「……それ以上のわたしへの接触は
涼宮ハルヒの精神の安定に悪影響を
与える可能性がある。」
俺の腕の中で、長門があいも変らずの平坦な口調で言う。
外から見れば、俺が朝倉に襲われそうになって
長門に助けてもらった直後の状況に似てなくもない。
ただ、その時と逆で、抱き起こそうとするのではなく
まさに押し倒そうとしていることが、違いといえば違いだ。
そしてここは長門のマンション、あの時のように谷口の
アホが突如闖入する心配もない。
長門はその何の感情も浮かべていないかのような瞳で
俺の反応をじっと伺っている。
俺が何の反応を示さないので、再び警告を発するために、
淡いその唇を開こうとして―
俺の指がその唇をそっと押さえる。
わかってるさ、長門。
そのくらい、俺にだって。
ハルヒのことを考えなかったと言えば嘘になる。
それはもう、色んな意味で
それでも、俺は長門を選んだんだ。
そうだろ? 俺。
俺が長門を選んだことでハルヒが世界を壊そうとするのなら
俺は全力で止めるさ。長門の上の連中が長門の存在を
跡形もなく消そうとするなら、それも全力で止めてみせる。
そもそも、愛とこの世界、どっちを選ぶか?
なんて天秤にかけるものじゃないだろ?
そのどちらかを選択する自体が間違っている。
俺の想いが長門を危険に追いやる可能性があることは
流石に俺の心を痛めるが、それでも俺は迷わない。
世界と愛、そして愛する者の存在。
俺が小さい頃から親しんできたフィクションの世界の主人公たちは、
それら全てを貪欲に望み、時に成功し、時に失敗してきた。
そして、それは正しいことされてきた。
だから俺もそうさせてもらう。
たとえ世界の全てを敵に回そうとも。
たとえ相手が人類の黎明期に謎の黒い石版を
プレゼントしてくれるような偉い存在であったとしてもだ。
そうすることが絶対に正しいって教えてくれたのはハルヒ、おまえだったよな
こんな状況で思い浮かべてしまうのは申し訳ないけどさ。
長門は俺をただ見つめるだけで抗う様子もなかった。
その身をごく自然に俺の手に委ねている。
腕に伝わる体温と、微かに上下する胸を除けば
精巧な人形と変らないくらいだ。
警告はした。
後は俺の判断に全て任せるってことか。
これはOKと受け取っていいんだな、長門?
細く美しい睫毛が微かに動く。
俺のほうはと言えば、もうとっくに選択をすましてしまっている。
それは一体いつ決めたのかはわからないが。
なんでだろうか、おまえを選んだ俺。
それにもう忍耐が臨界点に達しようとしている
もう止まらない。
だが、念のために一つだけ聞かせてくれ、長門。
「……ヒューマノイド・インターフェイスの
身体構造は人類とほとんど変らないし、
そのための機能も備えている。
また経験こそ無いものの、必要な情報は
十分に備えている…………………………
………………………………………………
………………………………………………
………………………………………………ばか。」
おもいっきり萌えてしまった。
終