもなく長い坂道を越え学校に到着していた。 
 気にすることはないか。またいつもの学校生活が始まるんだろう。そんなことを考えていると谷口がらしくない切羽詰まった顔で 
話しかけてきた。 
「おいキョン!お前、大変なことになってるぞ!」 
 何だ?俺がテレビに映ってて人気者にでもなってるのか? 
「そんなつまんねー冗談言ってる場合じゃねえって!お前んとこの部室がボヤ起こしたんだよ!警察も来てるし 
行ったほうがいいんじゃねえか?」 
 
 
俺は急ぎ足で旧校舎へ向かった。谷口の言っていたことは本当だった。部室の前には大勢の人が集まっており、 
そこには入れないように警備員の人が数人立っている。そしてそのうちの一人につっかかっているハルヒの姿があった。 
「だから何で入れないのよ?ここはあたしの部室よ?見るだけなんだからいいじゃない!」 
 俺は怒り狂っているハルヒを抑え警備員の人に謝った。 
「すいません、ちょっとパニックになってるみたいで。下がらせますんで」 
「ちょっと何よキョン!あたしはパニックになんてなってないわよ!」 
 微妙な判定をした野球の審判に対して猛抗議する監督のように叫び散らすハルヒをなんとか連れ出した俺は教室でハルヒが 
落ち着くのを待ってから詳しいことを訊くことにした。どうやらボヤがあったのは昨日の深夜だったようだ。 
「ボヤなんて…。まさか放火じゃないでしょうね!だとしたら万死に値するわ!あたしの部室に火をかけるなんて」 
そんなわけないだろ。第一どうしてわざわざ文芸部室だけに火をかける必要があるんだ?そんなことしても何のメリットが 
あるとも思えないが。 
「まさかコンピュータ研の仕業じゃないでしょうね?今度締め上げてやるわ!」 
などとハルヒがぶつぶつ言っているのを眺めながら俺は思っていた。原因は何であれかなりまずいことになった。 
部室でボヤなんて騒ぎを起こしたんだ。少なくとも部の活動停止、とは言っても正式な部じゃないからはっきりとした措置は 
わからないが絶対にただでは済むまい。いくらハルヒでもこれはどうすることもできないだろう。また古泉の仕業か? 
おそらくそれはないだろうが…。俺があれこれ思案している間に担任の岡部が教室に入って来るなり言った。 
「涼宮とその他の文芸部員は授業が終わったら職員室に来ること」 
 
 昼休み。職員室に呼ばれた文芸部員、つまりSOS団は昨日のことを事細かに訊かれた後にこう告げられた。 
「どうも昨日のボヤの原因は部室の電気ストーブってことらしい。お前達がいろいろしているのは有名だからよく知ってるが 
ちょっとお遊びが過ぎたんじゃないか?ボヤまで起こしたとなると黙っては見ていられないぞ。わかるな?」 
 そりゃあそうだ。ここまでの騒ぎになったんだ。元より覚悟の上だ。退学だけは勘弁してくれよ。いくらおかしな体験を 
している俺でもまっとうな人生は送りたいからな。いや、待てよ?電気ストーブ?俺は確かに昨日もちゃんと切ったはず。 
いつものように電源まで抜いて。いや、ほぼ毎日のことだから勘違いか? 
 というのもハルヒは異様に几帳面な面があり部室の戸締りや火元、電気ストーブに至っては電源まで抜けと言いい俺は 
帰り際何度もハルヒに怒鳴られていて、もはや病気ではないかと疑ったほどだ。まったく、その気遣いは大いにけっこう 
だがそれをもう少し人間にも向けてもらいたいいね。 
「ともかくだ、しばらくお前達は自主停学だ。いいな?今日はもう帰れ。詳しいことは追って連絡する。」 
 
 
 さんざん説教された職員室からの帰りの廊下で職員室の中では静かだったハルヒは不機嫌な顔で言った。 
「キョン、あんたまさか電気ストーブを消し忘れたとか言わないでしょうね?ちゃんと電源も抜いたんでしょうね?」 
 消したよ。仰せのままに電源も抜いた。 
「ならこれは誰かの放火ね。絶対に犯人を見つけ出してSOS団の活動を妨害されないようにしないと」 
またもぶつぶつ何か言っているハルヒを無視して俺はいつものようにさわやかな笑顔を振りまいている古泉に尋ねた。 
「一応訊いておくがお前の仕業じゃないんだな?」 
古泉は変わらない笑顔で言った。 
「まさか。こんなことをして僕に何のメリットがあるんです?僕ならせめて泥棒に入られて部室が荒らされている、 
くらいにしますよ。丸焼けにまでする必要はありません。」 
 だよな。話によると部屋は丸焼けもいいとこで下手をすると旧校舎全体が炎上していてもおかしくない状況だったそうだ。 
確かにそこまでする必要はない。すると古泉は珍しく少し表情を固くして言った。 
「ただ、いささか納得しかねるのは通報された時間です。あの旧校舎は周りの民家からは死角になっていて見えないはずです。 
 通報されたのは深夜2時。そして発見したのは一般人です。おかしいと思いませんか?深夜2時に学校の旧校舎のそばにいて 
 たまたまボヤを発見した。しかも旧校舎は耐熱構造もない古い木造建です。周りからボヤがあるとわかるまで火が出ていたなら 
 全焼するのはあっという間ですよ。その前に消防の人が到着したとなるとかなり対応が早かったのか、あるいは…」 
「火をつける前に通報した、か?」 
「その通りです。」 
 そんな馬鹿な。うちの生徒がたまたま居合わせただけかもしれない。 
「あくまで可能性ですよ。今度はこちらが訊きますが、昨日は本当に電気ストーブの火をちゃんと消したんですよね?」 
「正直に言うとわからん。消したと思ったがこればっかりは100%とは言えないな」 
 と言っている内に気が付いた。そうだ、長門なら絶対に覚えているはずだ。さっそく俺は長門に訊いてみる。長門は相変わらずの 
無表情で答えた。 
「消していた。電源も抜いていた」 
「有希が言うなら間違いないわ!これはもう完全に事件じゃない。SOS団の出番だわ」 
いきなりハルヒが叫んだ。うかつにもこの会話をハルヒに聞かれていたのだ。地獄耳め。 
「まずは部室へ行って電源がどうなってるかを調べましょう。刺さったままなら誰かがやったやったってことだし。 
少なくとも何かわかるはずよ。きっともう警備の人もいなくなって入れるはずだわ。でもそうね、念のため調べるのは夜にしましょう。 
っていうわけで、夜の9時に集合ね」 
 
 
 いつもの駅前に集合した俺達は本日二度目となる長い坂の通学路を登っていた。そういや今朝の夢のことを長門に訊かなかったな。 
まあいいか。 
「ちゃんと入れるかしら?みくるちゃん、塀とか越えられるわよね?」 
「わかりません。で、でも本当にいいんですかぁ?こんなことをして…」 
 そう言いつつも偶然かどうか知らないが朝比奈さんはハルヒと同様にズボンを履いてきている。断っておくが決して期待していた 
わけじゃないぞ。長門はというといつもの制服姿だ。ハルヒは朝比奈さんに塀を登るコツをジェスチャーで説明している。朝比奈さんは 
というとそんなハルヒを不安そうに見つめながら話を聞いていた。そうこうして学校に到着。校門を乗り越えるのに四苦八苦する 
朝比奈さんをなんとかフォローして俺達は部室へと直行した。しかし夜の校舎は前に見たときには全く感じなかったが薄気味悪いもんだな。 
まああの時はそんなことを考えている余裕なんてなかったからな。 
 
「床は抜けてないみたいね。でも足元気をつけてね、みくるちゃん」 
 部室の前に到着した俺達の前には入れないように二本のポールとその間に侵入禁止のリボンがかけてあったがハルヒはそれを無視してまたいだ。 
「ふぇぇ、怖いです〜。」 
と朝比奈さんもそれに続く。そして中に入ったハルヒが喋っているのが聞こえる。 
「見て、電源が刺さったままになってる。やっぱり誰かの仕業だったんだわ。あれ、おかしいわね…。パソコンは無事だわ。」 
 そしておれや長門、古泉と全員が部室に入った瞬間にそれは起こった。丸焼けになった部室がどんどん歪んでいく。 
加えて強烈な立ちくらみだ。何だこれは?一体何が?そしてそして俺がそんなことを考えつつハルヒや朝比奈さんの動揺の声を 
聞きながら意識を失うのにそんなに時間はかからなかった。 
 
 
 
 目が覚めた俺は文芸部室で倒れていた。どういうことだ?あれは夢だったのか?見渡すと全員が部屋にいた。外はまだ明るく 
部屋は何事もなかったかのようにきれいなままだ。そういや前にも似たような事があったな。では、今は何月何日だ?部室では 
ハルヒがまだ意識を失って倒れていて、その他団員の状況はと言うと朝比奈さんは頭の上にクエスチョンマークを書かなくても 
わかるくらい何が起こったのかわからないといった様子を見せており、長門はいつもの無表情、古泉は真剣な表情で何か考え込んでいる。 
おそらく俺はハルヒよりはこういった経験に慣れているし、他の三人は常人ではないので全員ハルヒよりは意識の回復が早かったのだろう。 
嫌な慣れもあったもんだな…。 
「長門、とりあえず何がどうなったのか説明してくれ」 
 俺は早速全てを知っているであろう長門に答えを求めた。 
「説明はする。でもその前に涼宮ハルヒの処遇を優先するべき」 
 長門はいつもの無表情で言った。やや混乱してたみたいだな、俺。そりゃそっちが先か。またハルヒには夢でも見ていたってことに 
しよう。幸い他の三人もここにいるんだ。話も通しやすい。 
 
「え?あたし気を失ってたの?じゃあ部室のボヤは…?あれ?夢?」 
ハルヒはしばらく考えた後に前回の2月21日以来久々に見せる笑顔で言った。 
「ごめんごめん、勘違い。変な夢を見てたみたい。それじゃ帰りましょ」 
 
 下校途中にハルヒは俺達全員が遭遇した出来事のことを話していた。 
「ホントに夢でよかったわ。もしそうじゃなかったらSOS団が解散の危機だもんね」 
と心底安心したような表情を見せ、朝比奈さんはやや顔を引きつらせながらその話を聞いている。しかしそんな自分の夢のことなんて 
人に話すもんかね。どうやらハルヒはかなり気にしていたみたいだな。古泉もまた例の閉鎖空間が発生しなくて胸をなでおろしている 
ことだろう。 
 
 俺達はいつものようにハルヒと別れたあともう一度集合した。長門によれば今は2月20日で、ボヤのあった前日に飛ばされた 
ということになる。 
「あの、どういうことなんですか?さっきのって時間移動ですよね?わたし、何がなんだか…。」 
 俺が尋ねる前に朝比奈さんが長門に質問した。 
「あの空間にはあらかじめここにいる4人と涼宮ハルヒが侵入すると作動するプログラムが組み込まれていた。」 
 そして無表情な顔を少しだけ曇らせるような顔をし、俺の方に顔を向けて続けた。 
「以前あなたが経験したであろうプログラムと同じもの。」 
 っていうことは長門がやったのか? 
「違う。おそらく私達が部屋を出た後に誰かが仕組んだものと考えられる。」 
 誰がやったかはわかるか?そう訊いても長門は首をわずかに横に振った。しかしこう続ける。 
「私と同類の情報思念体が組み込んだ可能性が高い。でも、誰なのかまでは特定できない」 
 さて、どうしたもんかね。このまま放っておくわけにもいかないんだろうな。 
「そうですね…。ではとりあえずあのボヤ事件とこの集団時間移動が偶然かそうでないのかを調べるというのはどうでしょう? 
 先ほど、と言うより僕らの過ごした2月21日のあのボヤのあった部室ではストーブの電源が刺さっていたことを考えてもその犯人は 
 いるはずです。部室でもし今日、正確に言うと明日ですがボヤ事件が起こらなかったのなら偶然とは言いがたい。もし関係がないのなら 
 何の問題もなくボヤ事件は起こるはずですから。そうなるともうこの時間移動には誰かの何らかの意図があったと考えるしかありません。 
 そしてその犯人と時間移動のプログラムを仕込んだ犯人は同一人物か、あるいは何らかのつながりがあることになる。もしボヤ事件が 
 起こってしまえば未然に防ぐことができますしね。その犯人を捕まえることが出来ればもしかしたらそこから時間移動の犯人のことが 
 わかるかもしれない。もちろん偶然ということもありますが。あるいは誰かがボヤを止めるために時間移動させたとも考えられます。 
 どちらにせよ何もしないよりはいいでしょう?」 
 おい、っていうことは今日学校に泊まりこみで部室を見張らないといけなかったりするのか?お前や長門はともかく俺や朝比奈さんは 
身体が持たないぞ。 
「そうですね…。では森や荒川も呼ぶことにしましょう。交代で見張るということで。学校には機関から説明してもらって準備の方は 
こちらでさせてもらいます。」 
「朝比奈さん、大丈夫ですか?」 
俺は隣で珍しく何か考えている様子の朝比奈さんに尋ねた。 
「ええ大丈夫です。私も今回のことは気になりますし、行かせてください。」 
なら決まりだな。また夜の学校へ行くことになるのか。 
 
 学校での集合までの間、俺は隣で妹がシャミセンと戯れているのを気にせずベッドに横たわりながらずっと考えていた。なんとも言えない 
胸騒ぎがする。ボヤのあった部室からこの日に戻ってきてからずっとだ。何かよからぬことが起こりそうな予感。あの夢もそうだ。あんな夢 
は今まで見たこともなかった。いや、だからと言うわけではないんだが…。それに古泉も気になる。いつもならそう簡単に機関とやらに 
頼らないからな。森さんや荒川さん達が今日の今日で都合がつくというのも怪しい。準備が良すぎる。ひょっとしたら何か知ってるんじゃ 
ないか?とにかく何も起こらないことを祈ろう。ん?ボヤは起こった方がいいんだっけ?そんなことを考えながら俺はもうそろそろ出かけ 
ようと思い部屋を出た。 
「キョンくんこんな時間にどこ行くのー?」 
と妹の声が聞こえたので今日は泊まりになると言おうとして止める。言ってついて行くとだだをこねられたりしたら困るからな。特に 
今回は特別中の特別に。親にはもう既に谷口の家に泊まると断ってある。よってちょっとコンビ二まで行くだけだと言って俺は家を出る 
ことにした。 
 いつものように自転車の鍵を開けようとするとそこに手紙が挟まっていた。見覚えのある封筒。朝比奈さん(大)だ。このタイミングで 
朝比奈さん(大)の手紙か…。こりゃあやっぱりただごとじゃないなと思いながら封を切り、急いで文面に目を走らせる。 
中にはこう書かれていた。 
「2月21日の学校に気をつけて。良くないことが起こります」 
 何だこれは。いつもの彼女の手紙の内容とは明らかに違いかなりあいまいなものだ。たいがいこのパターンなら何かの指令が書かれて 
いることが多いんだが。一体何が起こるんだ?何に気をつければいい?俺は封筒をポケットにしまい込みとにかく学校へ向かうことにした。 
 
 
 校門前にはすでに朝比奈さんと長門に古泉、そして荒川さんと森園生さんが到着していた。俺は朝比奈さん(大)の手紙の内容を皆に 
伝えるべきか迷っていた。何せ漠然とした内容のことだったしな。かといって良くないこととやらが起これば間違いなくここにいる誰かも 
巻き込まれることになる。あれこれ考えていると突然古泉が話を切り出した。 
「すみませんが学校に入る前にみなさんには言っておかなければならないことがあります。もっと早くに言うべきだったと思いますが何せ 
こちらもまだ事情の整理がついていなかったものでね。実は先ほど言ったことには少し嘘がある、というよりも隠していたことがあります。 
単刀直入に言うと今回の事件には我々に敵対する機関が関わっている可能性があるんです」 
 どういうことだ?これは長門のお仲間がやった可能性が高いんじゃなかったのか?古泉はいつもの表情を変えずにうなずく。 
「ええ、それはおそらくその通りでしょう。他ではない長門さんがそうおっしゃるのですからね。そしてこれはあまり詳しくは言えない 
のですが最近我々の敵対する機関の活動が顕著になってきています。つい先日我々の仲間がその機関の人間にやられました。これは明らかな 
宣戦布告です。そしてこのタイミングでボヤに集団時間移動。それこそ偶然とは思えません」 
 ちょっと待て、説明になってないぞ。その敵対する機関っていう奴らは長門みたいな力を使えるのか? 
「もちろんその機関にはそんな能力はありません。ですが長門さんとは別の情報思念体がその機関に加担していると考えるなら話は通ります。 
これは以前お話しましたよね?」 
 俺は雪山での事件を思い出していた。そういえばあの犯人はまだ不明なままだったな。あの犯人も関わっているとしたら確かにおかしくは 
ない。ちょっと待て、ということはこれはかなり大きなことになる可能性もあるってことか? 
「そうです。しかも今回の場合ここに我々が来る可能性が高いということでひょっとしたら、いえかなりの確率で罠であるといえるでしょう。 
しかしその罠に飛び込まなければ事態は進まない。良い方向にも悪い方向にもね。もちろん僕達が全力で良い方向に進むよう努力するつもり 
ですが。」 
 おかしいだろ。それなら長門は宇宙人の敵対策で呼ぶというのはわかるが何故朝比奈さんや俺まで呼ぶ必要がある?はっきり言って俺達 
には何も出来ないし、いても足手まといになるだけだ。こっそり長門だけでも呼んでやれば良かったはずだ。古泉の機関の都合で罠に付き 
合って危険な目に会わされるなんてごめんだからな。何故前もっておおよそのことだけでも言わなかったんだ? 
「それがそうとも言い切れないんです。敵の機関に何らかの罠を起こさせるのにSOS団の誰かが必要かも知れないからです。この中の誰か 
 が欠ければ何も起こらないかもしれない。それが一番思わしくないことなんですよ。ですので全員に、もちろん涼宮さんは除いてですが来て 
 いただいたわけです。前もって説明しなかったのは先ほども言った通り事情が掴みきれていなかったのと、言うとあなたが行かないと言う 
 かもしれなかったからです。もちろん卑怯な手であったことは謝ります。土壇場でこんなことを言うのですから。しかしわかって下さい。 
 それほど事態が切羽詰まっているんです。我々もなんとか相手の機関に一歩でも有利になっておきたいんですよ」 
 なるほどな。言うと俺が逃げ出すと思ったってわけか。確かにその通りかもしれない。考えれば考えるほど頭にくるがこのまま朝比奈さん 
を置いて自分だけ逃げるわけにはいかないからな。待てよ、これも計算か? 
「もちろんあなたには断る権利があります。どうしますか?我々としては是非とも協力していただきたいのですが」 
古泉はいつもの笑顔でおれに顔を向けているが、目だけはかなり真剣だ。 
 どうするかな…。はっきり言って俺は古泉を信用し切っているわけじゃない。最悪古泉の機関が俺達をはめようとしている可能性だってある。 
かと言って古泉の敵の機関と長門とは別の宇宙人の件がこれを期に解決するとなるとSOS団にとっても良いことだ。さて、本当にどうした 
もんかね。朝比奈さん(大)の警告だってあるわけだし…。 
「長門、どう思う?」 
 考えがまとまらなくなった俺はいつもと変わらず微動だにしないで無表情に立って話を聞いている長門に意見を求めた。長門は少しばかり 
考えるような顔をした後、 
「あなたと朝比奈みくるはここにいるべき。もし二人のどちらかが対象だった場合ここに私達を足止めするのが目的である可能性もある。 
幸いまだ敵はあなた達に攻撃を加えていない。でも事情を把握したあなた達にこれから攻撃を与えないとも言えない」 
 ふぅむ、要するに俺達はここに来て古泉の話を聞いてしまった以上そのまま無防備に帰るわけにはいかないってことか。しかし… 
「大丈夫」 
 長門は全く表情を崩さずに世界で一番信用してもいいかもしれない、実に頼もしいことを言ってくれた。 
「あなた達には私が危害を加えさせない」 
 
 

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